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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

イスラム金融と仏教ファイナンス?

上林 英彦(かんばやし・ひでひこ)

イスラム金融と仏教ファイナンス?

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
 弁護士 上林 英彦

拡大上林 英彦(かんばやし・ひでひこ)
 2001年慶應義塾大学法学部卒業、2004年10月弁護士登録(57期)、アンダーソン・毛利法律事務所(当時)に入所。2009年Eversheds法律事務所ロンドン・オフィスにて勤務、2010年Eversheds法律事務所中東グループ(UAEアブダビ・カタール国ドーハ)勤務、2011年アンダーソン・毛利・友常法律事務所に復帰。
 ・ はじめに

 筆者は中東駐在の経験から、中東諸国に関する法務を担当することが多い。その関係で、いわゆる「イスラム金融」に関する質問を受けることが多い。

 「イスラム金融」とは、一言で言うと、以下のようになる。イスラムの教義では、その聖典によって「金利」というものが禁止されている。そのため、イスラム教徒の社会では、金利を取得することなく、別途の方法で資金の出し手が利益を手にできる方法で、資金がやり取りされている。これを一般に「イスラム金融」と呼んでいる。

 このイスラム金融について、名前は聞いたことがあるが、その実態は神秘的なベールに包まれていてよくわからない、と感じている方も多い。イスラムの深遠な狭義に隠された得体の知れない取引と思われがちである。

 しかし、一方で、日本政府は法律によりイスラム金融に対応してきた。たとえば銀行法の改正や、資産流動化法といった金融関係の法律の改正やこれに関連する税法の改正により、日本の金融機関等がイスラム金融に対応できるような制度を整えてきた。東証もイスラム金融商品の誘致に乗り気である。なぜ、遠い世界の話とも思われるイスラム金融が日本の法律にまで影響を及ぼしているのか。それはイスラム金融を一種の商機と捉える流れが存するからに他ならない。

 あえて誤謬を恐れず言うと、イスラム金融は、その一面においては、金融機関によるシニカルな「金儲けの手段」であり、金融機関が知恵を絞って生み出した新手の「金融商品」である。この金融商品は約40年前に「開発」された――、実は現代的意味でのイスラム金融は40年程度の歴史しかないとされている。

 すでにイスラム金融については優れた研究・書籍が日本語でも出版され、ネット上でも良質な情報は手に入る。したがって本稿では相当のデフォルメは覚悟の上でイスラム金融の持っている「儲けの手段」としての金融商品という側面だけに焦点を絞って述べたい。なぜなら、筆者の経験上、イスラム金融がどのように「儲かる」金融商品でもあるかを説明することで、金融機関をはじめとする企業の方々にイスラム金融の経済的合理性についてご理解頂くことができるからである。なお、読みやすさのため、イスラム金融の説明では必須のアラビア語の用語は控えている。

 ・ イスラム銀行は進んでいる!

 まずは、ともすれば後進的・封建的との偏見をもたれかねないイスラム銀行が、実は先進的な近代的銀行であることを述べておきたい。

拡大筆者のイスラム銀行のキャッシュカード。ICチップとクレジットカード機能付。PLUS規格に対応しており、世界各国のATMで現金が引き出せる。
 筆者は中東駐在中、給与受取口座として某国のイスラム銀行に口座を開設した。日本にある外資系金融機関のようなガラス張りで洗練された銀行オフィスにおいて口座は即日開設された。キャッシュカードにはICチップやクレジットカード機能がついており、世界各国のATMで出金可能なシステムに加入している。これらの機能がすべて標準装備されている点で日本の大手銀行よりも先進的ですらある。

拡大イスラム銀行のATMはどこにでもあり、24時間営業も少なくない。
 口座はテレフォンバンキング、ネットバンキングに対応しており、世界中のどこからでも送受金ができる。ATMはいたるところにあり、支店においては24時間営業のATMがほとんどである。そしてこれはドバイやアブダビといった地域におけるイスラム銀行においてはごく標準的な水準であった。

 つまり、イスラム銀行は通常の銀行と区別がつかないほどに上等なシステムを備えているのである。このようにして筆者の給与が、預金先のイスラム銀行によって、イスラム金融方式で運用されていたわけである。

 ・ イスラム金融はめんどくさい?

