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ニューズ&コメンタリー

過失相殺なしで信託銀行が全面敗訴「難聴の高齢女性に投信販売で違反」

中央三井信託銀行に大阪地裁判決、説明義務違反、適合性原則違反を認定

松田 史朗(まつだ・しろう)

 中央三井信託銀行(現・三井住友信託銀行)が売った投資信託を巡り、損失を被った顧客の現在82歳の女性が同行に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は2月20日、請求の全部を認め、894万円を支払うよう銀行に命じる判決を言い渡した。銀行は控訴期限の3月6日までに控訴せず、判決が確定した。金融商品を巡る銀行と顧客の訴訟で、顧客が勝訴する事例はまれだが、なかでも請求額全額の支払いを認めた判決は極めて異例だ。

  ▽筆者:松田史朗

  ▽関連資料:2013年2月20日に言い渡された大阪地裁判決の全文

拡大中央三井信託銀行の行員から原告女性が受け取った投資信託の資料

 判決は、銀行側の適合性原則違反、説明義務違反を認めた。銀行側は「原告は『運用状況はわかっている』と述べた」「原告は投資商品の購入を主張した」などと主張したが、判決はこれについて「事実を認められない」「不自然」などとして退け、「(原告側に)過失があると評価できない」として、過失相殺も認めなかった。

 原告側訴訟代理人の中嶋弘弁護士は「原告が、銀行の不当な手法を世間に知ってもらい、同じような老人が同種の被害に遭って泣かされないように警鐘を鳴らしてほしいと銀行の和解申し入れに応じなかったため、判決に至った。原告は、ノックイン投信のような投資判断が難しく、リスクも高い金融商品を、投資経験のない者に適した商品だと誤って位置づけて、会社として積極的に販売していた営業姿勢が生んだ被害者だ」と話している。

 ■「適合性の原則から著しく逸脱した違法な行為」

 顧客の女性は昭和5年(1930年)生まれ(現在、82歳)。国民学校高等科を卒業し、実家の農業を手伝い、その後、宿泊施設で仲居として働いた。昭和30年、国鉄職員の夫と結婚し、昭和42年から平成2年まで工場で働いたという。訴訟の原因となった投資信託を買うまで証券取引の経験はなく、金融取引といえば、預貯金のみだった。

 1993年(平成5年)ごろ、耳が遠くなり、99年(平成11年)ごろから補聴器をつけるようになった。2004年(平成16年)、難聴と診断された。一人暮らしだった。2007年(平成19年)7月6日、中央三井信託銀行の見知らぬ銀行員2人が突然、女性宅を訪問した時も、相手の言葉がよく聞き取れない状況だったという。

 判決文などによると、銀行員2人は、女性の自宅で約1時間にわたり、販売用資料を示し、商品の勧誘を行った。中央三井信託銀行に預けていた計2100万円の定期預金を解約させ、同額の投資信託を購入させた。

 しかし、2009年10月、女性は銀行から「評価額が半分になっている」と告げられ、この投信を解約。評価損など計894万円の損害賠償を求めて、2011年7月、銀行を提訴した。

 この投信は2007年に販売された「中央三井償還条件付株価参照ファンド07-07」。ユーロ円債に投資し、日経平均株価の値動きで償還条件が決定される仕組みで、J・P・モルガン・インターナショナル・デリバティブズ・リミテッドが発行する商品だった。

 日経平均株価の終値がスタート価格に対し、一度でも30%以上、下落しなければ投資元本が確保されるが、平均株価が価格以上に上昇した場合でも投資家の利益は限定されるしくみ。日経平均株価が大きく変動したり、ユーロ円債が債務不履行となれば、元本を大きく下回る可能性がある。

