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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

欧州の経営大学院に留学して感じた社会における弁護士の役割

永井 亮(ながい・りょう)

弁護士MBA留学記

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
永井 亮

拡大永井 亮(ながい・りょう)
 2007年3月、東京大学法学部卒。2008年9月、司法修習(61期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2012年7月から2014年7月まで外資系証券会社投資銀行本部出向。2014年10月から2015年12月までスペインのIE Business School(MBA)。2015年9月から2015年12月までは、中国の清華大学経済管理学院に交換留学。2015年12月、当事務所復帰。
 私は2012年から2014年まで2年間外資系投資銀行の投資銀行本部に出向し、資本市場や企業提携等の案件に従事させていただいた後、2014年から2015年末までスペインにあるIE Business SchoolというところのMBA(経営学修士)コースに留学していた。英米のLaw Schoolに留学する弁護士は大勢いても、私のような人間はかなり珍しいらしい。スペインに留学した弁護士なんて聞いたことがないと言われるし、MBA留学する弁護士すらあまりいないようである。

 Why MBA?

 色々な理由はあるが、一つは単純に「ビジネス弁護士」と言われるのに、細かな法律の議論はできても、本質的な「ビジネス」のことをあまりよくわかってないな、もっとちゃんと勉強したいな、ということだった。出向して法律事務所の外の世界を知ることで、本当に今さらではあるがそもそもクライアントである会社は何をやろうとしていて、自分が法律家としてやっている議論は会社にどのようなインパクトを与えうることなのかを体系立てて勉強したいなと思った。大学は法学部であったし、大学卒業後そのまま司法研修所に入り、今の事務所に入ったので、「会社法」は知っていても「会社」についてしっかり勉強する機会はなかった。

 Why Spain?

 多極化の時代といわれる中で、どうせ留学するなら米国出身者が大半と言われる米国のビジネススクールより、様々な地域から偏りなく学生を集めているヨーロッパのビジネススクールに行きたいと思った。その中でも特に多様性を重視していて雰囲気もよさそうだなと思って受験したフランスの学校とスペインの学校の両方から幸いにして合格通知をいただき、どちらにするかかなり真剣に考えた。パリ留学というおしゃれな響きもいいなとか、スペインは気候も良くて食事も美味しそうだなといったことから、卒業後の自分の人生を含めて色々と考えた。最終的には、後述のとおりIEという学校に惹かれたのと、21世紀の世界におけるスペイン語圏の国の飛躍を考えたとき、若いときにスペインに留学して得るものもあるのではないかと思いスペインに決めた。

 Why IE?

 IE(アイイー) Business Schoolという学校の名前を知っている日本人がいったいどれくらいいるであろうか。私の代には10名くらいの日本人学生がおり(全体の学生は300名ほど)、定評のあると言われるFinancial Times紙のMBAランキングでも一応ここ数年は世界10位前後、ヨーロッパでもTop3くらいに位置づけられているのだが、なにぶん歴史の浅い学校であり、日本人留学者が増え始めたのもここ数年のことであるので、日本人から、「ああIEね。」と言われたことはほとんどない。私も受験前はそんな学校の名前を聞いたことはなかったが、IEが東京で開いていた説明会での雰囲気が良く、Entrepreneurship(起業家精神)を重視する学校で型にはまらない面白い学生が多そうだなと思ったのと、たまたま少し前に某広告代理店から社費で留学してIEを先に卒業していた高校の同級生に「今は無名だけど一緒に有名にしよう」みたいなことを言われたこと等で、最終的にはここに行こうと思った。

 Diversity

拡大IEの校舎
 留学前の期待どおり、IEでの学校生活ほどDiversity(多様性)を体感した場は人生でなかったように思う。IEはスペインの首都マドリードにある学校だが、授業を含め生徒たちの会話はほぼ英語である。私のクラスだけでも、60人くらい学生がいて、世界40カ国くらいから集まっていた。中南米の学生が全体の3分の1くらいいたものの、学生の出身地域にそれほど偏りはなかった。職歴も実に多様であった。コンサル、インベストメントバンカー、エンジニアなどから、医者、会計士、科学者、教師、等とてもここでは書ききれない。学年全体で300人ほどの学生がいたが、弁護士は全体で5人くらいであった。もっとも、私が話した弁護士はみな、キャリアチェンジを考えていて、卒業後も弁護士をやるつもりと言っていたのは私だけだった。10名程度の日本人同級生も、大手企業や政府系機関から社費・公費で派遣されてきている学生からファミリービジネスの後継者やデジタルアーティストまで実に多様であった。

 また、ほとんどの学生は国際経験が非常に豊かで、自分が生まれた国以外の国で学んだり働いたりしたことがある人が圧倒的多数のように感じた。日本人同級生も、ほとんどはビジネススクールに来る前にどこか海外留学していたり、長期間海外で働いたことがあったり、少なくとも仕事で頻繁に海外出張に行くような方たちであり、いわゆる純ドメの日本人であった私は留学当初は色々と苦労した。

