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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

長い休みはどのように取るべきか取らせるべきか

東尾 知里(ひがしお・ちさと)

夏休みの終わりに

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
 弁護士 東尾 知里

拡大東尾 知里(ひがしお・ちさと)
 1996年3月、東京大学教養学部卒業。2001年10月、司法修習(54期)修了。2003年5月、米国Duke Law School (LL.M.)。2003年7月、 弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2011年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。
 9月に入り、子どもたちの学校が始まった。夏休みシーズンも終了である。親としてはほっとしつつも、今年の夏ももう終わりと思うと少し寂しくもある。とはいえ、同僚の弁護士のなかには「夏休みは10月を予定しています」という人もいて、大人の夏休みはまだ終わらないのかもしれない。

 私は、弁護士としては労働法を専門としている。依頼者には外国企業も多く、日本の休暇制度について質問されることも多い。また、この季節には、外国の依頼者が2週間、3週間と長期休暇を取得しているのをメールのオートリプライメッセージで知ったりして、うらやましく思ったりする。日本でも、業界によっては連続休暇の取得が義務付けられていて、長期に休むこともあるようだ。その間、メールチェックもしないことになっているところもあるという。スマートフォンが使われるようになって、休暇中といってもメールチェックから完全に解放されない身としては、弁護士にもそういう休暇が導入されないかしらなどと思うこともある。

 そんなことを考えていた折にこの執筆のお話をいただいたので、休暇制度について書いてみようと思う。

 日本の年休は多すぎる?

 労働基準法では、勤続年数に応じた年次有給休暇(年休)の付与が義務付けられており、6年以上勤続の場合には年20日を付与しなければならない。これに加えて、日本には年15日ほどの祝日があり、祝日については法律上休みとすることが要求されているわけではないものの、祝日も休日とされている職場も多いであろう。合計すれば、年35日にもなる。

 そんなに!と海外の人事担当者に驚かれたことがある。数字だけを見ると確かに休暇が多いと思われるだろうが、背景には遠慮があったりしてなかなか年休を取れない人が多いという日本の事情もある。私自身、「他の人も休みでないと安心して休暇が取れない」たちで、やはり祝日はありがたい。ずっと以前、会社員をしていたころ、新入社員だった私は、周囲の先輩の状況をみて、年休というのは夏休みと病気のときのみに取るもの、と思っていた。新人時代のすりこみ効果は恐ろしいもので、今でも休みをとるのは少々うしろめたい。

 しかし、働きながら子育てをしたり介護をしたりしていると、子供の突然の病気や平日でないと診察してもらえない病院への受診など、年休20日でも足りないかもしれないと思うこともある。そのうえ、学校行事等で仕事を休んだり、早退したりしなければならないこともある。近年、労働基準法が改正されて時間単位での年休取得が認められるようになり、少し融通を利かせやすくなったのはよいことだと思う。もっとも、時間単位の年休制度を導入するためには労使協定の締結が必要であるという事情もあり、すべての職場で導入されているわけではない。

 また、年休とは別に、育児・介護休業法で育児・介護のための看護休暇が認められるようになったことなど、休暇制度が拡充されてきたことはありがたいことである。しかし、そもそも職場の理解や状況次第ではこちらも取りづらいということもあるだろう。私の今の職場では、忙しくてなかなか休暇取得できないという場合はあり得るものの、基本的に休暇を尊重する雰囲気があり、いいことだと思っている。

 退職届が出た後の年休申請は拒めない?