 今回の判決で最も注目されるのは、銀行が主張したストーリーに判決文は真っ向から疑義を呈したことだ。

 耳が遠く、過去に一度も株取引をしたことのない高齢女性でも投資判断ができたし、リスクを理解していた、と銀行側は主張した。銀行側の主張によれば、今回の投資信託の前に変額年金保険を女性に勧めたところ、「10年は少し長い」と言われ、「投資信託ならもう少し短い商品がある」と伝えると女性が興味を示した、あるいは女性は「定期預金の金利が低いので資産運用を見直ししたい」と言った、とされている。原告は金融商品に興味があったからリスクも知っていたとするストーリーだ。しかし、判決は「本件取引以前に(銀行側が)原告の自宅を訪問して金融商品の購入等を勧誘していた事実および原告がこれに前向きな姿勢を示していた事実を認めることはできない」とした。そのほか、銀行側が販売行為を正当化する主張に「慎重に吟味しなければならない」「不自然といわざるを得ない」「ただちに信用することはできない」「被告従業員の認識を示すものに過ぎない」とことごとく疑義を示した。

拡大中央三井信託銀行の行員から原告女性が受け取った投資信託の資料

 原告の女性は、商品の内容もろくに分からぬまま、老後の生活の蓄えで亡き夫の退職金をもとにした定期預金を解約させられ、新たにリスクの高い金融商品を買わされていた。女性は記者の取材に、体を震わせながら「なんでハンコなんて押してしまったんでしょう」と悔やんだ。定期預金を解約した時点でも、それが投資信託という証券取引に変わるとは、全く理解していなかった可能性が高い。

 判決文は、商品について「日経平均株価が商品の購入者に有利に推移すれば、満期償還で最大で2.12%程度の利益が得られる反面、不利に推移(下落)した場合は、日経平均株価の下落率に近い高率の価額減少率で元本を毀損する危険性がある」とする。

 そうした点から、「原告は当時77歳の高齢の一人暮らしの女性であり、第二次世界大戦の戦時下に国民学校高等科を卒業し、学校卒業後は宿泊施設の仲居、専業主婦、工場労働者として働くという、株式等の金融商品の知識を得る機会の少ない学歴、職歴、経歴しか有せず(省略)、株式、投資信託等の元本割れのリスクを伴う金融商品の取引に関する知識や日経平均株価に関する知識を十分身につけてはおらず、商品の特性をパンフレットおよび目論見書を読んだだけで理解できる能力は備えていなかったと推認できる」「被告従業員から定期預金を解約してその解約金で商品を購入するよう勧められた場合には、預貯金以外の投資経験のない高齢者である原告は、元本が確保された高い利回りの預金あるいは預金類似の金融商品であると誤解する危険性が高いと考えられる」としたうえで、「一連の勧誘行為は、原告の実情と意向に反する明らかに過大な危険を伴い取引を勧誘したもの」で「適合性の原則から著しく逸脱した違法な行為」とした。

 また、銀行の説明義務違反についても認定した。

 「販売用資料の記載にそって一応の説明を行ったことは認められる。しかし、銀行の担当者と原告が面談して原告とやりとりを行った時間は1時間であり、(中略)原告が金融用語、経済用語が多数用いられた本件パンフレットの記載に沿った説明を被告従業員から聞いたり、日経平均株価のチャート図等の図を見せられたとしても、それらの説明をすべて理解できたとは考えがたく、(中略)難聴であったことも相まって、原告が銀行の担当者が話す内容をほとんど理解できていなかった可能性を窺わせる」。

 三井住友信託銀行の広報室は取材に対して「個別事案であり、コメントは差し控えたい」としている。

 ■原告の女性インタビュー

 77歳で投資信託を買った原告女性は現在、82歳になっている。大阪市内で話を聞いた。なお、取材中も難聴のため、こちらの質問が聞き取れないことがよくあった。

 ――投信を買った当時の状況について。

 女性:「アポも取らず、銀行員の男の人と女の人がいきなり来たんですよ。中央三井信託銀行には(夫の)退職金を定期預金にして預けていた。何のお話かと(思い、家に)上がってもらって話を聞いたんですけど、まさか年寄りをだますようなことを…。それまで銀行を信用しきっていたんです」

 ――定期預金を崩して、投信を買った。

 女性:「私にはそういう認識はないです。ただ、おじいさんが残したお金で老後を過ごせると思っていたんです。もっとしっかりしとったら、ほんま良かったんやけど。銀行を信用してましたから。何かねえ、なんでハンコ押したんでしょうね」

 ――銀行は耳が悪いのを知っていた?

