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ニューズ&コメンタリー

総務省コンプライアンス室が補助金不正を摘発

4NPO法人への2億5千万円を減額 

村山 治(むらやま・おさむ)

 情報通信システム(ICT)をめぐる総務省の事業で、同省から外部のNPO法人に不適正に補助金や委託費が支払われたり支払われそうになったりしていたことが、同省の調査で明らかになった。同省の「コンプライアンス室」が、事情を知る人物からの通報を受けて、調査を主導した。片山総務相は17日の閣僚懇談会で、各大臣にそれぞれの省庁の予算執行の見直しを促し、「コンプライアンス室」と同様の仕組みを各省庁でも活用するよう求めた。これを受けて細川厚労相は閣議後の記者会見で、厚労省として予算執行の適正化を図るため外部の検証チームを立ち上げる方針を明らかにした。


 ■「摘発」のきっかけはコンプライアンス室への通報

 総務省によると、不適切な事例が見つかったのは、雇用創出事業「ICTふるさと元気事業」(補助事業)と「地域ICT利活用広域連携事業」(委託事業)で、4つの特定非営利活動法人(NPO法人)に対する5件(補助4件、委託1件)で支払いが決まっていた4億5900万円について、このうち2億4700万円を減額した。

 総務省は2010年5月、「ふるさと元気事業」について、自治体、NPO法人、第三セクターなどが提案した59事業に対し、計約47億円を交付することを決定。今年1月、法人側から事業の実績報告書や経費精算の書類の提出を受け、3月末までに交付金を支払う予定だった。

 ところが、今年2月、このうちのあるNPO法人について、「不正な補助金支出が行われようとしている」との通報が同省のコンプライアンス室に寄せられた。

 問題のNPO法人は、古い映像を在宅で修復するシステムをつくることなどを事業趣旨として09年度第二次補正予算の「ICTふるさと元気事業」から約7900万円、10年度当初予算の「地域ICT利活用広域連携事業」(委託事業)から約1億2千万円が支出されることが決まっていた。

 コンプライアンス室が、所管の情報流通行政局地域通信振興課などに同法人が提出した資料を分析させたところ、経理に不自然さが疑われため、3月初め、補助金適正化法にもとづき同課などとともに同法人を立ち入り検査。

 その結果、人材育成事業やシステム設計の請求経費が適正金額より高い疑いがあり、システム開発などを同法人の監事の経営する会社に再委託していたこともわかった。同法人から設備費を受注している会社の登記は同法人の副理事長の自宅になっていた。

 ■疑惑の拡大 他のNPO法人も調査し減額決定

 コンプライアンス室は、このNPO法人の不適正な補助金手続の実態から、他のふるさと元気事業の補助金交付決定先についても、同様の不適切なケースが蔓延している疑いがあると判断。検察OBの弁護士や公認会計士、情報通信システムの専門家を参与として指名し調査チームを編成し、他のNPO法人などに対する補助金にも調査対象を拡大した。

 同補助金の交付決定先の中から、テレビ生活相談事業、ICT人材育成事業、デジタルサイネージ事業を行う3NPO法人をピックアップし、現地調査を行うなどして調査した結果、次々と同様の不適切な契約が見つかったという。

 総務省は、調査の発端となった「テレワーク事業」のNPO法人について1億9900万円のうち1億6500万円減額したのをはじめ調査対象の4法人5事業のすべてについて不適正支出を指摘し、合計4億5900万円の交付決定額・委託額のうち2億4700万円を減額した。

 このうち3法人への補助金は、概算払いによりほとんど全額が国から支出されており、すでに一部が使われていた。

 ふるさと元気事業の目的は「地域雇用の創出・拡大」だが、「雇用状況を見ると、その目的が十分達成されているとは到底言い難いものだった」とコンプライアンス室は指摘する。

 ■不適切予算執行の背景 競争不在と公金意識の欠如、行政側の問題

 補助金を受け取ったNPO法人が別の業者に業務を発注する際に、競争入札が行われず、随意契約とした正当な理由も示されていなかった。

 随意契約の際に業者に提出させる相見積もりについても、相見積もり業者が事業主体のNPO法人の役員が設立に関与した会社だったり、契約先企業の関係企業だったりした。とても、公正・適正な競争関係が担保されているとはいえなかった。

 コンプライアンス室は、今回の補助金乱脈事件の背景について「事業主体とその契約先企業に『公金を扱う』という意識が欠如し、安易に事業主体とその関係企業が随意契約を結び、それが情報通信システム開発経費の過大計上などにもつながった」とし、「専門性の高いシステム開発では、ソフト、ハードにかかる経費を精査する能力のある技術者の数が限られている。それも、事業主体や契約先企業がシステム開発経費を過大に計上しやすい環境を作っている」とも分析している。

 補助金の交付決定をした総務省側にも問題があった。

 まず、システム開発経費に対する行政側の審査が不十分だった。事業内容が補助金交付の目的に沿ったものかどうかについての決定時の審査は甘く、事業期間途中での調査・指導もほとんど行われていなかった。「そもそも、総務省には、システム開発について的確な審査・査定する仕組みもなかった」とコンプラアンス室は指摘する。

 ■プロジェクトチーム新設、悪質事案は刑事告発も

 こうしたことから、総務省は、ICTふるさと元気事業の4法人以外の事業や情報通信システム関連の補助金事業でも、不適正な予算執行が広く蔓延している可能性が高いと判断し、5月13日、(1)今回調査した4法人以外の事業に対象を拡げて調査・検証し、不適正なものは交付金を減額する(2)ICT関連の補助事業の採択、交付金決定の在り方、事業実施内容の確認、実績報告の厳格な審査の在り方など制度と運用の抜本的改善を図る――ことを決め、コンプライアン室のメンバーに外部の有識者を加えた大臣直属のプロジェクトチーム「ICT補助金等調査・検討プロジェクトチーム」を設置すると発表した。

 プロジェクト全体のチームリーダーは、元検事で総務省顧問・コンプライアンス室長の郷原信郎弁護士、「個別事業調査チーム」のリーダーには同じく元検事の梅林啓弁護士、「意識・制度改革チーム」のリーダーにはコンプライアンス室担当顧問の華房徹弁護士を選任。その他にも多数の弁護士、公認会計士、システム専門家が参与として加わり、事業の所管課職員らが事務局として調査を支える。

 個別事業調査チームは、総額47億円のふるさと元気事業及び総額79億円の地域ICT利活用広域連携事業全体に調査対象を拡大し、不適正支出を洗い出すとともに、今年度以降の補助金交付決定、委託事業費決定にストップをかける。郷原室長は「調査・検証で悪質な補助金適正化法違反が発見された場合には刑事告発することもあり得る」としている。

 ■威力を発揮した第三者チェックの「コンプライアンス室」

 今回の調査では、検察OBの弁護士ら不正摘発や経理の専門家を参与として任用して調査・検証を行う「コンプライアンス室」の手法が威力を発揮した。

 これまでは、予算執行などの問題について内外から告発情報が寄せられても、行政機関は、

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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