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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

インターネットで訴訟記録を閲覧できる米国に見るサービスの進歩

仁瓶 善太郎(にへい・ぜんたろう)

インターネットを利用した訴訟記録の閲覧システムに思う

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
仁瓶 善太郎

拡大仁瓶 善太郎(にへい・ぜんたろう)
 2003年、京都大学法学部卒業。2004年、弁護士登録(第一東京弁護士会)、西村ときわ法律事務所勤務。2007年、坂井・三村法律事務所勤務。2011年、米国デューク大学ロースクール修了(LL.M.)。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2015年4月、統合により当事務所入所。2016年1月、当事務所パートナー就任。
 私が弁護士登録をした2004年から、はや10年以上の月日が経った。この間、私が述べるまでもなく、インターネット技術は急速な進歩を遂げた。こうした通信技術の革新は、裁判手続にも多大な影響を与えている。そのうちの一つに、裁判に係る記録へのアクセスの促進がある。

 日本でも、インターネットの普及にともなって、裁判例検索のウェブサービスが長足の進歩を遂げ、以前に比べれば格段に容易にこれらの情報にアクセスできるようになった。また、多くの裁判例情報について、最高裁判所のウェブサイトにて無料にて検索、閲覧することができるようになった。

 しかし、米国ではさらに進んで、例えば、連邦裁判所が提供するウェブサービスによって、裁判手続にかかる記録にウェブ経由で容易にアクセスできたり、さらには、この記録を民間の法律関係ニュース提供会社が整理して、ユーザーにウェブから自由にダウンロードできるようなサービスを提供するなど、格段に多くの裁判情報に、迅速に自由にアクセスできる環境が整っている。

 私は、倒産・事業再生や企業法務の分野を中心に海外のクライアントや法律事務所と仕事をするが多いこともあって、しばしばこうしたサービスに接している。そこで、実際にインターネットを利用した米国の裁判情報のアクセス環境がどのような状況にあるのか、日本の制度との違いを踏まえて、ここでご紹介したい。

 日本の訴訟記録の閲覧制度

 裁判に関する記録の閲覧制度といっても、一般の方には余りなじみがないかもしれない。日本では、民事訴訟手続については原則として、係属中の事件にあっても訴訟記録は誰でも閲覧することができるとされている。裁判手続の記録の閲覧に関する原則は、手続の内容などによって異なり、例えば、破産手続などの倒産手続については、もともと手続の公開が予定されていないので、利害関係人しか閲覧できないのだが、細かいことはさておけば、一般に裁判と聞いてまず皆さんがイメージされるであろう民事訴訟については、手続の進行中のものであっても誰でもその記録、つまり、判決書だけではなくて、訴状や答弁書など、訴訟手続の中で当事者が提出する各種書面をも、閲覧することが認められている。

 ところが、実際に記録を閲覧しようとするときには、ある程度事件の情報がわかっていないと、閲覧の対象となる記録までたどり着くことができない。つまり、この閲覧制度は、裁判所に行って「Aさんについて裁判が係属しているでしょうか」と聞いてそれを教えてもらえるという制度ではないので、特に具体的な手がかりがなにもないような状況で、第三者の訴訟記録について網羅的に検索してみるというような方法で訴訟記録の閲覧をするのは難しい(基本的には、訴訟記録の閲覧をするためには、各事件に付される事件番号等の情報が必要になる。)。また、閲覧の対象となる記録とは、物理的な書面そのものなので、これを閲覧するには、実際に裁判所まで行かなければならないし、利害関係人でなければ、閲覧はできても謄写(コピーをとること)はできない。

 米国の連邦裁判所が提供する記録閲覧システム

 これに対して、例えば米国の連邦裁判所は、PACER(「Public Access to Court Electronic Records」の略)と呼ばれるウェブサービスを提供していて、このサービスを利用して、連邦裁判所の裁判手続に係る資料を閲覧し、また、ダウンロードすることができる(なお、全てが閲覧対象となっている訳ではなく、例えば個人情報の保護の必要があるものなど一定の情報は見ることは出来ない。)。

 PACERは、一定の登録手続を行えば、誰でも利用することができ、利用料を払えば、事件の情報にアクセスすることができる。米国の弁護士は、このシステムを使って、事件記録を閲覧するのである。ご興味があれば、検索エンジンにて「PACER」「Court」といったキーワードで検索されれば、該当のウェブサイトにアクセスできることと思う。

