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ニューズ&コメンタリー

《詳録》 前金融庁長官・佐藤隆文氏インタビュー 「米国と同じ金融新規制、日本導入とんでもない」

織田 一(おだ・まこと)

 米国で金融機関に対する規制を大幅に強化する法律が21日、成立した。主要国の銀行監督当局も年内に、銀行に質の高い資本を持たせるなどの新ルールをまとめる予定だ。いずれも金融危機の再発防止を目指して厳しい内容となっている。前金融庁長官の佐藤隆文・一橋大教授に課題を聞いた。

(聞き手=編集委員・織田一、津阪直樹)

 ■国際的な整合性と国による違いへの配慮のバランス

 ――リーマン・ショックから約2年。米国や国際機関が協議してきた様々な金融規制が出そろってきました。

 「今回の金融危機は世界レベルで深刻な事態を招いた。失業者は増え、実体経済は甚大な悪影響を受けたのだから、危機再発の防止に向けて各国が強い決意を持つことは自然なことで、そうでなければならないと思う」

前金融庁長官の佐藤隆文氏=東京都千代田区拡大前金融庁長官の佐藤隆文氏=東京都千代田区

 「1990年代に日本で起きた金融危機が不良債権問題によって引き起こされたのに対して、今回の危機の原因は非常に複雑なだけに、広範な取り組みが必要だ。国際的にも、主要国等の監督当局でつくる金融安定化理事会(FSB)などが国際的な調整図りながら精力的に作業を進めている」

 ――米国の規制強化法は、銀行によるリスクの高い投資を大幅に制限する「ボルカールール」などが軸となっています。どう評価しますか。

 「ボルカールールは(1)対顧客サービスと関係ない自己勘定取引を商業銀行にさせない(2)投資ファンドへの出資や運用などを制限する、の2本柱からなっている。公共性の高い銀行が顧客向けサービスと関係のない自己勘定でリスクの高い投資を行うことは許さないということ。経営破綻(はたん)したときの安全網となる預金保険制度や、中央銀行からの流動性供給など公的特権を受けておきながら、ハイリスクハイリターンの商売をさせておくというのはおかしいでしょうということ」

 「ビジネスの分野を制限するという点では、ここ20年間の市場機能を重視した規制からは踏み込んでいる。ただ、企業が資金を集めるのを支援したりする投資銀行業務を否定しているわけではない。預金と融資が本業の商業銀行に対しても顧客のための業務であれば禁止していないわけで、あまり大げさに考えない方がいいのかもしれない」

 ――米国は、他国にも同様の規制を求める構えです。

 「今回の危機の加害者であり、最大の被害者である米国や英国が自国の金融を立て直すために、国際合意とは別にさらに厳しい規制をするのは理解できる。欧米の金融機関は利益を膨らますために高いレバレッジ(外部借り入れ)でリスクの高い投資に走った。しかし、日本ではこうした動きはなかったし、問題は起きていない。『日本も同じ規制を導入しろ』というのはとんでもない。他国におしつけるべきではない」

 「国際的な統一ルールをつくる際には各国市場の特性も考えないといけない。それぞれのビジネスモデルを無視して画一的な基準を持ち込めば、問題がない国や金融機関に不必要な規制を課すことになる。国際的な整合性と国による違いへの配慮のバランスが重要だ」

 

 ■日本の3メガバンクはすでに資本の質を高める手

 ――国際決済銀行(BIS)に設けられている主要国の当局者の集まり「バーゼル銀行監督委員会」も資本規制などを強化する方向です。

 「新しいBIS規制のメニューは多様だ。例えば自己資本比率の見直し。『分母』となる、金融機関が持つ資産に関して、複雑な証券化商品は従来と比べてリスク量が多めに算出されることになった。自己資本比率が低くなるわけだ。自己勘定での取引の資産も多めに見積もられるようになる。危機で明らかになった金融機関の自己資本不足の最大の原因は、『分母』の様々な資産のリスクの計測がいい加減だったことにあるから、このような改正は大変良い」

 「一方の『分子』となる自己資本を巡っては、いざというときの損失の吸収力が高い普通株や内部留保を増やすよう求めているが、各金融機関がそれならば、と大量に増資に踏み切れば株式市場に負荷がかかる。内部留保を厚くするために利益をあげないといけない、と逆にハイリスクのビジネスに走る銀行が出てくるかもしれない。自己資本不足がなぜ起きたのか、きちんと分析することが必要だ。私は『分母』の問題が一番大きいと思う」

