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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

「社会正義」「租税法律主義」「プロボノ」をつなぐ糸?

仲谷 栄一郎(なかたに・えいいちろう)

「社会正義」「租税法律主義」「プロボノ」をつなぐ糸?

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 仲谷 栄一郎

拡大仲谷 栄一郎(なかたに・えいいちろう)
  東京大学法学部卒業。一般企業法務、国際取引・国際契約を取り扱い、とくに税務を専門とする。公益財団法人イサム・ノグチ日本財団の顧問を務めるほか、さまざまな依頼者に対し、公益法人やNPO法人の設立・運営などに関しアドバイスしている。「租税条約と国内税法の交錯」(第36回日本公認会計士協会学術賞受賞)、「外国企業との取引と税務」、「契約の英語(全2巻)」、「交渉の英語(全3巻)」などの著書がある。
 おりしも憲法記念日をはさむ連休中である。かれこれ30年くらいの間に、質問されたり、自問自答したり、議論したりしてきた問題を、初心に帰り青臭くまとめ、自分自身の一里塚にしたい。未解決のものや、解決済みに見えるが迷いや疑問が残るものもあるので、あくまでも「一里塚」である。
 その問題とは――、なぜこの仕事をするのか。

 1 社会正義 - なぜ企業側を代理するのか

 「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法第1条)

 「社会正義」という言葉にはいろいろなニュアンスがある。「弱者救済が社会正義だ」と言われるとわかりやすく、公害や薬害事件において被害者の救済が社会正義だという立場は支持を得られやすい。かつて、被告企業側の弁護士が被害者から生卵を投げつけられたなどということもあったようである。しかし、(仮に企業が強者であるとしても)強者は不正義なのか。そうではないだろう。
 不法行為法の原則によると、企業が責任を負うのは過失がある場合に限られる。過失のない企業が損害賠償金の支払いを命じられて立ち行かなくなったら、その企業の従業員(弱者ではなかろうか)や取引先が路頭に迷うおそれもあり、その立場を守ることは当然必要である。しかし、「企業を守るのも社会正義である」という主張は、やや支持を得られにくいように見える。
 誤解を受けるおそれがあるので念のために申し添えると、被害者の救済は不要だなどと言っているわけではない。より高度な判断から、たとえば国が基金を設定するなどの対策をとることはもちろんあってよい。法律的な観点からは、過失のない企業は責任を負わないでよいという原則が守られるよう力を尽くすべきだという意味である。
 さて、それでは社会正義とは何か。被害者側にも企業側にも共通に適用される解は、「ある特定の立場や価値観を実現しようとすることではなく、どのような立場の当事者に対しても法律が正確に平等に適用されるのを確保すること」だと考える。ただし、当事者間で事実の認識が食い違うこともあるし、法律の解釈自体が不明確なこともある。それらの点につき、代理する側の当事者に有利になるように議論することは職責上当然である。

 2 租税法律主義 - なぜ富裕層の節税策を防御するのか

 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(日本国憲法第84条)

 法律の定めによらずに租税を課されることはないという原則が、いわゆる「租税法律主義」である。租税法律主義は国家権力から納税者を守るためのものであり、そのために戦う弁護士は社会正義の実現を図っているという構図はわかりやすい。
 しかしながら、富裕層の節税策が国税と争いになっている局面では、見方が逆転し、「けしからん」派が多くなるようである。じつは弁護士の集まりでこの問題を提起したときでさえ、「けしからん」派が多くて驚いたことがある。しかし、法律の正確で平等な適用という観点からは、普通の(?)納税者だろうと富裕層だろうと違いはないはずである。
 さて、税務紛争の当事者の関係を突き詰めると薬害事件と同じような構図が浮かび上がる。しかし、(とりあえずこう呼ぶが)弱者と強者がねじれており、その意味から「けしからん」の趣旨もわからないではない。すなわち、「法律上の理由なく損害賠償金の支払を命じられると、企業の背後にいる従業員や取引先が犠牲になる」を平行移動すると、「富裕層が不当に税金を免れると、国の背後にいる善良な一般納税者が犠牲になる」という構図になる。
 したがって、薬害事件で企業側を代理し、税務紛争で(富裕層を含む)納税者側を代理するのは、一貫しているようでもあり、そうではないようでもある。しかし、それはどちらでもよい。繰り返しになるが、どのような立場の当事者に対しても法律が正確に平等に適用されるのを確保することが目的であり、ある特定の立場や価値観を実現しようとすることが目的ではないと考えるからである。

 3 プロボノ - なぜ無償で仕事するのか

 「社会的に有益な活動をする団体で、かつ、財政的基盤の乏しいものに対する法律的事務の提供」(第一東京弁護士会「公益活動に関する会規」第2条第3号ニ)

 公益的な活動に対する支援は弁護士の義務と理解されており、上のような団体のうち弁護士会が認定したものに対し法律事務を提供すると、その義務を果たしたものとされる。
 しかし、ここで言う「プロボノ」とは、義務としてではなく「好き」で行っている、公益的活動に対する支援のことである。実際に私も、さまざまな公益的団体に対しプロボノで仕事をしており、志を同じくするメンバーとネットワークを作っている(http://www.blp-network.com/)。このプロボノについては、次のような問題がある。

