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ニューズ&コメンタリー

《詳録》オリンパス窮地 買収で巨額支出 深まる謎

ウッドフォード元社長「日本の捜査、遅い」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 精密機器メーカーのオリンパスが窮地に陥っている。過去の企業買収をめぐる巨額支出への疑問が解消されず、市場の信頼は回復できないまま。一方、問題を告発してきた英国人の元社長は「日本の当局は動きが鈍い」と批判する。海外からは「企業統治を含めた日本社会の問題」との見方さえ出ている。

  ▽筆者:奥山俊宏、福間大介、野村周

  ▽この記事は2011年11月7日の朝日新聞3面に掲載された原稿に加筆したものです。

 

 ■迷走オリンパス、第三者委で解明

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 社長就任からわずか半年のマイケル・ウッドフォード氏が10月に突然解任され、過去の企業買収時の巨額支出に不可解な点があると公表して以降、オリンパスの経営は揺れている。問題発覚前は2400円台だった株価は3週間で半値以下になり、4千億円近い時価総額が吹き飛んだ形だ。

 実態解明に向け、同社は1日に弁護士5人、会計士1人からなる第三者委員会をつくり、過去の企業買収時の巨額支出を検証する調査を始めた。12月上旬をめどに調査結果を同社に報告する予定だという。

 オリンパスは第三者委の調査を理由に、8日に予定していた9月中間決算の発表を延期した。14日までに業績開示をしなければ、監理銘柄となる事態に追い込まれている。

 市場や関係者は、巨額支出について説明が尽くされておらず、不透明さが消えていないとみている。

 疑問は大きく二つ。ひとつは買収助言会社への巨額支出。もうひとつは、別の買収における高額な買収費用の計上だ。

 2008年2月、英国の医療機器会社ジャイラスを約2100億円で買収した際、仲介した米国の助言会社Axesと、経営者が同じケイマン諸島のファンドに買収額の約3割にあたる666億円を支払った。「買収総額の1~5%」とされる相場とはかけ離れた金額だ。

 オリンパスは、手数料部分は、このうち3分の1程度で適正であり、残りは手数料ではないと主張している。しかし、その内訳をみると疑問は一層深まる。Axes側の要求で、買収先のジャイラス社の優先株を08年9月にオリンパスが譲渡し、それを1年半後の10年3月、譲渡時の3.5倍もの高値で買い戻す費用だったという。

 野村証券出身の佐川肇氏が経営するAxes社を助言会社に選ぶ際、手数料などを同業他社と比べることなく選んだ理由も不明だ。

 もうひとつの疑問が、オリンパスが06~08年に計734億円を投じて健康食品会社など3社を買収した際の費用が異常に高額だった点。オリンパスの高山修一社長は「医療の総合メーカーになるためだった」と説明するが、3社の買収資金が最終的に誰にわたったのかも、オリンパス側は「投資会社を経由して買ったので、分からない」という。

 ■ウッドフォード元社長、日本当局の「遅さ」を心配

 ウッドフォード元社長は英ロンドンで朝日新聞の取材に応じ、巨額資金流出疑惑の解明をめぐって日本の捜査当局の動きが英米と比べて「遅れている」と指摘。「日本が答えを出さなければならない問題なのに、心配している」と述べた。

拡大ウッドフォード氏=3日、ロンドンで

 4月から社長を務めていたウッドフォード氏は過去の企業買収について独自に会計事務所に依頼して調査した結果、問題があるとの結論に至った。10月12日、菊川剛会長(当時)と副社長に辞任を求める電子メールを送ったところ、14日の取締役会で社長職を解任された。以降はメディアで積極的に発言すると同時に、各国の捜査当局とも接触をしている。

 ウッドフォード氏によると、これまでに英国の重大不正取締局(SFO)、米国の連邦捜査局(FBI)、日本の証券取引等監視委員会に資料を提供したが、証券監視委だけは10日たっても連絡がない。「日がたつにつれ立証が難しくなる。これだけの証拠があるのに、日本の当局は調査しないのか」といぶかる。

 ニューヨークでFBIの捜査官と会った際には米司法省の検事2人も同席し、会合は3時間を超えたという。「英米の積極的な姿勢と日本は対照的だ」と話したウッドフォード氏は「巨額の支払いを日本人が許容しているのには、何か本質的な誤りがあるように見え、私はたいへん心配している」と語った。

 ウッドフォード氏は現在もオリンパスの取締役であるため、同氏によると、テレビ会議システムを介して取締役会に参加したいとの意思を会社に伝えたという。しかし「無視された」と同氏は言う。オリンパスの現経営陣はウッドフォード氏抜きで10月31日に取締役会を開き、その場での決議に基づいて11月1日に第三者調査委員会を発足させた。

 ウッドフォード氏によると、11月2日、オリンパスの幹部社員から同氏に電子メールが届き、第三者委への協力を要請された。これを受けて、同氏の側は3日、第三者委の委員長に直接「ニューヨーク、ロンドン、シンガポールのいずれかでお会いしたい」と返答。その結果、14日に始まる週にロンドンで第三者委の弁護士に会うことになったという。

 ウッドフォード氏は、聴取場所として日本国外の3都市を指定したことについて、「私は日本に行かないようにとアドバイスされている」と説明。また、協力要請がオリンパスの幹部社員から伝えられたことについて「第三者委員会の手続きを会社が行うのは完全におかしい」と指摘し、「オリンパスがオリンパスを調査している」と第三者委の独立性に疑問符をつけた。また、第三者委の設置について「問題先送り戦術ではないか」と不信の念を示した。

 ■証券監視委は第三者委の調査結果を見守る構え

 日本の証券監視委は既にオリンパスの買収をめぐって調査を開始している。ただ、当面はウッドフォード氏から提供された資料や同社の開示資料の分析が中心で、第三者委が約1カ月後にまとめる予定の調査結果を見守る構えだ。

 有価証券報告書への虚偽記載など金融商品取引法に違反する行為が見つかれば、課徴金の対象となり、特に悪質と判断すれば検察当局への刑事告発という選択肢もある。

 一連の支出が特定の個人や他社の利益を図る目的で、それによって会社に損害を与えた疑いが浮上すれば、当時の経営陣が会社法違反(特別背任)容疑に問われる可能性もある。

 ■海外メディアから日本の企業統治に厳しい目

 疑惑は、7月に発売された日本の月刊誌「FACTA」で最初に報じ

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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