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ニューズ&コメンタリー

3月12日、東電で何が? なぜ1号機は爆発したか?

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 東京電力福島第一原子力発電所は、建屋を破壊され、外界に放射性物質を放出する異常な事態に陥っている。東日本大震災発生の翌日である3月12日、東京電力で何があったのか。1号機が爆発したその日の東電本店の動きを同時進行で追いかけ、報告する。

 

 ■ベントの検討

 3月11日から3月12日に日付が変わるころ、1号機の原子炉格納容器の内部の圧力が設計使用圧力を上回っていることが判明する。

 1号機の格納容器の設計使用圧力は485キロパスカル。最高使用圧力は528キロパスカル。それらを大きく上回る600キロパスカルを超えるとの反応が計測機器から得られ、東電は12日午前零時49分、原子力災害対策特別措置法15条に定める特定事象に当たると判断。午前1時20分、「格納容器圧力異常上昇」を経産省に通報する。

 バルブを開けて格納容器の内部からガスを抜く「圧力降下措置」が検討される。格納容器が壊れてしまう事態を防ぐために内部の空気を大急ぎで外に出す。放射性物質が一緒に外に出ることになるから、できれば避けたい措置だが、背に腹は代えられない。

 東京電力本店。未明の記者会見の途中、そんな事情が説明される。

 午前1時37分、記者が問いただす。「もう、すでにかなり時間がたってますから、もう出しちゃっているということですか? あるいは、すぐに出さなきゃいけない状況なのですか?」

 午前零時49分の時点ですでに600キロパスカルを超えていてガス抜きの必要があるというのならば、さっさとそれを実行に移さなければならないのではないかという問いかけである。

 広報部の吉田薫部長が「ちょっと確認してもらえます?」と同僚社員に指示する。別の東電社員が「ベントをするときには、防災の対策上、地元と国と……」と言いかける。そのとき、記者が「地元自治体なり地元住民の方にはもっと早く伝わるような措置をされているんですか?」と質問する。肯定の返事がある。

 午前1時41分、同じ質問が繰り返される。「ベント操作をしたかどうか分からないですか?」。吉田部長が「速やかに確認します」と答え、「申し訳ございません」と付け加える。記者が「もし手をこまねいているとバースト(破裂)する危険性があるわけですよね?」と問いかけるが、だれも答えない。そのまま13秒、間が開く。

 記者が質問を変え、それには回答がある。

 ――過去に国内の事例で放射性物質をそういう形で外部に意図的に放出するということをやった例はあるんでしょうか?


 なかったと思います。「格納容器ベント」という操作を行うのは初めてになると思います。


 ――「格納容器ベント」と言うんですか?


 「ベント」というのはカタカナで「ベント」と言っています。

 

 ベントというのは英語で「vent」とつづる。辞書によれば、「出口を与える」「はけ口を与える」「発散する」などの意味がある動詞だ。名詞の「ベンティレーション」には「換気」という意味がある。

 ――それはフィルターがあるわけじゃなくて、そのまま外部にボンと出しちゃう?


 そういう形になります。


 ――原子炉の中をぐるぐる回っている、燃料の周りを回っている蒸気がそのまま外に出る?


 1回、水の中を通ったりして、ヨウ素分とか取れる分は取れる操作はしますが。

  

 格納容器の底にある圧力抑制室(サプレッションプール)の水中を経由させた上で外部に出す。「ウェットベント」と呼ばれる。水をくぐらせずに直に外に出す「ドライベント」に比べ、「ウェットベント」では、放射性物質の相当部分が水に吸着され、外に出てくるのは一部にとどまる。

 ――その操作をやるという方針を決めてらっしゃる?


 その可能性があるということで自治体や国と相談していると思います。


 ――やるかどうかを検討するんですか? それとも、やると決めてるんですか?


 やるかどうかを検討するということです。


 ――ベントには電気がいるんですか?


 いらないはずなんですが、ちょっと確認させてください。

  

 女性記者が「もう一回確認なんですが」と前置きして「その措置をとるというのは決めてないんですか? まだ」と質問する。東電側が「を」と声を大きくした上で「検討……」と答える。

 ――行おうとしているということ?


 当社だけでは判断できませんので。


 ――保安院(経済産業省の原子力安全・保安院)と相談しているということですか?


 保安院と県、あと、自治体と、というかたち。


 ――猶予がそんなにあるような話なんですか? そもそも


 設計(設計圧力)の何倍かの耐力を持っている形になりますので、そこまではもつという判定をしながら状況を見ている。


 ――圧力上昇の原因は分からないんでしょうか?


