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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

剣道と弁護士: 攻めること、攻められても動じないこと

佐藤 剛史(さとう・たけふみ)

剣道と弁護士業務

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 佐藤剛史

拡大佐藤 剛史(さとう・たけふみ)
 1999年3月、東京大学法学部卒。2000年10月、司法修習(53期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2009年1月、当事務所パートナー就任。2011年4月から2014年3月まで東京大学法学部非常勤講師。
 中学生1年生から高校3年生まで部活動でしていた剣道を約20年ぶりに再開し、細々と続けてもうすぐ4年になる。現在3段を頂戴しており、今年4段に挑戦する予定である。

 3段というと感心していただくことも多いが、それは剣道を知らない方の反応である。剣道では、段位ごとに、審査を受けられるまでの修行年限が決められている(例えば、3段審査の受審資格を得るためには2段に合格してから2年間の修行を経る必要があり、4段審査を受審するためには3段に合格してから3年間の修行を経る必要がある。現行制度下での最高段位は8段である)。小学生や中学生から剣道を始め、その後も真面目に剣道を続けた人なら、3段は通常高校生で、4段は通常20代(大学生から若手社会人)で取得できる段位であるから、約20年間もお休みしていた、アラフォー3段の私の実力は、敢えて申し上げるまでもないだろう(しかも同じ3段でも、ピチピチした高校生の3段と、アラフォー3段とでは、実力に大きな違いがある)。ちなみに、私と同年配で、ずっと剣道を続けてきた方は、6段や7段という高みに到達しておられる方も多く、もはや立派な指導者である。そんなわけであるから、私が剣道について物を書くことなど本来許されないが、読者に剣士が少ないことを期待して、恥を晒す次第である。

 中学生・高校生の時分は、正直にいって、剣道を面白いと感じたことはほとんどなかったが、この年になって再開した剣道を、今はとても面白く、魅力的であると感じている。

 奥の深さ

 剣道の最大の面白さ・魅力は、その奥の深さにあると思う。剣道は様々な面で奥深いが、剣道のルーツに起因した、「攻め」の奥深さをとりわけ面白く感じる(このあたりから、記載が結構いい加減な可能性がある。読者に剣士がおられたら、笑ってやり過ごしていただきたい)。剣道のルーツは、乱暴にいえば、真剣による斬り合いの技術ということになるだろう。触れたら切れる、長い日本刀を持って、敵と一対一で対峙している状況を想像していただきたい。大変に怖いはずである。家族もいるし、まだ旨い酒も飲みたいので、生きて帰りたいが、それは相手も同じである。この状況で、ただ闇雲に斬りかかることは、あまりに危険である。生き残るためには、こちらから働き掛けて敵に隙を作り(あるいは敵が反撃できない状況を作り出し)、そこを斬るしかない。これが、剣道で重視される「攻め」である(と私は理解している。間違っていないとよいのだが!)。

 高段者に稽古をお願いすると、例えば以下のような事象が起きる。高段者が詰め寄ってくると、「来る!」と思ったこちらの身体が無意識的に反応して、思わず面を打ちに出てしまう。そこを胴に斬られる。高段者が詰め寄ってくると、無意識的な防御反応として手元が上がる。そこを小手に斬られてしまう。あるいは、高段者が詰め寄ってくると、こちらの身体が斬撃を避けようと無様にのけぞる。そこを面に斬られてしまう。敵は「攻め」によって私に隙を作り(あるいは私が反撃できない状況を作り出して)、こちらを斬っているわけであり、これによって、敵は無傷で生還し、私はこの世とおさらばするか、戦闘不能になっているわけである。

 問題は、私がこれをやられてばかりで、やれたためしがないということである。上述の経験からすると、高段者は、一定の行動(「詰め寄る」という行動)によって私の無意識(あるいは反射神経)を操っていることは確かであり、これが「攻め」の要諦であると思うのだが、見よう見まねで「詰め寄って」みても、事はそう簡単に運ばない。そこには、様々な「詰め寄り」方の工夫があるということのようだ。また、自分から「攻め」ることと同じくらい、敵からの「攻め」に動じないことも重要と思われる。敵が気合を入れて詰め寄ってきたときに、「来た!」と思って動じてしまうと、大抵負けてしまうからである。動じない「肚」を作れ、と先生がよくおっしゃる所以である。しかしながら、何十年も剣道を続けてきたオジサンが、皆さんも聞いたことのあるであろう、あの大きな声を出しながら、怖い顔で近寄ってくると、動じるなという方が無理である。

 このように、「攻め」ること、また「攻め」られても動じないことという、大変に難しい、時として精神性の求められる事象(技術?)を追求することが剣道において重要であり、それこそが、剣道の奥の深さにして、剣道を面白く魅力あるものにしている大きな要因の一つであると思う。

