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ニューズ&コメンタリー

特捜部の体質改善のため国税、監視委、警察との連携を強化

笠間検事総長インタビュー

村山 治(むらやま・おさむ)

 大阪地検特捜部の不祥事を受け、逆風のなかで検察改革を進める笠間治雄・検事総長が7月11日、朝日新聞の単独インタビューに応じた。取り調べの録音・録画(可視化)をはじめとする改革実行への決意や、東京、大阪、名古屋の各地検特捜部の「独自捜査態勢の縮小」と「財政・経済事件捜査態勢の充実・強化」を打ち出した意図、国民の期待に応える検事をどう育てていくか、などについて語った。

 

 ■録音・録画の「利用価値」にも注目、どんどん試行を進める

 ――昨年暮れに検事総長に就任して7カ月。その間、ずっと検察改革をリードしてこられましたが、登山にたとえると、どの辺まで来ていますか。

 改革策を打ち出すという意味では、7合目ぐらいまで来たのかな、と。ただ策を打ち出しても、それが現場に浸透し、実行されないと意味がない。これからは、私たちが立てた策に則って検察現場でどんどん実施してもらうことが大事だと思っています。
 例えば、今回の改革で一番大きいのは、録音録画の試行です。

笠間 治雄(かさま・はるお)拡大インタビューに応じる笠間治雄検事総長=7月11日、東京都千代田区霞が関の最高検察庁の検事総長室で

 最高検は昨年暮れ、大阪地検特捜部の不祥事の原因のひとつが検事の供述調書至上主義的な取り調べにあった、との検証結果を受け、特捜部の取り調べで録音・録画を試行することを決めました。今年2月には試行の運用指針も出しましたが、その後、法務大臣が設置した「検察の在り方検討会議」の提言をいただき、さらに、大臣から「全過程も含めて」とのご指示もあり、詳細な運用指針を4月末に出しました。
 それを受けて東京地検特捜部がこれまで何件かの事件で録音・録画を行いましたが、さらに、実績を積み重ねていく必要があります。特捜部以外の地検の特別刑事部での試行も始めます。知的障害のある人たちの録音・録画もやっていく。
 その中で録音・録画が捜査にどういう弊害があるのか、またないのか、検討しなければなりません。同時に、録音・録画が捜査にとって、どういう利用価値があるのか、ということも研究していかなくてはいけないと考えています。

 ■小沢元秘書の自白調書却下は検察改革を後押しする

 ――小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐり、石川知裕・衆院議員ら小沢氏の元秘書3人が政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた事件の公判で、被告の自白調書の多くが「威迫と利益誘導によるもの」として裁判所によって証拠から排除されました。同事件の捜査にかかわったある検察幹部は「従来は、仮に、法廷で、検察側の乱暴な物言いや押しつけ的なところを被告側が問題にしても、供述内容が客観的な事実と符合していれば、裁判所はその供述調書を飛ばすことはなかった。今回は形式的なところで飛ばしている。それは裁判所がスタンスを変えたということなのか」とショックを受けていました。

 今回の裁判所の証拠却下決定は、言い方が難しいが、供述の任意性をはねるほどの(ひどい)取り調べが行われたのかどうか、まったく疑問なしとは言えないように思います。裁判所の判断は、多少検察に対して厳しいのかなと感じます。
 今回のことは、任意性とかに疑いを生じさせるような事実があったのか、なかったのか、ということが、本当はもっと厳密に問われるべきなのではないか、とも思います。

 ――それはどういうことでしょうか。

 例えば、石川被告は、「違う」と思っていることは、最後まで「違う」と主張しています。水谷建設から5千万円を受け取ったとは最後まで供述していません。ICレコーダーを堂々と持ち込むような人が、そもそも任意性のない供述をするのだろうか、という気もしないではありませんね。

 ――検察側がそういう風に受け止めるということは、やはり、裁判所の検察捜査に対する評価が根っこのところで変わってきているということでしょうか。

 裁判所側の意図は、ある程度、推測できます。供述調書の任意性や信用性、特信性の問題は、すべて検察側に挙証責任がある。その立証が不十分であれば、検察側は負けるよ、と裁判所は言おうとしているのでしょう。少なくとも、我々が学ばなければいけない点はそこです。
 取り調べは密室で行われる。そこでどんなやりとりがあったかは、検察側と被告側の間で水掛け論になってしまいます。裁判所も判断しにくい。今はもう録音・録画も始めているのだから、任意性や特信性の立証は、そういう客観的な証拠でやりなさいよ、と。そうじゃないと、なかなか裁判所は認めないよ、というメッセージのような気がしています。
 陸山会事件における調書の任意性の判断としての具体的な妥当性は別として、取り調べの録音・録画の必要性を暗に示唆しているという意味で、最高検が進めようとしている改革をいやおうなしに後押しするものであると受け止めています。

