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ニューズ&コメンタリー

東芝事件に揺れる公認会計士協会、初の女性会長にインタビュー

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 東芝の不正会計事件を発端に公認会計士に対する信頼が揺らいでいる。不正会計は主に企業側の問題だが、今回、東芝の監査を担当した新日本監査法人の姿勢も大きな焦点となった。金融庁から「リスクアプローチに基づく監査計画の立案が不十分」「事業計画の合理性について批判的に検討していない」などと指摘されて行政処分を受け、監査機能を十分に果たしてこなかったことが明らかになった。この状況で、業界として何をすべきなのか。日本公認会計士協会の会長に就いた関根愛子氏に信頼回復の道筋を聞いた。

▽聞き手: 加藤裕則、堀篭俊材

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 ――信頼回復のため、協会は昨年暮れから、会長通牒など様々な施策を打ってきました。新たに会長になられ、何か新しい方策をお考えですか。

拡大関根 愛子(せきね・あいこ)氏
 1958年生まれ。1989年3月、公認会計士登録。2006年9月から2016年7月までPwCあらた有限責任監査法人パートナー。2007年7月から2010年7月まで日本公認会計士協会常務理事。2008年1月から2010年12月まで国際会計士連盟/国際会計士倫理基準審議会メンバー。2010年7月から2016年7月まで日本公認会計士協会副会長。同年7月、日本公認会計士協会会長就任。
 監査に対する社会的信頼性を損なうときに実施する特別レビューなど、その時点でできることはいろいろやってきました。ただ、それで終わりではありません。例えば、監査法人を対象にした特別レビューの結果として指摘事項がありましたが、それを確認していくのはこれからで、定期的な品質管理レビューの中で行います。協会で抱えるレビューアーを10人増やして40人にするなど体制も強化しています。今年4月から、不正事例に対する研修を義務づけています。金融庁からも、「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言がでてきました。これはかなり網羅的な内容です。監査人は、何のために監査をやっているのか。市場関係者がこういうことを必要だと言っていることにしっかり耳を傾け、対応していかなければいけません。

 ――在り方に関する懇談会の提言で、会長として、もっとも関心があるのはどの項目ですか。

 検討事項も含め、すべてをやらなければと思っています。

 ――監査報告書の透明化・長文化についてはどのような考えですか。シンポジウムなどで聞く限りでは、慎重な会計士も多いようです。

 よく、監査はブラックボックスだと言われます。以前から、監査自体がよく理解されていないと思っていましたが、理解を促すような方策を打ち出せてきていませんでした。このことは反省しています。ただ、守秘義務を守りながらの透明性となります。その手段の一つが(監査報告の)長文化を導入することです。これはすでに国際的に議論され、仕組みが作られています。きちんと検討したいと思っています。ただ、形だけ入れて、本当に機能するのでしょうか。環境も整えていかなければいけません。長文、透明化に慎重な会計士が多いという意識は持っていません。

 ――監査法人のローテンションはどうでしょうか。東芝の事例などを見ていると、会計士と会社になれ合いがあると感じています。

 これにはいろんな意見があります。現在の認識として、手心を加えるという意味での「なれ合い」というのは今の現場ではないと考えています。ただ、長期間の監査によって慣れてきてしまい、意図はしていないが、不正の兆候などへの気づきが失われる、という意味のなれ合いであればあるのかもしれません。一方で、懐疑心を働かせるには、ある程度、会社のことを知っている必要があります。長期間の監査と会社を知ること、この双方を勘案しながら検討していきます。
 国際的に見ると、欧州は監査法人のローテーションに踏み込みましたが、交代時期がまだ来ていません。いったん導入したが、その後、取りやめた国もあります。多くの国で採用しているのが、パートナーのローテーションです。このパートナーのローテーションを厳しくする考えが強まっています。パートナーだけでなく、年次の高い会計士をも定期的に交代させるという流れです。法人のローテーションになると、いくつか大きな課題があります。グローバルな大企業の場合、100人以上の監査人が必要です。それも100人いればできるというものでもありません。協会が定めた倫理規則の独立性に関する指針で、1社からの報酬が事務所全体の報酬の15%を超える場合はできません。そうすると、1千人と2千人という会計士を抱えた法人となります。ローテーションの問題について、在り方懇談会で引き続き、検討することになっています。まずは市場を混乱させてはいけないと思います。

 ――企業が開示する監査法人交代時の説明がいつも形式的です。「任期満了で」と決まり切った説明です。投資家にとって意味がありません。

 任期満了は理由ではありませんね。協会としても検討しています。監査人の交代は基本的にイレギュラーなことであり、倫理規則に違反していないかということは常に調べている。当然、違反があれば、対応しています。

 ――会計士は忙しくて、「ブラック企業だ」という自嘲の声も聞きます。労働環境に問題があるのでは。

 監査をしっかりやるためには、「作業を終えた」だけではいけません。考える時間が必要なんです。作業に疲れると、気がつくことも気がつかなくなります。「ある程度の余裕がないといい仕事ができない」ということが私の持論で、「監査環境の改善」は大変重要な課題です。ある程度の余裕がないといい仕事はできません。特に期末の期間が非常に短いのです。企業の人は、今までやってきたのだからと言われるが、すでに限界に来ています。会社の業務も複雑になっています。考える時間を確保するため、今、作業的な仕事を機械、ITに置き換えることを進めています。コンピューターに流して、イレギュラーの数値を出すことなどです。ただ、会社によってシステムが違うので、そこが難しい。今は過渡期です。