 女性:「知っていたと思いますよ。ちょっと耳が遠いんでね、と私言いますから。大きな声で話すこともなかったです。普通でした。でも、全然何も考えてなかったからね。30年以上ですから、三井さんとのおつきあいは。そんなことしはるとは思っていなかった」

 ――平成21年10月、銀行から商品の評価額が「半分になっている」と聞かされた時は。

 女性:「びっくりしました。なんでかなと。セールスみたいな人が来はって『これだけ減ってます』って。そしたら、何か、こんなグラフみたいなもって来はったから。でも私、読みもせえへんし、読んでもわからへんから、最初に(大阪の)茨木警察に行ったんです。こんな時どないしたらいいって。そうしたら民事だといわれて…」

 「オレオレ詐欺が流行っていたころだから、それにだまされたりしたらいかんと一生懸命になっていて。それが銀行にだまされるとは思いませんもん。いまは、もう何も信用するものはないです」

 ――すぐに解約したのはなぜですか。

 女性:「少しでも助かると思って解約しますっていったんです。少しでも生活助かるかと思って。解約申し込んだとき、銀行員さんが一人来はった。でも、『民主党の政権になったら株価が上がりますから置いといたらいかがですか』と解約するなというんです。でも、そんなの私、知りませんやん。お金いうもんはただ、預けたらいいとだけしか思っていませんから。私がその人に言ったんです。『もし、あなたのお母さんや親戚の人が、私みたいにこんなだまされ方したら、お宅どないしはる?』って聞いたんです。そしたら、その人が畳に額つけて2分間ぐらい、頭あげられへんのや…。その時、私は銀行が寄ってたかって年寄りをだましているんだと思ったです。やることやったろうと。今は気分的に参ってしまったけど」

 ――証券取引ってわかりますか。

 女性:「定期預金がせきのやま。水飲み百姓で、おじいさんが残したお金ですやん。株も何も知りません。私は生命保険も、嫌いやったから入らなかったです。ただ、貯金だけ。その貯金をだまし取られた」

 ――銀行へのイメージは大きく変わった?

 女性:「いままで役所を信用ならんと思っていた。ちゃんと領収書を置いておかなあかんと思っていた。でも、銀行は通帳があるというのもあって、安心してました。信用していたんです。ちょっと見た時に、ギリシャがつぶれた。公務員と銀行でつぶれたといってましたから。銀行はこんなに悪いやっちゃと。今回の銀行員の人たちも刑務所に入れてもらいたいです」「三井だけは許しません。灰になっても呪ってやると思ってます」

松田 史朗(まつだ・しろう)

 1964年生まれ。信州大学を卒業する前後から、さまざまなアルバイトを転々とする。
 「重化学工業通信社」を経て、「週刊ポスト」「週刊文春」の特派契約記者、フリーライターなどを経て、2003年秋、朝日新聞に入社。政治部、社会部、特別報道チーム、文化グループ、経済部などを経て特別報道部。
 「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。田中真紀子衆院議員の秘書給与疑惑(2002年)や日本スケート連盟汚職(2006年)、偽装請負問題(2006年)、鳩山首相故人献金問題(2009年)などを取材。
 著書に、名古屋の中学生5000万円恐喝事件の加害者の両親の手記をまとめた『息子が、なぜ』(2001年、文藝春秋、構成・まとめ)、『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)がある。

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