 さて、このようにして預金を得たイスラム銀行はどのようにして資金を運用するのか。イスラム金融における代表的な金融手法のひとつは以下のようなものである。

 Aさんが住宅を購入する資金として1億円必要となり銀行へ行った。通常の金融であれば銀行が1億円貸し付け、完済まで利息を取る。しかしイスラム銀行ではそれはできない。そこで、銀行が、当該住宅を1億円で購入する。そして銀行はAさんに対して1億3千万円で「転売」する。Aさんは銀行に1億3千万円を支払う必要があるが、これを20年間の分割で返していく。銀行は20年かけて差額の3千万円の儲けが出る。通常の銀行ではこの3千万円は「利息」だが(金利3%の元金均等20年払と同等であろう)、上記の取引ではイスラム銀行の利得はあくまで「転売差益」であって「利子」は取っていない、だからよい、ということである。

 なんだかだまされたような、脱法的な気がするのは筆者のような不信心者に限られない。筆者の知人(イスラム開発銀行に勤務するサウジアラビア人)も、この方式はイスラム法に照らして違法と結論付ける修士論文を書いたなどと言っていた。だが、上記のやり方はイスラム法学者たちによって適法とされ、イスラム金融の最も代表的な方式として広く浸透している。要は法解釈次第のようである。

 さて上記のように、結論としては普通の金融と同じような経済効果が生じるが、銀行が住宅を購入し転売するといった、普通の金融では不要な手間ヒマがかかる。このようにイスラム金融は通常の金融に比べ、制約の多い「めんどくさい」金融手法である。

 では、なぜそのような、面倒な金融手法をとるのか。それはイスラム金融は儲かるからである。儲かるからこそ、イスラム教国ではない欧米の金融機関等までもがイスラム金融ビジネスに参入しているのである。儲かるから、イスラム金融の資産残高は年々増加している。それでは、なぜイスラム金融は儲かるのか。

 ・ イスラム金融は儲かる①
     -イスラム教徒のタンス預金を狙え!

 まず、冒頭の説明のとおり、通常の金融では預金に利息が生じたり、通常の金利を取る貸付で預金が運用されたりする。信心深いムスリムの中には、これを嫌がり、資産をタンス預金にする者も多かった。イスラム金融が生み出されたひとつの経緯として、このようなムスリムのタンス預金を引き出すためであったという点もある。すなわち、イスラム金融方式の預金と運用方法により、これまで預金してこなかった層からの預金を受け入れ、運用に回すことができるようになったのである。同様に、借手側においても、金利の生じる通常の金融では借入することはなかったが、前述のような「差額」方式なら、借入をすることも選択肢に入れるようになった。すなわち、イスラム金融の手法は、それまで眠っていた多くの需要を見事に掘り当てたのである。

 ・ イスラム金融は儲かる②
    -利ざやもがっつり取る

 次に、イスラム金融では銀行が利ざやが大きく取れるケースがある。これを単純化した事例を用いて以下に説明する。

 たとえば、銀行が通常の金融を行う場合、預金金利が2%で貸出金利が4%だったとする。粗く言えば、この差額の2%が銀行の儲けになる。それが、イスラム金融の場合、まったく同じマーケットなのに、預金金利(前述のように名目は「金利」ではない)を1%、貸出金利を5%に設定して、差額が4%になって銀行がより儲かる、という現象が起きうる。これは銀行に資金を出す預金者が、ただの銀行に2%で預けるよりはイスラム銀行で1%で預けることを選び、また、資金の借り手が、非イスラム銀行から4%で借りるよりは、イスラム銀行から5%で借りることを選ぶ、ということからこのような現象が起きる。すなわち、間に入るイスラム銀行はより大きく儲けることができる。あるいは、預金金利が1%なので貸出金利を3%にして、通常の銀行より安く貸し出して価格競争力をつけてもいい。これらの例は幾分、模式的だが、実際にも似たようなことは生じうる。

 ・ イスラム金融は儲かる③
     -そしてあなたもイスラム金融を選ぶ

 しかし、前述のような利ざやは、イスラム金融が未成熟な国では大きいが、市場に参入するイスラム金融業者が増えると競争原理により縮小してゆく傾向にあるようである。その点では金融機関の「うまみ」も少なくなる。それでもイスラム金融は通常の金融に対して有利な側面がある。なぜ有利なのか。

 再び模式的に説明すると、イスラム教徒が主流となっている国ではイスラム金融に対する嗜好はおおむね以下のとおりと説明される。

  1.  20%のムスリムは、実はイスラム金融商品は選ばない。これは、イスラム金融という仕組みに対する不信と、通常の金融に対する信頼のためであろう。
  2.  60%のムスリムは、イスラム金融商品と非イスラム金融商品がある場合、「経済的に同等の条件なら」、イスラム金融商品を選ぶ。逆に言うと、経済的に非イスラム金融商品のほうが有利なら、非イスラム金融商品を選ぶ人々である。
  3.  そして最後の20%のムスリムは、イスラム金融商品しか選ばない。これは、信心深いムスリムか、イスラム法学者(他の宗教でいう聖職者のような存在)など、イスラムの戒律を守ることを重視する人々である。

