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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

米ナッシュビルと英ロンドンの法科大学院で学んで

上田 潤一(うえだ・じゅんいち)

英米ロースクール比較

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
上田 潤一

 1. はじめに

拡大上田 潤一(うえだ・じゅんいち)
 2001年3月、東京大学法学部卒業。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国Vanderbilt University (LL.M.)修了。2013年6月、ニューヨーク州弁護士登録。2013年11月、英国University College London (LL.M.)修了。2015年1月、当事務所パートナー就任。
 私は、2011年の夏から2012年の夏までの1年間、米国テネシー州のヴァンダービルト・ロースクール(Vanderbilt Law School)(VLS)に留学してLL.M.(法学修士)コースを受講し、その後、同年の秋から2013年の秋までの1年間、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)(UCL)に留学してLL.M.コースを受講した。私が所属する法律事務所は、いわゆる「渉外事務所」であり、私の周りにも海外のロースクールやビジネススクールに留学した経験を持つ弁護士は数多くいるが、日本以外の2か国のロースクールに留学した例はあまり聞かないように思う。

 そこで、私の留学先であるVLSとUCLについて比較してみることは、特に、これから英米のロースクールに留学することを検討しておられる読者にとっては、留学先選考の一助にはなるのではないかと思う。もっとも、英米のロースクール全般について比較分析することは、到底私の能力の及ぶところではない。この記事における比較の対象は、あくまでも私の留学先であるVLSとUCLに限られるのであって、その両校の比較も、私の狭い見識と少ない経験に基づくものであることをご容赦頂きたい。とはいえ、英国から帰国して約2年が経ち、当時の記憶も薄れつつあるので、私自身の備忘も兼ねて筆を執った次第である。

 2. 授業の形式について

 英国と米国は、いずれもコモン・ロー(common law)の国である。このコモン・ローという概念は、非常に多義的であるが、誤解を恐れずにいえば、制定法(法典)ではなく判例法を中心とする法体系を指す。もちろん、コモン・ローの国にも制定法は存在するが、判例法が法体系全体に占めるウェイトは、制定法を中心とする法体系の国(日本もこれに属する。)と比較して相対的に大きく、英米のロースクールの授業でも、多くの時間が過去の判例の分析や検討に充てられることになる。

 VLSでは(少なくとも、私が受講したほぼ全ての科目では)、米国の他のロースクールの多くと同様に、「ソクラテスメソッド」と呼ばれる授業の形式が採られていた。このソクラテスメソッドは、19世紀にハーバードロースクールのクリストファー・コロンブス・ラングデル(Christopher Columbus Langdell)教授が考案したモデルが全米のロースクールに広まったものといわれており、講師が学生に対して一方的に知識を伝授する講義形式ではなく、講師が個々の学生に次々に質問を投げかけ、その質問に回答させていく問答形式で授業が進められる点に特徴がある。

 他方、UCLでは、講義形式が広く採用されていたように思う。中にはソクラテスメソッドを取り入れている授業もあったが、それも厳密な意味でのソクラテスメソッドではなく、講義と講義の合間に教授が学生に質問し、回答させるといった、ソクラテスメソッドの「亜種」(といったら語弊があるかもしれないが)のようなものであった。

 どちらの授業形式が良いかは、学生個人の好みや語学力等によるところが大きいとは思うが、私の個人的な感想としては、ソクラテスメソッドは講師や学生の質によるところが大きい。講師の側に授業をコントロールして学生に活発な議論を行わせる力量がなければ、また、学生の側に講師の質問に臨機応変に答えられる知識量がなければ、上手く機能しない方法であるように感じた。

 3. 授業の内容について

 次に、授業の内容についても簡単に触れておきたい。VLSでは、私を含め米国外からの留学生等を中心とするLL.M.コースの学生と、米国の学生(今後の米国の法曹界を担う若き弁護士の卵たちでもある。)を中心とするJ.D.コースの学生が机を並べて授業を受けていた。米国では、所定のロースクールのJ.D.コースを修了すれば、基本的に全ての州で司法試験を受験する資格を得ることができるが、LL.M.コースを修了した場合にも、ニューヨーク州、カリフォルニア州等、幾つかの州で司法試験の受験資格を得ることができる。もちろん、外国人が司法試験に合格したからといって、実際に米国で法曹実務家として活躍できるかどうかは別問題であるが、いずれにしても、そのスタートラインに立つ資格は与えられる。そのため、VLSは、将来の法曹実務家の養成所としての色彩が強く、その内容も比較的実務に近い内容であった。特に、VLSは、会社法、知的財産法等の分野に強く、会社法の科目では、具体的な事例を交えて取締役の責任、株主の権利、M&A等を学ぶことができた。