 Work Hard, Play Hard

 IEは1年制(語学のクラス等入れて14ヶ月ほど)のスクールであり、2年制が主流の米国のビジネススクールに比べて楽なのではというイメージがあったが、それは完全に勘違いであった。本来は2年間かけてやることを1年間に詰め込んだだけで、必然的に1日あたりにやるべき量は多くなる。授業は朝9時から午後3時まで、お昼ご飯を食べる時間もなく詰み込まれ、それが終わると今度はバックグラウンドがバラバラになるように編成された7~8人のグループでのグループワークが夜まで続く。課題の締め切りの前などは、深夜2時、3時までグループで課題をやったりする。そこからケースリーディングと言われる翌日の予習が始まる。どの科目もクラスパーティシペーションという授業中の発言点が成績の大きなウェイトを占めるのだが、予習をしないことにはそもそも発言できない。ほとんどの学生は授業中の発言に本当に積極的であり、私もつられて発言せざるをえないのだが、純ドメの日本人にとっては毎回大きなプレッシャーであった。

 そのような中でもみな週末は本当によく遊ぶ。金曜日の夜(といってもスペインの夜は遅く人が集まりだすのは深夜2時を過ぎてから)はクラブでパーティーをすることが多かった。Pitbullの曲に合わせて、色んな国から来ている学生と踊っているときは辛い勉強を忘れられる瞬間であった。学生の出身国にマジョリティーがあるわけではないので、シャイな日本人にもみなびっくりするくらいフレンドリーだった。週末はスペイン国内やヨーロッパ各地に小旅行をしたり、クラスでマドリード郊外の別荘を借り切ってパーティーをやったりした。

 社会経済の発展のために弁護士としてできること

 そうやって色々な思いをして得たMBAであっても、職場に戻ってもせっかく勉強したマーケティングのSWOT分析をやる必要も、アンレバードβをレバードβにしてWACCを計算する必要も、リーンスタートアップの考えを取り入れてビジネスの立ち上げをする必要もない。それどころかビジネススクールでは必須のアイテムであったエクセルとパワポを使うことすらほとんどない。

 留学前から「弁護士にMBAなんて不要では?」と色々な方に言われた。確かに職場に復帰して数ヶ月経つが、MBA留学で得た知識がすぐに仕事に活かせる、みたいなことは正直あまりない。もっとも、留学が無駄だったとは思わない。留学してよかったことはいくつかあると思うが、一つは様々な国から来た多様な職歴を持つ学生に囲まれ切磋琢磨する中で自分の仕事を少し俯瞰して見られるようになった(気がする)ことかと思う。

 弁護士の仕事はえてして細かくなりがちである。例えば、資本市場の案件で監督官庁に提出する予定の書類の文言を少し修正するだけでも、多数の先例を調べ上げ、クライアントの過去の案件との関係や、文章全体での矛盾がないか等をくまなく確認する。もちろんこれは弁護士に期待されている重要な仕事であるし、私もこれらのことについて手を抜くことなくやっていきたいと思っている。しかし、細かさだけで終わるのではなく、同時に企業を取り巻く環境や時代の流れを意識して、社会経済の発展のために弁護士としてできることが何かを考えることも必要かなと思う。

 ビジネススクール時代で面白かった授業にBusiness Government & Societyという授業があった。簡単に言うと、企業の戦略において、マーケット(典型的には業界構造)のことだけではなく、政治や法律、社会動向等も有機的に一体のものとして検討することをテーマとする授業である。

 企業を取り巻く環境は実に複雑であり、また驚くほどのスピードで動いている。IEはEntrepreneurship(起業家精神)を大きな特色とする学校なので、必然的にEntrepreneurに関する授業のコマ数が多く、授業において実際に学生が3~4人のチームを作って、各チームが仮想投資家である他のクラスメートの前でプレゼンをして優劣を競った。もっとも、人気が集まるビジネスはP2P(Peer to Peer、個人間。例えば、UberやAirbnb等のビジネスモデル。)の要素を取り入れたものが多く、世界的なビジネス構造の大きな転換を感じた。また、人工知能がビジネスのあり方を間違いなく変えていくであろうし、留学時代の友人等からもこの分野への投資や研究の話をよく聞くようになった。そして、このような時代においては既存の法規制と現実のビジネスの間に大きなギャップが存在する。このような場面は在野法曹として活躍できるチャンスであろう。

 細かな部分に固執して法的リスクを指摘して終わるだけではなく、法的リスクがビジネスにおいてどういう意味を持ち、そして場合によってはビジネス上採りうる代替案を一緒に考えて、企業の活動を成功に導けるような、そんな弁護士が理想ではなかろうか。まだまだ修行の身ではあるが、世間知らずの弁護士が少しは職業人としての社会的意義を意識するようになっただけで、留学してよかったのではないかと思う。

永井 亮(ながい・りょう)

 2007年3月、東京大学法学部卒。2008年9月、司法修習(61期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2012年7月から2014年7月まで外資系証券会社投資銀行本部出向。2014年10月から2015年12月までスペインのIE Business School(MBA)。2015年9月から2015年12月までは、中国の清華大学経済管理学院に交換留学。2015年12月、当事務所復帰。
 論文に「Supreme Court Rules on Squeeze-Out Compensation in Management Buy-Outs」(International Law Office、December 2009) (共著)がある。

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