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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

なぜ弁護士の言葉は理解しづらいのか

伊藤 哲哉(いとう・てつや)

なぜ弁護士の言葉は理解しづらいのか

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 伊藤哲哉

拡大伊藤 哲哉(いとう・てつや)
 1991年3月、東京大学法学部卒。1993年4月、司法修習(45期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。1997年、米国University of Washington (LL.M.)修了。1997~1998年、英国ロンドンのSlaughter and May法律事務所勤務。1998年、ニューヨーク州弁護士登録。1999年1月、当事務所復帰。2002年、当事務所パートナー就任。2010年4月から京都大学大学院法学研究科非常勤講師。
 弁護士の提供する法律事務はほとんど有償であり、決して低額ではない。しかし、弁護士の言葉は依頼者にとって理解しづらいことが少なくない。そもそも何を言っているのか分からない、言葉としては聞き取れるが法律用語の内容を理解できない、高尚な法律論はありがたいが具体的な問題解決には役立たない、書類が長大かつ複雑すぎて用いることができない、結局何なのかわからない、等々いくらでもあると思う。企業法務に関与する弁護士の言葉の分かりにくさの原因には次のようなことがあるのではないかと思う。

 第一に、弁護士の言葉は回りくどい。法律判断は、様々な事実を前提とし、原則には例外がある。これを説明するとどうしても冗長になりがちだ。しかし、前提や例外にも重要なものとそうでないものがあるはずだ。法的に意味のある事実の洗い出し、質問の設定、法的な回答とあてはめ、その法的な根拠付けという一連の作業を強く意識するならば、もっとシンプルな言葉を用いることができるのではないだろうか。

 第二に、法律分野の専門用語は分かりにくい。専門用語は魔術のようなもので、専門用語を使うだけで何かを解決したかのような錯覚に陥りやすい。しかし実際には言葉を置き換えたにすぎず、専門用語を多用することによりむしろ内容を十分に伝えられないことをごまかす結果となることもある。厳密な専門用語を使う必要が無いときは、なるべく平たい言葉がよいのではないか。弁護士は、専門用語を使うことにより、法律のプロっぽくなった気分あるいはちょっと偉くなった気分がするかもしれない。例えば、多くの弁護士は「競売」と「けいばい」と発音し、「遺言」を「いごん」と発音する。しかし、「きょうばい」又は「ゆいごん」と発音する場合と意味は同じだから、特段の意味は無い。もっとも、厳密な意味において専門用語を用いないと内容が異なってしまうこともある。あくまでケース・バイ・ケースである。

 第三に、弁護士の言葉は、ときとして抽象的すぎて、具体的ではない。またときとして、具体的事案へのあてはめを欠く。依頼者は、具体的事案の解決のために弁護士に依頼するのであり、法律の教科書の勉強をするためにやってくるのではない。したがって弁護士は、常に具体的な言葉を用いて、具体的事案へのあてはめを行わなければならない。

 第四に、弁護士の言葉は、しばしば結論において歯切れが悪い。弁護士が常に断定的な法律判断を提供できるわけではないが、状況設定や法的論点を限定する等の工夫により、そのような工夫をしないときよりも歯切れの良さを向上させることができるはずだ。裁判において上訴審が下級審と異なる判断をすることがあるように、法律解釈には複数のものがあるのだから、弁護士は自らの法律解釈の根拠を明確に示す、あるいは、他の解釈と明確に対比することにより反証可能性を高めて議論の可視化・透明化をはかるべきであり、歯切れの悪さでお茶を濁すべきではない。私の経験では、日本人弁護士の少なからずの人が英文アドバイスのなかで「may」を多用するが、ネイティブのロイヤーは現在形や「will」を使うことが多いようだ。言語の違いなのか、法律解釈の違いなのか、文化の違いなのか、興味深い。

 第五に、弁護士は、複数の説を列挙するだけで満足することがある。複数の法律解釈を列挙した後は依頼者さんあなたが選んで下さい、といった態度をとるのである。ちょっと考えれば分かることだが、弁護士から複数の法律解釈を提示された場合でも、依頼者の責任者は、自らの責任において、最終的に実行するか実行しないかのいずれかを選択して決定しなくてはならない。したがって、依頼者が決定をするための参考資料として、あるいは、決定するための議論の過程において、どれだけ有益な情報を提供し、どもに思考することができるかというのが弁護士にとって重要な作業だと思う。これはビジネス判断とは区別されたところの法律解釈の問題である。

