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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

昆虫好きの目で様々な視点から案件を眺める

大橋 さやか(おおはし・さやか)

様々な視点から案件を眺めること

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
大橋 さやか

拡大大橋 さやか(おおはし・さやか)
 2002年3月、東京大学法学部卒。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2014年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。
 虫が嫌いな方には、ご容赦いただきたい。

 我が家の子供たちは、虫が大好きである。それは、私が虫好きだから。私が虫を好きなのは、私の両親(とりわけ、昔、生物部に所属していた父)が虫好きだからである。

 上の子が生まれたとき、私は子育てにあたって、3つの目標を立てた。一つ、たくましい子に育てること。二つ、本が好きな子に育てること。そして三つ、虫が好きな子に育てること。一つ目と二つ目の目標は、世のお父さん・お母さん方にもある程度共感していただけるかもしれない。三つ目は、共感し難い方も結構おられるだろう。共感していただけなくても大丈夫、三つ目は私の完全なる個人的な好みによって立てられた目標であって、もとより広く共感していただけるような目標とは思っていない。

 私の個人的な好みに従って立てられた目標だが、東京の街中に住んでいて、虫好きな子供に育てるのは、結構苦労する。苦労するというぐらいなら、諦めればいい話だが、そこは私が初めて生んだ大事な息子のために立てた三つしかない目標のうちの一つ、おいそれと諦めるわけにはいかない。ひまさえあれば、せっせと草木の生い茂った場所を探して連れていき、虫を探して手にのせるなどして、「訓練」した。その甲斐あってか、上の息子は立派に虫好きな子に育ってくれた。期待を遥かに超えた虫好きになってくれて、学校でゴキブリが出たときは、上の息子の出番であるらしい。頼もしいことである。総領が虫好きになったので、従って歩く下の子たちは放っておいても勝手に虫好きになってくれた。

 しかし、気は抜けない。気持ち悪くて虫なぞ触れないというお母さん(時にはお父さん)方も、子供の頃は結構平気で虫を触っていた人も少なくない。それが、虫と遊ばなくなるにつれ、段々触れなくなって、しまいには虫嫌いになってしまうようである。(私だって、上の息子が生まれるまでは久しく虫に接していなかったので、セミぐらいはなんてことないが、たとえば息子と一緒にカミキリムシを発見したときなどは、二十年ぶりくらいにカミキリムシを捕まえるのに、正直に言って結構勇気がいった。)

 私は、子供たちが大人になって、いつか父となり母となったときにも、私の孫たちを虫好きに育ててくれるように、大人になっても平気で虫が触れるほどの虫好き、つまり単なる虫好きではなくて、虫にぞっこん、というぐらいの虫好きに育てたいのである。

 そういうわけで、我が家では常に何かしらの虫を飼っている。最も多く飼っているのが、アゲハ蝶の幼虫だ。我が家では単に、あおむし、と呼んでいる。我が家のあおむしは、実は「自家製」である。最初のあおむしは、確か、近くの公園の木にいたのをとってきた。私が幼いころから慣れ親しんできた大好きな虫だから、子供のためというより、私が懐かしくて嬉しくてとってきた、というのが正確かもしれない。初めて間近で見るあおむしを、最初の頃、息子はおっかなびっくり見ており、角を出したときは(あおむしは、敵に食われそうになったときに脅かして対抗するため、独特のにおいがするオレンジ色の角を出す)、相当にぎょっとしていた。今では、ころころ太ったあおむしを「かわいーい」と言って撫でたりしている。

 あおむしというのは、たいへん食欲旺盛な虫である。そのうえ、柑橘系の植物の葉しか食べない偏食な虫である。初めのうちは、近所であちこちの木から柑橘系の葉っぱをとってきて与えていた。しかし、全然足りない。そこで、彼らを養うために、我が家で食べたみかんか何かの種を植木鉢に蒔いてみた(夫が)。一鉢では足りないので、いくつも蒔いた。毎日まめに水やりをしたので(夫が)、みかんはすくすく育ってくれた。すると、そこに、アゲハ蝶が産卵したのである。狭いベランダにずらっと並べたみかんの木に、アゲハが飛んできて卵を産みつけているのを初めて目撃したときは、感激した。以来数年、自家製のあおむしを飼い続けている。毎年シーズン初めのあおむしの卵は、だいたい夫が発見して、教えてくれる。

