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ニューズ&コメンタリー

キヤノン偽装請負訴訟が終結 2人を関連会社で正社員化、3人は金銭解決

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 大手精密機器メーカー「キヤノン」で違法な「偽装請負」の状態で働かされていた労働者5人が同社を相手取って正社員の地位の確認などを求めた訴訟は27日、うち2人をキヤノンの関連会社で正社員雇用する内容の和解に基づき終結した。偽装請負が発覚してから6年余。原告の一人は「本当に長かったが、いい形で終われた」と述べた。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽編集協力:平良孝陽

  ▽この記事は2012年12月28日の朝日新聞に掲載された原稿に加筆したものです。

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拡大記者会見する原告の阿久津真一さん=12月27日午後4時38分、東京都千代田区霞が関の司法記者クラブで
 原告は、同社の宇都宮光学機器事業所(宇都宮市清原工業団地)で働いていた阿久津真一さん(45)、大野秀之さん(38)ら。形の上では請負会社の社員とされていたが、実態は、キヤノンに直接使用される「偽装請負」状態で働いていた。2006年、新聞報道でこれに気づき、同社に正社員化を要求。「キヤノン非正規労働者組合」をつくり、2008年に東京都労働委員会に救済を申し立て、2009年、東京地裁に提訴した。

 原告側によると、今月20日、東京都労働委員会でキヤノンと同非正規労働者組合との間で和解が成立。「キヤノンはキヤノンの関連会社においてキヤノン非正規労働者組合の組合員2名を正社員として雇用する」「また、キヤノン宇都宮光学機器事業所宇都宮光機第一工場光学製造部製造第二課第2ブロック(当時)における構内請負について、平成19年9月12日付で栃木労働局長より、労働者派遣法違反が存する旨の是正指導を受けたことを真撃に受けとめ、今後は同様の指導等を受けることのないよう、再発防止に向けた不断の取組を継続する」「本件紛争が長期化したことについて、労使双方は、遺憾の意を表する」という内容を公開することで合意した。組合員のうち2人は年明けに栃木県外にある関連会社で雇用されることになっているという。残り3人は栃木県外に引っ越せないなどの事情から、「解雇撤回に匹敵すると評価しうる解決金」を受け取ることになったという。

 27日、東京地裁で和解協議が行われ、労働委員会での和解合意に基づき、原告側が訴えを取り下げ、被告側もこれに同意した。原告側は、2人の正社員化と3人の金銭解決を古久保正人裁判長に報告。「目的が一定程度達成された」と振り返った。原告側の説明によると、古久保裁判長は「5人の皆さんは立場が分かれるだろうが、それぞれの奮闘を期待する」「同種紛争が繰り返されることのないよう望む」という趣旨の言葉を述べたという。

 キヤノンの偽装請負は2006年7月末、朝日新聞の報道で表面化した。阿久津さんら17人は、労働者派遣法の定める直接雇用義務に従った正社員化をキヤノンに指導するよう求めて厚生労働省の栃木労働局にキヤノンの違反を申告した。2007年2月には、大野さんが衆院予算委員会公聴会で公述人として「私たち請負、派遣労働者は生身の人間です」と意見を述べ、野党各党が、経済財政諮問会議の民間議員で日本経団連の会長でもあったキヤノンの御手洗冨士夫会長の国会への参考人招致を要求した。同年9月には、栃木労働局がキヤノンに対し、「今回の違反事項に係る請負について、労働者の雇用の安定の措置を講ずることを前提に、不適正な状況を解消すること」など是正を指導した。キヤノンはそれに先立つ8月末、阿久津さん、大野さんらを含め同じ職場の請負労働者82人に「期間社員」としての直接雇用を申し入れ、うち42人を10月1日付で入社させた。しかし、キヤノンは阿久津さん、大野さんらについて、2009年3月から生産縮小を理由に「休業」扱いとし、同年8月末で「雇用契約終了」とした。大野さんは現在、闘病中で、12月20日の和解では、阿久津さんとともに金銭解決の道を選んだ。

 阿久津さんは27日夕、4人の弁護士とともに、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した。「組合を作ってから6年2カ月、解雇されてから3年4カ月、率直な話し合いを会社に求めたのに、受け入れられず、長期化していった。違法行為をした企業の責任がしっかり問われ、仲間のうち2人を正社員として戻せたということには満足感がある」と阿久津さんは述べた。キヤノン広報部は「これ以上長く係争が続くと双方に無益と考えて和解した」とのコメントを出している。

