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ニューズ&コメンタリー

「自主避難」の賠償を東電に請求、東電「声を受け止め検討」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質から逃れるため、国や自治体の指示ではなく、自主的な判断で避難したり避難を検討したりしている411世帯の人たちが8月12日、損害賠償として11億7千万円余を支払うよう東電に請求した。東電の担当者は「お持ちいただいた声をしっかり受け止めて検討していく必要があると感じている」と答えた。請求書をとりまとめる活動を支援した「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」共同代表の河崎健一郎弁護士(東京駿河台法律事務所)は記者会見で「予防原則の観点にたったとき、特に、小さい子どもを抱えるお母さんや妊婦といった方々が避難することは合理的な行動であって、何ら恥ずべき行動ではないんだ、というメッセージを発していきたい」と述べた。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽関連記事:東京電力本店からの報告

拡大東京電力本店前の路上で「自主避難」への損害賠償を求める人たち=8月12日午後3時46分、東京都千代田区内幸町1丁目で

 12日午後、東京都千代田区内幸町にある東電本店の前の街頭で、「福島原発避難区域外からの自力(自主)避難者にも賠償を!」「福島の子どもたちを放射能から守ろう」という横断幕を広げて、道行く人たちに呼びかけた後、河崎弁護士らは、港区新橋1丁目にある東電関連会社所有のビルに向かった。

 「東新ビル」の1階に用意された部屋で午後4時過ぎ、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」運営委員の福田健治弁護士が請求書の束を東電の紫藤(しとう)英文・福島補償相談室部長に手渡した。続いて、「『自主』避難者に、正当な賠償をお支払いください」という書面が読み上げられた。

 福島第一原発事故により、水素爆発の恐怖から、また、その後、深刻な放射性汚染が広がる中で、自分や家族を守るために、避難区域外であっても避難した人、避難したいのに避難できないでいる人たちがたくさんいます。

 現在、こうした人たちは、避難区域の外であるというだけで、避難は自己責任と認識されてしまい、正当な賠償や行政的なサポートが得られる保証がなく、職場や学校の理解も得ることができません。仮払い金も支払われていません。原発事故さえ起こらなければ、故郷を離れることもなく、被ばくのリスクにさらされながら、不安や恐怖に満ちた日々を送ることもありませんでした。

 自主避難に関しては、先般、原子力損害賠償紛争審査会が取りまとめた中間指針には盛り込まれませんでしたが、今後、その範囲について議論が進んでいくものと思われます。

 しかし、私たちは、自主避難した人、また避難を考えている人たちを現在の苦境から救うためには、一日も早く、自主避難者に正当な賠償がなされることを、東京電力が責任をもって明言するべきだと考えています。

 ここに自主避難者、避難を考えている人たちからの請求書を提出させていただきます。

 

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は8月5日、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」をとりまとめた。そこでは、政府や自治体の指示によって避難させられた人たちに対する「避難費用」や「精神的損害」が賠償すべき損害の類型として示されているが、「自主避難」には触れられていない。

拡大東京電力福島補償相談室の紫藤英文部長に請求書を渡す福田健治弁護士(右)=8月12日午後4時4分、東京都港区新橋で

 請求書を受け取った東電の紫藤部長はまず「誠に申し訳ございません」と謝った上で、文部科学省の紛争審査会に触れて次のように述べた。

 この事故により損害を被られた皆さまに対しましても、国の紛争審査会が示した指針に基づきしっかりと公正かつ迅速な賠償を実施していきたいと考えてございます。いただきました文書にもありますとおり、自主避難につきまして、今回の中間指針の中では明確にしるされてはございませんが、8月5日の紛争審査会の中でも自主避難の問題につきましてはいろいろ論点があるので、まずはこの中間指針をまず先に出して、自主避難に関してはまた場を設けて審査会の先生方が議論されると聞いております。私どもといたしましても、公正かつ迅速な補償をさしていただくためにも、そういった紛争審査会の議論を踏まえて適切に対処していきたいというふうに考えてございます。8月5日の審査会の内容を拝見したところによりますと、委員の先生方の多くの方が、国や自治体の指示により避難されたかた以外の自主避難された方の中にも賠償を受けるべきかたがいらっしゃるんじゃないかと、委員の先生方も、ご認識されている先生方が多かったというふうに私も認識しております。そういった先生方の議論を踏まえた形で、また、何らかのものが示されると思いますので、それにのっとって適切に対処していきたいと考えてございますので、よろしくお願いいたします。

