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ニューズ&コメンタリー

米原子力規制幹部「米原発のテロ対策B5bは日本の事故にも適用できた」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 2001年9月11日に航空機を使った同時多発テロで枢要な施設を攻撃されたことを受けて、米政府の原子力規制委員会(NRC)は翌2002年、「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策を各原発に義務づける命令を出した。それはのちに「B.5.b」と呼ばれるようになり、米国では原子力業界の知恵を取り込みながら進化していった。日本の原発はそうした動きから取り残され、それが福島第一原発事故の拡大の原因となった。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽注:2012年1月30日にこの記事の本文中のいくつかの表現について修正しました。

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拡大米政府の原子力規制委員会本部=2008年5月15日、米メリーランド州ロックビルで

 B5bを含むNRCの命令は「暫定的な防護・保安代替措置(interim safeguards and security compensatory measures)」と題され、2002年2月25日、既存原発を運営する事業者にあてて、その設置・運営の許可条件を修正する形で出された(http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/enforcement/security/2002/security-order-2-25-02.pdf)。

 当委員会(NRC)は、あなたがた(原子力事業者)が2001年9月11日の出来事を受けて、自主的に、かつ、責任をもって、追加の保安措置を実施しているものと認識していますが、ハイレベルの脅威が引き続いている現状に照らして、この保安措置は、すでにある規制の枠組みと整合するように命令に取り込まれるべきだと判断しました。

  

 3月4日付の米連邦政府官報(Federal Register 9792 / Vol.67, No.42)にその命令は収録されたが、防護措置の具体的な内容が記載されているはずの命令の添付文書2 (attachment 2)は公表対象から除外された。その添付文書2のB5条b項(Section B.5.b)にちなんで「B5b」と通称されるようになったが、その条文そのものは今も未公表で、日本政府の原子力安全・保安院にそれを見た人はいないという。

 その後、2009年3月27日、B5bは米国連邦規則(Code of Federal Regulations)の第10章(エネルギー)の50.54条(許可条件、http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part050/part050-0054.html)の(hh)(2)項に組み込まれ(http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2009-03-27/pdf/E9-6102.pdf)、そこには次のように定められている。

 各許可事業者は、爆発や火災によってプラントの大きな領域が失われた状況(the circumstances associated with loss of large areas of the plant due to explosions or fire)の下で、炉心冷却、閉じ込め、使用済燃料プール冷却を維持または復旧するための手順と戦略を開発・実装しなければならない。

  

 その具体的内容の多くは福島第一原発事故の前は「保安関連情報(Security Related Information)」として非公表(Official Use Only)とされていたが、日本政府の原子力安全・保安院には秘密裏に提供されていた。福島第一原発事故の後に公開されたNRCの文書(http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/slides/2011/20110428/staff-slides-20110428.pdfhttp://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1112/ML111250360.pdfhttp://pbadupws.nrc.gov/docs/ML0932/ML093280535.html)によれば、B5bの対策は、3つの段階(Phase)に分けられ、段階的に整備・充実を図っていく手法が採られた。第1段階(Phase 1)は、事前に準備しておく資機材や人員についてで、2005年2月25日にNRCのスタッフが指導文書を出した。第2段階は使用済燃料プールについて、第3段階は炉心冷却と閉じ込めについて、それぞれ取り上げており、2006年12月、原子力業界(Nuclear Energy Institute)が指導文書(B.5.b Phase 2 & 3 Submittal Guidelinehttp://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1116/ML111680125.html)をまとめ、NRCは同月22日にこれを承認した。

 これらB5bが想定する事態の一つが全電源喪失だった。B5bの指導文書ではこれを「LIPD(a loss of internal power distribution)」という略称で呼び、それへの対策は、発電所内外の直流電源も交流電源も使えない状態(without any off-site or on-site AC or DC power)で実施可能なものでなければならないとされている。

 こうした備えが実際になされているかどうか、NRCは各原発での実地検査でチェックしている(Interim Staff Guidance、http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1017/ML101760164.pdf)。その検査結果報告書には、たとえば、次のように書かれる(http://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1118/ML111890519.htmlhttp://pbadupws.nrc.gov/docs/ML1112/ML11129A277.pdf)。

 検査官は、被害緩和戦略の実施のために準備されている可搬の装備が十分かを評価した。評価対象の装備には、屋外の消火栓、ホース置き場、屋内の水供給パイプ、ホース置き場、可搬のディーゼルポンプと吸引・発射ホースなどが含まれている。検査官はまた、B5b関連装備が非常時に使えるかどうかという観点から、その保管場所を評価した(たとえば、100ヤード以上、プラントから離れているかなど)。


 発電所のスタッフとの議論や、文書の閲覧、プラントの踏査によって、検査官は、原子炉隔離時冷却系(RCIC)が交流電源や直流電源がない状態で手動で制御できるかを評価した。検査官は、『直流電源なしのRCIC手動制御』という発電所の手順書にその方法が示されていることを確認した。


 発電所のスタッフとの議論や、文書の閲覧、プラントの踏査によって、検査官は、可搬の125ボルト直流電源でソレノイドを励磁することで逃し安全弁を開ける戦略を評価した。検査官は、原子炉圧力容器の減圧と可搬ポンプによる注水を可能にする方法が『外部直流電源によるSR弁操作』などの発電所の手順書に示されていることを確認した。


 発電所のスタッフとの議論や、文書の閲覧、プラントの踏査によって、検査官は、交流電源や直流電源、プラント供給の圧縮空気のない状態でベント弁を手動で開ける事業者の戦略を評価した。検査官は、ベント弁を開ける方法が『交流電源なしのベント』という発電所の手順書に示されていることを確認した。また、発電所のスタッフがそのための訓練を受けていることも確認した。

  

 一方、福島第一原発にはこうした備えはな

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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