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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

弁護士は人工知能(AI)に取って代わられるか?

宮野 勉(みやの・つとむ)

AIと弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 宮野 勉

 1.弁護士はAIに取って代わられる?

拡大宮野 勉(みやの・つとむ)
 1986年3月、東京大学法学部卒。1988年4月、司法修習(40期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、現事務所入所。1993年6月、米国 Harvard Law School (LL.M.)。米国での勤務を経て1994年9月、現事務所復帰。1996年1月、現事務所パートナー就任。2013年4月から中央大学法科大学院 客員教授。
 先日、AI(Artificial Intelligence、人工知能)の研究者とお話しをする機会があった。
 彼によると、弁護士業は、真っ先にAIに取って代わられる職業だという。
 そのような議論は以前にも聞いたことがある。10年後に存在しない職種として、店舗のレジ係などと並んで弁護士を挙げた記事を読んだこともある。その記事には詳細な理由が書かれていなかったが、10年以内では自分もまだ現役のはずだ。ロボットに仕事を奪われて失業するのは大いに困る。

 2.弁護士の仕事とは

 そもそも「弁護士業務」として、AI学者がどのようなものをイメージしているのだろう。いまや一口に「弁護士」といっても、多様な専門に分化している。よって、一緒くたに「弁護士業」は無くなるなどという説は、大雑把過ぎて科学的ではないように思われるが、それはさておき、一般的な弁護士がやっている仕事というものを想定してみたときにはどうだろう。

 (1)依頼者の話を聴く

 弁護士の仕事は依頼者の話を聴くところから始まる。最終的には法的なアドバイスを求めに来ている依頼者でも、まずは法的な評価以前の「裸の事実」が語られる。多くの場合、現状に何らかの不満を抱いている人が依頼者となるわけで、その「不満」を受け止め、その段階で一定の納得感や安心感を与えることが弁護士業の第一歩である。
 自分の不満を機械に聞いてもらって慰められたとして、それで多くの人が納得する時代が来るのだろうか? 人間に対して話すのと同量のカタルシスを得ることはやはり難しくはないか。人間を相手に話して、人間が相槌を打ってくれるなどの反応(つまり、「共感」ということ。)を示されるからこそ癒されるという点も重要なのではないか。AIが取って代わる職業の中に「店舗やメーカーの苦情処理係」を挙げる記事も読んだことがあるが、その対応がいかに完璧でも、機械に応対されると「かえってむかつく」こともあるだろう(夫婦喧嘩で的確な反論をすることが、事態を悪化させるが如し。)。
 AIの目指すところは、むしろ人間との共感であり、そのために体温や人体における電気信号の変化を読み取る研究をしているという話は聞いたことがあるが、そこから人間同士と同等の共感がリアクションとして発現されるに至るまでには、相当の時間がかかりそうである。
 そもそも論として「共感」とは、「相手は自分の考えていることをわかってくれている」という自分の意識の投影、幻影、思い込みに過ぎないとも思われる。勿論、相手が人間だとしても共感等は幻影・錯覚であり、「相手」はそれを映し出すための媒介物に過ぎないという議論はありうる。しかし、生身の人間と AI(人の形をしているかどうかは別)を比べたとき、または、生身のペットと犬型ロボットを比べたとき、そのどちらが「わかってくれている」という幻影を見るために最適な媒介物なのか。大半の人々がAIやロボットを選択する時代は、当分来ないのではないか。

 (2)依頼者の話を整理する

 弁護士の仕事の重要な部分は、依頼者が持ち込んでくる未整理の事実や理解困難な文書(契約書の案文等)を自分なりに消化し、それを法的に再構成することである。筆者もロースクールの企業法務クリニック(実務演習)を担当していて、実際に依頼者から持ち込まれた事案をモデルに課題を作成しているが、そこに当てはめる法律知識について講義することはほとんどなく、事実整理が中心課題となる。つまり「依頼者は何を尋ねているのか?」の解明が中心となる。
 司法研修所の教育等で「要件事実」はマージャンにたとえられる。一定の法的効果が導かれるためにはA、B、Cという(要件)事実が揃わなくてはならず、牌は個々の要件事実で、それが揃ったときに導かれる法的効果が「役」だ。どの牌が揃えばどういう「役」になるかというのは誰でも分かる。また、牌はマージャン卓の上にあり、その場面で意味のある牌とそうではないものの区別も絵柄で分かる。しかし、弁護士の場合はそうは行かない。弁護士は、雑然とした事実の海から牌になる以前の材料になりそうなものを探して、自分で磨きをかけて役に立つ牌にしてゆかなくてはならない。また、そもそもどこに行けばその材料があるのかも自分で探さなくてはならない。
 恐らく、現状一般的に言われているAIにおいては、deep learningであれ、何かしら基本情報を外部からインプットすることは不可欠なようで、インプットされる情報は何でも雑多なものを放り込めばよいわけではなく、体系化可能なフォーマットにする必要はあるらしい。「牌」を中に投入すれば、最良の役を組み立てることはできるだろうが、「牌になるかもしれない材料」を入れただけで役を作るところまで辿り着くには、しばらくの時間的猶予があるように思われる。

