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ニューズ&コメンタリー

オリンパス、中国コンサル疑惑の調査報告「経営陣には研修が必要」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 精密機器メーカーのオリンパスが中国のコンサルタントへの報酬の支払いをめぐる疑惑について調査した結果をまとめた秘密報告書の全容が、記者の取材で明らかになった。笹宏行社長ら経営陣の判断について「著しく不合理であったとまではいえない」と結論づけたものの、社内のガバナンス上の問題点をさまざまに指摘。「経営陣として、不正の存在が疑われる端緒を把握した際、どのように対応すべきかという点について、研修が必要である」と提言している。これを受けて同社は社員5人を処分した。

拡大オリンパスの本社が入る東京・西新宿のビル
 疑惑の発端は、中国・広東省深圳(シンセン)市。「世界の工場」として知られ、日系企業も約500社が進出しているといわれる。オリンパスも現地法人を置いてカメラを生産している。

 関係者によると、その現地法人「Olympus (Shenzhen) Industrial Ltd.」(OSZ)が、中国の税関当局とのトラブルを解決するため、2014年、「当局に強いパイプを持つ」といわれる現地の企業グループの1社との間でコンサルタント契約を結び、約4億6千万円を払った。

 社内でこれを疑問視する声が上がり、常勤監査役の一人が昨年2月4日、「監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる」と定めた会社法381条2項に基づき調査を始めると社内の関係者に通知した。これを受けて、取締役会は、社外取締役3人と社外の弁護士1人に調査を委嘱した。

 報告書は、複数の弁護士が関わって10月29日付でまとめられ、同社に提出された。しかし、同社は今に至るまで、これを公表せず、社内でも、ひた隠しにしてきている。

 ■「バックが強大」なコンサルに4億6千万円

 報告書によると、税関当局とのトラブルを解決するため、現地法人OSZの社内では2010年暮れから、税関担当者との会食やカメラ贈答が検討された。しかし、交渉になかなかはかどらなかった。

 現地法人は、2013年5月ごろまでに、深圳の地元の有力な企業グループに相談し、「後押し」を依頼した。この企業グループについて、現地法人の社内では「バックが強大である」「公安課題が発生した場合の解決用のチャンネルとして活用していく」などの認識が共有されていた。同じころ、この企業グループの側から、現地法人の社員寮を購入したいとの話があった。コンサルタントとしての報酬の分だけ寮を安く値引きして売る「相殺スキーム」が検討されることになった。

 2013年7月、現地法人OSZの社内で、コンサルタント費用や税関当局への支払いの金額について、議論され、メールが交わされた。

 7月24日のメールの添付資料には次のように記されていた。

 「活動費用の補塡(2500万人民元削減に対する還元を15%とする)」

 この「活動」というのは何なのだろうか? 読みようによっては、コンサルが税関当局に手渡したカネを現地法人が補塡する予定であるようにも読めると報告書は指摘するが、現地法人OSZの人事総務部長は調査に対して「税関当局との交渉のために要した人件費などをコンサルタント費用として支払う意味合いにすぎない」と説明した。

 2013年7月31日のメールには次のように記された。

 「政府に支払える金額は1000~1400が限界であること」
 「コンサルタント費用として1000準備すること」

 このメールにある「政府に支払える金額」、1000~1400万人民元(2億円前後)について、現地法人のトップは、「賄賂として政府に支払う金額」と理解し、契約内容を適法なものとするようにと部下に指示したという。一方、現地法人の人事総務部長や担当者は調査に対して、賄賂であることを否定し、「1000~1400万人民元というのは会社としてできればここまで下げてほしいと考えている罰金や補税などの金額」と説明した。

 2013年11月15日ごろ、その年の春まで現地法人の製造管理本部長を務めていて事情を知るオリンパスの総務部長がアジア統括法人「Olympus Corporation of Asia Pacific Limited」(OCAP)のトップとともに、トラブルの概要とコンサル起用の方針をオリンパス本社の2人の専務に説明した。その説明内容に関する社内のメールによれば、その際、総務部長らは、コンサル契約と寮売却がセットでの話であると説明した、とされる。11月18日には、木本泰行会長と笹宏行社長にも総務部長が同様の説明をした、とされる。

