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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

起こり得る「困ったこと」=「リスクイベント」をどう想定して契約に盛り込むか

寺﨑 玄(てらざき・まこと)

Jリーグサポーターである私と契約の中の「リスク」

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 寺﨑 玄

拡大寺﨑 玄(てらざき・まこと)
 2004年3月、東京大学法学部卒。2006年3月、 東京大学法科大学院修了(法務博士 (専門職))。2007年12月、司法修習(60期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)。2008年1月、当事務所入所。2008年10月から2010年3月まで東京大学法科大学院非常勤講師。2011年12月から2013年6月まで国土交通省航空局に出向。2013年8月、当事務所復帰。
 おかげさまで多忙な日々を過ごしている私にとって数少ない趣味の1つがサッカー観戦である。日本代表も海外サッカーも嗜むが、私が最も時間と労力を費やしているのはJリーグ観戦、特に自分がサポートするジェフユナイテッド市原・千葉(以下「ジェフ千葉」)の試合をスタジアムで観戦することである。

 ジェフ千葉は自分の地元でもなく、また国内の2部リーグであるJ2リーグに所属している。(それなのに)なぜ応援しているかといわれると、当初のきっかけとしてはイビチャ・オシム氏(のちに日本代表監督になる)が指揮をとっていたころのジェフ千葉が強く、また見ていてワクワクするサッカーをしていたことである、ということになる。しかし、その後、同氏が日本代表監督に就任し(その後体調不良により辞任)、チームはJ2に落ち、かれこれ2部暮らしも7年目になり去年は過去最低順位でフィニッシュし、それでもまだ応援しているのはなぜかと問われると、自分でもよくわからない。アウェイゲームの観戦に何時間も電車を乗り継いでたどり着き、ときには大雨の中震えながら、手も足も出ずに相手チームにコテンパンにされる試合を見て、何度も幻滅させられながらも、結局またスタジアムにウキウキで戻ってきてしまう自分が自分でよくわからないときもある。

 チームの3分の2が新加入?

拡大ジェフ千葉のホームグラウンドであるフクダ電子アリーナ(「フクアリ」)。サッカー専用の球技場であり、国内最高レベルのスタジアムと自負している=著者撮影
 さてそんな私の愛するジェフ千葉だが、最近、少し大きなニュースとして取り上げられたのでスポーツに興味のある方の中には記憶のある方もいるかもしれない。なんと、去年のチームの選手の約3分の2にあたる24人が退団し、代わって19人が新たにチームに入団することになったのである。あわせて43人。あと5人くらい足せば会いに行けるアイドルになれそうな規模である。これはスポーツ界広しといえど、非常に異例といってよいことと思われる。その原因は色々とあるのであろうが、チーム強化担当者のコメントを引用したニュースによれば、1つのポイントが選手との契約に端を発する財政問題にあるとされていた(注1)

 一般に、サッカー選手との契約の場合、既に契約期限が来ている選手を獲得するためには、(選手に対して支払う年棒が必要であることは当然として)獲得自体には補償金等は発生しない。しかし、契約期間中の場合、前に所属しているチームに対して残りの契約期間等を踏まえた移籍金を支払うことになる。この「移籍金」が財政を圧迫していた、ということが記事の内容である。

 契約期間の長さとその中で起こりうること

 サッカー選手の契約に限らず、一般的に言っても継続的契約の契約期間の設定は基礎的な項目でありつつ非常に難しい要素である。契約を締結する、ということは(語弊を恐れずに言えば)お互いの「やること」(選手であればチームのために試合に出ることと、チームであれば選手に年棒を支払うこと)の内容を「固定」してしまうということである。1年間の契約であれば、その時の活躍度合いに応じて設定した年棒その他条件が、実際にその選手がもらうにふさわしい金額と大幅にずれるということはないだろう。しかし、これが5年となると話が違ってくる。1年目のプロになりたての選手が、いつのまにか日本代表にも選ばれるような中心選手としてチームに大きな貢献をしているかもしれない。その時に1年目の選手の年棒でよいのか、ということになる。逆もあるだろう。バリバリの主力だった選手が、大けがをした、不調に陥った、犯罪行為を行ってしまった、といった様々な原因が発生したときに、この選手にこの金額の年棒を払い続けることはできない(そもそも解雇したい)、と考えることもあるだろう。

 冒頭の移籍金というものもそのような契約の中の仕組みの1つである。本来であればまだ契約期間がある以上、引き続きAというチームに所属するべきであるところ、その選手がどうしても欲しいBというチームが出てきた場合に、Aが「●円もらえるなら契約を終わらせてBと契約させてあげていい」と判断すれば、契約途中でも終了させることが可能なのである。もっと賢い(?)選手になると、自分が活躍したときに他の大きなチームから声がかかることを見越して、「●円の移籍金を払う他のチームが出てきたら、移籍させてあげなければならない」ことを契約に書いておくということもありうる。

 このように期間の長い契約は取り扱いが難しい。しかし一方で短い契約期間では、有望な選手はより強い、よりお金を持っているクラブにすぐに移籍してしまう。これが悩みどころであり、ジェフ千葉の場合も将来有望な選手を涙をのんで見送ることになったケースは一度や二度ではない。なので「きっとこれから活躍してくれるはず!」という選手とは長期の契約を結んで、いつまでもクラブにいてもらう、最悪でも移籍金をクラブに落として去って行ってもらいたい、というのが1サポーターの願いなのである。

 このように特に長期の契約の場合に、「起きたら条件を変えないといけない(と思われる)こと」を法律の世界では「リスク(イベント)」と呼んでおり、このリスクが起きた時の対応をいかに予め定めておくか、というところが契約ドラフティングにおいては非常に重要なポイントである(※一般的には「リスク」というと「危険なこと」というイメージがあるかと思うが、そのような一般的な用語としての使い方とは少しニュアンスが異なる。)。これには、先ほど述べたような「他チームの移籍金」「大けが」といったことも考えられれば、「チームが2部に降格したとき」「年間30試合以上出られなかったとき」といった、さらに具体的な条件にすることも考えられる。

 「リスク」を見つけ出せ!

