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ニューズ&コメンタリー

「熱血指導」か逸脱か、企業のパワハラ把握は「氷山の一角」

経営倫理実践研究センター調査

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 100社余の大手企業でつくる一般社団法人 経営倫理実践研究センターの研究会が、職場のパワーハラスメントについて、会員企業にアンケートした結果をまとめた。社内の相談窓口で把握できている案件は実は「氷山の一角」に過ぎず、また、パワハラの有無を判定して当事者の納得を得るのもなかなか容易ではない実情が浮き彫りになっている。


 アンケートは2012年11月中旬から下旬にかけて、会員企業やその関連企業の担当部署を対象に行い、ほぼ半分の55社から回答があった。経営倫理実践研究センターの会員企業ということもあって、パワハラ問題についても、意識の高い企業が多いという。

 ■内部通報窓口に存在感

 アンケート結果によると、55社すべてがパワハラに関する何らかの相談窓口をもっていた。39社はコンプライアンスなどの相談窓口で、19社がセクハラと共通の窓口で、パワハラに関する相談を受けていた。パワハラ相談専門窓口を設けているのは1社だった。9割余の企業の相談窓口は「関係者の話を聞きアドバイスする」だけでなく、「関係者ヒアリングなど調査をする」といい、また、過半数の32社の相談窓口は「パワハラについて評価や判定をする」と答えた。

 個別のパワハラの疑いについての調査を担当する部署を複数回答可で質問したところ、「人事・総務」が38社と最も多く、「相談窓口」が37社とそれに並んでいた。それに次いで多かったのは「企業倫理・コンプライアンス」の部署で27社だった。パワハラについての「評価や判定」を担当する部門については、「人事・総務」が37社、「相談窓口」が27社、「企業倫理・コンプライアンス」が24社、何らかの「委員会」が12社などとなっていた。

 アンケート結果をまとめた経営倫理実践研究センターの星野邦夫・主任研究員(元帝人コンプライアンス・リスクマネジメント室統轄マネジャー)は「『窓口』の存在感が非常に大きい。人事部門に比べて、内部通報窓口のほうが、通報者の信頼があり、その結果、社内の通報窓口がパワハラ解決のために大きな役割を果たしている」と分析している。

 ■氷山の一角

 会社として把握できているパワハラが「氷山の一角」である実情もアンケート結果で明らかになっている。

 「相談窓口は全社的なパワハラ案件を把握できていると思いますか」という質問に「把握できていると思う」と答えたのは20社(36%)。「把握できていないと思う」という回答が過半数の35社(64%)に上った。

 自由回答欄の記述によれば、数年前に発生した過去の案件を通報してくる被害者がいるといい、ある企業では「現在進行形で直面している事案については通報しづらい状況が考えられる」と分析している。また、「相談するまでに相当悩んだ」と口にする相談者が多いことから、相談に至らない案件がかなり隠れていると見ている企業もある。

 パワハラについての従業員アンケートを行っている企業が33社(60%)あり、そうした企業からは、「アンケートの自由記入欄に記載があるような場合もホットライン受付窓口には通報されないものがある」「実際にホットラインに寄せられる件数が社員アンケートの結果に対して著しく少ない」「意識調査(匿名)における『1年以内にパワハラを受けたことがある』との回答数と、相談窓口に相談される案件数に大きな乖離がある」との声が出ている。

 同じ上司の下で過去から継続的に複数の被害が発生していたのに、窓口に相談したのは一人だけだったというケースがあり、この企業の担当者は「社員の意識の中には『相談することは告げ口すること』というようなネガティブなイメージを持つ人が多いように思う。そのため、現状対応している相談ケースは社内で発生しているパワハラの一部にすぎないと考える」と指摘している。

 ■対応の難しさ

 何をもってパワハラとみなすか、という評価・判定の難しさを訴える声が、自由回答欄に目立っている。

 「人権侵害に該当するような明らかなパワハラはわかりやすいが、熱血指導型や被害者の被害妄想的なパワハラは判定がなかなか難しい。仮にパワハラとまで言えなくても、コミュニケーションに問題があることが多いので、一定の指導(加害者も被害者も)が必要になる」

 「組織的に『パワハラ定義』が定まっておらず、判断が属人的になりがちで、対応に不公平感が出ている」

 「組織内に明確なパワハラの定義がなく、『どのような行為がパワハラか』の共通認識がないため、相談窓口に相談をしづらいのではないか」という意見もある。

 パワハラに関する評価や判定の基準がそもそも従業員に明示されていない企業が過半数に上った。明示していると答えたのは17社(31%)にとどまり、33社(61%)が明示していないと答えた。「パワハラ発生時に対応する際にどのような点が難しいですか」という質問への自由記述の回答を分類すると、「評価・判定」が18社でもっとも多く、以下、「事実確認」が9社、「被害者への指導」が8社、「被害者にも問題がある時」が6社と続いた。

 「パワハラと指導の境界が暖昧なため、案件ごとに調査検討しての判断が求められる」

 「とにかくケースバイケース。一つひとつを丁寧に対応するしかない。一律のマニュアル的なものがないのが難点。指導との境界線が最大の難点。加害者側は皆『指導』と主張する」

 「パワハラ加害者は、得てして、会社にとっては、成績優秀者が多い。会社への貢献度を優先するか、社員としての人権・個人の尊厳・人格を尊重するか、判断に困るケースがある」

 被害者の側に問題がある場合の対応も難しいという。

 「被害者のコミュニケーションスタイルに問題点があるケースも多い。加害者の処分を行うとともに、被害者への指導を行うことになるが、場合によっては加害者以上に被害者に強く指導することもある。『自分は被害者なのに、なぜ?』と思われないように指導することは、難易度が高い」

 加害者に「真の反省」をさせることの難しさを訴える声もあった。

 「どうすれば本当の意味で反省してくれるのか?」

 「加害者が気づかないケース、または注意されても改心しないケース」があり、「加害者の加害者意識が薄い時の、加害者への説明」が難しい、という。

 「特に加害者が自分が若い時の状況を引きずる時代錯誤を直す必要があるとき閉口する。また、一部の加害者では、注意指導を受けた後も再発するケースがある」

 星野主任研究員は「パワーハラスメントが発生して相談者が会社に相談してきた場合、企業がどのように調査をすすめ、評価や判定を下すのか、さらに加害者への指導や処分、被害者のケアなどがどうなっているのかなど、いわば有事の対策についてはこれまであまり明らかになっていなかった。予防的対策だけではなく、問題発生時に企業はどのように対応して問題解決を図っているのかについて、興味深い結果が出たと思う」とコメントしている。

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加えて福島第一原発事故やパナマ文書の報道を含めた業績で日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)がある。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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