 このころ、コンサル契約は次のような内容にする方針が固まっていた。税関当局に支払わなければならない罰金などの額を3千万人民元(5億数千万円)に抑えることを目標とし、それを下回った場合には、下回った額の8割がオリンパス側からコンサル側への報酬とし、それを超えたときは逆に超過額の2割をオリンパス側がコンサル側から受け取る――。「罰金額次第ではコンサル側が金銭リスクを負う極端な成功報酬制」だった。

 報告書によると、オリンパスの首脳たちは説明を聞いて様々な反応を示した。

 ある専務は「宿題」を出した。

 「中国の状況から役人の汚職に厳しく対応する中、リスクヘッジをどうするか」

 後日、総務部長から次のような回答があった。

 契約書に「合法・合理的な対応で解決を行う」といった文言を入れます――。

 これについて、調査報告書は、それだけではリスクをかなり減らせたとは言い難い、と批判した。

 銀行出身の役員からは「決裁」の階層への言及があった。

 アジア統括法人OCAPでの決裁で完了させてほしい――。

 部下たちの一人はこの発言の趣旨について「地域の問題として完結していた方がオリンパスグループ全体としてリスクが小さいから」と理解したという。

 これについて、調査報告書は次のように特に厳しく批判している。

 「グループ全体をけん引するオリンパス経営陣は、責任が上位者に波及するのを避けるべく部下や下位組織に決裁責任を取らせるといった責任逃れの態度や、責任逃れと解釈されうる発言を厳に慎むべきである。」

 笹社長は、コンサルの属する企業グループの関係者が過去、何らかの不正をしていたとして報道されたことがあるとの報告を受け、不正の前科の有無を調べるよう指示した。

 笹社長は後日、コンサルは処罰を受けたことがなく、問題はない、との報告を受けた。

 報告書によれば、現地法人は、このコンサルについて、不適切な取引相手であるかどうかといったことを洗い出す「適切な反贈賄デューディリジェンス」の手続きをしていなかった。

 オリンパス本社首脳らへの説明を終えると、2013年暮れ、アジア統括法人OCAPの内部でコンサル契約の決裁手続きが始まった。コンサル報酬の見込み額は、アジア統括法人で可能な決裁の上限額と同じ最大400万人民元(6千数百万円)とされた。

 決裁手続きの過程で、アジア統括法人の社内ではこの契約に異論が出た。登記されたコンサルの所在地が独身寮になっていることや過去にグループの贈賄疑惑が報じられていたことなどが問題視された。このため、2014年1月24日、アジア統括法人のトップは決裁を否決した。

 しかし、コンサル契約はすでに「既成事実化された状態」になっていた。現地法人の人事総務部長は「案件がすでに走り始めている」とアジア統括法人にメールを送った。2014年2月12日、オリンパス本体の総務部長やカメラ事業会社「オリンパスイメージング」の構造改革推進室長らを交えて、アジア統括会社OCAPのトップや現地法人OSZのトップがテレビ会議を開き、再決裁に向けて、過去の疑惑が晴れていることを示す「公安証明書」を見せてもらうようコンサル側に要請するなどの方針を決めた。

 2014年4月8日、コンサル報酬の見込み額を最大300万人民元(5千万円)とする決裁が起案され、アジア統括法人の内部で再び手続きが始まった。「300万人民元」というのは、当時、アジア統括法人の内部だけで決裁が可能な上限と同じ金額だった。アジア統括法人の社内では前回の決裁手続きの際と同様、「懸念が払拭されていない」という意見が出た。しかし、それを振りきって、同月25日、アジア統括法人のトップは決裁を承認した。

 この経緯について、報告書は「法務、経理、財務などの審議部署の知識や経験が十分に生かされず、また、当該部署担当者が指摘した問題が十分に手当てされないまま、2014年4月25日付で、コンサルタント契約書に署名がなされたと思われる」と指摘し、「リスクの高い契約については、比較的早い段階で関連部署を関与させ、その意見を踏まえて契約の締結を検討することを事業部署に義務づけるなどして、より実効性の高い審議プロセスを導入すること」を検討するようにとオリンパスに勧告した。

