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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

弁護士業を一時休職して「ハイジの国」スイスに暮らす

伊藤 直子(いとう・なおこ)

ハイジの国 ~スイス滞在記~

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
伊藤 直子

 1. はじめに

拡大伊藤 直子(いとう・なおこ)
 2000年3月、東京大学法学部卒。2001年10月、司法修習(54期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2006年6月、米国Harvard Law School(LL.M.)修了。2007年4月、当事務所復帰。2012年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。現在、弁護士会の登録を一時抹消中。
 弁護士になって13年目に入った2013年から、弁護士業は一時休職し、夫の転勤に伴い、家族でスイスに住んでいる。
 スイスと聞いて、まず思い浮かんだのは、アルプスの美しい山々に羊や牛が戯れる絵葉書のような風景。世代がばれてしまうが、そう、まさにアルプスの少女ハイジの世界である。ただ、それは遠い昔のイメージにすぎないのだろうと思っていた。しかし、実際には、今でもスイスの各所でハイジのイメージ通りの広大な自然が堪能できる。
 我が家は、チューリッヒに次ぐスイス第2の都市であるジュネーブの郊外であるが、一歩入れば、牛や馬、羊が戯れる牧草地が広がっている。そのように観光客の期待を裏切らないスイスは、日本からも旅行先として人気がある。しかし、実際に住んでみて、アルプスの観光だけではないスイスを知ることができたので、あくまで個人の感想であるが、スイスの生活などについて少し紹介させていただきたい。

 2. 多言語国家 ~英語は世界の共通語?~

拡大夏のマッターホルン=筆者撮影
 スイスでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語及びレトロマンシュ語が憲法に「国語」として規定されている。各カントン(州)により公用語が異なり、筆者が住むジュネーブ州は、フランス語が第一公用語とされている。スイス全体では、ドイツ語圏人口が6割以上を占め、2番目のフランス語圏は全体の2割程である。ジュネーブは、国連欧州本部をはじめとして国際機関が集まっている都市であるため、比較的英語も話せる人が多いし、観光地では英語でなんとかなるが、日常生活ではフランス語ができないと不便なことも多い。街中の表示は当然フランス語であるし、ドイツ語やイタリア語は話せても英語は話せない人も少なくない。個人的な印象であるが、この点、同じスイス国内でもドイツ語圏の方が英語を話せる(そして英語での会話に応じてくれる)人が多いと感じた。また、お店で販売されている製品の説明表示には、どんなに小さな製品でも少なくともフランス語とドイツ語の表示があるが、さらにイタリア語の表示があっても、英語はあまりお目にかかれない。他方で、多言語を流暢に話せる人もおり、7か国語話せる子供に遭遇したりする。

 3. 食文化 ~ワインとチーズで至福のとき~

拡大ジュネーブ近郊のチーズの里「グリュイエール」=同上
 スイスといえば、チーズやチョコレートが有名である。さすがにその名声の通り、チーズやチョコレートは、物価高のスイスでも安価で美味しく、種類も実に豊富である。他方、日本であまり知られていないのが、スイスワインである。スイス各地でブドウ畑が広がり、年に一度の一斉蔵出しの時期にはワイナリーが集まる地区に大勢の人が訪れ、お祭り騒ぎとなる。スイス人はワイン好きで、一人当たりの年間消費量は日本人の約20倍だそうだ。しかし、スイスワインは、そんなワイン好きのスイス人に国内で消費されてしまうため、ほとんど輸出されない。日本では手に入りにくいスイスワイン、スイスに来たら是非味わってみて欲しい。ワインと相性の良いチーズフォンデュやラクレットなどのチーズ料理も欠かせない。また、フランス語圏では「食」においてもフランスの影響が強い。そのため、スイス特有の料理のほかに、日本人が「フランス料理」と考えるような食事が日常的である。日本ではなかなか庶民の食卓には並ばないフォアグラや鴨なども、どこのスーパーでも手に入る。また、日本食も人気が高く、お寿司もスーパーに並んでいる。ただし、日本人の舌からすると、「お寿司に似て非なるもの」であることが多い。外食については、スイス人の外食に対する考え方が、日本とは少し異なるように思う。物価高のスイスでも、特にレストランは高くつくし、サービスが遅いことが多い。日本では色々な意味でコストパフォーマンスが悪いと評価されそうなレストランも、ここでは生き残っているのであるから、期待するものが違うのであろう。特に、子連れには選択肢が限られ、いわゆるファミレスのようなファミリー向けのレストランはほとんどない。子供向けメニューがあるレストランでも、ほかのメニューに比べて著しく見劣りする内容であったり、子連れにアピールしようという発想はあまりないようである。スイスのレストランは、大人がワインを飲みながらゆっくり特別な時間を楽しむ場所というのが基本で、子連れや手軽な食事を済ませたい人はファーストフードなどが無難なようである。もっとも、夏になると多くのレストランがオープンテラスの席を出し、屋外での食事が楽しめる。多少肌寒い時期になっても、スイス人は外の席を好み、スイスの短い夏を惜しむかのようである。普段は子連れには敷居が高いレストランでも、オープンテラスの開放的な席なら比較的入りやすい。