 脱皮を繰り返して、あおむしは大きくなり、やがてサナギになる。ある程度大きくなったあおむしは、ベランダから家の中に植木鉢ごと移すことにしている(夫が)。せっかく大事に育てたあおむしが、鳥に食われるという悲しい事件が続発したからである。

 あおむしは、餌がないところには行かないので、特にケースなどに入れなくても、普通は植木鉢から逃げない。しかし、どのあおむしも、ある時期が来ると「脱走」する。サナギになるためである。サナギから羽化した直後のまだ飛べない時期が、最も敵に狙われやすいので、あおむしはサナギになる場所を慎重に選ぶ。植木鉢みたいに目立つところでそのままサナギになるのは、余程うっかり者のあおむしだ。あおむしが脱走すると、どこでサナギになったか、みんなで探す。無事羽化して羽も乾いたら、外に放してやらないといけないので、どこに何匹サナギがいるのか、ちゃんと把握しておく必要があるからである。それに、把握しておかないと、うっかり気付かずぶつかって、取れてしまったりしたら可哀想だ(サナギは、一度決めてくっついたところからはがれてしまうと、羽化できず、そのまま死んでしまう)。ところが、わざわざ敵に見つかりにくいところに移動してサナギになるのだから、なかなか見つからない。あおむしは、予想以上に遠くまで、しかも意外なほどのスピードで移動するのだ。あおむしが「脱走」したときは、見つけるまでは、家の中でも自由にのしのし歩いたりなんかできない。だって、どこを歩いているか分からないから、踏んでしまったりしたら、可哀想だし、さすがにいやだもの。

 あるとき、私と上の息子と娘で、テレビの裏とか本棚の脇とかタンスの下とか廊下の隅とか、隈なく探したが、狭い家なのに、どうしても見つからないことがあった。どこ行っちゃったんだろう、見つからないねと半ば諦めかけていたら、捜索隊に参加せず床にごろごろ転がっていた下の息子が「あ!みどりのやつがあるよ!」と見つけた。ピアノの足の下側の、寝そべってみないと見えないところでサナギになっていたのである。

 このとき、私は学んだ。立って探して見つからないときは、寝転がって探すべし。一つの方向からだけでなく、別の方向から眺めてみるべし。

 法律家の仕事もまた然り、である。私は使用者側で人事労務のアドバイスをすることを主たる専門分野としている弁護士であるが、人事労務をやるには、複数の視点から案件を眺めてみることが重要だ。会社の立場だけでなく労働者の立場にたって考えてみること、上司の言い分と部下の言い分を両方考えてみること、女性と男性それぞれの視点で考えてみること、正社員とそうでない社員と両方の事情を汲み取ること。簡単なようで意外と難しい。弁護士10年目にして、脱走したあおむし探しと同じくらい、まだ苦労している。

大橋 さやか(おおはし・さやか)

 2002年3月、東京大学法学部卒。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2014年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。
 著書に「管理監督者・上司・先輩は知っておいてほしい 研究者・技術者の『うつ病』対策 ~ 不調者を出さない仕組みづくりと日常の注意点 ~」(技術情報協会 2013年)(共著)。論文に「Assistance in Dispute Provisions: helping former employers in Japan when they find themselves in a bind」(Asian-Mena Counsel (Volume 10 Issue 2, 2012))(共著)、「Employment Issues on a Transfer of Business 2012」(Published by Mayer Brown JSM)(共著)、「相談室Q&A(メンタル不調休職者が、SNSで頻繁に趣味活動を公開していることに何らかの措置は可能か)」(労政時報第3827号 2012年8月10日号)、「"部下を次々と食い潰す" クラッシャー上司の実態と対策」(メンタルヘルスマネジメント 2013年8月号)(共著)、「相談室Q&A(海外赴任で、帯同した家族がうつ病に罹患し自殺した場合、会社は責任を問われるか)」(労政時報第3853号 2013年9月27日号)、「退任予定(在任中)の取締役の従業員引き抜き」(ジュリスト増刊「実務に効く コーポレート・ガバナンス判例精選」2013年12月)(共著)、「The International Comparative Legal Guide to : Employment & Labour Law 2014」(日本関連部分)(Global Legal Group 2014年)(共著)(This article appeared in the 2014 edition of The International Comparative Legal Guide to: Employment & Labour Law; published by Global Legal Group Ltd, London)がある。

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