 身体運動の難しさ・矛盾

 剣道の面白さ・魅力のもう一つは、その身体運動の難しさと矛盾にあると思う。

 上述した「攻め」が難しいことはいうまでもないが、より端的に、剣道は身体運動的に難しいと思う。右手・右足を前に出して構えるという、左右非対称の形が基本だからかもしれない。先生からは、修正すべきポイントを何度もご指摘いただくが、そのとおりに修正することが大変に難しいのである。ある程度修正ができたと思っても、少し油断すると、すぐに悪癖がまた顔を出す。自分の身体でありながら、こうも自由にならないのかと痛感する。これが剣道の身体運動的な難しさであり、だからこそ面白いと思う。

 正しい身体運動をさらに難しくさせるのが、自分の気持ちである。とりわけ相手と打ち合う場面になると、「打ちたい」「打たれたくない」という自分の気持ちが、正しい身体運動を妨げる大きな要因となる。例えば、「打ちたい」と思えば思うほど手に力が入り、竹刀を真っ直ぐしなやかに振れなくなる。そして、(面白いことに)竹刀を真っ直ぐしなやかに振れなくなると、結果的に、より相手から打たれ易くなるのである。打ちたいと思えば思うほど、相手から打たれる結果になるというのが、剣道における矛盾であり、とても面白いところだと思う。

 健康に良いこと・ストレス解消・爽快感(ビールの旨さ)・剣士の皆さんとの交流

 色々と述べてみても、結局のところ剣道の面白さ・魅力は、この点にあるのかもしれない。

 健康に良いこと・ストレス解消。私は、剣道再開後1年目の健康診断で、前年と比べて、血液の色々な数値が正常値に戻った。剣道の効果、恐るべしである(その代わり、再開後初めて面をつけて稽古した日の翌日、熱を出して事務所を休んだ。すみません)。また、大きな声を出すので、大変なストレス解消になることはいうまでもない。

 爽快感(ビールの旨さ)。稽古が終わり、面を外したときの爽快感は何物にも代えがたい。その後に飲むビールが旨いことは、ご想像のとおりである。

 剣士の皆さんとの交流。道場に所属して剣道の稽古をさせていただくと、下は幼稚園児から、上は大先輩まで、様々な年齢層の、様々なバックグラウンドの剣士の皆さんとお知り合いになるチャンスに恵まれる。あんなに疲れて、一文の得にもならないことをご一緒させていただいている方々との関係は、仕事で繋がりのある方々との関係とはまた一味違ったもので、とても楽しいものである。

 剣道と弁護士

 私は主として商事紛争(訴訟)と人事・労務関係を取り扱っているが、剣道と私の取扱い分野は、(少なくとも概念的には)共通する部分がとても多い。相手のどこをどう「攻め」て最善の結果に導くか、不利な戦いの中でも相手からの「攻め」に動じず、どう反撃に転じるかといったことの重要性は、剣道でも、私の取扱い分野(とりわけ訴訟)でも、全く同じである。

 冒頭で述べたように、現行制度下における剣道の最高段位は8段であるが、この8段の試験は、(かつての)司法試験よりも難しく、我が国で最も難しい試験といわれている(8段審査を受審できる最低年齢は46歳。2014年度の合格率は0.5%~0.8%とのことである)。また、段位とは別に称号(錬士、教士、範士)というものもあり、範士8段といえば剣道界では神様のような存在である。剣道で範士8段になることは不可能であるが、弁護士道では範士8段となるべく、精進を重ねたい(現在の段位についてはノーコメント。さすがに3段ではないはずだが)。

佐藤 剛史(さとう・たけふみ)

 1999年3月、東京大学法学部卒。2000年10月、司法修習(53期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2009年1月、当事務所パートナー就任。2011年4月から2014年3月まで東京大学法学部非常勤講師。
  著書に「事例解説 出向・転籍・退職・解雇」(第一法規出版、2002年)(共同執筆)、「ケーススタディー国際関係私法」(有斐閣、2015年)(共同執筆)がある。論文に「企業活動の複雑化・クロスボーダー化により変容を迫られるビジネス訴訟弁護士の資質」(ザ・ローヤーズ 2006年12月号)(共同執筆)、「中国企業に対する債権回収のツボ」(Business Law Journal 2008年11月号)(共同執筆)、"Recent Trends in Administrative Litigation" (International Law Office/June 2009) (共同執筆)、「違法行為の差止請求権」(ジュリスト増刊「実務に効く コーポレート・ガバナンス判例精選」 2013年12月)がある。

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