 

 8月5日に中間指針をとりまとめた際の文科省の紛争審査会では、「自主避難に関する論点」と題する資料が配布され、そこには次のように書かれている。

 一般的には、指針の対象区域に居住する者ではなくとも、被曝の危険を回避するための避難行動が社会通念上合理的であると認められる場合には、その避難費用等は、賠償すべき損害となり得る。このような避難の合理性を判断するための基準としては、例えば、本件事故直後においては一般的には事故のあった原子力発電所からの距離等を基準とすることが考えられ、その後においては一般的には避難を開始する地点の放射線量等を基準とすることが考えられるが、政府が避難指示等の措置を何ら講じない地点において、自主的な避難をすることが合理的か否かについて判断する適切な基準があるかどうかが問題である。

 政府は、年間 20mSv を計画的避難の指示や特定避難勧奨地点の指定の際の基準として用いており、これを上回るおそれのある地域・地点については、避難指示等の措置を講じることとしている。このような政府の基準は下回るが、相当量の放射線量率が観測された場合などにおいて、放射能の危険を懸念して自主的に避難することの合理性が認め得るか否かについては、いわゆる風評被害の場合と類似した点もある。また、妊婦、子供等対象者の範囲、検査費用、避難費用等損害項目の範囲、避難指示等が解除された区域との整合性など考慮すべき事項がある。

 

 紫藤部長の発言は、こうした紛争審査会の議論の帰結を見極めた上で、それに従う考えを示したものだ。しかし、これには反発がある。請求書のとりまとめにかかわった「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」(東京都新宿区神楽坂)と、「国際環境NGO」である「FoE JAPAN」(東京都豊島区池袋)が作成して東電に渡した書面によれば、「動くに動けず、今でも悩み苦しみぬきながら(福島に)暮らしている」という人がたくさんいるという。避難すべきかどうか迷っている人たちにとっては、一刻も早く、賠償がなされるかどうかを知りたい。賠償がなされるのならば、すぐにでも避難したい人が数多くいる。紛争審査会の結論が出るのを待っていては遅いのだ。「福島老朽原発を考える会(フクロウの会)」の阪上武代表、「FoE JAPAN」の満田(みつた)夏花理事らは12日、次々にそうした主張を東電の紫藤部長にぶつけた。

 阪上代表:きょうの請求書は検討していただくのか?


 紫藤部長:中身については目を通させていただきます。それに対してどういうふうな対応をとるのかは、あくまでも紛争審査会の議論を踏まえて考えていきたいと思います。


 満田理事:紛争審査会が、たとえば、自主避難に対して、極めて狭い、あるいは「賠償しない」となった場合は、東京電力としては、お支払いしないつもりでしょうか?


 紫藤部長:まずその紛争審査会の中で、自主避難についてこういう類型のものは賠償すべきだ、というものが示されれば、それはそれに基づきましてしっかりとお支払いしていきたいと考えております。で、中間指針に類型化されていないものについても、個々の事例を検討すると、東京電力が賠償すべきものもあるであろうから、そこはしっかりと東京電力として損害の賠償をしていきたいと考えております。


 満田理事:紛争審査会のガイドラインを待つまでもなく、東京電力としての誠意を示していただきたい。補償金が支払われるということによって、選択肢が増える、楽になる。そういう人の声を拾うために、今回、請求書を提出させていただいています。ぜひご検討ください。


 紫藤部長:よく読まさせていただきます。


 満田理事:紛争審査会の議論を待たなければならないんでしょうか?


 紫藤部長:どこかで線を引くというとあれかもしれないんですが、損害賠償をすべき範囲と、そうでない範囲が出てくると思うんです。そこを公正かつ迅速な補償をしていくというなかにあっては、やはり、そういった第三者的に損害の範囲を判定するための指針を作って頂いている審査会の議論を、東京電力としても、しっかり受け止めていきたいと考えております。


 阪上代表:審査会を待つんではなくて、できるところから、自主的に、東電さんとして積極的に動いていただきたいと思うんですが、難しいですか?


 紫藤部長:お持ちいただいた声を私どもとしてもしっかりと受け止めて、おっしゃられたように、審査会の議論を待たずに、ということも、一つは検討していく必要があるのかなと、このように感じております。


 阪上代表:ぜひお願いします。

 

 福田弁護士、河崎弁護士、阪上代表、満田理事らは、東電に請求書を渡した後、弁護士会館で

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、 『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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