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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

子に会えない親を救済できない日本と「クレイマー・クレイマー」

大島 義孝(おおしま・よしたか)

日本の「クレイマー・クレイマー」
 -面会交流事件-

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
大島 義孝

 1 子をめぐる紛争の増加

拡大大島 義孝(おおしま・よしたか)
 1995年3月、東京大学法学部卒業。2001年10月、弁護士登録(東京弁護士会)。坂井秀行法律事務所((ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業))勤務。2009年から2011年にかけて株式会社企業再生支援機構(現:地域経済活性化支援機構)勤務。2012年4月、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)パートナー就任。2015年4月、統合により当事務所に参画。
 司法統計によれば、裁判所における平成26年度の民事・行政訴訟事件の新受件数は前年に比して約4~5%減少し、この10年間で見ても民事・行政訴訟事件は半分近く減少している。

 これに対して、家庭裁判所が所管する家事事件は、平成26年度に限っては前年に比してわずかに減ったものの、この10年間は漸増し続け、10年前と比較すると事件数は約30%の増加となっている。とりわけ、家事事件の中でも、子の引渡事件、監護者の指定事件及び面会交流事件の増加が著しく、こうした事件はこの10年間で2~3倍に増加している。すなわち、別居状態にある夫婦間や離婚後の元夫婦間において、子の引渡しや監護、面会交流をめぐる紛争が著しく増加していることが統計上明らかに見て取れる。

 2 面会交流事件への関与

 約15年間の弁護士生活において、主として事業再生・倒産案件やM&A案件といった企業をめぐる事件に関わってきたが、一般の民事紛争や家事紛争もそれなりに手がける機会があった。その中でも3年以上にわたって関与した面会交流の紛争事案が強く印象に残っている。

 事案の概要は以下のとおりである。依頼者の妻(当時)が、ちょっとした夫婦間の諍いを契機として当時2歳の長男を連れて実家に帰省したまま戻らなくなり別居状態になった。別居中の生活費をめぐる一方的な要求が通らないと見るや、その後妻は依頼者に対し、離婚を求めて家庭裁判所に家事調停を申し立ててきた。依頼者側としては、離婚に向けた話し合いを行うにしてもまずは突然会えなくなった長男と会えるのが先と裁判所に伝えた結果、家裁で試行的な面会が行われ、約半年ぶりの父子交流がなされた。別居中の一定額の生活費の支払いも約束した。しかし、妻側はなぜかその後態度を硬化させ、一方的に離婚を求めるのみで一切面会の話し合いに応じなくなったのである。

 当初は、家裁において根気よく協議することにより、子供との面会も可能になるのではと考えていたが、甘い見通しだったかもしれない。妻側は、途中から依頼者にDV(家庭内暴力)があると言い出したり、あるいは急用や病気を理由に調停の期日を何度も欠席したりと、家裁での調停は思うように進行せず、そうしているうちに、時間ばかりいたずらに空費され、結局子供と面会できなくなってから3年あまりが経過してしまったのである。

 日本の司法を取り巻く実情として、子を一方の配偶者に連れ去られてしまった場合、相手が頑なに面会を拒むと、これを救済する効果的な手立てがないという問題がある。子を勝手に連れ去った配偶者から勝手に奪い返そうとすると誘拐罪に問われるおそれがあり、実際に誘拐犯として片方の親が逮捕された例もある。子を連れ去った側が子の引渡しを拒みつつ養育の継続という既成事実を積み重ねると、そのことが親権の判断にとっても有利に働く。このことから、子の養育権や親権を確保するのに最も効果的な手法は、別居の際に有無をいわせず子供を連れ去って相手からの面会要請を拒否し続け、養育監護を続けてこれを既成事実化することと言われており、そのように指南する弁護士やコンサルタントも極めて残念なことに巷には存在する。この手の紛争では自力救済が司法に勝るのである。

 子を持つ親の方はよく分かると思うが、幼児期におけるわが子の日々の成長を見守るのは、親としての何よりの喜びである。にもかかわらず、子が連れ去られたまま面会もままならず、司法手続の中で時間ばかり空費していくことにより失われる価値は、何物にも代えがたく回復困難である。依頼者と同年齢の子を持つ自分にはそれが痛いほどよく理解できた。

 一方、子にとっても、幼児期において両親とひとしく交流を持つことは心身の生育にとって極めて重要であるということが今では常識となっている。幼い本人は自覚がないかもしれないが、両親の紛争のために片親と離されてしまい、見えない形で健全な生育が阻害されてしまうのは、ただでさえ両親間の紛争や一方の親との離別により不安定な心理状態に置かれる子供に対し、さらなる不利益を与えかねない。それなのに子の不利益を顧みようとせず、頑なに面会を拒否し続ける相手方に対してやり切れない思いが募るばかりであった。

 3 「クレイマー・クレイマー」と面会交流

 往年の名作映画に「クレイマー・クレイマー」という作品がある。ダスティン・ホフマンが演じる父親のテッドは仕事に忙しく、家事や6歳の長男ビリーの育児はメリル・ストリープが演じる母親のジョアンナに任せきりだった。ところが、ある日ジョアンナが自分探しをしたいと言ってテッドとビリーを置いて家を飛び出す。その日からテッドをめぐる環境が激変し、テッドは家事育児と仕事との両立に悪戦苦闘しつつ、今でいうところのイクメンとして成長する。ようやくテッドとビリーの新生活も軌道に乗った頃、仕事を持ちテッドを上回るほどの収入を得るようになったジョアンナが戻ってきてビリーを引き取って暮らしたいと言い、ビリーの養育権をめぐる紛争に至るというストーリーである。姓を同じくする元夫婦間の「クレイマー対クレイマー」という事件名がそのまま映画のタイトルとなっている。