 ――監査時間の確保には、今の決算情報開示の仕組みを変える必要があるのでは

 その通りです。決算短信など多くの開示書類があり、会社も監査人もかなり無理をしています。監査人は、「今までやれた」「今年急に変わったわけではない」と言われると、がんばってしまうんです。がんばり過ぎることは、必ずしも世の中のためにならないと思います。これからは、こちらの状況をよく説明をして、そのうえで何ができるかを関係者と話し合っていきたいと思います。会計士の業界は今まで、守秘義務があるからと、社会に対して自分たちのことを何も言えないという感じでやってきました。そうすると、聞く方も意欲をなくし、理解しようとしません。その意味で言うと、今の状況は、ある意味、いい機会だと思います。会計士が強い危機感を覚え、関係者がたくさんの指摘をしています。

 ――改革のチャンスだと。

 そうですね。規則を変えるよりも、考え方やスタンスを変えていきたいと思います。特効薬があるわけではありませんが、覚悟をもって臨みます。多くの会員が同じ思いを共有しています。

 ――オリンパス事件などを受け、不正リスク対応基準ができたとき、日本公認会計士協会の会員は本気で取り組もうとしなかったとの指摘があります。今回は違うのでしょうか。

 たしかにバブル時代を引きずった特殊な事例ではあります。また、不正リスク対応基準のほとんどのことは、従来の監査基準委員会報告書の中で書かれてあります。「やることはそんなに変わらない」という人は、この点を見て言っていたと思いますが、それは違います。協会としては、非常に厳しい監査を求められることになったと受け止めました。新たに基準をつくったことは極めて大きなことだと協会は強調してきました。私は不正リスク対応基準を議論した企業会計審議会監査部会の委員で、担当の副会長でしたが、特殊だから対応しなくてもいいと思ったことは一度もありません。実際、多くの会員はテンション(緊張感)を上げてやってきたと思います。それでも、(東芝の不正支出のような)案件が出てきてしまいました。

 ――どうしてでしょうか。

 社会が複雑になっています。リスクがあると思って一生懸命やっても、大きなリスクは別の所にあるケースもあります。会社がリスクだと説明する事象以外にも、視点を変えて考えることが必要です。チームで監査をすると共に法人の審査のときには、観点を変えてきちっとみることが求められています。

 ――監査の目的は不正の発見にあるのでしょうか。元会長がそれは目的ではないと言っておりました。

 監査基準にも書かれていることですが、不正もしくは誤謬かにかかわらず、重大な虚偽表示がないことを合理的な保証することが目的です。目的が不正の発見と言われると、「小さな発見も全部見つけるのか」ということになります。もちろん、重要な虚偽表示につながるような不正は発見しないといけません。また、不正を発見するという目的では、日本公認不正検査士協会という専門的な団体もあります。元会長の発言の趣旨は、不正の発見を、それ自体を目的化するわけではないということだと受け止めています。監査は不正との戦いでもあるんです。

 ――この十数年間、金融庁が問題意識をもって改革を主導し、協会が後手に回っている印象があります。協会の処分が遅いという指摘もあります。

 それは自主規制団体として、協会の在り方にもつながってくる問題です。プロフェッショナルとして、しっかりやっていかなければいけません。協会が法人や会員を処分するとき、公表はしていませんが、東芝のときは社会的な意義を考え、監査業務審査会が終了したという事実を明らかにしました。これは異例で、いろんな意見があり、よく検討します。
 ただ、様々なことを検討だけで終わらせるつもりはありません。世の中で求められていることをどこまでできるのかという視点で進めていきたい。

 ――初の女性会長です。どのような思いでしょうか。

 海外を見ると、会計士は女性が多く、米国は半分、シンガポールは6割。先進国で一番低いのが日本で14%です。私が合格したのは31年前で、合格者の女性比率は6%。その後、上昇しましたが、そこから2割弱で頭打ちが続いています。監査は出張もありますが、増やしていきたい。今度、女性会計士活躍促進協議会をつくることを決めました。ちょっとしたところから始め、出産などで法人を辞めた女性が復帰する流れをつくりたいと思います。私が女性であることが象徴的で、その役に立つのであれば、そうしていきたい。

加藤 裕則(かとう・ひろのり)

 1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。89年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、99年東京本社経済部員。その後、名古屋本社経済部員、青森総局次長、大阪本社経済部員。2011年4月から14年9月まで2度目の東京本社経済部員で、金融情報面(株式面)や社会保障取材班を担当した。
 経済記者としては、これまで通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港などを取材してきた。通産省クラブ時代から、コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ね、朝日新聞のオピニオン面に掲載される記者有論などで論じてきた。2014年9月から石巻支局員で宮城県を中心に東日本大震災からの復興の様子を取材している。

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