 ■証拠排除でも無罪論告はしない、論告の力点を協議

 ――石川被告は釈放後、検察が不起訴にした小沢氏に対する検察審査会の起訴相当議決を受けて特捜部の検事から任意の取り調べを受けた際のやりとりを秘かに録音しました。裁判所は、その録音記録などにもとづき、取り調べ検事が石川被告を逮捕する前後に「特捜部は恐ろしいところだ」などと石川被告を脅すような調べをした、と認定しました。さらに、石川被告が陸山会の会計責任者だった大久保隆規被告に4億円の収入と土地購入の支出を収支報告書に記載していないことを報告した、との供述を両被告から得る際、「切り違い尋問」(大久保被告を調べた検事が「石川被告は認めている」と大久保被告にウソの事実を告げて、報告を受けた、と認めさせ、その後、石川被告を調べた別の検事が「大久保被告は認めている」と石川被告に告げて、報告したとの自白を得た)が行われた、と認定しました。

 裁判所の認定は、客観的には切り違い尋問といえるが、取り調べ検事にその認識はなかった、というものだったのではないでしょうか。いずれにしれも、検事のほうも取り調べのやり方を相当工夫していかなくてはいけないと思います。

 ――検察改革の一環で7月7日に最高検が検察現場に通知した「第一審継続中の事件の運用について」では、「有罪立証の重要な柱である被疑者の捜査段階の自白調書がその任意性を否定され、証拠調請求が却下された場合、公訴の取り消しや無罪論告の必要性を含めた公判遂行の方針を協議する」とされています。陸山会事件はその対象になるのでしょうか。

 そうですね、その協議は当然やることにはなると思います。任意性が否定されたことはまぎれもない事実ですから。ただ、少なくとも、いきなり無罪論告とか公訴取り消しとかになるケースではないと思います。なぜかというと、陸山会事件は、供述だけで組み立てられている事件ではないからです。客観証拠のある事件ですから、そういうふうにはならないが、論告をどうするか、何に力点を置いて論告をするのか、ということを、もう一度再点検するというような意味での協議は行われることになると思います。

 ■違法捜査を指摘された検事に対する監察指導は?

 ――もうひとつ、検察職員の違法・不適正行為をチェックするために新しく最高検に設置された「監察指導部」は、「取り調べにおける暴行・脅迫、切り違い尋問等の任意性に疑いを抱かせる尋問方法および言動」があった場合、監察権を発動することになっています。

 裁判所から違法、不当な捜査を具体的に指摘された場合には、原則として監察の対象となるわけです。いったん監察開始となれば、最悪の場合、その検事を処分することもあり得ることになる。ただ今回の場合は、まずは本格的に監察をしなければならないのか、少し下調べというか情報収集をしなければならない案件だと思っています。というのは、あのケースが、本当に、任意性に影響を及ぼすような取り調べだったのだろうか、という問題があるからです。そこはよく情報収集することが必要でしょうね。
 裁判所の指摘にもいろいろのレベルがある。たとえば任意性の問題で、被疑者をぶん殴った場合などは任意性がないのは明白だとされる。一方、挙証責任を負う検事の立証が不十分だから、任意性があるとは裁判所としてはよう言わん、というレベルもある。任意性が認められなかった場合に監察を行うといっても、おのずからそこには差がある。違法行為が明々白々という形で認定されれば、まったく疑いなく監察対象です。ただ立証が不十分だから裁判所がよう認めんよ、という場合は、監察対象になるかどうかは非常に微妙だと考えます。

 ■特捜部の組織改編のねらい―国全体の利益をめざす

 ――特捜部の組織改編に移ります。従来は、「特捜部の中の特捜部」といわれてきた独自捜査部門(特殊直告班)を縮小し、国税局や証券取引等監視委員会(SESC)、公正取引委員会からの告発事件を処理する財政・経済班を拡大・強化し、警察の知能犯事件なども引き受ける、と宣言しました。これは、従来の特捜検察に対する内外のイメージを一変させるかもしれません。