 (3)法的な組み立て

 次に、法的に役に立つと考えて収集した事実を法的に構成しなくてはならない。この部分は、材料が揃ったうえでならば、膨大な先例の集積を持ったAIが得意とするところであるように思われる。もっとも、ある事実が法的構成にとって役に立つか否かを考える際には頭の中には出来上がりの法的構成のイメージがあって、それに沿って事実を集めるのだから、上記の(2)と、この(3)のプロセスは鶏と卵のような関係にあるともいえる。逆に言うならば、材料が揃えば「AIにお願いしなくても人間にだってできる」という話になるようにも思われる。
 また、裁判例をAIに大量にインプットすれば、この件ではこういう判決が出るはず、という精度の高い予測ができる、だから弁護士は不要という議論もされているようだが、実際の世の中では裁判にならずに解決されている事件が圧倒的多数であるし、裁判になっても、判決にまで至るのは紛争の中のさらに一部である。また、書かれて公表されている裁判例もすべてが一定のロジックで体系化できるようなものではないのが実情である。AIが裁判例を読み解いて、あるパターンの事件に適用されるロジックを導き出すことができるのかは、現状大いに疑問である。

 (4)損害賠償額の決定

 弁護士が受ける相談の中には様々なものがあるが、相手から金銭的な賠償を得て侵害された権利を回復するというものが多い。損害賠償額は、原告に主張・立証責任があるが、実際の裁判では、弁論主義の枠の中とはいえ、裁判官に大きな裁量が与えられている。もっとも、この分野は先例の集積によって、損害の各ファクターをプラス、マイナスのポイントのように積算することである程度の「相場」が形成されているのも事実で、あるべき損害賠償額のストライクゾーンを示すことは、AIの得意分野と思われる。しかし、最終的な金額の決定は人間がせざるを得ないのではないか。

 3.AIに取って代わられそうな分野

 (1)過払い金請求訴訟

 このように見てくると、確かに、弁護士の業務のいくつかの分野は、AIに取って代わられると思われる。例えば、最も端的な例として、過払い利息の返還請求のような場合、一定の事実(いつ、何パーセントの金利で幾らの金銭を借入して、今まで幾ら弁済したのか)を入力すれば、幾らの過払いがあるのかは計算できるし、AIの登場を待つまでもなく既にその為の計算ソフトが存在する。逆に言えば、技術的には弁護士でなければできない仕事としての性格付けが、既に疑問視されている分野でもある。むしろ、弁護士という「資格」の有無が主たる問題になっているに過ぎない。
 この分野の仕事は、既にピークを過ぎているし、今から10年後にはほぼ皆無ということになるであろうから、AIの発展との競争では、弁護士の「逃げ切り勝ち」ということになりそうだ。

 (2)交通事故

 比較的単純な交通事故の場合など、損害額の算定が相当程度標準化されているので、弁護士でなくとも算定は可能である。交通事故は今後10年経ってもなくなることはなかろう。これは、わざわざAIに代行してもらうほどの仕事であるようには思われないが、弁護士に頼むよりも安上がりならば、そちらに依頼が流れることになるだろう。

 (3)機械的なルールの当てはめ

 金融規制などで、複雑な法令・通達等を自家薬籠中のものとして、ある金融新商品の企画についてそれが現行法令に違反するかどうか、また、違反とされないようにするにはどうしたらよいか等というアドバイスを専門とする弁護士もいるが、その分野はデータの集積と法令等の網羅を実現するAIに取って代わられる可能性はあるように思われる。この分野は、洗練された金融機関が依頼者で、一般の民事紛争のように人間の情実が絡まりあっていたり、事実関係が不明確ということは殆んどない。実は、金融分野は弁護士業の中でも先端分野の一つなのだが、経験値という意味ではAIのデータ集積は確実だし、ルールの当てはめを正確に行うことについても人間は機械に敵わないことになる可能性がある。

