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ニューズ&コメンタリー

「訴訟対策の生け贄」 オリンパス社員が会社提訴

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 裁判で会社に勝訴して管理職に復帰した上司の下に配属され、訴訟対策の「生け贄」にされたとして、オリンパスの現役社員が7月29日、会社や総務人事担当の本部長を相手取って損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こした。退職勧奨を5回受けていずれも断ったところ、「会社と訴訟をやってるあの人」がトップを務める新設の部署への異動を通告されたといい、「不当な動機に基づく配置転換だ」と主張している。

  ▽筆者:奥山俊宏

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 提訴したのは、オリンパス品質環境本部の品質教育チームで勤務する石川善久さん(50)。損失隠し事件が2011年に発覚して旧経営陣が総退陣し、コンプライアンス経営が進むと期待していたのに、それが逆の方に向かっていることを社会に知ってもらい、事態の悪化を防ぎたい、と考えて提訴を決めたという。訴状によれば、同本部の品質教育チームへの異動を無効とし、880万円の損害賠償を会社とコーポレートサービス本部長に命ずることを裁判所に求めている。

記者会見するオリンパス社員の石川善久さん=2013年7月29日午後2時36分、東京・霞が関で拡大記者会見するオリンパス社員の石川善久さん=2013年7月29日午後2時36分、東京・霞が関で
 石川さんの上司にあたる品質教育チームリーダーを務めるのは浜田正晴さん(52)。浜田さんはもともと営業担当のチームリーダーだったが、2007年、企業倫理に反すると思われる上司の行動を社内のコンプライアンス室に通報したところ、チームリーダーの役職を外されて畑違いの部署に異動させられた。会社を相手取って訴訟を起こし、昨年6月、勝訴判決が最高裁で確定した。この結果、12月1日付でチームリーダーに復帰。新設の品質教育チームを率いることになった。ところが、同チームには部下が1人もおらず、浜田さんは「『リーダー』といっても名前だけ」と会社を批判。「確定判決に従うべきだ」として、11月29日、会社を相手に再び訴訟を起こした。

 訴状などによると、石川さんは当時、開発部門に勤務していた。12月3日、品質環境本部への1月1日付の異動を部長から内示された。新たな職場で直属の上司となるチームリーダーの名前を尋ねたところ、「オリンパスでいま訴訟を起こしてどうのこうのってやってたあの浜田さん」と告げられた。石川さんは、これに先立つ9月から10月にかけて計5回、上司との面談で「今後、働く場所を提供できない」と宣告され、会社の再就職あっせん窓口に相談を申し込むよう求められたが、これを断っていた。オリンパスは当時、損失隠し事件で財務内容が悪化したことを受け、人員削減の方針を掲げ、希望退職の募集を進めていた。

記者会見するオリンパス社員の石川善久さん(中央)と光前幸一弁護士(左から2人目)拡大記者会見するオリンパス社員の石川善久さん(中央)と光前幸一弁護士(左から2人目)

 石川さんによると、入社以来30年近く、一貫して製品開発や設計を担当してきており、品質教育は未経験の仕事だという。このため、自身の異動について「キャリアの蓄積をゼロにする報復人事」と考えた。また、品質教育チームの存在意義についても、ほかのチームで同様の仕事を担当しているところがあり、はっきりしないと感じている。石川さんは「訴訟への対策という不純な動機で作られた部署に、裁判対策として生け贄に捧げられた。外に向けてコンプライアンスを表向きは言いつつ、実は内部では逆のことをやっている」と話している。

 石川さんによると、かつての職場の同僚から「あの浜田さんのところに移ったんだね」と同情するように言われることがあるという。内示の時点で石川さんは浜田さんと面識がなかったが、その後、みずからの境遇について相談。浜田さんから弁護士を紹介され、提訴を決めた。石川さんは「浜田さんが嫌だから訴えるのではない。浜田さんが会社との訴訟で再び勝訴すると、今の部署は解散することになるかもしれず、再び嫌がらせ人事をやられないように提訴することにした」と話している。

 石川さんは弁護団とともに29日午後、記者会見を開き、以下のように述べた。

 1週間で3キロも痩せてしまうような精神的ダメージの大きい退職勧奨を繰り返し受けました。それを拒否したことへの報復としか考えられないような形で、濱田さんの裁判対策としてつくられた部署へ左遷のような異動をさせられました。(この提訴は)これらの会社が行った不当な行為に対して疑問を投げかけるものだということを理解いただきたいのです。

 社内の“もの言えぬ風土”のなかで、私と同じように理不尽なことをされて泣き寝入りしている真面目な社員が少なからずいると確信しています。そういう人たちを代表して「ダメなものはダメ」と言えるような企業文化に変えていき、みんなを元気づけたいと思っています。これは私ひとりの問題ではありません。

 そして、このような理不尽なことを多くの仕事仲間に対して今後一切行わないで欲しいと願います。私はオリンパスを愛し、技術者として誇りをもって数々の製品を世に送り出してきました。会社を辞めて訴えるのではなく、愛社精神があるからこそ、あえて現役社員のまま実名で正々堂々と声を上げる決意をしました。

 会社の側は取材に対して「会社としては、そのような退職の勧奨をしたということはない」と説明した。会社側の話によれば、昨年8月末以降、満40歳以上など一定の要件を満たす社員を対象として「社外転進支援制度」を利用した早期退職を一律に打診したことはあるという。会社側は「それと人事異動とはまったく別のもの」としている。提訴については、会社の広報・IR部は「現時点では訴状が届いていないのでコメントは差し控えさせていただきますが、(もし届けば)内容を精査した上で適切に対応していきたい」とコメントした。

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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