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ニューズ&コメンタリー

世界有数のカジノ会社ウィン・リゾーツの創業者2人の蜜月から決別

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 米ネバダ州ラスベガスと中国マカオで5千億円近くを売り上げる世界有数のカジノ運営会社ウィン・リゾーツの経営陣から、創業者の一人である日本人が追放された。理由は、その日本人の会社がフィリピンの政府高官を接待した問題。かつては「共有の夢を分かち合った」という筆頭株主を「不適格者」と断定して株式を割安価格で没収するという、日本の会社では考えられない手法が使われており、日米で訴訟合戦となっている。

  ▽筆者:奥山俊宏、中井大助

  ▽関連記事:   米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)に関連する記事の一覧

 

 ■株主総会

拡大ウィン・リゾーツのカジノリゾート「ウィン ラスベガス」=米ネバダ州ラスベガス

 ラスベガスの「ストリップ地区」は、豪華なカジノとホテルが立ち並び、そのネオンサインが色とりどりに輝く、全米きっての派手な通りだ。その北端に近い一角にウィン・ラスベガスの2つの高層ビルの赤銅色の威容がある。ここはかつて、ウィン・リゾーツの創業者ともいえる二人、スティーブ・ウィン会長と岡田和生・元副会長の蜜月の地でもあった。

 その一角にある会議室で、2月22日朝、岡田氏をウィン社の取締役から解任するためのウィン社の株主総会が開かれた。岡田氏は前日、みずから取締役の辞任を申し入れ、会社もそれを受け入れた。それでも株主総会は予定通りに開かれ、岡田氏はそれを「茶番劇」と批判した。「無駄な費用をかけて無意味な株主総会を開催することは、株主の利益に反するウィン氏の私欲を満たすだけの行為である」

 ウィン会長が到着する直前、会場前の廊下では警備員たちが記者を排除し、ものものしい雰囲気となった。開会から終了までは、わずか5分ほど。株主のうち85.7%、投票のうち99.6%は解任に賛成だった。出席者によると、混乱もなく、ウィン氏が閉会を宣言すると、静かな拍手が起きたという。

 ■蜜月

ユニバーサルエンターテインメントの英文ホームページではウィン・リゾーツについてUE社とウィン氏の共同事業だと紹介されている

 「世界に冠たるカジノリゾートを築いてきた」

 敵となったウィン氏について、岡田氏が会長を務める大手遊技機メーカー「ユニバーサルエンターテインメント」(UE社、本社・東京都江東区)の会社案内は今もこのように紹介している。

 「荒涼としたギャンブルの街というイメージが強かったラスベガスに『ベラージオ』、『ミラージュ』、『トレジャー・アイランド』等、数々の魅惑のテーマホテルを出現させ、エンターテインメントのパラダイスへ生まれ変わらせた」

 ウィン氏は米コネティカット州で、岡田氏は大阪市で、ともに1942年に生まれた。岡田氏はパチスロ機などゲーム機の製造販売で成功して2000年には前年の所得税の申告額で日本国内1位に。ウィン氏はカジノの経営者として成功し、ラスベガスでは伝説的な起業家として知られる。

 両氏の共著「ラスベガスカジノホテル 最も新しい挑戦」(2003年、集英社インターナショナル)によれば、二人は、2000年10月に初めて会って意気投合し、1週間後、合弁事業を立ち上げた。ウィン氏は当時、ラスベガスに史上最高級のカジノリゾートを建設する「夢」を持っていたが、単独では資金が不足していた。岡田氏の側は2002年にかけて4億5千万ドル余をウィン氏の側に出資した。岡田氏としては、少子化で日本の国内市場の縮小が予想される中、海外でカジノホテルを作り上げていく方法を実地に学ぶ狙いがあったという。

 二人の事業運営会社であるウィン社は2002年10月、ナスダック市場に株式を上場。ウィン氏と岡田氏側は株式の31%ずつを保有する対等の筆頭株主になった。同社は2005年以降、種々の賭博ゲーム機を多数備えたカジノ場だけでなく、豪華ホテル、劇場、レストラン、国際会議場、ショッピングモール、ナイトクラブなどを併設した大規模な複合リゾート施設をラスベガスと中国マカオで次々と開業。昨年の収入は51億ドル余、純利益は5億ドル余に上っている。