 大きな腐敗を自らの捜査で正すという特捜部のイメージはあったし、そういうニーズもあったのでしょう。今振り返ってみると、特捜部が摘発したことで社会的にもよかった事件もあったと思います。ただ昨今の大阪の事案などは、摘発したいという気持ちがひたすら先行しているように見える。それゆえ、特捜部は、そういうためにだけある部じゃないんですよ、ということを言わないと、そういう傾向が止まらないのかな、という気持ちがあった。だから、関連機関が告発、送致してくる捜査の方に相対的にシフトしましょうと言ったわけです。

 ――7月8日の記者会見では関連機関との連携強化の意義付けとして「心のチェック」ということをおっしゃった。「過度の独自捜査優先の考え方が、検事にプレッシャーを与え、どうしても独自捜査事件で成果を上げなければならないとの雰囲気や誤ったエリート意識や傲慢さを醸成した面がある。よその機関の事件を積極的に受けることで、検事の傲慢な気持ちがなくなっていく」とも。

 それは、特捜部が変なことをやらないように、関連機関と一生懸命仲良くしようというだけではないんです。関連機関にはそれぞれ国民のニーズに応えて捜査・調査をやっているわけで、それをサポートするのは、国全体の利益になる。それは検察にとっても、重要な仕事だと思うんです。そういう意識を検事に持たせることが結局は特捜部改革につながるということです。
 しかも、財政・経済事件をやっていれば、それぞれに専門性のある事件ですから、検事自身も勉強しますので、専門性のある事件に対処する能力がついてくる。こういうことを言うと関連機関に怒られるが、何より、自分が捜査している事件では、思い込みというか、思い入れが非常に強くなる可能性があるが、関連機関の事件は、非常に冷静に処理できるんですね。
 事件の問題点はどこにあるのか、事実認定上の問題点はこうだ、法律上の問題点はここだということを冷静に見極められると、次に自分が何か独自捜査をするときに、同じような問題があるのではないか、ということを冷静に考えられる。非常にいい訓練にもなるんですね。

 ■検事の数より質で勝負、震災利権にも目を光らせる

 ――ここ20年余り、東京地検の独自捜査は、特殊直告1班、2班が担い、東京国税局やSESCの告発事件は財政班が専門に受けてきた。組織改編は、特殊直告班を1班に減らし、財政班を「財政」「経済」の2班体制にするということですね。

 特捜部全体の人員の数は、東京地検で言えばあまり変わらないと思います。東京地検が裁量で決めるべき問題ですが、今まで警視庁捜査2課の事件に対応してくれていた刑事部の人たちを特捜部に引き上げてくる措置が必要かなと思います。特殊直告班を減らすといっても、独自事件の捜査を十分可能にする人員は残します。それによって独自捜査が立ちゆかなくなるということはありません。そういう機能はもちろん残していくし、単に機能を残すっていうだけではなくて、事件を沈着冷静に摘発していかなければならないと思います。

 ――しかし、独自捜査班を縮小すると、戦力ダウンになりませんか。

 検事は、数より質が問題なんです。ロッキード事件捜査の前後の時代は独自捜査班の検事は13名から16名程度でした。必要なところは応援でまかなった。それでもロッキード事件を摘発できている。独自捜査をやるために多くの時間と多くの人が必要だということはないと思います。多少、人を減らしたぐらいで、独自捜査ができなくなるということはないと私自身は思っている。現場の受け止め方はわかりませんけどね。
 いい事件の捜査とされているものは、最初からじゃぶじゃぶと人を投入してはいないんじゃないかと思います。情報が確実で、筋のいい事件ならば、そんなに大勢の人と時間をかけなくても、ある程度のところまではすっすと行くような気がします。そして、裏付けをしっかりしようということになれば、ある程度の人はいる。そのときに応援を投入しましょう、ということはあると思いますけどね。

 ――戦後に発足した特捜部が国民の支持を得たのは、昭電疑獄や造船疑獄など戦後の復興利権摘発で成果を上げたからでした。東日本大震災の復興と原発事故処理では、巨額の国家予算が使われることが確実で、一部では復興事業利権をめぐる動きが始まったとの指摘もあります。そういうものに目を光らせ、適宜、摘発する。そういう捜査陣がいないと困ります。

 そうですね。これから東日本大震災の復興やエネルギー政策をめぐり、いろんな問題が起き、事件につながる情報が出てくることも考えられます。そういうところもきちんとウォッチしていく必要があると思っています。