 ――現金や換金しやすい資産、すなわち「流動性」を一定規模以上持っているよう義務づけようともしています。

 「米欧の金融機関が危機のときに流動性が枯渇したことからできた規制で、ひとつの見識だろう。だが、流動性の高い資産である国債を大量に持とうとしても、一方で国債を含めた総資産に対する資本の割合を一定以上に保たせようとすれば矛盾が生じる。ブレーキとアクセルを同時に踏むようなことになりかねない」

 「いずれにしろ、過剰な規制になってはいけない。金融不安を二度と起こさせまいと、金融機関や市場をきつく縛ると、期待されている金融仲介機能を損なう。自己資本比率を大幅に引き上げれば、大規模な貸し渋りが起き、実体経済への副作用も懸念される。経済成長が鈍化し、税収減、財政にも悪影響出てくる」

 ――バーゼル2の大改正は日本でも導入されることになります。大きな影響はありますか?

 「日本の金融機関は預金が集まりすぎて融資先に困り、その結果、資金は国債に向かっている。欧米のように流動性をかき集める必要はない。複雑な証券化商品の商売にはそもそもあまりかかわっていないし、日本でつくられた証券化商品は、原資産が売り掛け債権などしっかりしたものだったから、き損率は低い。こうした分野での規制で邦銀が壊滅的な被害を受けることはないだろう。自己資本の問題についても、3メガバンクはすでに資本の質を高める手を打っている」

 「バーゼル委員会は、各国で必要な対策に差がある中で、最低限守らないといけない国際的な共通ルールを作るのが仕事だ。細部までガチガチに統一的に決めるより、ある程度各国の裁量に任せてもいい。副作用が大きい規制は移行期間を十分に設けることも重要だ」

 

 ■リスク管理部門の社内での地位を高くする必要

 ――日本や欧州は、1980年代に登場し、2004年に改正されたBIS規制(バーゼル2)を導入していました。それでも欧州は金融危機で火の車になりました。

 「日本でバーゼル2の効果があったのは、ひとつには保有する証券化商品に関する情報開示。どういう原資産からできたものなのかまで開示しないといけないので、必然的に商品の中身もチェックすることになり、リスク管理の質向上につながった。他方、証券化商品のリスクを計算する基盤となる格付けがずさんだった点は問題だった。厳密にリスクを計測するためには、個々の銀行が高いリスク管理実務を確立する必要がある」

 「欧米では各金融機関のリスク管理部門は警戒心を持っていたのにそのメッセージが経営トップに届かなかったケースもあった。経営者はついつい利益を上げる部門の声を重視してしまう。リスク管理部門の社内での地位を高くする必要がある。一番大事なのは最高経営責任者(CEO)の意識を高めることだ」

 

 ■バブルはある程度は防げるし、実際、防いだ

 ――金融危機を受けて「個別の銀行の経営問題だけでなく金融システム全体のリスクに目配りした金融行政が必要」との認識が広がりました。

 「不動産市場が活況を呈していた06年、銀行が不動産向け貸し出しや不動産ファンド向け投融資のリスクをきちんと管理しているどうか、金融庁は目を光らせた。05年までに不良債権問題にケリがつき、金融監督は『平時モード』になっていたが、『市場の動きをよく見て先を読むことが大事だ』との意識は強まっていた。もちろん、80年代のバブル崩壊の記憶があり、繰り返してはいけない、との思いがあった」

 「そこで、金融機関、市場関係者と対話を密にし、市場で何が起きているのか、リスク要因がないか分析した。当時は、日本でも不動産の金融商品化が進み変わっていた。不動産から得られる収益をもとに価値を評価する手法も定着し、海外からも投資しやすくなっていた。投資ファンドや信託銀行、銀行に対して、不動産向け投融資のリスクを評価する際にはきちんとした手続きをとって下さい、融資の審査もしっかり実行して下さい、というメッセージを出した。その結果、バブル的な投資は抑えられた。これはまさに『マクロプルーデンス』だったと思う」

 ――金融監督は金融技術の発展に追いついていないように見えます。

 「三つの見方がある。金融技術の革新は猛スピードで進んでいて才能ある人材が次々に入っている。だから、金融監督が追いつかないのは当たり前で、結局、バブルの発生は防ぐことができない、というのが第一の立場。前米連邦準備制度理事会(FRB)議長のグリーンスパン氏もこの見方だった。一方で、徹底的に規制を厳しくすればバブルを防げるという意見がある」

 「第三番目

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織田 一(おだ・まこと)

 朝日新聞編集委員。長崎県佐世保市出身。1986年、朝日新聞入社。新潟支局、横浜支局を経て、91年4月に東京・経済部。98年10月から約2年間、バンコク総局員。  横浜支局では警察担当記者としてオウム事件などを追った。経済部では主に金融行政・政策、金融業界、国際経済を担当。

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