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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

弁護士事務所の経営統合の当事者になってみて

石原 坦(いしはら・ひろし)

M&Aの当事者となってみて
 ~AMTとBSMAの統合に関する雑感~

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 石原 坦

 新生AMTの誕生

拡大石原 坦(いしはら・ひろし)
 1997年3月、東京大学経済学部卒。2000年4月、司法修習(52期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、西村総合法律事務所入所。2005年5月、米コロンビア大学法科大学院(LL.M.)修了。2005~2006年、米国ロスアンジェルスの法律事務所で勤務。2010年1月、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所。2012年4月、パートナー就任。2015年4月、統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所にパートナーとして参画。
 まず簡単に自己紹介させて頂くと、私は2000年4月に弁護士登録し(司法修習の期でいうと52期)、弁護士業務に約15年間携わっている。司法修習終了後に日本の大手法律事務所に就職し、米国ニューヨークでのロースクール留学後、大手米国法律事務所のロスアンジェルス・オフィスでの研修を経て、日本帰国後にビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)(以下「BSMA」という。)に入所したが、2015年4月1日をもって、BSMAとアンダーソン・毛利・友常法律事務所(以下「AMT」という。)が統合した結果、再び日本の大手法律事務所であるAMTで働くことになった。

 弁護士としての専門分野はM&Aをはじめとする企業法務、特に外国企業と日本企業が関係するクロスボーダー案件を幅広く扱ってきたため、仕事上、依頼者のためにM&Aに関するアドバイスをする数多くの機会に恵まれた。
 もっとも、弁護士業務では依頼者が主役であり、弁護士は客観的な立場から依頼者の立場・リスクを分析し、その意思決定や目的の実現を助ける立場であるため、AMTとBSMAの統合のように自分がM&Aの当事者になるというのは極めて貴重な経験であった。

 そこで、統合当初の新鮮な記憶が消える前に、法律事務所の統合の当事者となってみて感じたことを、雑駁に綴ってみたい。なお、本記事に関する内容は全て筆者の私見であり、所属する法律事務所その他の関係者の見解ではないことは言うまでも無い。

 統合によるシナジー効果

 法律事務所に限った話ではないが、複数の企業体が統合するのは、統合により単独で活動するよりも大きな効果が得られるからである。
 AMTとBSMAの場合、統合以前から仕事を通じた事務所間の人的交流があったが、今回の統合により、少なくとも、①規模の拡大、②専門分野の補完、③異文化の融合、による統合効果が期待できるのではないかと思う。

 まず規模の拡大という点であるが、日本の法律事務所はその所属する弁護士数により「4大事務所」といった分類をされることが多いが、多くの弁護士が所属する法律事務所は一つの「ブランド」を形成し、依頼者やロースクール生からの信頼や安心感に寄与するとともに、大型案件の迅速な処理を可能とし、多数の案件を通じた知識・経験の蓄積により、最先端のノウハウが溜まりやすいという利点がある。
 私自身も統合後に所内でマニアックな分野やマイナーな国の法律に関する質問をしたことがあるが、何らかの回答やヒントが得られることが多いのに驚かされる。

 また、専門分野の補完という意味では、例えば、AMTが得意とするファイナンスの分野に、BSMAの事業再生が加わることにより、金融機関を中心とした依頼者に対して、ローンやファンドの組成といった金融商品の誕生から、危殆状態の貸付先の再生や資金回収といった、あらゆる場面に応じた一気通貫のサービス提供が可能となる。事務所経営の観点からも、好景気に盛り上がるプラクティス(金融取引やM&A)と不景気に活発となるプラクティス(事業再生や倒産手続)のポートフォリオを組むことにより、景気の変動に影響されにくい安定経営が実現できることは望ましい。

 さらに、個人的には、異文化の融合による体質強化という点も挙げられるのではないかと思う。チャールズ・ダーウィンの名言を俟つまでもなく、激動の時代において生き残るのは「変化に最も対応できる者」であろうが、AMTとBSMAという異なる発展過程や企業文化を有する法律事務所に所属する多種多様なキャリア・専門を有する弁護士が融合し、相互に知恵を出し合うことにより、激変する社会において日々新たに生じる法的問題にも柔軟に対応しやすくなる。

