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ニューズ&コメンタリー

小沢議員秘書に判決「自白なしでも有罪認定するかどうかに注目」

陸山会事件判決の焦点を五十嵐元特捜部長に聞く

村山 治(むらやま・おさむ)

 元民主党代表の小沢一郎・衆議院議員の資金管理団体「陸山会」を舞台にした一連の政治資金規正法違反事件が大きな節目を迎える。9月26日に元秘書3人に判決が言い渡され、10月6日には小沢議員本人の公判が始まる。小沢議員がかつて師と仰いだ金丸信・元自民党副総裁の事件の捜査を指揮した元東京地検特捜部長の五十嵐紀男弁護士に話を聞いた。

  ▽聞き手・筆者:村山 治

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 ■「裁判所が自白調書なしで有罪とするかどうかが焦点」

五十嵐紀男(いがらし・のりお)拡大五十嵐 紀男(いがらし・のりお)
  1940年生まれ。北海道大学在学中に司法試験に合格。64年4月、司法修習生。66年4月、検事任官。91年1月から2年半、東京地検特捜部長。共和汚職、東京佐川急便事件、金丸ヤミ献金事件、金丸脱税事件などを手がけた。99年12月退官。公証人を経て2010年5月、弁護士登録。

 ――小沢さんの資金管理団体「陸山会」を舞台にした政治資金規正法違反事件で収支報告書の虚偽記載罪に問われた石川知裕衆院議員、大久保隆規さん、池田光智さんの3元秘書に対する判決が言い渡されます。東京地検特捜部が10カ月以上を費やして摘発した、いわば検察の威信をかけた事件です。石川さんらが無罪を主張して争い、裁判所は、検察側が証拠申請した石川さんらの供述調書の重要部分を「威迫と利益誘導で署名させた」などとして却下しました。検察の取調べに対し、虚偽記載を認めた自白部分や「小沢さんに報告した」とする部分などです。それで、判決の行方に注目が集まっています。

 五十嵐:ご承知のように、これまで政治家本人やその秘書らを政治資金規正法違反に問う場合、その構成要件にさまざまな欠陥がありました。政治資金規正法は「ざる法」と呼ばれ、特捜部が事件を摘発するたびに見直しをされてきました。

 今回の事件で、公判で秘書らの重要部分の自白調書が検察の取り調べに問題ありとして証拠採用されませんでしたが、昨年の大阪地検特捜部が手がけて無罪になった郵便不正事件以来、裁判所は自白調書の採用に大変厳しい態度で臨んでいるように思われます。今後、検察は捜査において自白を獲得することに苦労するでしょう。

 しかし、そもそも検察が自白獲得に熱心だった最大の理由は、行為者の内心の意思がどうであったのかという主観的な事柄も含めて、事件の細部にわたって詳細な立証を求めてきた裁判所の態度にあったと言えます。いわゆる精密司法です。自白偏重・供述証拠中心の裁判をリードしてきた裁判所の責任も大きいと言えるでしょう。

 そんな中で、重要部分の供述調書を証拠採用しなかった今回の裁判所の判断が、これまでの精密司法と決別して、国民が司法に参加することになった裁判員裁判に見合った立証を念頭に置いたものであったとするなら、それは大いに評価できます。しかし、単に従前の精密司法路線の中での判断に過ぎないものであったなら、検察は納得しないでしょうし、国民の大半も納得しないのではないかと思います。

 政治資金規正法は、政治資金の入りと出の透明性を高めて政治活動の公明と公正を確保し、国の命運を預ける国会議員としての資質を問う判断材料を広く国民に知らせようとする法律ですから、自白調書がなくても、国民目線で見て理屈のつかない金の動きに対してはきちんと説明がつかない限り黒であるとするかどうか―。すなわち客観的事実自体から有罪の認定を裁判所がするかどうか、です。

 今度の判決については、裁判員裁判という新しい制度の下にあって、自白がないと有罪にできないのかという問題に一つの見解を示すことになるのではないかと注目しています。

 ■「秘書有罪なら、小沢氏は裁判でも苦境に」「4億円を合理的に説明できるかがポイント」

 ――判決は、3人とも無罪、3人とも有罪、3人のうち一部無罪の可能性があります。判決の出方によって、小沢さんの公判にどのような影響があるとお考えですか。

 五十嵐:私は、2度不起訴にした検察と、逆の立場をとった検察審査会の結論の違いは、検察がこれまでの精密司法にこだわったのに対し、検察審査会は国民目線で提起した素朴な疑問に小沢さん側から納得のいく説明がされなかったことによるものと見ています。

 その意味で、26日の秘書に対する判決がこの点をどう判断するか、小沢さんの裁判にも大きな影響を及ぼすことでしょう。秘書らの裁判で小沢さんの関与を認めた石川さんの自白調書は証拠採用されませんでしたが、それでも秘書らが有罪となれば小沢さん側は苦境に立たされます。秘書らが無罪となれば小沢さんに対しても同じ内様の判決がくだされる可能性は高く、検察官役の指定弁護士が苦境に立たされることになりそうですね。