 「クレイマー・クレイマー」は1979年公開の映画だが、ある日深夜放映していたこの映画を見ていくつかの点で驚いた。第一に、非監護親のジョアンナが弁護士を立てて子供との面会を求めた際、子を監護しているテッドは面会を拒否することはできないとされ、別居にかかわらず子との面会が簡単に認められたことである。第二に、テッドの養育権は最終的に一方が獲得したものの、裁判所により養育権のない側にもビリーとの面会交流プログラムが定められ、その内容として、「隔週末の宿泊、毎週平日1回の食事、そして長期休暇の半分」の面会交流が当然に認められるとされたことである。第三に、裁判が起こされて決着に至るまでの期間は2、3か月で、きわめて短期間に司法手続を通じた決着がなされている。このように、両親が離婚しても、養育していない親との面会は当たり前に認められ、またその頻度も高く、さらには一連の紛争が司法手続の中でごく短期間に決着がついており、それが当時の米国社会のコンセンサスとなっていたことに驚かされた。

 翻ってわが国の面会交流をめぐる状況を見ると、監護している親(多くは母親)が面会交流に消極的である場合、前述のように面会交流を認めさせること自体が非常に困難を伴う。そして、家裁の調停や審判の結果として子との面会交流が認められる場合でも、せいぜい月1回の面会が通常で、よくても月2回程度、宿泊を伴った面会や長期休暇の半分などというのは夢物語である。監護親側が強く面会を拒否した場合には、間接交流として子供の写真を送付することで納得するようにとお茶を濁されることもある。さらに、子をめぐる裁判手続は長期化する傾向にあり、司法手続を通じて解決しようとしても貴重な幼年期の時間が空費されてしまう。

 かようにわが国の面会交流をめぐる状況は、制度面においても社会のコンセンサスという面においても、約35年前の1980年ころの米国に比べても著しく貧弱なものであることに愕然としたのである。

 4 家族をめぐる意識の変容と司法制度

 倒産法や会社法をめぐる法制度は、整備が進み、わが国では諸外国に照らしても先進的な法制度・法体系が構築されている。一方で、国民一人一人の生活の根幹をなす家族をめぐる法律や制度について、戦後70年を経て変化してきた価値観や多様な家族のありかたに鑑みて、法制度の整備が遅れているといわざるを得ない。冒頭に引用したように、民事行政事件の減少と対照的に面会交流等の事件がこの10年で激増しているということは、こうした問題に関して司法制度が国民の権利救済手段として機能していないことの証左であるといえるのではないだろうか。

 幸いなことに、2014年のハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の締結を契機として、子供の連れ去りや面会拒否の問題について従前よりも社会の関心が高まっており、面会交流の重要性が徐々に理解されるとともに面会交流を充実させようと活動する非監護親のネットワークやそれを支援する国会議員による新しい動きも見られるところである。また、子供の持つ固有の権利を擁護するため、「子どもの代理人」という制度も設けられた。

 なお、前述の依頼者の件においては、結局、子を面会させないという妻の強固な意思を押し切る形で面会交流を強制的に実施することは難しいものと考え、依頼者にとって苦渋の決断ではあったが、前記のような新しい動きの進展に期待しつつ、面会交流は将来の課題として依頼者は妻との離婚に応じることとなった。

 この世に生まれ、またこれから生まれてくる全ての子供たちにおいて、両親や祖父母との自由な交流が妨げられず、また彼らの愛情が子供たちにあまねく注がれるよう、いち早く制度が整備され、紛争の迅速な解決に司法手続が貢献できるようになることを願ってやまない。普段関わっている企業法務とは少し離れるかもしれないが、法律実務家として何らかの寄与ができればと思っている。

大島 義孝(おおしま・よしたか)

 1995年3月、東京大学法学部卒業。2001年10月、弁護士登録(東京弁護士会)。坂井秀行法律事務所((ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業))勤務。2009年から2011年にかけて株式会社企業再生支援機構(現:地域経済活性化支援機構)勤務。2012年4月、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)パートナー就任。2015年4月、統合により当事務所に参画。
 書籍・論文に『破産申立マニュアル〔第2版〕』商事法務(共著、2015)、「Japan Airlines “ Dramatic Success Stoke Controversy」Eurofenix by INSOL Europe 2013 Summer(共著)、『破産実務Q&A200問』きんざい(共著、2012)、『民事再生申立ての実務 モデル事例から学ぶ実践対応』ぎょうせい(共著、2012)、『私的整理の実務Q&A100問』きんざい(共著2011)、『動産・債権担保融資(ABL)の普及・インフラ構築に関する調査研究報告書』(共著、2008)、「会社更生手続と民事再生手続の競合-大阪高決平成18・4・26を題材として」『NBL』855号(2007)、『動産・債権等の活用による資金調達手段~ABL(Asset Based Lending)~テキスト 金融実務編』野村総合研究所(共著、2006)、『新会社法基礎講座 別冊』きんざい(共著、2006)、『Q&A 動産・債権譲渡特例法 解説』(坂井・三村法律事務所編)三省堂(共著、2006)、「会社更生手続における集合債権譲渡担保とABL-更生会社ティーシーエムの事例報告」『NBL』820号、821号(共著、2005)がある。

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