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ニューズ&コメンタリー

福島第一原発2号機、格納容器圧力10倍高いと誤認

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 福島第一原発で事故が進展しつつあった2011年3月16日、同原発2号機の格納容器の圧力が大気圧と同等まで低下して気密性の喪失が疑われた際に、東京電力が、その圧力のデータ処理に別の計算式を誤って適用して、実際の計測値の約10倍の高い値を算出し、それをきっかけにして翌17日昼にかけて原子炉への冷却水の注入を大きく減らしていたことがわかった。格納容器が健全だという誤認に基づく措置だとみられ、柏崎刈羽原発の所長はテレビ会議の中でそれを「夢の夢物語」と批判したが、その後にもさらに注水を減らしていた。東電は対外的にも、「圧力の上昇傾向は気密性が保たれているという判断の材料になる」と、現実とは逆の説明をし、その後も2カ月以上、それを訂正しなかった。正しい情報が伝わっていれば、炉内の冷却水や放射性物質が外部に大量に出ていきつつあると容易に推測することができ、事故対応に影響を与えた可能性があり、また、注水の絞り込みで溶融燃料の冷却が不十分となって放射性物質の放出がそのぶん増えた可能性もある。

 

  ■換算式の取り違え

 福島第一原発2号機の原子炉は2011年3月14日に冷却できなくなり、核燃料が過熱して溶融(メルトダウン)した。思うように排気(ベント)ができず、格納容器内の圧力が高まって大規模破損し、致死量の放射性物質が放出されるかもしれないと恐れられ、当時は、先に炉心溶融した1号機や3号機よりも事態ははるかに深刻と考えられた。15日午前6時過ぎには一時的に、約70人を残して作業員の大部分が福島第一構内から立ち退いた。しかし、直後の同日午前7時20分に格納容器の圧力が保たれていることが分かり、東電は作業員を福島第一に戻し始めた。

2号機原子炉建屋の海側から壁が見えなくなるほどの勢いで白い煙が出ている=東京電力社員が2011年3月15日に撮影し、同社が2013年2月1日に公表した写真2号機原子炉建屋の海側から壁が見えなくなるほどの勢いで白い煙が出ている=東京電力社員が2011年3月15日に撮影し、同社が2013年2月1日に公表した写真
 格納容器が気密性を保っているかどうか、すなわち、放射性物質をどの程度閉じ込めているかを判断する際の材料の一つが内部の圧力の値だった。

 昨年から今年にかけての朝日新聞記者の問い合わせに対する東電の説明によれば、3月16日正午過ぎ、現場の2号機の中央制御室でアクデントマネジメント盤の圧力計の指示値を読み取ったが、免震重要棟の対策本部に報告する過程で、それが40だったか400だったかが「あいまい」になってしまったという。当時、運転員は中央制御室に常駐しておらず、被曝を避けるため圧力計の再確認はできなかった。このため、「格納容器圧力高」を検出して原子炉を自動停止(スクラム)させるための電気回路の生の電圧値を圧力の値に換算することにした。その際に、格納容器の底部にある圧力抑制プールの値の換算に用いる計算式を誤って用いてしまったために、40を400と誤った。さらにこれにつられて、直近の測定値である午前6時55分の指示値45キロパスカルについても450キロパスカルの誤りであると誤って判断してしまったという(いずれもゲージ圧ではなく、絶対圧)。

 400キロパスカルは大気圧の約4倍で、そのような圧力がある程度の期間にわたって続いているということは、格納容器が気密性を保ち、放射性物質を一応は閉じ込めている状態であることを示している。一方、40キロパスカルは見かけ上、大気圧の101キロパスカルを下回っており、誤差を考慮すれば、格納容器内部の圧力が大気圧と同等まで下がっていると見ることができ、それはすなわち、格納容器が気密性を失って内部が外気とつながってしまい、内部の放射性物質が外部に大量に飛散しつつあると推定できる状況だった。現実もそうだったとみられる。

 ■事実と異なる「圧力上昇」を発表、「格納容器健全性の判断材料」と説明

 16日午後の東電本店の記者会見では、すでに格納容器が破損して気密性を失い、圧力が大気圧レベルに下がっているのではないかとの質問が相次いだ。

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 これに対して同日深夜、東電は、2号機の格納容器の圧力について、未明から早朝にかけては220~240キロパスカル、午前7時から午後2時にかけては400~450キロパスカルで推移しているとのデータ(絶対圧)を公表。原子力設備管理部の課長は「上昇傾向にある」とし、「気密性が保たれていると判断する一つの材料になる」と話した。大気圧の101キロパスカルの2倍から4倍の値で、放射性物質を閉じ込める機能を保っていることを裏付けるデータという説明だった。

 ところが実際には16日未明から早朝まで、圧力計の値は0と240キロパスカルの間を揺れ動き、早朝から正午過ぎまでの値は公表値の約10分の1の40キロパスカル余だった。それまでにない低い値で、気密性の喪失を意味していた。