 これに対して、英国の弁護士資格は、バリスタ(法廷弁護士)とソリシタ(事務弁護士)に分かれているが、英国の法曹養成のカリキュラムは、LL.M.コースとは基本的に区別されており、英国のロースクールでLL.M.コースを修了したからといって、司法試験の受験資格が得られるわけではない。そのせいかどうかは分からないが、UCLでの講義は、VLSと比較すると、実務よりも理論に重点を置く傾向が強かったように思う。また、UCLでは、英国法の科目だけでなく、EU法の科目も用意されていた。特に、UCLは、人権法等の分野に強く、欧州における労働基本権等、日頃あまり馴染のない分野に触れる機会が得られたことが大きかった。

 VLSとUCLの授業内容のどちらが良いかは、学生の興味や関心によるところも大きいので一概にはいえない。ただ、英国の場合は、所定の国の法曹資格を有している場合には、ソリシタの資格を得るための試験(トランスファー・テスト)を受験することが可能になったが、この試験を受験するために英国のロースクールに通わなければならないわけではないので、その意味で留学と法曹資格とは連動していない。他方、米国の場合には、ニューヨーク州、カリフォルニア州等の司法試験を受験して、合格すれば弁護士資格が得ることができ、その資格を留学後のキャリアにも活かすことができる。この点は、英国留学と比較した場合の、米国留学の大きな魅力の一つであろう。

 4. LL.M.コースの規模や学生の構成について

 LL.M.クラスの規模は、ロースクールによって区々だが、VLSのLL.M.コースは、約40名の学生が在籍する比較的小規模なものであったのに対し、UCLのLL.M.コースは、約300名の学生を擁する大規模なものであり、それぞれの特徴を垣間見ることができて非常に興味深かった。また、学生の出身国についても、ロースクールや年度によって異なるとは思うが、VLSはアジアや中南米からの留学生が多かったのに対して、UCLは大陸欧州諸国や英連邦加盟国の出身者が多かったように思う。

 5. おわりに

 留学先を選ぶ際には、以上のほかにも、ロースクール自体の評判や、教授陣、授業科目等、様々な要素を考慮することになろう。また、海外のロースクールに留学する場合には、当然のことながら海外で生活することになるわけだから、その土地の治安、利便性、物価水準等も考慮する必要がある。

 さて、それでは、最後に米国への留学と、英国への留学を迷っている友人や後輩がいるとして、どちらを勧めるかを問われれば、諸般の事情を総合的に考慮して判断すべし、と答えになっていない回答をしてお茶を濁すであろう。では本音はどうか?私が留学について語るとき、ナッシュビルという、サザンホスピタリティ溢れる米国南部の中規模都市への留学よりも、ロンドンという、世界に冠たる英国の首都への留学に興味や関心を示す人が多いし、確かにロンドンという街の魅力には抗し難いものがあるのも事実である。しかし、帰国して約2年が経過した今、留学生活を振り返って懐かしく思い出されるのは、秋冬のロンドンの陰鬱な曇り空ではなく、からっと晴れ上がった米国南部の青空であることもまた否定し難い。

上田 潤一(うえだ・じゅんいち)

 2001年3月、東京大学法学部卒業。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国Vanderbilt University (LL.M.)修了。2013年6月、ニューヨーク州弁護士登録。2013年11月、英国University College London (LL.M.)修了。2015年1月、当事務所パートナー就任。
 「フランチャイジーの「労働者」性」(ビジネス法務2011年5月号)(共著)、「相談室Q&A 自然災害発生による緊急時に出社要請に応じなかった社員を懲戒処分できるか」(労政時報 No.3879 2014年12月12日号)などの論文がある。

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