 ■独自捜査重視論と捜査ノウハウ

 ――独自捜査を重視する立場の検察OBの間には「独自捜査を続けることによって検事や事務官が捜査感覚を鍛えられ、独自捜査のマインドやノウハウの伝承・強化ができる。そのために独自捜査を強化すべき」との意見があるようです。確かに、かつての特捜資料課(現機動捜査班)の事務官の間では、銀行捜査での有力証拠の見つけ方などを伝承してきたと聞いています。「検事の代わりはいくらもいるが、資料係の事務官の代わりはいない」とまでいう人がいました。

 まあ、特捜部の独自捜査特有のノウハウがあるかというと、僕は別にないと思うんです。特捜部の独自捜査部門は他の機関の手を借りるわけではありませんので、関係者の素性を調べたり、強制捜査をするにあたって捜索場所をあらかじめ調査したり、被疑者を捕まえられるよう尾行したり、銀行に行ってデータを引き出してくる。そういう力を保っておかなければならないというのはその通りだと思いますよ。
 ただ、それは主に捜査事務官の仕事。検事が行う仕事で、独自捜査だからここが難しいというのは私は本当はあまりないような気がしてるんですよ。
 そうした事務官の仕事も、検察の独自捜査とまったく同じようにゼロから捜査をしたり、調査をしたりしている諸機関はみんな経験していることであって、それと同様に難しい、という言い方はできるかもしれないですね。だけど検察の独自捜査だから難しい、ということはないんだと思う。
 独自捜査の特有のノウハウがあるかどうかは別として、そのような特有のノウハウよりも、被疑者や参考人の信頼を獲得する術や事件ごとに必要とされる専門知識、社会常識こそが必要なのではないでしょうか。

 ■特定政治家の狙い撃ちはだめ、国民の期待に応える事件の摘発を

 ――国民の立場からすると、政治権力を行使してルールを歪め利益を得る人たちを摘発するのは必要なことです。検察は常にそれを期待されています。警察に比べて人も予算も少ない検察は、刑事訴訟法などで摘発する事件を選ぶことができることになっている。ターゲットになる政治家らから「不公平」「意図的」捜査との批判が生まれる原因でもあります。

 証拠収集に先立ってターゲットを決め、狙い撃ちにするようなやり方はいけませんね。検察権の行使は、あくまでも法と証拠と処罰価値を考慮して行うものです。ある情報に接し、それを捜査してみたらそこに犯罪があるということであれば、それは相手が誰であろうと、躊躇する必要はない。それが政治家の非違であるということであれば、そこに切り込んでいけばいい。それだけの話ではないでしょうか。
 特別に、政治権力者による犯罪のみに目を光らせるべきだ、ということはないと思います。しかも、仮に、政治権力者の犯罪に着目した場合であっても、特定の政治家を最初からターゲットにするのは間違っています。あくまでも、あれはおかしいぞ、という情報があり、若干の根拠があるから捜査が始まるんであって、それなしにいきなり、特定の政治家を狙おうというのは許されることではないと思いますよ。

 ――さっきおっしゃった、特捜部がやってよかった事件とは、どの事件ですか。

 難しい質問ですね(笑)どれがよかったんですかね。それは人によっても評価が違うような気がしますけどね。なかなか難しいなあ。

 ――ご自分が捜査・公判に携わって、容疑内容やら捜査プロセスを熟知している事件をイメージされての発言だったと思うのですが。

 そこは実際に難しいんですよね。私が「意味があった」と言うよりも、世間の方とか報道機関の方で、この事件はやってよかった、とされてる事件があるかもしれません。それはそれで意味があったんだろうな、と思うんですよ。抽象的にいえば、着手時に「摘発には社会的意義がある」と報道されて、その後「あの事件はやっぱり、まずかったね」という批判が起きなかった事件、でしょうか。

