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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

飲茶文化とおもてなし 香港での経験から

西村 綱木(にしむら・つなき)

飲茶文化とおもてなし
 -香港での経験から-

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 西村 綱木

 はじめに

拡大西村 綱木(にしむら・つなき)
 2003年3月、東京大学法学部卒。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国Vanderbilt University (LL.M.)。2013年1月から 6月まで香港のMayer Brown JSM法律事務所勤務。2013年6月、ニューヨーク州弁護士登録。2013年8月 当事務所復帰。
 すでに帰国して約1年になるが、2013年の1月から6月までの半年間、香港の法律事務所に出向し、研修する機会をいただいた。限られた期間ではあったが、実際に現地で生活をし、仕事をした経験について記したい。

 香港の紹介

 言わずもがなの部分も多いが、最初に香港について若干の紹介をしたい。香港は、正式名称を「中華人民共和国香港特別行政区」といい、1997年7月に英国から中国に主権が返還された後は、中国の一部となっている。

 もっとも、返還以来いわゆる「一国二制度」の原則に基づき、政治、経済、法律等に関して中国本土とは異なる制度が採用され、高度の自治権が認められている。法制度については、判例法を中心とする英米法(コモン・ロー)体系が採用されるとともに、独自の立法機関を有し、香港固有の法律が多数存在する。また、裁判制度についても、最高裁判所に相当する終審法院を頂点とする独自の裁判制度を有している。経済は規制の少ない自由経済であり、世界の金融センターとしての役割を果たしていることは有名である。

 と真面目なことを書いたものの、これらを正確に理解したのは実際に香港に行った後のことである。私自身今回の研修の前に香港に行ったことはなく、実のところ香港に関する知識といえば、子供の頃に見たジャッキー・チェンの映画の世界と、飛行機がビルの屋上をかすめて飛ぶ映像(なお、空港は随分前に市街地から郊外に移転しており、今やそのような風景は存在しない。)という古典的イメージに近いものであった。現在の香港は、近代的な高層ビルが林立し、スーツ姿の多国籍の人たちがせわしなく行き交うビジネスエリアがある一方で、少し路地に入ったり郊外に行ったりすれば、昔ながらの現地の生活が残っているという、多様性にあふれた活気に満ちた場所となっている。

拡大ビクトリアピークから見た香港のビル群
 香港は、狭い面積の中に多数の人が住んでいるため、人口密度が非常に高い。私は、留学先であった米国のテネシー州から香港に引っ越したため、その人口密度のギャップに圧倒されたことは、今でも強烈な印象として残っている。

 研修先での仕事

 私が研修をした法律事務所は、香港ローカルの大手事務所と米国系のグローバル事務所との合併により成立した事務所であった。そのような成り立ちから、香港人弁護士が多数を占める一方で、英国、米国、中国本土等の出身の弁護士も在籍し、非常に刺激に満ちた環境であった。

 その中で、私は企業結合や証券関係を主に扱うチームに所属させてもらい、様々な案件に関与することができた。中でも思い出深かったのは、香港の企業が香港証券取引所に新規上場するという案件に関与したことである。現地の弁護士資格のない私が実際に手伝うことができる部分はそれほど多くはないものの、案件メンバーの一員として、多数の関係者を通じてダイナミックに動く取引を肌で感じることができたのは、非常に貴重な経験であった。

 飲茶の話

 標題と関係のないことを書いてきたが、ここからが本題である。香港に行ったことのない方でも、飲茶について知っている人は多いと思う。中国茶を飲みながら、点心を食べるという香港(中国の広東省やマカオも同様である。)の習慣である。香港の旅行ガイドブックで、飲茶について触れられていないものはゼロであろう。食の都とも呼ばれ、中華料理に限らず多様な食文化を体験できる香港であるが、香港滞在中の私の一番のお気に入りは飲茶であり、日本に戻った今でも時々無性に懐かしくなることがある。

 現地の人たちは、週末に一族で集まってわいわいがやがやとおしゃべりをしながら飲茶をするのが習慣になっているようである。そのような大人数のグループが食べ終わった後のテーブルは散らかり放題で、さながら嵐が去った後のような光景であるが、これも文化のひとつであり貴重な世代間のコミュニケーションの場になっているのだと思う。