 サッカーの話題を少し離れて、私の専門の1つは、空港、道路といったインフラ運営や、宿舎、病院、水族館といった建設工事にかかわる法務(注2)だが、そうした場合も話は同じである。特にインフラの場合には近年の民間委託の流れの中で、公共と民間が長期契約を締結する例が多い。そのような長期の契約の場合には前述の「リスク」として何があるか、そしてその「リスク」が発生した時にどうするかということを契約に盛り込まなければならない。例えば、宿舎なら入居者数があまりに少なくて採算が取れなかったら損害は誰が補填するのか、病院なら建て替え中に入院患者さんに何か影響が起きたらどの範囲で誰が責任をとるのか、等々である。

 これは簡単のようで意外と難しいことである。「リスク」はその対象物とその背景にある事業のことをよく理解し、「どういう困ったことが起きる可能性があるのか」ということを知らなければ、そもそもリスクとして挙げることはできないからである。その対象のことをよく知る当事者に話を聞くというのが1つの手であるが、普通の人は「うまくいくこと」を頭において考えるので、「困ったこと」に思いが至らない場合が多い。

 したがって、事実を把握したうえで、当事者の話をうのみにせず、実際に契約が開始した状況を想像して自分が当事者になったつもりで色々なことを頭に思い描いて、「リスク」となりうることがないかを必死に頭をひねって考えるということが、どの案件においても必要になる行程なのである。どうしても当事者は自分のしていることを知りすぎているがゆえに、「リスク」への感度が疎かになりがちであり、それを気付かせ支えるのが我々アドバイザーの役割であり、求められるものであると常に思うようにしている(そのせいもあってか、我々弁護士には「心配性」や「疑り深い」人が多いように思うが、職業病ということで1つご勘弁願いたい。)。

 サッカーによせて

 さて、チームの3分の2が入れ替わったジェフ千葉は、2月28日に2016年シーズンのJ2リーグの開幕戦をホームであるフクアリで迎え、私も(当然)現地に観戦に赴いた。試合は90分間を戦い0-1で敗戦濃厚な中、アディショナルタイム(昔でいうロスタイム)の5分間の中で2点を取るというめったに見られない大逆転劇で2-1の勝利をおさめ、白星での船出となった。

 「心配性」で「疑り深い」私は、劇的な勝利を目の当たりにしながらも、90分間の試合運びは褒められたものではないであるとか、最後に相手チームのプレーに少し緩みがあっただけだ、などとついつい思ってしまう。しかし、最後まであきらめない選手たちのプレーとそれを後押しするサポーターの声援の一体感は、普段の生活ではなかなか味わえない興奮として心を揺り動かすものであり、こういうたまらない試合を見られるからこそ、いまだにスタジアムに足を運んでしまうのであろうと思う。その光景は、一度は、「チームの3分の2が変わったらもうジェフじゃない!これはリスクイベントだ!ファンクラブも解約だな!」と息巻いていた自分を納得させるのには十二分なものであった。

 この記事が公表されるときまでにチームがどうなっているかはわからないが、ふと気が付くと、いつのまにか、「今年はJ1に昇格できるかな」「次の試合では期待のあの選手のゴールが見られるかな」とばかり考え、「J3(3部リーグ)に落ちたらどうしよう」「チームにけが人が出たらどうしよう」という「リスク」にはつゆも考えが至っていない自分に気づき、そろそろ自分のサッカー観戦人生にも、リスクとその対応を助言してくれる優秀なアドバイザーが必要なのではないかと思う今日この頃である。

 ▽注1:http://web.gekisaka.jp/news/detail/?181272-181272-fl
 ▽注2:私の専門についての詳細はの2014年3月3日付で書かせていただいた拙稿を参照ください。http://judiciary.asahi.com/corporatelaw/2014030300001.html

寺﨑 玄(てらざき・まこと)

 2004年3月、東京大学法学部卒。2006年3月、東京大学法科大学院修了(法務博士 (専門職))。2007年12月、司法修習(60期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)。2008年1月、当事務所入所。2008年10月から2010年3月まで東京大学法科大学院非常勤講師。2011年12月から2013年6月まで国土交通省航空局に出向。2013年8月、当事務所復帰。
 論文に『詐害行為取消権を行使する場合において、被保全債権につき、債務者に相連帯債務者が存在し、かつ、取消債権者が当該相連帯債務者の所有する財産の上に物的担保を有していることの影響』(民事研修 No. 631、2009年11月号)(共著)、「Getting the Deal Through - Product Recall 2011」(Law Business Research Ltd.、2011年2月24日出版)(共著)、「銀行が、顧客の民事再生手続開始決定後に,顧客の手形の取立金を顧客に対する債権の弁済に充当することを有効とした事例(名古屋高判金沢支部平22.12.15〔確定〕(金融法務事情1914号34頁))」(「ビジネス法務」 2011年7月号)、「改正産活法による組織再編の法務ポイント」(「旬刊経理情報」 No.1287(2011年7月20日号))(共著)、「Getting the Deal Through - Product Recall 2012」(Law Business Research Ltd.、2011年11月24日出版)(共著)、「The International Comparative Legal Guide to: Public Procurement 2012」(Global Legal Group、2012年)(共著)、「The International Comparative Legal Guide to: Public Procurement 2013」(Global Legal Group、2013年)(共著)がある。

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