 12月27日夕に東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた阿久津さんとその弁護団の記者会見での主な発言は以下の通り。

拡大記者会見する萩尾弁護士(左端)、笹山弁護士、阿久津さん(中央)、久保木弁護士、横山弁護士(右端)=2012年12月27日午後4時39分、東京・霞が関で

 萩尾健太弁護士:本日はお集まりいただきましてありがとうございます。キヤノン非正規労働者組合の5名が提訴した地位確認の裁判の記者会見をこれから行いたいと思います。裁判の概要について、主任の笹山弁護士から、お願いします。

 ■裁判所と労働委員会で2件の手続き

 笹山尚人弁護士:皆さんご苦労様です。代理人の笹山です。

 裁判自体はですね、平成21年6月に提起をした裁判になります。キヤノンの栃木の宇都宮光学機器事業所で労働者派遣法、職業安定法に違反する偽装請負が行われていたということでキヤノンの正社員としての地位の確認及びキヤノンに賃金の請求、それから、そういった違法行為を続けて長らく就労させられていたこと及び、最終的には原告5人とも雇い止め--、こちらの立場からすると「解雇」ですけども--、という形で職場を追われたということについて慰謝料という形で、請求をしていた裁判ということになります。その裁判をですね、お互いの言い分を主張し合うという手続きをして、それから文書提出命令といいまして、裁判所のほうから、栃木労働局が持っている偽装請負に関する様々な証拠資料について開示を求めるという手続きをして手続きを進行させていたところでありました。

 同時に並行しまして、この偽装請負問題につきまして原告らが所属をするキヤノン非正規労働者組合のほうで、キヤノンとの間で、「誠実な団体交渉をしていただけない」、それから「組合運営に様々な介入がある」ということで、東京都労働委員会に対して不当労働行為の救済申し立てというのを行っておりました。裁判手続きに似た行政手続きが行われるわけですけれども、そういった手続きを2件遂行していた、ということになります。

 今般ですね、訴訟としては証人尋問が始まる前段階のところになりますけれども、その段階で、東京都労働委員会の和解協定を受けまして、訴訟としては取り下げをするということになって、本件は解決をするということになりました。きょうはその取り下げ手続きをただいま行ってまいりましたので、そのことを皆さんにご報告をするということになります。

 一応、取り下げが具体的に、どうしてこういった形になったのかということについてはあとで、説明したいんですが。先に、久保木弁護士から和解の内容とかその意義についてお話しして。

 ■「キヤノンのような大企業が偽装請負で争った事件で正社員として2名を迎え入れる解決は非常に画期的」

 久保木亮介弁護士:代理人の弁護士の久保木です。事前に資料として「キヤノン偽装請負・雇い止め解雇争議の勝利和解にあたっての声明」というものをお配りしてあります。和解条項は様々なのですが、こうして、みなさんに開示できる部分というのは限定されておりまして、それを声明の中に盛り込んでございます。冒頭のところに四角で囲った形にしてあるんですけれども。

 労働委員会で、12月20日、もう深夜11時過ぎでしたが、下記のような内容で和解が成立しました。

 「キヤノン株式会社はキヤノン関連会社において、キヤノン非正規労働者組合の組合員2名を正社員として雇用する」と。また、「キヤノン宇都宮光学機器事業所宇都宮光機第一工場光学製造部第二課第2ブロック(当時)における構内請負について、平成19年9月12日付で栃木労働局長より、労働者派遣法違反が存する旨の是正指導を受けたことを真摯に受けとめ、今後は同様の指導等を受けることのないよう、再発防止に向けた不断の取り組みを継続する。本件紛争が長期化したことについて、労使双方は遺憾の意を表する」という内容です。

 また、5名で労働委員会も地位確認の民事裁判も争っていたわけですが、2名が関連会社に正規雇用と。雇用を実現できなかった3名についても、解雇撤回に匹敵すると評価しうる解決金--、残念ながら額は公開できないんですけれども--、解決金が支払われることになりました。私の知る限りでは、関連会社とはいえですね、キヤノンのような大企業が偽装請負で争った事件で、正社員として2名を雇用する、迎え入れるといった解決というのは、私の知る限りではなかなか例がない、非常に画期的な解決なんではないかというふうに思っています。また、その際に「是正指導を受けた」ということに和解の中で言及して、その是正指導の中身というのは派遣法違反とはいうんですけれども、その中身はまさに偽装請負だということを指摘しているわけで、そのことについて「今後、指導等を受けることのないよう、再発防止に向けた不断の取り組みを継続する」というふうにきちんと言明させたということは非常に大きな意義をもつのではないかと思っています。

