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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

「お金に色はない」と分かってもらうことに法律家としての責任を感じるとき

梅津 立(うめづ・りゅう)

お金に色がない話

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 梅津 立

拡大梅津 立(うめづ・りゅう)
  1989年3月、東京大学法学部卒業。1991年4月、司法修習(43期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2000年1月、当事務所パートナー。専門は資本市場取引、ファイナンス取引。国内、国外のIPO・上場案件や株式・社債の募集・売出し案件を多く手がける。
 企業や個人事業主が銀行から事業性資金を借りるとき、多くの場合は資金使途が貸付の約定書に書かれる。企業が社債を公募するときも、「発行手取金の使途」を有価証券届出書、目論見書で開示する必要がある。内容としては、設備投資(資本支出)、運転資金(一般事業目的)、借入金(社債)返済、などである。

 現実に起きたことをベースに一例をあげる。A社が工場の工作機械を購入するため、B銀行に5000万円の借入を申し込んだ。B銀行の融資審査のために、購入する機械の内容や事業計画は当然必要になるし、貸付の約定書にも、工場設備購入のため、と借入の目的が記載される。無事審査がとおり、貸付が実行され、5000万円はA社の普通預金口座に入金され、もともとの口座残高と合わせて普通預金の残高は6000万円になった。機械の購入代金支払日は1か月先のため、A社は向こう1か月の想定キャッシュフローを検討のうえ、機械購入代金の支払には問題がないと判断し、普通預金口座から3000万円を人件費や製品の原材料購入費に使用した。

 すぐにB銀行の担当者から電話がかかってきて、「普通預金の残高が3000万円に減っています、5000万円は設備購入資金として貸しましたから、ただちに5000万円の残高を回復していただかないと、貸付の約定違反の債務不履行となり、銀行取引約定書に従い、他の貸付も含めてすべて返済していただくことになります。」と言われる。A社があわてて他から2000万円の短期借入をして5000万円の普通預金残高を回復すると、今度はB銀行は5000万円を通知預金として拘束した。

 さて、A社の行為は本当に約定違反だろうか?約定違反とは断定し難いと思う。B銀行は、貸付けた5000万円には「設備○○購入資金」という「色」がついて、普通預金口座に「色つき」で残っている、という感覚だ(「有色説」)。しかし正しい事実としては、お金には色はなく、一旦流動性のある普通口座に入金されたら、もはや他の出入金と峻別不能である。つまり借入によって発生した唯一の事実は、5000万円分の流動性が増加した、ということだけである。そしてこの増加流動性により、1か月後の機械購入代金の支払いができるならば、支払までの期間に流動性をどう管理しようと債務者の自由である。従って明確に融資目的の約定違反となるのは、貸付の目的に「使用しなかった」ことか、「使用できないこと」が確定し、あるいは確実な場合に限られるであろう。例えば、機械購入代金支払日に代金を支払えず売買契約を解除された場合や、1か月後の支払日に資金が不足することが明らかな状態で、他の流動性資金として使用した場合である。

 また、銀行にとって、貸付金見合いの普通預金残高の維持を求めたり、貸付金を通知預金で拘束したりする取引は、独占禁止法上の不公正な取引方法となる懸念がある。預金取引は、預金者にとっては銀行の信用リスクをとる取引であるにもかかわらず預金金利がほぼゼロであるため、銀行にとってはゼロリスクで貸付の利息を収受することになる。銀行は貸主として優越的地位にあり、これを利用して対価がマッチしていない不公正な取引の要求をしているおそれが生ずる。上記の例でA社は残高維持のために短期借入の利息も負担しており、対価の不均衡はさらに大きい。公正取引委員会は拘束預金について従来から問題意識を有していたが、預金ゼロ金利時代においては一層の注意が必要である。

 法学部の民法で特定物と不特定物の違いや、消費貸借(貸付取引)や消費寄託(預金取引)を学ぶとき、「お金に色はない」という大原則を教えられるから、法律を学んだ方にはよく理解できるのではないかと思う。一方で融資実務は有色説をベースにしてきたようなので、法律家が違和感を覚える場面は多い。

 海外企業は、借入や社債発行は流動性の増加以外の何ものでもないという感覚が非常に強い。私は日本で社債を公募する海外企業の代理人を多く務めている。企業開示府令やガイドラインに基づき、最近の金融庁(関東財務局)は手取金の使途を詳しく書くように指導するので発行会社と話すが、流動性はさまざまな形で確保したうえ、さまざまな債務の支払を実行しているので、特定の社債発行手取金の使途など分からない、と言われることが多い。誠にもっともで困るが、苦労しながら金融庁が納得する内容を作成して記載している。このように規制当局も有色説的だが、銀行の融資担当者とは異なり、証券監査官は財務諸表の数値への影響に関心があると思う。その点は理解可能だけど、開示内容として投資家に本当に重要な情報なのか、疑問がある。「流動性確保目的で、社債を発行する。」この一言で、社債投資家は十分納得できると思う。

 そんなわけで私は、「お金に色はない」ことをきちんと説明することに、法律家としての責任を感じている。

梅津 立(うめづ・りゅう)

 1989年3月、東京大学法学部卒業。1991年4月、司法修習(43期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2000年1月、当事務所パートナー。専門は資本市場取引、ファイナンス取引。国内、国外のIPO・上場案件や株式・社債の募集・売出し案件を多く手がける。

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