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ニューズ&コメンタリー

財務省、3カ月遅れで近畿財務局に改正通知 内部通報ずさん運用の言い訳は?

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 公益通報者保護法を所管する消費者庁の要請を受けて、財務省が昨年暮れ、内部通報者の保護を強化し、制度の間口を広げるために規則を改正したにもかかわらず、近畿財務局など全国の財務局にそれが伝えられたのが3か月余り後の今年3月26日だったことが関係者の話で分かった。その規則改正も消費者庁の要請に一部で沿っていない不十分な内容だった。政府は7月20日、内閣府の独立公文書管理監の下に公文書監察室(仮称)を新設し、そこで、公文書管理の不正に関する通報を現場職員から受け付ける窓口を設ける方針を決めたが、その検討の過程で、このような、内部通報制度をめぐる財務省の失態を考慮した形跡はない。

拡大改ざんされた後の決裁文書=東京・霞が関の財務省
 内部通報制度は、現場の労働者が、職場の違法行為など不正について、上司を通じた通常の報告ルートとは別に、組織があらかじめ指定した窓口に通報できる制度。2006年4月に公益通報者保護法が施行されたこともあって、この15年で急速に普及が進み、ほとんどの大企業、すべての中央官庁が導入している。

 財務省は2006年4月に内部通報制度の運用を始めた。2009年1月1日には、外部の弁護士による窓口も設け(注1)、より間口を広げ、敷居を低くした。制度の運用が始まって間もない2007~08年度に4件の内部通報を受理して、うち3件について調査したものの、是正に結びついたものはなかったとの記録が残っている(注2、注3)。2009年度以降、財務省では内部通報制度の利用は1件もない(注4)

 精密機器メーカーのオリンパスなど様々な企業不祥事で、内部通報制度が機能せず、形だけになりがちな実情が問題となったことを受けて、消費者庁は2015年6月、「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」を設け、2016年12月、報告書をまとめた(注5)

 内部通報制度は、企業経営を支える基本的なシステムである内部統制の重要な要素であり、従業員等の視点から企業の健全な事業遂行や法令遵守の確保を図る上で必要不可欠であることから、事業者における実効性のある内部通報制度の整備・運用の促進は重要な課題といえる。

 内部通報制度の実効性を高めるため、経営幹部のリーダーシップの下、制度の意義や仕組みの社内への周知徹底や、通報対応担当者等への十分な研修を実施することが必要である。

 民間事業者を想定した議論ではあるが、政府機関にも通用する内容だ。消費者庁はこれにあわせて、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を作成し、2016年12月9日、公表した。さらに、民間事業者だけでなく、政府の省庁を対象に、消費者庁が主導して、2017年3月21日、「国の行政機関向け通報対応ガイドライン」も改正した(注6)

 新しい国のガイドラインは、各省庁に対して、①地方支分部局でも内部通報制度を周知する、②匿名による通報も実名通報と同様に扱うよう努める、③正当な理由なく通報の受理を拒んではならないことを明確化する、④通報者保護を徹底する――などの対応を求め、内部規則の改正を促した。これを受けて財務省は12月22日に内部規則を改正した。

拡大内部通報制度の改正やその通知に関する財務省の決裁文書
 財務省の新しい規則は、契約先事業者や退職者、匿名の通報も受理するなど内部通報制度の間口を広げたり、通報者に不利益扱いがあった場合に救済措置を講じると明文化したりして②と④には従った。しかし、①と③については改めての新しい対応をしなかった。風通しの良い職場にするための工夫はほかにあり、内部通報制度はそれらを補完するに過ぎず、さほど重要ではない、という見方が同省内に強いことがその背景にあるようだ。

 財務省大臣官房で内部通報制度を担当する秘書課は、規則の改正とあわせて、2017年12月22日、財務局など地方の出先機関に改正を知らせる通知文を作成した。しかし、そこには「改正されたので、命により通知する」とあるだけで、職員への周知徹底については何も記載しなかった。しかも、全国に10ある財務局、財務支局にメールでこれが届いたのは今年3月26日だった。改正された訓令は1月1日に施行されたが、担当の各財務局監察官を含め財務局の職員の多くは3カ月あまり、これを知らなかったとみられる。