 私たちから見ればですね、松下プラズマディスプレイ事件の最高裁判決以降、この問題では、非常によくない裁判例が続いているというふうに思っていますが、その中で多くの――、阿久津さんたちと同じような立場で正社員に混じって、正社員とまったく同じ仕事を、正社員以上に頑張ってきたにもかかわらず、その地位を認められないということに苦しみ、悔しさを覚え、闘っている労働者というのは、全国に今でも大勢いるんですよね――、そういう方々を大いに励ます、解決内容になったのではないか、いうふうに思っています。

 本訴の提訴が2009年6月で、それに先立つ、2008年12月に労働委員会のほうに救済命令を申し立てました。先ほど笹山弁護士のほうからも話があった通りですね、偽装請負について仲間の大野組合員が国会で、意見を述べてですね、当時、2007年2月、大いに注目を浴びて、社会的な非難を巻き起こって、キヤノンもそれを一定受け入れざるを得ない形で直接雇用したわけです、阿久津さんたちを。ただそれは、あくまで期間社員としての雇用にすぎませんでした。その後、リーマンショックなども口実にして、2009年には解雇してしまうと、いうのが経過だったんですが。その間、(組合は)「偽装請負を認めて謝罪せよ」と、「正社員としての地位をちゃんと認めるべきだ」と団体交渉を何度も申し入れるのですが、(キヤノンは)それを団体交渉の議題にしないということで拒否し続けてきた。正社員登用試験を受けても、非常に優秀な成績にもかかわらず、実際には登用されないと、差別的な扱いが続けられてきました。そのことについて地位確認の訴訟とは別に労働委員会の場でも大いに闘ってきたわけです。そういう中での解決ですので、阿久津さんたちの裁判所と労働委員会にまたがった、闘いがかなり実ったんじゃないかなというふうに思っています。また全国から、これは阿久津さんのほうから後で紹介があると思うんですけれども、たくさんの支援が最後まで要請書、署名、あと学者・法律家・文化人アピールなど様々な形で阿久津さんたちに寄せられました。ですからそのことに原告団としても、弁護団としても、大いに感謝したいというふうに思っています。私のほうからはだいたい以上です。

 ■「同種紛争が繰り返されないよう望む」と裁判長

 萩尾弁護士:笹山弁護士のほうから、本日の取り下げ手続きについて。

 笹山弁護士:本日の取り下げは全面解決を受けまして、その都労委での全面解決の約束に従いまして、こちらは訴訟を取り下げるということになります。訴訟の取り下げには被告側の同意が必要ですのでこちらは取り下げをして、被告側は同意をしていただいたということになります。本件の重要性に鑑みまして、文書上のやり取りじゃなくて、きょうは対面して裁判所の目の前でそういう手続きを行いました。裁判所のほうでも和解の協議を進めてきていた経過がありましたので、その裁判所の和解の経過がですね、全面解決のお役に立ったのならうれしいと。それから、原告らそれぞれについてはこれからキヤノンで働く人も、そうでない人も、出てくるわけですが、それぞれの職場で頑張ってもらいたいということ。それから、同種紛争が繰り返されないように願っているというお話があったということになって、訴訟の手続きとしても全面的に終結をしたということになります。

 久保木弁護士が今、お話ししたことと重複いたしますけれども、やはり、今回キヤノンのような大企業がかなり大きな違法状態を長期にわたって継続をして原告らの就労の権利を侵害し続けたということ自体が、やはり大きな社会的な問題だというふうに思います。残念ながら訴訟の場でそういうことが、判決という形ではなかなか救済に結びつかない事例が多い中で、彼らがこういった権利を回復するといったことは彼ら自身の救済になるとともに、全国の労使の問題に苦しむ皆さんにも救いの光になるとともに、やはり同様の行為は繰り返されてはいけないということがキヤノンやその他の大企業の皆さんに対しての大きな警鐘になったのではないかというふうに自負をしております。そういった観点でぜひ皆さまのほうでも取り扱っていただければと思います。以上です。

 萩尾弁護士:私のほうから補足し

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加えて福島第一原発事故やパナマ文書の報道を含めた業績で日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)がある。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
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