 ――小沢さんは、陸山会の土地購入に際し融資した手持ち資金4億円の由来などについて国会で説明を求められましたが、拒否してきました。特捜部の取調べ後の記者会見で、小沢さんは「4億円の原資は東京・湯島の自宅を売却した際の残金などで、不正な金は一切受け取っていない。収支報告書の虚偽記載はまったく把握していない」などと反論しましたが、検察審査会の審査員は、小沢さんの供述調書を見て合理的でないと判断したわけですね。今回は、被告人として裁判所や指定弁護士側の尋問を受けることになります。

 五十嵐:4億円の原資の説明は小沢さんの裁判の帰趨を決する重要なポイントであると見ています。国民の目から見ると4億円は大金。この大金についての小沢さんの説明が二転三転する理由が国民には理解できない。小沢さんにとって4億円は小遣い銭程度の感覚なのか、としか映らない。小沢さんが裁判所も国民と同じ見方をしているという前提に立ってこの点をきちんと裁判の場で説明することができるかどうか、合理的な説明ができないようなら、裁判所の心証も悪くなります。

 また、小沢弁護団は、起訴事実に告発事実以外の事実が含まれているとして公訴棄却を主張していますが、裁判所が実体審理に入らないで公訴棄却をするとは思えませんので、小沢さんが裁判の場で4億円についてきちんとした説明を求められることは避けられないでしょう。

 ■「検察の、水谷建設1億円立証は、この事件の本質と見たから」

 ――検察審査会の起訴権限は、司法制度改革の柱である「国民の司法参加」の一貫で導入されました。検察審査会の制度改正に反対する声もありますが、もし、小沢さんが法廷で事実を説明することになれば、検察審査会は、説明責任を果たさない政治家に対する究極の「証言強制」として機能したことになります。検察審査会の起訴の是非について、どうお考えですか。

 五十嵐:検察審査会の役割は、検察官の不起訴処分の当否を判断することに尽き、今回は2度にわたる審査の結果、起訴相当との結論に至ったということであり、起訴の是非を論ずる問題ではないでしょう。検察審査会の証言強制機能といっても、それは起訴相当の議決の結果の付随的効果に過ぎない。まさか検察審査会が検察官の不起訴処分の当否を判断することよりも小沢さんに説明責任を果たさせることを優先して起訴議決したわけではないと思いますが。

 ――検察の公判立証について。検察は、中堅ゼネコンの「水谷建設」元社長から、「胆沢ダム」(岩手県奥州市)の工事の下請け受注するため小沢さん側に2回にわたり計1億円を渡した、との供述を得て、それを法廷で立証することにこだわりました。実際、元社長は法廷でも供述調書通り証言しました。一方で、この部分の立証はなくてもいい、という声が検察部内にはありました。石川さんらが土地購入原資を隠すため収支報告書を偽装したことだけ立証すれば、石川さんらは争わず有罪判決を得られるのではないか、という意見です。

 五十嵐:悩ましい問題ですね。検察が水谷建設からの1億円立証にこだわったのは、この事件の本質を、小沢さんの公共事業利権にあると見て、罰金刑で済まされるような形式犯ではない、悪性の高い事件であることを明らかにしたかったのではないかと思います。これに対しては、それなら、贈収賄など他の犯罪で摘発すべきで、それができないからといって政治資金規正法で処罰しようとするのは邪道であるという批判があります。私は、検察の方針を支持します。

 検察はあらゆる法律を駆使して事案の真相解明に当たるべきで、それが見過ごすことができない悪質性を備えていると判断したなら、適用法律が刑法かそれ以外かを問わず、相応の処分をすべきと思います。

 水谷建設からの1億円の立証抜きだと事件の悪性が不明であり、不起訴にすべき軽微事案なのか、罰金事案か、あるいは公判請求して禁錮刑を求刑すべき事案なのか、裁判所にも国民の目にもわからない。刑罰は犯罪、つまり真相に見合ったものでなければならない。それが刑罰の感銘力につながるし、また一般に対する警告にもなる。

 水谷建設からの1億円に触れなければ、石川さんらが争わずに終わったとして、言い渡される刑は罰金刑かせいぜい執行猶予付きの禁錮刑。政治家やその秘書らに対してこの程度の刑で終わるというある種の安堵感を与える。刑の感銘力も一般予防の効果も期待できない。

 また、水谷建設からの1億円問題は、こういった刑の情状の問題の他に、被告人側が4億円の出所について様々な弁解をすることに対して、その弁解は合理的でないという、いわば犯罪事実の立証そのものにつながる重要な意味を持つようになりましたね。裁判所がこの点の立証を許したのは当然だと思います。

 ■「検察は、悪質な政治資金規正法違反には摘発を躊躇するな」

 ――大久保さんの逮捕は、多くの国民が政権交代間近と受け止め

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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