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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

バンコクに弁護士事務所を開き、タイ人弁護士の上司になって

安西 明毅(あんざい・あきたか)

タイの弁護士事情
 ~当事務所バンコクオフィスの開業に合わせ~

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
安西 明毅

拡大安西 明毅(あんざい・あきたか)
 2003年3月、早稲田大学法学部卒業。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。
 2009年から2010年まで米国 University of Pennsylvania Law School (LL.M.)。
 この度、当事務所のバンコクオフィスが開設され、私が初代の代表としてバンコクに赴任することになった。私にとって、バンコクの駐在は二回目であるため、多少の土地勘や懐かしさはある。前回はタイの現地法律事務所への出向(居候)ということもあり、今に比べると気楽な立場であった一方、今回は自前の拠点に赴任し、依頼者からの日々の法律相談の対応のほか、事務所の総務や会計といった経営的・事務的な作業もこなしていかなくてはならず(もちろん、優秀なタイ人スタッフのサポートを受けながら行うのではあるが)、立場の重みが異なり、身が引き締まる思いである。

 当事務所のバンコクオフィスには、2名のスタッフのほか、タイ人弁護士が2名在籍している。当事務所においてタイ人弁護士を雇用しているのは、外国人である私がビザを取得するために、外国人1名に対して最低4人のタイ人を雇用しなければならないというタイ法の存在も一つの理由であるが、実質的には、タイで業務を行うにあたっては、タイ人弁護士のサポートが不可欠であるからである。

 タイ人弁護士の必要性

 タイ人弁護士を雇用するのは、彼らからタイ法についてのアドバイスを得ることが第一の目的である。それに加え、タイに関連する当事務所の仕事の多くは、タイに進出する日本企業や現地に進出済みの日本企業のサポートであり、その相手方としてタイ企業が登場することも多いところ、案件を迅速かつ的確に進めるために、タイ企業と協働して仕事を進める際やタイ企業と交渉するにあたり、タイ人スタッフからタイ人の物の考え方や、タイ人相手にしてはいけないことを学ぶということも別の目的として存在する。たとえば、株式譲渡契約の交渉をするにあたり(特に、タイ人のオーナー企業との交渉の場合に)、念のためということで、何でもかんでも不必要・不合理に相手方に負担を強いる事項(表明保証や補償条項等)を入れるということのないようにしたり(もちろん、どうしても譲れないポイントまで譲歩して相手に阿ることまでを許容するものではないし、相手方となるタイの企業の多くはその点につき理解している)、あまりビジネスライクに結論を急ぐのではなく、人的関係を構築し信頼を得てから、重要な事項(金額や役員の処遇等)に切り込むことが必要であるといったことを、タイ人弁護士から学んだ。このような点は、日本人のメンタリティーに似ているのではないだろうか。

 さらに、タイ人弁護士を雇用することの大きな理由として、言語の問題がある。主要な法律のいくつかは英語訳が存在するものの、タイの法律の原文はタイ語であり、弁護士の仕事の根幹となる条文について私が直接読んで理解することは非常にハードルが高いため、タイ人のサポートが必要となる。さらに、条文には書いていない解釈や運用を当局に確認してもらう際にも、担当官がタイ語でしか受け付けないことが殆どであるため、やはりタイ人のサポートが必要となるのである。

 タイにおける弁護士とは

 上記のとおり、タイでの業務にタイ人弁護士のサポートは欠かせないが、そもそも、タイにおける弁護士とはどのようなものであろうか。

 タイの「弁護士」の定義は難しい。日本において「弁護士」とは、一部の例外を除き、基本的には国家試験である司法試験に合格した者で、弁護士会に登録している者をいう。そして、法律業務は一部の例外を除き、弁護士しか行うことができないとされている。いずれも弁護士法において定められていることである。

 他方で、タイにおいては、「法律業務」は、かならずしも日本のように何らかの試験に合格した者が行っているわけではない。

 タイにおいて、「法律業務」とは、外国人が行うことができない業務として、外国人就労法(Alien Working Act)及び同法に基づいて発行されている通達において定められており、契約書や法律文書の作成を含む法律事項に関して依頼者のために行う業務とされ、その定義は広く曖昧である(法律業務に近接するものとして、「コンサルティング業務」というものが存在するが、こちらは投資関連やその他の商業的な事項に対する事務を含むとされている)。