 このコンサル契約とは別に、現地法人は、2014年5月から調査開始直後の2015年2月にかけて、毎月、19万2600人民元(300万円余)をコンサルに払った。報告書によると、これは、現地法人の人事総務部長らが「正規の決裁・承認を経ることなく、従業員寮の使用収益権をコンサルに移転し、家賃相当額をコンサルに支払っていた」というものだった。人事総務部長らは「その事実を隠蔽するため、費目を『従業員寮維持修理費』に付け替え、現地法人財務部の支払い承認を得ていた」という。

 報告書は次のように指摘している。

 「現地法人の関係者は、オリンパス本体の関係者から、コンサル報酬の支払いに関する財務決裁をアジア統括法人内限りで完結させることを指示されたと認識し、これを実行するために、コンサル報酬と従業員寮の売却代金とを相殺するというスキームを考案し、コンサル報酬額をアジア統括法人の財務決裁権限の範囲内にとどめようと工作した。」

 2014年夏、税関当局との交渉がまとまり、罰金はゼロで済むことになった。11月11日、オリンパスのカメラ事業会社オリンパスイメージングの社長が決裁して、12月18日、2400万人民元(約4億6千万円)が現地法人からコンサルに支払われた。

 カメラ事業会社オリンパスイメージングの社長はのちの社内調査に対して、「決裁した記憶がない」と言い、また、「自らが最終決裁者であることを認識していない」と述べた。これについて報告書は「大きな問題である」と批判し、「決裁手続きが牽制機能を果たしたとは言い難く、主に形式的なものに留まった」と指摘した。

 結果的に、コンサル報酬の金額は、半年前にアジア統括法人で契約締結を決裁した際の「最大300万人民元」の8倍に上った。

 ■「ガバナンス上の問題があった」

 社外の弁護士らが事後に調べたところ、そのコンサルはフリーメールのアドレスを使って業務を行っていた。会社の所在地とされる場所は現時点では存在しない寮となっていた。協力を要請する手紙を送ったが、「あて先不明」で届かなかった。このため、代理人を通じて交渉したが、調査への協力を得ることはできなかった。調査報告書は「素性に不審な点があるコンサルタントを起用したことは、コンプライアンス上問題があり、オリンパスには改善が求められる」と指摘した。

 贈賄については、コンサルは調査に応じず、その代理人は合法性を主張して疑惑を否定したため、調査報告書には「疑いを完全には払拭できないものの、贈賄関連法令に違反する行為があったとの認定には至っていない」と記載された。

 報告書は「中国における商慣習に照らし、現地法人が税関当局とパイプがあると思われたコンサルタントに依頼したことも一定の合理性はある」と言い、笹社長ら経営陣の判断について「著しく不合理であったとまではいえない」と結論づけた。一方で、「ガバナンス上の問題があった」とも述べ、次のように指摘した。

 「早期の段階でコンプライアンス管理部門に対して経営トップとして率先してコンサルのバックグラウンドチェックを含めた事実確認を指示し、各当事者の意見を直接聴取するなど、特に慎重に対応するべきであったと考えられる。」

 「判明したコンプライアンスの脆弱性を解決し、コンプライアンスの強化に積極的に取り組む必要があることから、経営陣として、海外子会社を含め、どのようにガバナンスを機能させるか、不正の存在が疑われる端緒を把握した際、どのように対応すべきかという点について、研修が必要である。」

 調査の過程ではこのほか、現地法人OSZが直接、税関の担当官に10万円相当の接待や贈答をしていたことが明らかになり、報告書は、賄賂の趣旨があったとは認定しなかったものの、「政府関係者への謝礼を目的としてお礼の品を贈るという実務運用はコンプライアンス上の大きな問題点である」と指摘した。また、現地法人が多いときで数百万円単位の現金を「小金庫」に保管し、裏帳簿で管理していたことも判明し、報告書は「深圳の現地法人にとどまらず、広くオリンパス中国子会社における根深いガバナンス上の問題である」と指摘した。

 ■「不適切な会計処理を是正せず」を理由に処分

 今年2月12日、現地法人OSZの幹部だった社員5人に対する懲戒処分がオリンパス社内で発表された。

 OSZの人事総務部長は解職とされた。「適切な決裁手続きを経ず、取引先への不適切な支払い処理を行い、会社に損害を与えたこと、ならびに、不適切な会計処理を是正せず継承したことは誠に遺憾である。情状を酌量し、解職に留める。」

 OSZの元トップは

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
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