 このサービスではいくつかの要素で検索をかけられるので、例えば当事者名で対象となる裁判手続を探すことも可能である。平たくいえば、Aさんについて連邦裁判所で裁判手続が係属しているか知りたかったなら、これをPACERで検索することが可能なのである。また、インターネットにアクセスさえできればよいので、当然のことではあるが、物理的に裁判所に行く必要もない。

 この閲覧システムは、いざ利用してみると非常に便利である。私が米国事務所の弁護士と共に関与していたある案件で、クライアントの取引先について米国での倒産手続の進行状況を調べる必要があった。米国では倒産手続は連邦倒産法という連邦法に規律されており、手続は連邦裁判所(から委託を受けた倒産裁判所)に係属するので、PACERを利用して倒産事件の記録を検索、閲覧することができる。

 私がその件を米国弁護士にメールで依頼したら、30分もかからずにPACERを利用して必要な情報を提供してくれた。この事例で、訴訟記録の閲覧のために事件番号等を入手して、実際に裁判所に行き、といったプロセスを経なければならない日本の制度との違いを感じていただけるのではなかろうか。

 民間の法律情報提供サービスの発展

 このPACERは公的なサービスであるが、米国では、これに留まらず、民間の法律関係ニュース提供会社が、こうした記録をダウンロードできるようなサービスを提供している。例えば、ある著名な法律関係ニュース提供ウェブサイトでは、当該サイトのサービス購読者は、そのサイト内で提供されているニュース等を検索するだけでなく、当該ニュースに関連した裁判記録として同サイトが整理しているものがあれば、それをダウンロードすることができる。

 ある企業の倒産手続の状況を知りたければ、PACERを利用するのも一つの手段ではあるが、検索システムが整理されているとはいえ大きな事件ともなれば裁判資料の量も膨大であるので、目的の資料にたどり着くのに手間がかかる。これに対して、まずはざっと情報を知りたいような状況であれば、そうしたニュースサイトで当該企業のニュースを検索しつつ、その関連の裁判資料にアクセスすることができるのである。

 民間のサービスであれば収益を上げるためにサービスをより利用しやすくして顧客の満足度を高めようという動機も働くし、同業他社との競争原理も働くから、今後も技術の発展にともなって、そうした情報提供の方法がより一層洗練されていくのであろう。

 通信技術の発展と今後の裁判手続の進化

 こうしたサービスがそのまま日本に導入できるかというと、ことはそう簡単ではない。そもそも、米国と日本とでは裁判制度のバックグラウンドとなる憲法も法律も異なるし、また、もしいざこうしたサービスの導入を検討することになったら、その前提として、書面の電子ファイリング制度の導入の可否や、どのようなセキュリティ対策を講じるべきか、プライバシー情報にかかる資料など機密にすべき情報が開示の対象になってしまう危険をどう回避するか等、実務的に解決が必要な問題が多く出てくることになるだろう。

 しかしながら、こうした技術の発展に伴って、裁判手続がより利用しやすい形に進化していくことが望ましいのは間違いない。思えば、私が実務についた頃には既に文書はパソコンで作成し、クライアントとは電子メールでやり取りしていたが、その前には、当然、電子メールも存在しない時代があり、更にその昔は、弁護士が口頭で話す内容をタイプライターで打っていくという職業がある時代があったと聞く。そのことからすれば10年後、20年後の裁判手続は、今から想像もつかないような形になっているかもしれない。考えてみると今からそのときが楽しみである。

仁瓶 善太郎(にへい・ぜんたろう)

 2003年、京都大学法学部卒業。2004年、弁護士登録(第一東京弁護士会)、西村ときわ法律事務所(現 西村あさひ法律事務所)勤務。2007年、坂井・三村法律事務所(ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業))勤務。2011年、米国デューク大学ロースクール修了(LL.M.)。2011~2012年、ビンガム・マカッチェンLLP ニューヨークオフィス勤務。2012年、ニューヨーク州弁護士登録、欧州三井住友銀行(ロンドン)出向、ビンガム・マカッチェンLLP ロンドンオフィス勤務。2015年4月、統合により当事務所入所。2016年1月、当事務所パートナー就任。
 論文に「アメリカ契約法の重要ポイント第3回 NDA(秘密保持契約)の留意点(Lexis AS ONE(日本法・判例・行政情報データベース)、共著、2015)、「クロスボーダー事業再生 - ケース・スタディと海外最新実務」(商事法務、共著、2015)、「クラウドファンディングの最新事情」(ビジネス法務 2014年10月号)、「預金者から銀行に対する取引経過開示請求を預金契約に付随する義務として認めた事例」(金融・商事判例 No.1311、2009)などがある。

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