 4.「資格」にのみ依存した業務の消滅

 このように見てみると、弁護士業務の中でも、特段の技能を要求されるわけでもなく、「弁護士」資格を持っているということだけで認められた特権的な領域の仕事については、AIが代行することも可能となることが想定され、また、きれいな事実が確定された上での法的な知識やロジックの当てはめをメインとする業務もAIに脅かされる可能性があるように思われる。
 そのうちで、前者の、弁護士が「資格」を持っているということのみでリザーブされている領域というのは、本来、弁護士法でいうところの「社会的正義の実現」のために高い倫理性が求められる(「倫理性を備えている弁護士」でない者が他人の紛争を食い物にしないようにする)領域と理解される。そのような倫理観に支えられているとされる領域を、AIが弁護士の代行として果たすことができるか。倫理というものが単に倫理規程(ルール)に従うということならば、勿論AIにも対応可能だろう。しかし、それを超えた何かが不可欠的に介在するとした場合、それが何であって、それがAIに対応可能なものなのかという点は、「倫理」というものの本質にかかわる問題であって興味深い。

 5.AI恐るべし

 上記で弁護士に取って代わるかどうかを検証している分野はAIでなくとも、大量のデータを集積したAI以前のコンピュータでも対応可能なものである。AIは、更に「その先」の世界のものであるらしい。上記分析の不十分さは、筆者のAIについての知識と想像力の貧困さの為せる業である。更にこの原稿を執筆する過程で、専門家のお話を伺うと、AIは人間と同等の感情を持ち得て、上記では対応できないだろうと述べていた「共感」の分野にも進出するのだという。そこに至るまでに、どの程度の時間を要するかについては大きく議論は分かれるが。
 しかし、「取って代わる」ところまで行かずとも、弁護士業のある特定の分野がAIに侵食され、またある分野が「弁護士でなくてもできる」ということが露わになって、弁護士の付加価値が減ずるということが徐々に起きることは不可避であろう(電卓が普及して暗算能力の付加価値が下がるようなもの)。
 無責任な言い方をするならば、自分のキャリアのタイムスパンの中で「逃げ切れるか」が当面の大きな課題となりそうだ。我々は、「古きよき時代」を謳歌した弁護士ということになるのだろうか(なれるのだろうか)。

宮野 勉(みやの・つとむ)

 1986年3月、東京大学法学部卒。1988年4月、司法修習(40期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、現事務所入所。1993年6月、米国 Harvard Law School (LL.M.)。1993年6月から1993年8月まで米国サンフランシスコの Bechtel Corporation に勤務。1993年9月から1994年8月まで米国ニューヨークの Cravath, Swaine & Moore 法律事務所勤務。1994年9月、現事務所復帰。1996年1月、現事務所パートナー就任。2004年、財務省委嘱研究会「集団行動条項を巡る国内法制上の論点に関する研究会」常任委員。2005年7月から2007年3月まで中央大学法科大学院 兼任講師(非常勤講師)。2007年4月から中央大学法科大学院 客員講師。2013年4月から中央大学法科大学院 客員教授。2009年7月から2009年11月まで、あおぞら銀行 インサイダー取引事件第三者委員会委員。
 著書に「事業再編と倒産防止の法実務 建設業者を中心として」(2003年、清文社)、「連鎖倒産防止マニュアル」(2003年、清文社)。論文に「継続的契約の解消を巡る問題点」(会社法務A2Z 2015年8月号)、「注目裁判例研究 取引2」(日本評論社「民事判例Ⅸ 2014年前期」、2014年10月)、「第三者委員会における現状の問題点と今後の課題」(会社法務A2Z 2014年7月号)、「企業不祥事における第三者委員会の問題点と今後の課題 第三者委員会を経営者の「鏡」とすべし」(月刊ザ・ローヤーズ 2013年12月号)(共著)、「ソブリン・サムライ債における集団行動条項」(ジュリスト第1252号)、「社債、組織再編Ⅰ(第676条~第802条)」(共同執筆担当、第一法規出版株式会社「論点体系 会社法5」、2012年1月)、「注目裁判例研究 取引1」(共同執筆担当、日本評論社「民事判例 IV 2011年後期」、2012年4月)、「日本版クラスアクション」(建設業の経理 2013年)、「継続的取引契約の解消」(同 2012年)、「利益相反取引」(同 2012年)、「「コンプライアンス」について」(同 2011年)など。

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