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ニューズ&コメンタリー

東宝不動産の株価100円引き上げる決定、東京地裁、市場株価を重視

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 映画大手の東宝がグループ企業の東宝不動産を完全子会社化したことで東宝不動産の株を手放さざるを得なくなった株主が会社法172条の規定に基づいて東京地裁に株式の価格の決定を申し立てた手続きで、東京地裁民事第8部(小野寺真也裁判長)は3月25日、東宝が提示した735円を835円に引き上げる決定を出した。100円上がったが、子会社化の発表から実行までの半年ほどの間の証券市場での株価全体の値上がりを反映させたものだ。申立人の「会社の純資産を考慮して買い取り価格を決めてほしい」という訴えは退けられた。

 ■帝劇ビルを所有

帝劇ビル=東京都千代田区丸の内3丁目拡大帝劇ビル=東京都千代田区丸の内3丁目
 東宝が2013年1月、東宝不動産の株式の公開買い付け(TOB)を行い、TOB後の株主総会で少数株主から株式を強制的に買い上げられるようにする方針を発表した。東宝不動産も賛同し、株主に売却を推奨した。これに対し、一部の株主らが反発。東宝不動産は丸の内の帝劇ビルなど都内の一等地に不動産を所有する会社であることから、「買い取り価格が安すぎる」という声が出た。株主総会では15%の株主が反対に回った。反対した株主の側は、これらの資産を路線価に置き換え、また、貸借対照表の不動産の時価を考慮すれば、適正な株式価格は1株2000円前後になると主張して買い取り価格の引き上げを求めていた。

 ■申立人適格を認める

 今回の決定で地裁はまず、申立人の適格性について判断した。東宝側は、TOBの公表後に東宝不動産の株を買った人について、「全部取得されることが確実な情勢で、株価下落リスクを負担することなく買い集めたものであり、権利の濫用で、申し立ての適格性を欠く」と主張した。実際、公開買い付け(TOB)が発表された後に東宝不動産株を買う投資ファンドがあった。TOBの買い取り価格が安すぎると見て、裁判所が相当、価格を引き上げると事前に見込んだようだ。

 東宝側の主張に対し、地裁は「権利の濫用に認めるに至らない」と判断した。「対象株式を基準日当時保有していたものに限定する旨の規定は会社法に存在せず、このように解すべき法令上の根拠も見あたらない」「改正前の商法下とは異なり、株式買い取り請求権や価格決定の申し立て権は議決権とは切り離された権利として規律されている」などの理由を挙げている。

 ■市場株価を基礎に判断

 最大のポイントとなったが、株価の算定法だ。

 東宝、東宝不動産は、事業活動が将来生み出す現金収入(フリー・キャッシュ・フロー)をベースにしたDCF法と、市場の株価の二つを中心に価格を決めていた。

 地裁は、TOBなどが公表される前の市場株価を重視し、まずは「一般に、個別企業の資産内容、財務状況、収益力及び将来業績の見通しなどを考慮した企業の客観的価値が株価に反映されているということができる」という前提を置いた。そのうえで、TOBなどの公表日から取得日までの半年弱の間に、TOPIXなどの株価指数が上昇基調だったことを挙げ、東宝不動産の株価はTOBがなければ、これらと連動していた可能性が高いと指摘。「本件取得日における本件株式の客観的価値の算定においては、公表日から取得日までのTOPIXなどの変動率をあてはめることにより、本件公表などがなかったと仮定した場合における株価を予想し、その予想価格を基礎として算定する方が、より高い合理性を有する」とした。そして、696円という数字をはじきだし、これに20%のプレミアを付け、価格を835円とした。また、「本件取引は、経営者と株主との利益相反関係を踏まえ、これを抑制するための相応の措置が講じられた」「適切な情報開示がされた上で株主の多数の賛成を得て成立した」などと認定し、公開買付価格の735円についても適切とした。

 地裁はまた、「時価純資産法」の活用を求めた申立人の主張を採用しなかった理由も説明している。決定文によると、申立人の株主の側は、①含み益が市場株価には適切に反映されていないので、市場株価法を使うべきではない②2008年に東宝がコマ・スタジアムを完全子会社化したときには時価純資産法が用いられている③企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会編)などの見解から、東宝不動産のような会社は純資産法によるべきと考えられる④完全子会社化で完全に支配権を取得するので、純資産法の評価額は株式の価値の最低限となる、と主張した。

 これらの訴えについて、地裁は、①純資産額などは従来から公表されており、含み益が市場株価に適切に反映されていなかったことを認めるに足りる証拠はない②コマ・スタジアムは事業を清算するため、純資産法が適切だった③一般的に時価純資産法を適用するのに向いている会社は倒産企業であり、上場企業の場合は取引所相場の時価があるので、市場株価法を用いるのが一般的とされている④東宝不動産の清算が予定されていない以上、完全子会社化であることをもって純資産法の評価額を株式の価値の下限になるなどとは言えない、としている。

 ■記者解説:純資産法が適用される場合とは

 この決定に対し、株主、東宝不動産の双方が抗告し、企業価値を巡る争いは高裁に舞台が移る。

東宝ツインタワービル=東京都千代田区有楽町1丁目拡大東宝ツインタワービル=東京都千代田区有楽町1丁目
 株主側は「今回のケースで時価純資産法を使わなければ、一体に何に使うのか」と疑問を呈する。「企業価値評価ガイドライン」(日本公認会計士協会編)には、株式価値などの評価方法として、大きく分けて3つが

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加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として財界などを取材している。

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