 ■検察は法執行機関のコーディネーター役に

 ――結局、筋のいい情報をなかなか入手できないのが検察不信の大きな原因ではないでしょうか。昨年、SESCの佐渡賢一委員長が、このコーナーのインタビューでお話になったことが参考になると思います。佐渡委員長は、検察は捜査情報の端緒を、同じ国の機関である、国税局やSESCから得るという発想に立つべきだ、といっています。
 ちょっと長いですが、その要旨を紹介しますと――。
 国税やSESCは、それぞれの組織の目的に応じ、経済社会の最前線で起きていることを扱う。ワルとの知恵比べを通じて、経済社会の歪みの本質が見えている。巨悪はそういうところに潜んでいる。検察は公訴権を独占しているが、その権限には、コーディネーターとして、警察の捜査や、調査機関の刑事告発で寄せられる情報を糾合、調整し、より本質的で深い問題を掘り起こすことも含まれる。
 それぞれの機関は、基本的に横の連携はとらず、それぞれ「完成品」として検察に事件を持ち込む。いまの検察は、概ね、縦割り的にその事件を受けて処理することが多いが、それぞれの機関が寄せる情報をすべて知りうる検察がその気になって、それぞれの情報を集約すればワルたちの不正の全体像が見える。まったく違う事件の構図が浮かぶこともある。
 そこで、司令塔として各機関に適切なアドバイスを送る。警察には、こういう切り口でここを掘れ、国税にはこの企業のこのカネを追ってくれ、などと。そうすると、より事件の全体が明確に浮かび、本当のワルを摘発する可能性が高まる。各機関もより国民のニーズに応える仕事ができる。
 それぞれの専門機関の情報を集め、その情報から世の中を見ていく。そういう観点で捜査していると、独自捜査事件でも、一本の線で突っ走るような事件の立て方はしなくなる。ちゃんとした機関に足場を置いて、きちっとした情報の分析から内偵捜査をやっていくべき。大海から釣り上げるような話に次々に手をつけるようなことはすべきではない――。
 今度の財政・経済班強化は、そういうふうになるといいなと思います。

 笠間氏:その発想は、私も大賛成です。検察が大局を見て、本当のワルをあぶりだしていくためには、それぞれの機関との間には信頼関係が必要ですね。「おたくの事件は忙しいからできないんだよね」とやっていたのでは絶対にだめ。関連機関が摘発したい事件については即応できる態勢をとっておかねばならない。そういうふうにして十分な信頼関係を醸成する中で、「実はこっちではこんな話、あっちではあんな話があるんだけど、どうだろうね」「おう面白いね、じゃあみんなでやろうよ」となるんだと思うんです。
 ですから、そういう意味でもいろんな機関の事件に対応できる態勢をつくり、信頼関係を作っていくことが基本かなと。その先には、今おっしゃったように検察がコーディネーターとなって、上から俯瞰、――俯瞰というのは偉いという意味じゃなく、証拠関係を俯瞰して、本当にやるべきところに切り込んでいくということですが――、それが非常に大事だと思う。そういうことがどんどんできれば素晴らしい。
 佐渡さんのおっしゃってることは正解だと思います。やっぱり、ああいうところとタッグを組んでやっていかなかったら、検察はやっていけません。特捜だけで何かやろうと力んでも、情報がなければ力むだけで終わってしまう。検察のコーディネートで警察や国税局、SESCなどの情報を糾合し、それこそ、オール日本で事件を摘発できれば、うまくいくと思います。
 ただ、検察内外になぜか特捜部の独自捜査にこだわる人がいる。単独で摘発しないと価値がないように思ってる人がいるのも事実です。もちろん、他機関が手を出さないときに、特捜部が手を出す、あるいは手を出すぞ、と見せて犯罪者を牽制することは、とても大事なことではありますが。

 ――単独で摘発するといっても、検察捜査の金字塔といわれるロッキード事件にしても、米国の上院の委員会やSEC(米国の証券取引委員会)がほとんど贈収賄の骨格の事実を暴き出していた。それをもとに民間航空機導入をめぐる元首相の受託収賄容疑を組み立て、関係者の供述で固めただけですからね。コアの事実を独自で解明したわけではない。

 その通りでしょう。十分認識しております。

 ――せっかく財政・経済部門を強化するということですから、この機会に、検察が経済をうまく回すためのラストリゾート的役割を果たす覚悟を宣言すると、いろんなことが変わってくる可能性があると思っています。それが「財政・経済班」の充実・強化策を聞いた感想です。

 方向性としては実に正しいんだと思いますね。ただ、自分たちももうちょっと足腰を鍛えることが必要なんだろうなと。

 ■人材育成にも努力

 ――確かに、せっかくシステムを構築しても、それを運営する人が成熟していないとせっかくのシステムが動かないという危惧があります。陸山会事件の証拠却下決定をみると、検事の取り調べの稚拙さに驚いてしまいます。検事の捜査能力があの程度では、よその役所からいい情報が来ても、うまくこなせるか不安があります。

 人が肝心だというのはすべてそうなんですよ。たとえば、国税、SESC、公取委、それから警視庁捜査2課の所管の事件を積極的に受けるようにしましょう、そういう態勢をとりましょう、といってもですね、検察の職員がそういう人たちの立場に立ってものを考え、よく信頼関係を作るということをしなければ、いくら態勢だけとってもうまくいかないですね。

 ――劣化の問題は、果たして

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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