 実態として、タイで「弁護士」と名乗っている者には、以下の二種類のタイプが存在する。

 ① 裁判外の法律業務だけを行う弁護士

 訴訟に関与しない法律業務を提供するだけであれば、何らかの試験に合格する必要はなく、法学士を有するか、タイ弁護士会の承認を受けた機関が発行した学士号を有していれば足りる。したがって、訴訟に関する業務を行わず、たとえば、企業内弁護士として、企業内部の相談に対応し、契約書を作成したり、レビューしたりしているだけであれば特別な資格は不要であり、法学部卒の者が行うことができる。また、大手の法律事務所の弁護士であっても、本人が訴訟に関する業務を行わず、いわゆるM&Aのような企業間の取引を担当するコーポレートロイヤーであれば、下記②に述べる弁護士ライセンス(Lawyer License)を取得していない場合も多く、このタイプに属する。

 ② 訴訟に関連する法律業務を行う弁護士

 ①で記載した業務を超えて、裁判所において依頼者を代理し、裁判所に対して提出する書面を作成する弁護士は、タイの弁護士法により、タイの弁護士会(Lawyers Council of Thailand)の試験を受け、弁護士ライセンスを保有していなければならない。弁護士ライセンスを取得するためのLawyers Councilの試験を受けるためには、 (1)弁護士事務所で1年間研修し、続いて試験を受ける方法、あるいは (2)事前に試験を受け、6か月間の法律研修を受けて、それから追試験を受ける方法のいずれかの方法で達成することができる。現在Lawyer Licenseを保有している人は、18,000人と言われており、弁護士一人あたりの人口比でいうと、それほど日本と変わらず(日本は3,500人につき1人、タイは3,700人につき1人)、その試験の合格率も10-15%程度であるため、Lawyer Licenseを保有しているかどうかは、弁護士の質を見極めるに当たり、一つの材料となるであろう。

 この点、弁護士による法律業務の提供の仕方も様々であり、日本のように個人で個人事業主と活動してもよいし、パートナーシップ又は株式会社形態で法律業務を行っても良い。現地の大手の法律事務所の多くは株式会社形態で業務を行っているが、これは一般的に株式会社形態のほうが、業務運営に対して適切なガバナンスが効いていると考えられ、信用力が高いことに基づいている。

 なお、弁護士ではない法曹関係者についてみると、検察官や裁判官になるためには、Lawyer Licenseの試験とは異なる、いわゆる司法試験(Thai Bar Exam)に合格しなければならない。

 タイ人弁護士の選び方

 上記のようにタイの弁護士といっても、その出自により様々な経歴を有し、その得意分野、国際的な案件への親和性、日本人依頼者への対応の良し悪し等もそれぞれ異なる。したがって、日本企業がタイの弁護士に依頼する場合には、その弁護士の得意分野、英語対応の可否、日本企業案件の経験の有無、費用の高低等を考慮しなければならない。我々日本の弁護士としては、日本の依頼者とタイ人弁護士をつなぐ架け橋となり、より一層、日本企業関連のタイ事業につき、日本側・タイ側の双方によい結果となるべく、当事務所のタイ人弁護士に日本人的な仕事の進め方・考え方を教えるとともに、私自身もタイ人の考え方・文化を学び、案件ごとに依頼者の条件に合致する弁護士をアサインし、協働できるよう尽力していきたいと考えている。

安西 明毅(あんざい・あきたか)

 2003年3月、早稲田大学法学部卒業。2004年10月、司法修習(57期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。
 2009年9月から2010年5月まで米国 University of Pennsylvania Law School (LL.M.)。2010年10月から2011年9月までマレーシア(クアラルンプール)でZaid Ibrahim & Co. 勤務。2012年11月 からタイ(バンコク)でWeerawong, Chinnavat & Peangpanor Ltd.勤務。2015年1月当事務所パートナー就任。2016年5月当事務所バンコクオフィス代表就任。
 共著に「アジア労働法の実務Q&A」(商事法務、2011年11月)、「アジア・新興国の会社法実務戦略Q&A」(商事法務 2013年)(共著)がある。論文に「タイにおける契約の履行を確保するための手段について」(国際商事法務 Vol.41, No.4 (2013年4月号))、「東南アジア諸国における労働法制の留意点~シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、ミャンマー~」(人事実務 2015年1月号)(共著)、「アジアの主要な国における競争法と日系企業のコンプライアンス体制の構築について」(公正取引 No.775(2015年5月号))(共著)などがある。

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