 こうして考えると、たとえ利ざやが大きく出なくとも、企業が債券を発行して投資家に販売する場合、イスラム金融仕立ての債券にすれば、2と3の投資家を取り込めるため、市場の80%の投資家に対して、同じ条件の非イスラム金融仕立ての債券よりも優位に売り込めるため圧倒的に販売が有利になる。厳密にはイスラム金融に仕立てるために債券発行のために追加コストが生じるが、多額の資金を調達する債券発行の場面では、目立つほどの差異が生じないということでもある。

 それゆえ、あなたが仮に債券の発行会社かその債券発行を担当する金融機関職員であったとして、上記のような市場で債券を発行するとき、イスラム金融方式を選ぶか非イスラム金融方式を選ぶか、と聞かれたら、当然、イスラム金融方式での発行を選ぶだろう。あなたが非ムスリムであっても、である。上記のような市場ではイスラム金融方式で債券発行を行うことが、実に経済的に合理的なのである。

 日本企業やその関連会社がイスラム教国でイスラム金融方式で債券を発行することがあるが、これは上記のような経済的理由による。そのほうが販売がうまくいくし、場合によっては金利も低く抑えられるためである。一方で、日本国内にはムスリムが数万人程度しか居住していないと言われる。そのため、日本国内を市場としてイスラム金融商品を大々的に展開することは基本的に経済的に合理的ではないことは、前述の債券発行の事例から見ても明らかであろう。冒頭に述べた日本における近時の法改正等も、基本的には日本の金融機関が外国でイスラム金融を行う場合や、外国のイスラム金融需要を呼び込むことを主眼としている。

 ・ イスラム金融は強欲には儲けない
    -倫理と社会的責任

 さて、上記の説明でイスラム金融がムスリムの多い地域においてはビジネスの観点からも合理的であるということが、少しでもお伝えできれば幸いである。しかし、本稿の切り口としてイスラム金融の「儲かる」側面ばかり強調しすぎたが、忘れてはならないことは、イスラム金融は本質的には、イスラムの精神により強欲さには否定的であるということである。これに関し、イスラム金融と倫理及び社会的責任という論点は繰り返し論じられているテーマである。たとえば、イスラム金融仕立ての再生ファンドは、短期的な利益のみを追求して従業員を解雇して優良資産を処分するようなことをしてはならないのではないか、ということが真剣に論じられていたりもする。一概には言えないが、イスラム金融は儲けても強欲には儲けない、という観念はイスラム金融関係者に広く共有されているように思われる。

 ・ 仏教ファイナンス? 神道ファイナンス?

 ここまでいろいろと述べては見たものの、そもそもイスラム金融の根本であるところの、「宗教心と金融」というものの関係がいまひとつピンと来ないと思われる。そもそも大多数の日本人に馴染み深い仏教や神道には金利の禁止をするという伝統が無いため、これは仕方が無い。日本では仏教で金貸しが禁じられるどころか、一部の有力寺社はむしろ率先して高利貸しを営むこともあったようである。寺が金貸しとはこれぞまさしく仏教ファイナンス、というところだが、そのため一揆で襲撃されることもあったらしい。イスラム金融とは対極である。

 とはいえ、想像力を働かせれば、非ムスリムである大多数の日本人にも、仏教や神道における宗教感情をベースに、イスラム金融に投資する投資家の気持ちを少しは疑似体験ができるかもしれない。たとえば、A社の債券とB社の債券は、①全く同じ格付けの上場企業の発行で、②利息・償還期間その他の条件も同じであるとして、

 ①A社の債券…ごく普通の債券である。
 ②B社の債券…伊勢神宮にて金運招福のお百度参りを行い、さらに四国八十八箇所お遍路のご本尊に加護をお祈りした、大変ありがたい債券である。

 と言われて証券マンが二種類の債券をあなたの目の前に置いたとしたらどうだろう(金融商品取引法違反は不問とする)。なんとなくB社の方を選ぶかも、と言う方も多いのではないだろうか(筆者は間違いなくBに手が伸びる)。前述のとおり、同じ条件の金融商品であればイスラム金融を選ぶ、という程度の投資家がイスラム金融でも多数派なのである。Bに手が伸びたあなたのような方がイスラム教の国でイスラム金融を支えているのかもしれない。

上林 英彦(かんばやし・ひでひこ)

 2001年慶應義塾大学法学部卒業、2004年10月弁護士登録(57期)、アンダーソン・毛利法律事務所(当時)に入所。2009年Eversheds法律事務所ロンドン・オフィスにて勤務、2010年Eversheds法律事務所中東グループ(UAEアブダビ・カタール国ドーハ)勤務、2011年アンダーソン・毛利・友常法律事務所に復帰。論文として、「中東のハブ、アラブ首長国連邦への進出と法務」(金融法務事情1942号)。共著書に『逐条解説投資法人法』(金融財政事情研究会、2012年)、『注釈金融商品取引法(第2巻)』(金融財政事情研究会、2009年)など。

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