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ニューズ&コメンタリー

原発の地下遮水壁、前倒し着工で政府が工事費を東電に補助?

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 福島第一原子力発電所の地下水が海に漏れ出るのを防ぐ「地下遮水壁」の建設について、政府と東京電力は7月19日、当初の計画を前倒しして、半年以内に工事を始める方針を発表した。工事費を政府が出すかどうかについては、政府も東電もこの日は明言を避け、その可能性に含みを持たせた。東電が自前で工事費を負担し、それを東電の決算に計上することになると、証券市場で「東電が債務超過に一歩近づいた」とみられる可能性があり、「これは是非回避したい」との考えが東電から政府に伝えられている。

 

拡大地下水遮へいのイメージ図=東京電力が6月17日に記者に配布した資料「課題別取り組み状況(写真・図面集)」から

 政府の東電の統合対策室は7月19日夜、合同記者会見を開き、福島第一原発事故の「収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」と「諸対策の取り組み状況」を発表した。

 「諸対策の取り組み状況」によれば、地下遮水壁は、7月17日までの3カ月間の「ステップ1」の中で「方式検討」を進めてきたが、19日までに「設計」も開始し、今後3~6カ月程度の「ステップ2」の期間内に「構築」に着手する予定だという。

拡大政府の細野大臣(左端)、園田政務官(前列左から2人目)、東電の西澤社長(同3人目)、相澤副社長(同4人目)、松本本部長代理(右端)=2011年7月19日午後8時3分、東京都千代田区内幸町の東電本店3階で

 6月17日に東電から公表されていた「ロードマップ 6/17 改訂版」では、ステップ2は「検討」に充てられていて、「設計」については触れられておらず、「構築」は中期的課題とされていた。今回の新たな「取り組み状況」では、ステップ2の間に設計を終えて着工する予定となっており、原発事故収束担当の細野豪志(ごうし)大臣は「前倒しをいたしました」と述べた。

 7月19日の「ロードマップ(改訂版)」では、地下遮水壁に関する「ステップ2」の取り組みとして、

・ボーリングによる地下水位、水質等の調査を実施

・遮水性、耐震性、耐久性などを評価し、最適に地下水を遮へいする工法を確定

・遮へい断面、配置計画等の設計・着手

 

を挙げている。「構築」についてはこれまで通り「中期的課題(~3年程度)」となっているが、東電原子力・立地本部の松本純一本部長代理は次のように記者の質問に答えて、半年以内に着工するとの考えを明確にした。

 ――地下水の遮へい壁の件なのですけれど、「ステップ2では設計・着手、中期的課題に構築」とありますけれど、これはステップ2で着工に入って、中期的課題として建設を終える、ということでよろしいのかどうか?


 松本本部長代理:ご質問にある通り、着手、いわゆる着工に関しましてはステップ2の中で着手する予定でございます。まだ工期等の見通しがはっきりしておりませんので、ステップ2の中で終わるというわけではなくて、中期的課題の中で継続的にやっていくということになります。

拡大東京電力の西澤俊夫社長(左端)、相澤善吾副社長(原子力立地・本部長)、松本純一・原子力立地・本部長代理(右端)=2011年7月19日午後8時33分、東電本店3階で

 先月、6月13日付の東電内部文書では、この遮水壁の工事費用について、「今後の設計次第では1000億円レベルとなる可能性もある」との見通しが示され、東電の松本本部長代理も6月24日の記者会見でそれを認めていた。しかし、7月19日の記者会見で、東電の相澤(あいざわ)善吾副社長(原子力立地・本部長)は工事費用の見積もりを明らかにしなかった。

 ――これ総工費、費用というものが相当かかりそうだという話が出ているんですが、どれぐらいでいま見積もってらっしゃるのか。その巨額な総工費というものをいかにして確保するのか、というのをお尋ねしたい。


 相澤副社長:地下遮水壁について、大変なお金がかかるんじゃないかというお話がございました。この工程表にもご説明申し上げていますとおり、例えば地下水の流れですとか、あるいは方向ですとか、流量ですとか、あるいは汚染の度合い、こういったものをボーリング調査等いたしまして、最適な設計を進めていく段階でございます。その中身によりまして、完成する工程、もちろん建設費等も変化してくるわけでございまして。誠に申し訳ございませんが、現段階ではその建設費あるいは予想費というものまでご説明するには至っておりません。様子が明確になり次第、どんな仕様になる、あるいはどんなものを作る計画になったか、ということは固まり次第ご報告できると思います。現段階では残念ながらお話しすることはできません。

 

 遮水壁の建設について、6月13日付の東電の文書には次のようにも記載されていた。

 今回の検討の過程で、政府側から国プロジェクト化の示唆(当初は国交省予算)があり、その前提で、設計着手と工事着工の前倒し案が浮上。ただし、現状では、担当府省がどこになるかも含め、国プロ予算の具体化に目途が立っているわけではなく、経産省(原子力政策課)でも最近になり検討を始められたとの認識。

 (中略)

 極めて厳しい財務状況にある現下に、仮に1000億円レベルの更なる債務計上を余儀なくされることになれば、市場から債務超過に一歩近づいた、あるいはその方向に進んでいる、との厳しい評価を受ける可能性が大きい。これは是非回避したい。

 

 東電が自分の費用で遮水壁を建設する場合には東電に「前倒し」するつもりはなく、「前倒し」の場合はその前提として、政府が予算を用意し、政府の事業として遮水壁を建設するという話があった、というふうに読み取ることができる。

 6月24日の記者会見では、月刊誌「FACTA」編集人の宮嶋巌氏が質問の中で、「これを東京電力の責任でやっていくのか、国として財政的な部分も含めて関与していくべきなのかどうかは、これはかなり高度な判断になってくるだろう」と述べ、その上で、首相補佐官だった細野氏を前に「ぜひ細野さん、リーダーシップを発揮して頂いて、やっぱり国の予算でやるのが筋だ」と「お願い」するという出来事があった。細野氏はこれに次のように答えた。

 それは基本は(福島第一原発の)敷地内ですから、東京電力がやるべきなんですけれども。敷地内であるけれども、国民的なこれだけ大変な迷惑をかけている事態だから、国が乗り出すかどうかの判断だと思うんです。

 

 別の質問者に対して、細野氏は次のようにも述べた。

 この福島第一原子力発電所は、東京電力が所有も管理もしているわけですから、そこに直接、政府が事業をやるっていうのは、筋から言うと、ちょっとなかなか考えにくい、ということなんですね。あとは、たとえば補助事業のような形にするというのは一つの方法としては考えられると思います。

 

 東電がみずからの資金でみずから工事をやるのか、それとも、政府が国の事業として取り上げて金銭的に支援することがあるのか。東電は7月19日の記者会見で記者の問いに「未定」と

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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