 なぜプロボノを行うのか

 なぜプロボノを行うのか。基本的には「社会の役に立ちたいから」という動機が出発点であることは間違いない。
 が、それだけでもなさそうである。「宣伝になり、勉強にもなるし、人脈を広げられる」と答える人もいる。米国の大手法律事務所の弁護士に尋ねると、「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の意識が高まっており広報やリクルートの観点から有益である。若手弁護士のトレーニングにもなる」というようなものも加わる。
 こういう答えを聞くと、「ああ、やっぱり。きれい事では済まないのか」とお感じになるかもしれない。現に、このような「功利的」な動機はうさん臭いとして、プロボノを批判する論調も時おり見かける。しかし、たとえば災害に際し、ある会社が「宣伝になるから」寄付しようとしている場合、「その動機は不純だから寄付すべきでない」とは言えないのと同様ではないかと思われる。動機はともかく、必要なところに資金が届くのだから。(もっとも、「寄付すべきではない」という立場もあるかもしれないが……。)
 そこで、この問題の答えとしては、「社会の役に立ちたいし、勉強にもなるから」というくらいに折衷的に考えている。

 なぜ特定の団体だけの仕事をするのか

 なぜ特定の団体だけの仕事をするのか。特定の分野(障碍者保護、国際人権など)の活動にプロボノで協力しているのであれば、「そのような活動を支持しているから」と説明できる。しかし、さまざまな分野の団体の仕事をしている場合、それをどのように選んでいるのか。
 割り切ると答えは簡単で、「仕事したいと思う団体」というだけのことになる。一般に、弁護士は受任義務を負うわけではないため、自由に依頼者を選べる(これに対し、医師には診療義務がある(医師法第19条))。これは依頼者(候補者)が営利企業であっても公益的団体であっても同じことである。実際には、活動の内容、運営している人たち、要求されている仕事の内容などを考え合わせ、判断している。
 さてじつは、これは上の1、2に掲げた問題の答えにもなる。すなわち、特定の立場を支持するのではなく、法律の正確で平等な適用を目指すのが目的であるとすると、どのような依頼者に対し仕事するかは問題にならない――という観点から、共通の問題なのである。
 なお、余談であり、かつ、異論があることは承知しているが、プロボノで仕事している団体に対し寄付したり、出資したり、会員になったり、あるいはボランティア活動に参加したりすることは、あえてしないようにしている。それは、プロとして専門的サービスを提供する立場と、当事者自体を支持する立場とが重なって中立性を曇らせることがないように(またはそのように見えることがないように)するためである。

 プロボノは公正な競争を阻害するのではないか

 さて、最後が難問である。公益的活動を支援することは無条件で善だと思えるかもしれないが、そうでもない。株式会社のような営利企業の形態で社会貢献的な事業を行っている方々から、プロボノに支えられた公益的団体に対し、次のような批判が提起されることがある。すなわち、公益的活動と通常の企業活動とが競争関係になる分野(介護、保育など)において、専門家が公益的活動側に対し無償で仕事を行うと、企業側を競争上不利な立場に陥れ、公正な競争を阻害するのではないか。
 厳しく難しい問題提起であり、現状ではいちおう次のような答えしか持ち合わせていない。まず、公益的活動と営利企業の社会貢献活動との区別は相対的である。次に、公益的団体から報酬をいただくこともあるし、逆に営利企業に対し無償または低額で仕事を行うこともある。依頼者側と弁護士とが、(きわめて広い意味で)ギブ・アンド・テイクとして見合っていると考えれば、それは市場経済の範囲内なのではないだろうか。なお、このように考えると、「プロボノ」は明確に定義できなくなり、おおまかな整理上の概念にすぎなくなりそうだとさえ思っている。

 4 to be continued ...

 以上で、細い糸がかろうじてつながっただろうか。新たな分野を手がけるにつれてさらに難問が登場すると思うが、それは挑戦し続けることの証しであり、歓迎して立ち向かいたい。

仲谷 栄一郎(なかたに・えいいちろう)

 1982年3月、東京大学法学部卒業。84年4月、司法修習(36期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)。1991年10月から1992年9月まで英国ロンドンのAllen & Overy法律事務所勤務。2002年1月から当事務所で勤務開始、当事務所パートナー就任。2007年4月から2008年3月まで早稲田大学法学部非常勤講師(担当科目:国際租税法)。
 一般企業法務、国際取引・国際契約を取り扱い、とくに税務を専門とする。公益財団法人イサム・ノグチ日本財団の顧問を務めるほか、さまざまな依頼者に対し、公益法人やNPO法人の設立・運営などに関しアドバイスしている。
 主な著書に「域外適用法令のすべて」、「租税条約と国内税法の交錯」(第36回日本公認会計士協会学術賞受賞)、「外国企業との取引と税務」、「契約の英語(全2巻)」、「交渉の英語(全3巻)」がある。

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