 4. ライフスタイル ~日曜日は洗濯禁止~

拡大マッターホルンの麓「ツェルマット」=同上
 スイスでは、日曜日には洗濯や芝刈り機の使用などが禁止されている。日曜日はほとんどの店舗も休みで、日曜日は、教会に行ったり、静かに家族と過ごせる休息日という考え方が徹底されているようである。また、父親も学校のイベントに積極的に参加するなど、育児や家族と過ごす時間が多い。我が家の子供たちはインターナショナルスクールに通っており、インターナショナルスクールの特殊性もあるかもしれないが、母親が仕事を持ち、専業主夫という家庭も少なくない。父親も仕事をしていても、午後3時などのお迎えに毎日父親が来ている家庭も相当数あった。日本では、母親の役割とされているようなことも、スイスでは、夫婦で分担したり、子供にさせたり、母親の負担が少ない。そのことも、女性が仕事を続けやすい環境をもたらしているようである。例えば、お弁当は、大人用も子供用も極めて簡素だ。パンに具が挟んであるサンドイッチはまだ手を掛けている方で、フランスパンとチーズ、またはパック入りのハムをそのまま持っていき、自分でパンに挟んだりする。ここで、日本の「キャラ弁」や愛妻弁当を批判するつもりは毛頭なく、筆者も実際は日本式のお弁当を作る毎日である。しかし、限られた時間の中で何を優先すべきかというライフスタイルの問題については考えさせられるところがある。

 5. 終わりに

 なお、この滞在記も、筆者が2年余りの滞在で見聞きした極々一部のスイスやスイス人の生活を、筆者の目から見て書いたものに過ぎない。そのため、偏見や誤解もあり得るものであることをご容赦いただきたい。ただ、筆者は、スイスに来る前は、アメリカやオーストラリアに留学したり、業務上も英語圏のクライアントと接することが多かったのであるが、今回、他の欧州の国々への旅行などを含めたスイス滞在を通じて、英語圏以外の文化の多様性も実感することができた。日本では、「欧米では」と一括りに言われることがあるが、「欧」と「米」の多様な民族、言語、文化の中で、「一般的に」言えることなどないのではないかと感じた。筆者が、今後、海外の顧客や案件を扱う際にも、ステレオタイプな偏見にとらわれないように気を付けたい。

伊藤 直子(いとう・なおこ)

 2000年3月、東京大学法学部卒。2001年10月、司法修習(54期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2006年6月、米国Harvard Law School(LL.M.)修了。2007年4月、当事務所復帰。2012年1月、当事務所スペシャル・カウンセル就任。現在、弁護士会の登録を一時抹消中。
 論文に「アライアンスの法務リスクと対処法」(「旬刊経理情報」 No.1226 9月20日号)、「米国におけるM&Aおよび投資に影響を及ぼす最近の動向」(「月刊 ザ・ローヤーズ 」 2013年4月号)がある。

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