 法曹界を見渡しても近年の労働環境の変化には目を見張るものがある。ロー・スクール制度による弁護士数の増加、規制緩和による外資系法律事務所の増加に加え、弁護士事務所の法人化やそれに伴う国内外における複数オフィスの開設、ノートPC・タブレット・スマートフォンによるリモート・アクセスを通じた所外勤務等、2000年当初からの変化は枚挙に暇がない。
 こうした激動する競争社会において生き残っていくためには、金太郎飴のような均質な弁護士による紋切り型の遣り方だけでは通用せず、異なるバックボーンを持つ多彩な弁護士の活躍が望まれるところである。

 私自身も、日本に留まらずアジア各国における法律やプラクティスの遣り方や、そこで働く弁護士の考え方・価値観により、新たな刺激を受ける機会が多い。先日、AMTのベトナム・ホーチミン・オフィスを訪問する機会に恵まれたが、アジア独特の熱気や成長を感じるとともに、そこで働く弁護士や現地駐在員の体験談や矜持を聞いて、法律事務所や日本企業のアジアにおける更なる発展の可能性を強く感じた。

 統合に寄せる期待 ~依頼者・事務所・弁護士等の更なる発展のために~

 統合から4ヶ月強が経とうとしている現在、BSMA時代の記憶は薄らぎ、恰もずっと前からAMTで働いていたかのような錯覚を覚えることがある。それは統合が円滑に進んでいる証左かも知れないし、幸いにして自分自身が新しい環境・変化に適応できているということかも知れない。しかし、統合の成否を判断するには時期尚早であり、新生AMTの真価が問われるのはこれからである。数年後に振り返った時、今回の統合が依頼者・事務所・弁護士等にとって有益であったと言えるためには、今後も各人の不断の努力が必要なことは言うまでもない。

 まずは依頼者にとって、統合によりAMTが事務所全体としてカバーする法領域や地域が拡大し、AMTの個々の弁護士が提供するサービスの質・スピード・多様性等に更なる磨きが掛かったと感じてもらえることが重要である。そのためには、「己を知ること」、即ち、AMT各オフィスに在籍する弁護士の得意分野や個性をお互いに把握し、依頼者のニーズに応じた分野・地域横断的なチーム編成を迅速に行う必要がある。先日、BSMA時代からの伝統行事であるHappy Wednesday(毎月1回水曜日に開催される所内懇親会)が開催され、大いに盛り上がったが、こうした企画もお互いを知る良い機会となる。

 そして勿論、法律事務所やその構成員である弁護士・所員等も統合によるメリットを享受できなければ意味がない。事務所全体としては、AMTによる日本の大規模事務所及びアジアの各拠点におけるオフィス運営の蓄積と、BSMAによる米国弁護士等とのGlobal Networkを活用したクロスボーダー案件の実績をベースに、欧米の一流事務所に伍するリーガル・サービスを提供し、弁護士個人としては、お互いのベスト・プラクティスを吸収して切磋琢磨し、更なる進化を遂げることを目指したい。
 私自身もこれまでは欧米中心のプラクティスに偏りがちであったが、これからはもっとアジアにも目を向けるべく、遅ればせながら中国語を勉強しようと考えている次第である(AMTでは英語のみならず、中国語の教師が所内で中国語を教えてくれる)。

 実際にM&Aの当事者になってみて感じた新鮮な気持ちを書き留めておいて、将来振り返ってみるのも一興かと思い、やや青臭い書生的なことを綴ってみたが、今回の統合を契機として、それぞれが与えられた役回りで新境地を切り拓き、依頼者の皆様と一緒に日本の明るい未来に貢献することができれば、望外の幸せである。

石原 坦(いしはら・ひろし)

 1997年3月、東京大学経済学部卒。2000年4月、司法修習(52期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、西村あさひ法律事務所(前 西村総合法律事務所)入所。2004年3月、慶應義塾大学法学部卒。2005年5月、米国Columbia University School of Law(LL.M.)修了。2005~2006年、米国ロスアンジェルスのKirkland & Ellis法律事務所勤務。2006年5月、カリフォルニア州弁護士登録。2006~2007年、日本銀行出向。2007年6月、ニューヨーク州弁護士登録。2010年1月、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所。2012年4月、パートナー就任。2015年4月、統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所にパートナーとして参画。
 これまでの書籍・論文に「スパンション・ジャパン更生事件における史上初の更生担保権者委員会の活動について-日米両倒産手続に積極関与して成果を挙げた事例-」(『ザ・ローヤーズ』第8巻第4号、共著、2011)、「アメリカ契約法の重要ポイント 第1回 米国法体系」(Lexis AS ONE(日本法・判例・行政情報データベース))(共著、2015年4月1日)、「M&A実務の基礎」(商事法務、共編著、2015年5月)などがある。

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