 前述のとおり、6年以上勤続の従業員には年20日の年休が付与される。そして、未消化の年休は翌年末まで繰り越される。すると、40日近い年休を持っている従業員も出てくる。通常は問題にならないが、もしその従業員が退職することになったらどうであろうか。就業規則上、退職の場合には1か月前に会社に届け出ることとされていたとする。そのような場合、40日近い年休を持っている人であれば、退職届を出した日から退職日まで連続して年休を取得することが可能になってしまう。しかし、それでは引継ぎができず、業務に差し支える。引継ぎに必要な限度で、年休を不許可とすることはできないか。

 答えは否である。労働基準法上、年休は労働者の請求する時季に与えなければならない。例外として、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることが可能である。しかし、退職する従業員の場合、「他の時季」に年休を付与することが不可能なので、退職従業員からの年休請求を拒否することはできないと解釈されているのだ。

 会社側からみると法律の定めはいかにも不合理なようだが、この点は、今のところ、きちんと引継ぎしてから休んでください、と労働者の良識に訴えるしかないようである。

 また、こんな相談を受けたこともある。休暇年度が1月1日に開始するとして、1月末日に退職する人にもその休暇年度の年休を全部付与しなければならないのか。その年は1月しか在籍しないのであるから、按分して1月分の日数だけ付与すればよいというわけにいかないのか(例えば、年20日付与の場合、その12分の1で約1.7日)、ということである。

 これも答えは否である。労働基準法上、年休は一度に付与されなければならないので、在籍期間で按分することはできない。もっとも、法定の日数を超える休暇を会社独自の有給休暇として労働基準法上の年休とは別に付与する場合、その独自休暇については按分付与が可能である。

 連続休暇の取得を義務付けられる?

 冒頭でも少し書いたが、金融機関のコンプライアンスのため、または年休の取得促進のため等の理由で、連続休暇の取得を義務付けたり、推奨したりする企業も増えているようである。しかし、前述のとおり、年休は労働者の請求する時季に与えるのが原則である。会社から一方的に、この日に休みなさいと命令することはできない。

 それでは、連続休暇の取得を義務付けたいときにはどうするか。そのためには、計画年休という制度を利用する必要がある。計画年休というのは、労使協定を締結することにより、労使協定の定めに従って年休を付与することができるという制度である。例えば、労使協定において夏のお盆の時期に全員年休を取得することを定めれば、その時期に一斉休業することが可能になる。同じように、労使協定で会社の指定する時季に連続休暇を取得すべきことを定めれば、その定めに従って連続休暇を取得させることができる。業務上差し支えないように休暇の時季を調整することも可能である。ただし、年休のうち5日は、従業員が希望する時季に取得できるように残しておかなければならない。

 もちろん、計画年休を導入しなくても、連続休暇を推奨することは可能である。従業員の協力があれば、それで不都合がないという職場もあるようだ。もっとも、コンプライアンス等のため、ぜひとも休暇を取得させる必要がある場合には、計画年休を導入することが望ましい。

 以上、休暇について思うことを書いてきた。年休は、法律上、労働者の権利である。しかしそれにとどまらず、メリハリをつけて休暇を取得することで業務の効率が上がるという効果もあり、雇用主にとっても、従業員に年休を取得させることはメリットがあると思う。お互い気持ちよく休暇を取得して、リフレッシュして業務に臨みたい。

東尾 知里(ひがしお・ちさと)

 1996年3月、東京大学教養学部卒業。2001年10月、司法修習(54期)修了。2003年5月、米国Duke Law School (LL.M.)。2003年7月、 弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2011年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。  共著に「新会社法の読み方 条文からみる新しい会社制度の要点」(社団法人金融財政事情研究会、2005年)、「「労政時報」相談室Q&A 精選100」(労務行政 2012年11月。論文に「Japan's New LLPs and LLCs」(Corporate Counsel 2005年12月号)(共著)、「Compliance with Japanese Employment Laws is Everybody's Business」(Who's Who in Legal Services in Japan 2009)(共著)、「相談室Q&A(昇格試験の受験要件である「勤続年数」のカウントから育児休業期間を除外してもよいか)」(労政時報 No. 3796、2011年4月22日号)、「相談室Q&A(派遣社員を計画年休の対象者とすることは可能か)」(労政時報 No. 3831、2012年10月12日号)がある。

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