 正確なことは分からないということです。


 ――原因不明ということですか?


 はい。やっぱり電源が落ちているんで、監視をすることがほとんどできない。


 ――ベントしか方法がない?


 えーと、そのほかの機器が動かなかったらそうなります。たとえば、通常ですと、非常用ガス処理系という外に出す非常系とかが設けてあり、フィルターを通して出すことになります。


 ――今回はそれでは対応できない?


 ちょっと確認できておりませんが、対応できる可能性が、たぶん対応するように努力はしていると思いますが、それと同時にベントを検討したということは、そういうことになっているということだと思います。

  

 午前1時53分、記者の一人が再び「圧を逃がす措置は、今この時点では、実施されていないということなんでしょうか?」と催促するように確認を求める。広報部の吉田部長が「確認いたしているところです」と再び答える。

 午前2時1分、吉田部長から回答が明らかにされる。

 「ベントの実施につきましてですけども、まだ現時点でベントを実施いたしておりません。また、ベントの実施の方向性についてはまだ現時点で決まっておりません。取り急ぎちょっとご報告申し上げます」

 記者が「検討を続けているという感じでよろしいですか?」と念押しすると、吉田部長は、自信なさそうに声を小さくして、「そうですねぇ、はい」と、やや投げやりな空気を漂わせながら答える。

 ――一般に、原子炉の中の圧力が高まる理由としてどんなことが考えられるんですか?


 燃料からは崩壊熱、熱が出ておりまして、それによって圧力容器の中にある水が蒸発して圧力が上がると。液層が気層になるので、体積が増えて、圧力が上昇していく現象です。


 ――ベント作業で出る放射性物質ですが、これは健康に被害あるのかどうかは分からないんですか?


 どれくらいの量というのにもよりますので、申しあげられません。


 ――先ほど「ベントを実施してない」と伺ったんですが、そういうふうにやってるうちにバースト(破裂)する危険性はないんですか?


 状況を見極めますし、あと、当然、地元との連絡とかそういったものがあると思いますので。


 ――一刻も早くやらないと、もしバースト(破裂)すると……。ベントするかしないか、判断材料はどのくらいあるんですか?


 状況を見極めまして、はい。


 ――格納容器ベントをしなくて済む手法は何かあるんですか?


 いくつかあると思います。たとえば、非常用のガスを処理する系統がございまして、ここを通してフィルターを通して外に出すという方法がございます、はい。


 ――それは電力がないから無理ということ?


 今の段階では……。ですので、電力の復旧ということをいま主眼において対応しているということです。


 ――ベントの弁は手動で?


 現場で手動で開ける形にはなると思います。建屋の中で。


 ――今、そもそも建屋内に人はいるんですか? 避難してたりしないんですか?


 そこは……。


 ――よく分からない?


 はい。


 ――原子炉自体がぶっ壊れちゃったりしないんですか? 周りがバーンと?


 あのう、それは水が本当になくなって空だきとかいうレベルになれば、そういうことが考えられます。

  

 午前2時21分、記者会見が終わる寸前、記者が「ベントをもし実施した場合、速やかに教えてもらっていいですか」と念押しし、吉田部長らが「はい」と答える。

 ■経産省で共同記者会見

 3月12日午前3時6分、経済産業省の記者会見室で、海江田万里・経済産業相と東京電力の共同記者会見が開かれる 。

 海江田経産相がまず発言する。「福島第一原子力発電所において、格納容器内の圧力が高まっていることから、ベント弁を開いて、内部の圧力を放出する措置をとる旨、事業者であります、東京電力から、報告を受けたところでございます」

 続けて東京電力の小森明生常務が経緯を延々と説明する。

 「格納容器を少し予防的に守るということが、今の事態では、我々が長期に、まだまだやることはたくさんあります、その間の安全性を確保するための、議論は非常にありましたけれども、国、原子力安全委、国のなかでも特に規制当局の保安院、そういった方の判断も仰ぎまして、電力会社としてまずは、少し予防的なことになるかということで、また地域の皆様に大変ご心配をおかけするということに関しては、誠に心苦しいことではありますが、そういうアクシデント(事故)があったときのマネジメント(管理)の手段として定まったやり方として、格納容器からですね、圧力を少し出すと、いうことをしようという手順を組んでおりまして、その判断をやろうというふうに、考えた次第であります」

 小森常務によると、まずはウェットベントをやるつもりだが、状況次第ではドライベントも含めて「いま現場の方では両方の手ができるように手段を講じて」いるという。

 「時間的には、何時からというのはちょっとまだ現場の状況をよく確認した後になりますが、まずは皆さんにお話をし、地元のみなさんにも手はずを整えて少しお話をするということで進めていきたいと思っております」

 で、それをいつやるのか? 記者が小森常務に尋ねる。

 ――何時からという目処はないのですか?