拡大財務省の大臣官房地方課=東京・霞が関で
 秘書課の担当者によると、昨年12月、通知文の送付を大臣官房の地方課に依頼した。しかし、地方課の担当者はそれを地方に展開すべきものと認識せず、周知の連絡が自分個人に来たものと誤解したという。秘書課も周知の結果を知ろうとはせず、その結果、通知は放置された。一方、全国の税関には本省の関税局を通じて昨年12月中に通知が送られたという。

 財務省組織令によれば、地方課は「本省と財務局及び沖縄総合事務局との事務の連絡調整に関すること」を所掌している。

 財務省理財局は昨年、近畿財務局を協力させて、森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書を改ざんして国会でウソをついたが、近畿財務局の現場職員の中にはこれに強く反発し、上司の管財部長に相談した人がいた。今年3月7日には職員の一人が自殺しているのが見つかった。しかし、内部通報制度の利用は1件もなかった。3月半ば、内部通報制度の実情が国会で議論され、これをきっかけに制度の周知が課題として認識され、通知の放置に気づいたという。

 財務省大臣官房文書課広報室は取材に対し、次のように回答した。

 内部通報制度については、制度制定時(平成18年)から職員に対し制度の周知を行っております。また、平成29年12月から、改正後の規程の情報を財務省ホームページに掲載しており、匿名であっても内部通報として受け付ける旨を周知しているところです。なお、改正前の規程においても、匿名の通報は、内部通報ではないものの情報提供として取り扱っており、必要な対応を行うこととされていました。

 したがいまして、財務省の職員は、森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等について、匿名で内部通報又は情報提供を行うことができる状況にあったと考えております。

 いずれにしましても、森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等のようなことはあってはならないことであり、今後、財務省として、調査報告書に記載しているとおり、「財務省のコンプライアンス、内部統制に関して、民間企業も含めた内外のベスト・プラクティスを踏まえ、外部の専門家の意見を参考にしつつ、総合的な態勢整備を進める。あわせて、時代にふさわしい財務省の仕事のやり方や価値観の持ち方についての総ざらいを行い、必要な取組を進めることとする。」としております。

 この回答に「改正後の規程の情報を財務省ホームページに掲載しており、匿名であっても内部通報として受け付ける旨を周知している」とある。しかし、実際には、財務省ホームページの「公益通報者保護」のページに(注7)「匿名であっても内部通報として受け付ける」とは書かれていない。規則改正前の2017年12月1日時点の同じページには(注8)、「匿名で行われたもの」は「通報として受理できません」と明示されていたが、それが削除され、「匿名の通報」への言及が消えただけだ。このため、記者は、これだけでは「匿名であっても内部通報として受け付ける旨を周知している」と言うのには相当な無理があるのではないかと財務省の広報室に質問したが、それへの返答はなかった。

 また、2017年12月の規則の改正は、単に、匿名の通報を受理するなど間口を広げただけでなく、通報者に不利益扱いがあった場合に救済措置を講じると明文化することなどを含んでいるが、後者の改正点については、財務省のホームページを探しても、どこにも見当たらない。このため、記者は財務省の広報室に対し、「改正後の規程の情報を財務省ホームページに掲載している」という回答には相当な無理があるのではないかと質問したが、これについても説明はなかった。

 財務局への通知を滞らせた財務省大臣官房の責任者である河村直樹・地方課長にも記者は広報室経由で取材を申し込んだが、返答はなかった。河村氏は7月19日付で地方課長を外され、大臣官房付に異動した(注9)

 ■公文書管理専属の公益通報窓口

 7月20日に開かれた政府の第2回「行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議」で決まった「公文書管理の適正の確保のための取組」は、内閣府に新設される「公文書監察室」と各省庁に新設される「公文書監理官室」にそれぞれ、「職員からの公文書管理に係る通報を受け付ける窓口」を設置するとの方針を打ち出した。このうち内閣府の窓口では全省庁の職員からの通報を受け付ける。しかし、職員から

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加えて福島第一原発事故やパナマ文書の報道などを含めた業績で、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)がある。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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