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ニューズ&コメンタリー

米国原発の全電源喪失対策で保安院「検討はしたが、対応には至らず」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 全電源を喪失した際に応急的に原子炉を冷却する準備などを米国内の原発に義務づけた米政府の新しい規制「B5b」について、日本政府の原子力安全・保安院の幹部職員が米政府から説明を受けてその内容を把握していた問題で、保安院の森山善範・原子力災害対策監は1月30日夕の記者会見で、東日本大震災以前にB5bを日本国内の原発の安全対策に生かすかどうかを検討していたと明らかにした上で、「実際の対応には至っていなかった」と述べた。

 米国では、2001年9月11日午前、旅客機が乗っ取られ、ニューヨークの高層ビルや首都近郊の国防総省庁舎への攻撃に使われ、大きな被害が出た。これを受けて、米政府の原子力規制委員会(NRC)は翌2002年2月、「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策を各原発に義務づけた。それは、その行政命令の条項から「B.5.b」と呼ばれるようになった。

 B5bに従って2006年12月に出された原子炉冷却に関する指導文書は、交流電源と直流電源の双方が失われた状態で仮設の電源などを使うなどして手動で原子炉冷却機器を起動・運転するために必要な準備を義務づけている。そうした備えがあれば、東京電力福島第一原発でも昨年3月中旬、事態の進展はかなり違っていたとみられる。福島第一原発では、全交流電源喪失時の直流電源喪失を想定していなかった。

 関係者によると、日本政府の原子力安全・保安院の職員は2006年と2008年に米国に出張し、NRCの幹部からB5bについて詳細な説明を受けた。しかし、そこで得られた知識はその後、日本国内の原発の規制に生かされることはなかった。朝日新聞は1月27日、こうした経緯を記事にまとめて報道した。

拡大記者会見で質問に答える原子力安全・保安院の森山対策監=1月30日、東京都千代田区霞が関で

 1月30日夕に保安院で開かれた記者会見で、森山対策監は、朝日新聞記者の質問に答え、「保安院からNRCへ出張して、米国の対策について状況を聴取した、という事実はある」と認めた。しかし、その際にはメモをとることが許されず、資料を持ち帰ることもできず、「保安院の中で広く情報が共有されていたわけではない」という。

 記者: 先週金曜日、私どものチームが取材して朝日新聞に載りました「B5b」というものがあります。これに関して、日米複数の関係者から取材をして証言を得ているのですが、「B5b」が保安院に渡った事実について(コメントをお願いしたい)。渡ったとしたら、対策を各電力会社に通達なりをしたのか、ということ、通達なりをしなかったのなら、どうしてしなかったのか、今後の対策としてどうお考えなのか、教えてください。


 森山対策監: あのう、まあ米国のですね、持っている経験・知恵をですね、今まで対策とられてきているわけですが、保安院と米国NRCとの間では、情報交換、まあそういったパイプはございます。かつては、保安院からNRCへ出張して、米国の対策について状況を聴取した、という事実はございます。

 ただし、私が知っている、存じている範囲では、メモも取れない。もちろん資料も貰っておりません。

 そういった米国の対応については、聴取をしたうえで、……ちょっと正確には覚えていませんが、保安院として航空機の落下対策を含めて情報収集をしているということは、(総合資源エネルギー調査会)原子力安全・保安部会でも、そういったことが申し上げられています。

 その後は具体的にですね、あの、検討をしていた痕跡はございますけれども、具体的に対策をとる、というところにまでは至っていない、ということでございました。


 記者: 「具体的に対策をとる」というところまで至らなかった理由とは、どういうことなのでしょうか。


 森山対策監: まずそれは、保安院が検討中であったということ。ほぼ限られた、米国からの情報そのものも、メモも取らない、というなかでの情報提供だったということなので、必ずしも保安院の中に広く、情報共有がなされていたわけではございませんで、まあ検討は進めていたものの、まだ実際の対応には至っていなかったということでございます。


 記者: 受け取った内容を東京電力など事業者に公式・非公式で伝えたことはあるのでしょうか。


 森山対策監: 私の知る範囲では、伝えたとは承知していません。


 記者: 米国へ行かれたのは何回?


 森山対策監: 一度……だったと思いますが、ちょっと正確には把握していません。

 限られた方で情報収集して、一般的に広くというか、対策については……。米国の対策については、我が国は情報は得ていたと。ただ資料とかはなかったと。


 記者: 限られた人数というのは、担当の方はそうだろうが、それ以外に院長や次長、審議官などどのくらいのラインまでわかるのでしょうか。森山さんはご存じだったのでしょうか。


 森山対策監: 対応というか、情報収集をしていることは承知しています。その内容というのは、「航空機落下について情報収集をしている」ということは、保安部会でも資料を配ったような気がするが、説明している、ということは承知しています。

 

 森山対策監の言う「保安部会でも資料を配った」というのは、2009年3月9日に開かれた経産省の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会(第29回)で「最近の原子力安全を巡る国際動向」と題する資料が配られた事実を指すとみられる。この資料は経産省のホームページでも公表されており、「航空機落下」については次のように書かれている。

 2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、米国NRCは航空機衝突に対する検討を進めてきたところ、本年2月、新規設計炉について航空機衝突の影響評価を求める規則改定案を承認。今後は、新規設計炉の申請者に対して、4つの重要な安全機能(炉心冷却機能、格納容器健全性、使用済燃料冷却機能、使用済燃料貯蔵プール健全性)にかかる影響評価を求めることとなった。我が国としては、今後の対応に備え、米国をはじめ国際的な動向の調査を進める。

 

 これを読んだだけでは、米政府NRCが米国内の既存原発を規制の対象にした事実、そして、その規制が「影響評価」だけでなく、設備や訓練などについて具体的な措置を求める内容だった事実がまったく分からない。また、B5bの制定のきっかけは航空機衝突によるテロだったが、B5bそのものは、航空機衝突だけでなく、もっと幅広く、「爆発や火災によってプラントの大きな領域が失われる状況」を想定の対象にしている。それが保安院の資料では見落とされているように見える。しかも、「調査を進める」とはあるものの、「今後の対応を検討する」とは書かれていない。

 その点について1月30日夕の記者会見で

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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