 「私は、ウィンの最悪の日々の一部において同氏を支え、他に誰もウィンに投資したがらなかった時期にきわめて重要な資金を投入しました。我々はラスベガスの自己再生に一役買ったのです」。岡田氏は、取締役辞任をウィン社に申し入れた2月21日付の手紙にそのように書いた。「私の投資があったからこそ、我々はウィン・リゾーツという会社を創出し、その後10年をかけて同社を125億ドルの規模を誇るゲーミング・カジノ超大手に育て上げたのです」

 共著の中で、ウィン氏は岡田氏について「最高のパートナー」と言い、岡田氏は「夢の実現のためには妥協しない人」とウィン氏をほめたたえている。

 ■対立

 その二人の反目は2011年に始まった。

 この年の5月、ウィン社は、マカオ大学の財団に以後12年間で1億3500万ドルを寄付すると約束した。これについて、岡田氏は事前の取締役会で反対した。岡田氏側の主張によれば、カジノの許認可権を持つ地元行政府の首長がマカオ大学の学長を兼務しており、寄付はカジノがらみの見返りであるように見えると心配したという。2012年1月、関連の資料を開示するよう求める訴訟をネバダ州の裁判所に起こした。

 一方、ウィン社は、岡田氏らのフィリピンでのカジノ計画に反対した。岡田氏らUE社はマニラ湾岸部に巨大なカジノリゾートを建設する計画を進めているが、ウィン社は「フィリピン特有の腐敗」を指摘。元FBI長官らに調査を依頼し、その中で、フィリピン政府高官に対するUE社の接待の事実が判明した。これを理由として、2012年2月、ウィン社は、UE社や岡田氏について「株主として不適格」と断定。岡田氏側の持ち株を19億ドル余の約束手形と引き換えに強制的に買い戻したと主張し、その確認などをを求める訴訟をネバダ州の裁判所に訴訟を起こした。岡田氏側は翌3月、「持ち株の市場価値は27億ドルを超える」と主張し、買い戻しの差し止めなどを求めて反訴した。

 岡田氏はさらに、昨年8月、ウィン氏らによって名誉を毀損されたとして損害賠償請求訴訟を東京に起こした。今年1月には、株主総会の開催を禁ずる命令を出すよう求める訴えをネバダ州の連邦裁判所に起こした。

 岡田氏は2月21日付の手紙の中でウィン氏について「私を謂れのない犯罪者として陥れようとしました」「過去2年間にわたり、私の人格を攻撃し、私の評判を失墜させる意図的なキャンペーンを画策してきました」と批判。ウィン氏は同じ日のプレスリリースの中で「不適格者を取締役会から排除することは会社のさらなる成功のために不可欠だということを我々の株主は理解している」と述べた。

 両者の法廷での応酬はますます激化している。

 ■FCPA

 岡田氏とウィン氏の対立の行く末の鍵を握るのは米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)だ。

 1970年代、米国や多国籍の企業が日本の首相ら外国公務員に賄賂を贈った問題がウォーターゲート事件の捜査をきっかけにして相次ぎ発覚し、そうした行為を禁ずるためにFCPAは制定された。外国公務員らへの贈賄を禁じており、米政府の司法省や証券取引委員会が捜査・調査する。

 国際的なネットワークを持つリスクコンサルティング会社「クロール・アドバイザリー・ソリューションズ」の東京支社で企業の危機管理などの業務に携わる坂出國雄氏は「米当局によるFCPAの適用は年々厳しくなっている」と言う。1億ドルを超える制裁金を課された事例を見ると、大部分は、米国から見れば外国の企業が対象となっている。「世界中の贈収賄を取り締まろうという意図がはっきり見える」と坂出氏は語る。

 UE社がフィリピン政府高官の接待を繰り返した問題について、元FBI長官がまとめた報告書は「FCPA違反にあたると思われる」と結論づけている。これに対して、岡田氏は、2月11日にネバダ州の裁判所に提出した書面の中で、フィリピン娯楽賭博公社の総裁らのマカオ旅行(2010年9月)のための費用支払いに触れて、「一連の費用については、その支出を知った後、社員を叱責した」「事前には知らず、後になって初めて知らされたのであり、はるか以前に是正措置を講じている」と反論している。

 マカオ大学の基金への寄付については、岡田氏の側がウィン氏の側のFCPA違反の疑いを指摘している。ウィン社によると、証券取引委員会やネバダ州のカジノ規制当局が調査している。ウィン社の2月4日の発表によれば、州の規制当局は「根拠なし」との結論になった、とされている。また、岡田氏は、これとは別のマカオでのウィン社の土地関連取引についてもFCPA違反の可能性があると指摘し、ウィン社に調査を求めている。

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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