 記者の問い合わせに対する東京電力の説明によれば、後日、別のデータの一部に誤りがあったこと(4月24日公表)を契機に、全データに対する再確認作業を行った結果、換算式に誤りあることが分かり、正しい換算式で評価し直して2011年5月16日に訂正したという。

 東電は3月17日以降も少なくとも4月19日までの1カ月以上もの長期間、3月16日昼の圧力について「400キロパスカル」「450キロパスカル」と誤った値を発表し続けた。「なぜ5月16日に至るまで訂正されなかったのか」という記者の質問に対して、東電は「当時は、それらの値が正しい値であると認識していたため」と説明した。

 つまり、東京電力は、震災発生から1カ月以上たってデータを再確認した際に初めて誤りに気づいたのであり、それまでは、3月16日昼に圧力が大きく上昇し、その時点では格納容器の気密性が保たれているという認識を前提に事態に対処していたことになる。

 事故発生から2カ月後の5月16日、東電本店の記者会見で配られた他の原子炉を含む大量の電子データの中に2号機の圧力の訂正値が含まれていた。訂正の説明はきちんとされず、注目されなかった。政府や国会、東電自身の事故調査委員会の報告書もこの経緯に触れていない。朝日新聞記者は2号機のデータに着目して独自に分析し、昨年4月から東電に質問を重ねてきた。

 東電広報部は取材に対して「当時現場対応に追われているところもあり、適用すべき換算式を誤ってしまった」としながらも、情報開示については「当社としては、当時、復旧対応を最優先に取り組んでいるなかで、可能な限り取りまとめお知らせしていた」としている。

 ■柏崎刈羽原発所長「夢物語」批判の後も注水を絞る

 原子炉への注水の絞り込みは幻の「圧力上昇」への対策として検討が始まっていた。

 「崩壊熱が小さい中で圧力が上がるのは(格納容器内部の)自由空間が小さくなっている可能性がある」「注水量を減少させることが出来るのではないかとこちらでは考えておりますけれども、見直していただけないでしょうか?」

 東電が昨年11月末から記者に開示しているテレビ会議の映像によれば、2011年3月16日午後4時56分、本店の社員が「2号機の圧力が上昇傾向にあります」と指摘し、福島第一に注水削減の検討を指示した。格納容器が水で一杯になって気体のスペースが減り、圧力が上がる事態を恐れたとみられるが、実際には、データは誤りで、水は蒸気となって外部に漏洩しており、圧力の上昇傾向は幻だった。

 翌17日午前7時34分、福島第一から本店に「とりあえず、今、2号の流量を半分まで落としてあります」と報告があった。この後の同日午前8時25分、本店ではさらに「崩壊熱に応じた発生蒸気相当」である毎分166リットルほどに注水量を絞りたいとの議論があった。

 「それ以上やったらベッセルのほうがオーバープレッシャーになっちゃう」

 本店の技術者たちは格納容器の圧力が過大になるのを心配していた。

 「かねて2号機についても一定のデータの推移がありますので、そろそろ給水量の見直しが必要かなというタイミングです」

 これを受けて午前8時52分、福島第一から「2号機の注水のポンプですが、毎分250リットルのとこまで絞ることにはうまくいきました」との報告があった。

 一方で、16日夕方から格納容器の圧力の値は75キロパスカルに下がっており、注水を絞ることには疑問の声があった。17日午前7時35分、本店の社員が電話に向かって「『圧力が上がってる』と言ったんだけど、下がっちゃったんです」「格納容器にちっちゃい穴開いてるかもしれない」と言い、注水量について「絞る必要はあまりないと思うんだけど」と話す声がテレビ会議システムで録音されていた。

 また、同日午前9時16分、柏崎刈羽原発の横村忠幸所長がテレビ会議の中で、格納容器について、「形は維持してるけれども、気密性の機能は維持してないと思います」と指摘し、注水の量を絞ることに強く反対した。

 「注水した水が全て蒸気になって(格納容器の上蓋のすき間から外に)出てるというふうに考えてます。かけた水はほとんどスプレー状態で蒸発して全て大気に放出されている。ですから、注水した量が全て格納容器の中にたまっているというふうに想定して水位を絞ることには反対です」

 本店はこれに対して「検討して万全を期したい」と応じたものの、テレビ会議の中ではこれ以上の議論はなかった。

 17日午前11時半以降の注水量については、東電が原子力安全・保安院に当時送っていたファクスに記録されており、それによれば、同日正午過ぎまでは毎分250リットルのペースで注水し、その後、毎分170~180リットルに減らしていた。これによって、午前8時25分に本店で議論された「崩壊熱に応じた発生蒸気相当」にほぼ見合う注水量まで絞られた。横村所長の意見とは逆の

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、 『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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