拡大飲茶のテーブル
 さて、若干忘れかけている私の復習も兼ねて、飲茶の手順である。まず店に入るとテーブルに通されて、最初にお茶の種類を聞かれる。もちろん何を頼んでもよいのだが、お茶のメニューは通常用意されていないので、知っているものを頼まざるを得ない。私の定番はプーアル茶だった。友人に教えてもらった美味しいお茶の名前をメモしておき、次にそれを頼むのも楽しい。ちなみに、お湯は何度でも追加してくれるので、飲み放題である。

 次に、店によっては、テーブルにボウルのようなものが用意してあり、これで箸や食器を洗う(この習慣は「洗杯」と呼ばれ、衛生状態が良くなかった頃の名残である。)。現地の方々は、お茶やお湯をかけながら慣れた手つきで食器をくるくると回して洗っていき、とても手際がよい。見よう見まねでやってみるものの、結局熱くて食器をうまく掴めず、スマートにできるようにはならなかった。

 いよいよ、食事の注文である。最近は、点心の種類が列挙された紙に鉛筆でチェックをして注文する方式が主流である。漢字と英語でメニューが併記してある店も多く、そのような場合は何となくそれぞれの品目のイメージが湧くが、ローカルな店では漢字しか書いておらず、定番メニュー以外は、想像力を逞しくして注文することになる(その想像が外れ、まったく予想外のものに遭遇することもある。)。昔ながらの、ワゴンで運ばれてきて、実物を見ながら食べるものを選べる店は少なくなってしまった。

 お腹一杯食べて満足したら、最後にお勘定である。店員さんに広東語で「マイタン(買単)」と言えば、伝票を持ってきてくれる。もちろんいいお値段の高級店もあるが、ローカルの店で食べれば、たくさん食べたつもりでも一人1,000円に満たない値段で済む。

 飲茶から学ぶこと

 研修中は、同僚に何度か飲茶にも連れて行ってもらった。ミシュランの星がついているような有名店から、広東語以外は通じないローカルな店まで、様々である。どの店に行ってもそうなのだが、丸テーブルに座って楽しくおしゃべりしつつも、皆が常に周囲に気を配っていて、お茶がなくなった人がいればすぐに注ぐ(この時、注いでもらった人は、指でテーブルをトントンとたたくのがお礼のサインである。)。食べ物も適当に取り分ける。食事が一段落しそうになったら、今度は絶妙のタイミングでデザートを注文する。私も負けじと、お茶を注いだり何とかしようと思うのだが、慣れている同僚たちのように自然にするのは難しい。

 こういった食事の際の気配りは、文化として自然に身についているのかもしれないが、やはり根底にあるのは、相手を喜ばせたいという気持ちではないかと思う。普段は時間に追われてプレッシャーの中で仕事をしている同僚たちも、こうやって息抜きをして、互いを尊重しているのだと感じた。東京オリンピックを呼び込んだ「おもてなし」の心も、同じ発想のものではないだろうか。

 先ほど少し触れたとおり、私は香港での研修の前に、ロースクールへの留学のため米国南部のテネシー州に1年間滞在していた。南部の人々の気質の1つに、「サザン・ホスピタリティ」と呼ばれるものがある。これも「おもてなし」の心そのもので、外国人である私たちに対しても皆が優しく声をかけてくれて、常に居心地のよい雰囲気を作ってくれるのである。ふとしたきっかけで知り合った現地の人に、自宅にまで呼んでもらって食事をご馳走になるということも珍しくなかった。

 最後に

 弁護士の仕事は、どの分野を扱うにしても、依頼者の要望を正確に理解して、その実現のために全力を尽くすということが不可欠である。そのためには、常に周囲にアンテナを張り、自分に何が求められていて、相手に対して何ができるのかを把握できなければならない。大げさかもしれないが、私が飲茶の席で感じたのは、そうした仕事の姿勢に通じるものであったのだと思う。もちろん、これは仕事に限ったことではなく、日常生活での周囲の人との関わりの中でも重要なことである。海外での生活を通じて、期せずして、和洋中のそれぞれのおもてなしの心を知ることができたのはとても幸運な経験であった。今後も常に周囲に気を配ることの大切さを忘れないようにしたい。

西村 綱木(にしむら・つなき)

 2003年3月、東京大学法学部卒。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国Vanderbilt University (LL.M.)。2013年1月から 6月まで香港のMayer Brown JSM法律事務所勤務。2013年6月、ニューヨーク州弁護士登録。2013年8月、当事務所復帰。

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