 3時ぐらいを目安に、速やかに手順を踏めるように現場には指示しています。


 ――3時ってもう3時ですよ!


 それはここの皆さんにお話をするという上で、目安としては早くて3時くらいからできるように準備をしておりますので、少し戻って段取りを確認してから……


 ――では即座にやるということですか?


 はい、今でも「ゴー」すればできるという状況ですが、そこはちょっとまた必要があれば、お時間についてはお知らせしたいと思います。


 ――言っていることが分からないんですけど、すぐやるということでいいんですね?


 はい。この会見も含めて、地域の皆さんの告知も含めて、終わり次第やると。


 ――この会見が終わった段階でやるということですか?


 はい、そういうことでお考えいただければと。


 ――地域への告知はもうされているのか?


 ええ、並行してその段取りで今、動いていますので、その状況も確認します。

  

 海江田経産相が「すぐ早くこれを終えて、すぐやらなければいけない」と言うが、小森常務の言葉にはその切迫感がない。

 記者が「8気圧(810キロパスカル)を超えたという判断があるんですか?」と格納容器の圧力について尋ねるが、小森常務は「いえ、今の我々のプラントのパラメーターを見る限りは超えてはおりませんが、原子炉の給水をするという運転状況がかなり見えない状況になっていたということで、我々が過去に考えていた事故想定からみると、保守的に判断した方がいいだろうということです」と答える。

 さらに、小森常務は「まずは2号機について、圧力の降下をするというふうに考えております」と付け加える。2号機の格納容器の圧力の計測値は40キロパスカル程度に過ぎず、それが事実ならば十分に低いのだが、小森常務によると、2号機では前日夕方ごろから「原子炉を給水するポンプの作動状況がかなり見えない状況」になっていて、40キロパスカルが本当の数値なのか疑っているという。

 実はこの記者会見の開始30分余り前から1号機の格納容器の内部の圧力が計測できるようになり、それは840キロパスカル、つまり、8気圧を超える高い値を示していた。また、会見開始の直前にあたる午前2時50分には、東電社員が直接、2号機の原子炉隔離時冷却系のポンプが動いているのをそばまで行って目で確認した。つまり、この時点で危機的状況にあるのは、2号機ではなく、1号機だった。しかし、そうした事実は小森常務には伝わっていない。

 一方、記者たちは、東電本店での記者会見のやりとりから「1号機が危ない」と思っていたから、「まずは2号機」という小森常務の話に困惑する。

 ――今、1号機の話をしているのじゃないの?


 あの、まずは2号機がですね。


 ――圧力(が高いの)は1号機ですか、2号機ですか?


 いまのパラメーターで圧力が上がっているのは、1号機でございますが、1号機もまだ2倍にいっているわけではなくて、2号機も。

  

 記者たちから「2号機はなぜですか?」という質問が乱れ飛ぶ。

 「突然出たのでびっくり」
 「2号機をやる理由がわからない」
 「1号機の圧力も高まったという話を聞いていたら、なぜかわからないけれども2号機の減圧作業をしなきゃいけないとか言い始めて、その理由がさっぱりわからない」

 小森常務に記者たちを納得させることはできない。

 「どうしてちゃんと答えられないんですか?」と疑問の声が上がる。

 東電の別の社員が「若干補足で」と説明を始める。そして、その説明を締めくくるために「まず2号機から始めようということで考えさせていただきました」と話した直後、その東電社員は「ただですね」と接続詞を言い添える。「いま入った情報でございますけれども、現場で、RCIC(原子炉隔離時冷却系)という設備で2号機に水が入っていたことが確認できたという話が、いま入りました。あの、これちょっと、皆さん、誤解を招くかもしれませんが、無茶かもしれませんが。ということなので。意外と2号機の数字は合っているかもしれないなってことになってきました。申し訳ございません」

 結局、「まずは2号機」の話は白紙に戻る。

 ベントを急がせたい政府。1号機のバースト(破裂)を恐れる記者たち。外部のいらいらが高まるなか、小森常務はこの期に及んで「ベントの実施は地域の皆さんへの告知が終わ

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
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