 第六に、弁護士は、ビジネスをあまりに知らない。法的に意味のある事実を認定する行為そのものが法律事務の重要な一部であり、これを欠いた法律事務は現実的ではない。だから、弁護士はビジネスの現実をもっと知らなければならない。訴訟における事実認定が重要であるのはイメージがわきやすいと思うが、同様に法律意見書や契約における法律事実の認定もきわめて重要であって、この認定がぐたつくと法律意見や契約の骨格がぶれてしまう。ビジネスの現実と切断されていることにより、弁護士が中立的な立場から冷静な法律解釈を提供することができるという側面もあるが、それはそれ、これはこれである。

 第七に、弁護士は、依頼者からの質問を文字通りに読んで、そこだけ回答しがちである。しかし、現代の弁護士には能動的あるいはプロアクティブなアプローチが求められている。依頼者は常に適切な質問を知っているとは限らないし、弁護士がより多くの時間を費やすところのストラクチャー組成、デューディリジェンス、ドキュメンテーション(書類作成)といった業務においては、依頼者の目的に向かって必要となる全ての法的作業が依頼事項に含まれていると考えるべきだ。明示的な質問がなされた場合であっても、弁護士は依頼者がなした質問ではなく、なすべき質問を再設定し、それについて回答する必要がある。私が以前アメリカ企業の法務部長(ジェネラルカウンセル)から受けた印象的な質問がある。それは、「もしも君が私と同じポジション(ジェネラルカウンセル)であったならば、知っておくべき日本の法律やビジネスのトレンドを教えて欲しい」というものであり、あるいは、「俺の質問を考えるのがお前の役目だ」というものだった。

 第八に、弁護士は、法律事務はビジネスの目的達成のための手段でしかないことを常に認識する必要がある。手段に気を取られすぎると、不必要に複雑な法律構成や契約にとらわれるおそれもある。本末転倒であり、依頼者にメリットをもたらさない。

 第九に、弁護士は、コミュニケーション力に欠けている。弁護士になるのに法律の勉強は必要だけれども、それを超えたコミュニケーション力が試験科目に含まれているわけではない。法律の勉強に時間を割くことにより知識バランスが偏ったり、過度に理屈っぽくなったりするかもしれないし、他の人生経験に費やす時間が少なくなったかもしれない。また、書き言葉はわかるけれども、話し言葉が分からないという弁護士もいる。書き言葉は自分の時間をつかって対処することが可能であるけれども、話し言葉は目の前に相手がいるわけだからそういうわけにはいかない。書き言葉の明瞭性は最低限必要だと思うが、実際には、重要なことは会議や電話におけるとっさの言葉の中に含まれているものだから、書き言葉が明瞭だからといって救済されるわけではない。

 弁護士の言葉が依頼者にとって理解しづらい理由は、これらの他にもたくさんあると思う。例えば、私の場合、若いころから「話すのが速すぎる」、「話題が飛びすぎる」と言われ続けてきた。自分で意識しているときはある程度はコントロールできているのではないかと思うのだが、すると、かえって話がくどくなっているかもしれない。それぞれの弁護士が自分の言葉のクセというか難点を持っているわけで、それらは個性にもつながる。弁護士は自分の言葉を常に見直してみるとよいのではないだろうか。話し言葉と書き言葉のいずれであれ、言葉は常に弁護士の最も重要なツールである。

伊藤 哲哉(いとう・てつや)

 1991年3月、東京大学法学部卒。1993年4月、司法修習(45期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。1997年、米国University of Washington (LL.M.)修了。1997~1998年、英国ロンドンのSlaughter and May法律事務所勤務。1998年、ニューヨーク州弁護士登録。1999年1月、当事務所復帰。2002年、当事務所パートナー就任。2010年4月から京都大学大学院法学研究科非常勤講師。
 著書に「開発型証券化のマニュアル作成に関する検討業務報告書」 (開発型証券化研究会委員) (2003年)、"M&A Debt Financing - the preferred financing tool" (The Euromoney International Debt Capital Markets Handbook 2005)、"Japan REITs: Legal & Regulatory Framework Summary"(Asialaw September 2005)、「金融商品取引法の証券化取引への影響」(旬刊経理情報 No.1123、2006年7月20日号)(共著)、「投資事業組合に関する新たな会計基準の金融機関によるファンド投資に与える影響」(共著)(金融法務事情 No.1777 2006年)、「運営の適切性を保つための諸問題(ガバナンス面)」(旬刊経理情報 No.1141 2007年)、"The Projects and Construction Review, 4th Edition (Japan Chapter)"(Law Business Research Ltd., 2013)(共著)がある。

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