メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

なぜ税務を専門とする弁護士「タックス・ローヤー」になったのか

田中 良(たなか・あきら)

タックス・ローヤー

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
田中 良

 1.タックス・ローヤーとは何か

拡大田中 良(たなか・あきら)
 2005年3月、東京大学法学部卒。2007年3月、東京大学法科大学院 (法務博士 (専門職))修了。2008年12月、司法修習(61期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年1月、当事務所入所。2010年3月から2011年3月まで日本銀行金融研究所勤務。
 私は、税務の分野を専門的に取り扱っている。
 税務を専門とする弁護士をタックス・ローヤーというが、日本では、税務は税理士の仕事であると一般に理解されており、実際のところ、タックス・ローヤーの人数は少ない。しかし、所得税、法人税、消費税などの税金は、所得税法、法人税法、消費税法などの法律に基づき課せられているものであり、税務とは、これらの法律の解釈・適用を取り扱う業務であるから、突き詰めれば、業務の本質としては、民法、会社法などの法律の解釈・適用を取り扱う他の法律業務と変わらないともいえる。
 タックス・ローヤーの業務は大きく2つに分かれる。私が所属する法律事務所のウェブサイトでは、タックスプランニングと税務紛争、と記載されているが、おおまかにいえば、前者は、各種取引の課税関係を分析して助言する業務であり、後者は、税務当局から受けた課税処分を争う税務訴訟等において代理人として活動する業務である。

 2.タックス・ローヤーとなるまで

 なぜ税務に興味を持ったのかと聞かれることが多い。
 私も、もともとは、普通の法学部の学生として六法(憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)を中心に勉強しており、当初は刑法の複雑かつ精緻な議論に興味を持ち、また、商法(会社法)のゼミにも入り、どうやら企業法務という分野があるらしいということは認識しつつも、将来の進路を考えるにあたって、何か決め手に欠けるような気がしていた。
 そのような状況で何の気なしに租税法の講義に出席したのであるが、ある国際的な租税回避スキームについての解説がなされたときに、細かい内容は率直にいってよく分からなかったものの、「租税条約」という何やら耳慣れない条約なども関係する複雑かつ精緻な仕組みが構築されて、課税を鮮やかに避けたということに強く感銘を受けたのである。
 課税を避けるというのは、「けしからん行為」ではないかとも思われるが、憲法の租税法律主義のもと、単に「けしからん行為」というだけでは課税はできない。頭をうまく使って、法律で認められている正当な納税者の利益を適切に実現することが非難されるべき理由はないはずである。また、税務当局が課税権・徴税権を濫用して、特に税金を逃れようというつもりもない納税者の権利を侵害するおそれもある。国家権力と対峙して納税者の正当な利益の実現・擁護に関与できる弁護士は、被疑者・被告人の正当な利益を擁護するという弁護士の重要な使命に通ずるものであり、しかも、その活躍の幅は、広範な経済活動に及ぶものであり、やりがいのある仕事ではないか、というように思ったのである。

 3.タックス・ローヤーの業務の特徴

 タックス・ローヤーとしてこれまで仕事をしてきて、この業務の主な特徴は以下のようなところにあると考えている。

 第1に、広範な経済活動を対象とし、様々な法領域と関連するということである。M&A、コーポレート、金融取引、労働、知的財産などありとあらゆる取引や法律関係に関する税務上の取扱いを検討するということである。他の法領域を専門とする弁護士から、税務上の取扱いに関して質問されることも多いが、その際に、そもそもどのような取引かが分からないと税務上の取扱いについて分析しようがない。必然的に様々な分野について勉強をしなくてはならず大変であるが、面白いところでもある。

 第2に、ルールが細かく複雑であり、関係するルールを把握することに困難が多いということである。他の法領域の業務においても同様の困難はあるため、程度問題であろうが、税務の領域についていうと、まず、細かいルール(原則、例外、例外の例外・・・)を記述した読みにくい条文が、法律、政令、省令(例えば、法人税法、法人税法施行令、法人税法施行規則)に含まれている。さらに、租税特別措置法という特例を定めたルールが大量に存在することが、ルールの細かさと複雑さに拍車をかける(つまり、法人税でいえば、法人税法、法人税法施行令、法人税法施行規則だけを見ればよいというわけにいかず、租税特別措置法も見なくてはならないのである。)。さらに、税務当局が発出している無数の通達が存在している。国際的な取引や法律関係を分析する際には、租税条約も関係する。さらに、毎年税制改正がなされており、その結果、ルールが変更されることが多く、しかも、改正されたルールによって適用時期が異なっており、現在適用されるルールは何かを把握すること自体が容易ではない。依頼者に助言する際には、現在のルールを正確に理解して助言することはもちろんであるが、近い将来において適用されるルールが存在するのであれば、そのルールも説明することが適切であり、きめ細やかな配慮が必要となる。税制改正をするごとに、我々のような税務専門家のみならず、企業担当者も税制改正に対応すべく非常に多くのコストをかけているが、税制改正のメリットがこれらのコストを上回るかどうかはよく考えてみた方がよさそうである(タックス・ローヤーの仕事は減ってしまうかもしれないが、社会全体としては、ルールが変わらないことのメリットもよく考えたほうがよいのだろう。)。

 第3に、不明確なルールの分析が求められることも少なくないという困難がある。租税分野でも数多くの裁判例等が存在することからも明らかなように、不明確なルールも少なくないのである。典型例が、法人税法132条に規定する同族会社の行為計算否認規定であり、おおまかにいうと、同族会社という一定の類型の法人については、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、課税ができるというものであるが、一体何が「不当に減少」にあたるのか、明確ではなく、様々な裁判例等が存在している。また、国際取引に関する課税に関しては、国内税法が租税条約によってどのように修正されるのかを検討する必要が生じることが多いが、どのように修正されるのか、その考え方が必ずしも明らかではないということもある。なお、ごく稀にしかないことではあるが、「立法ミス」としか思えないこともあり、対応に困難を迫られることもある。ほぼ100%、私の「解釈ミス」なのであろうと考えて、一生懸命条文を何度も読んで考える。たいていの場合は、やはり読み方が間違っていただけである。それでも分からないというときに、先輩のタックス・ローヤーに相談してみても、これはどうやらあるべき条文がないということらしい、ということが分かることもある。

 第4に、税務紛争の場面では、当然であるが、訴訟のスキルが重要ということである。的確な準備書面を作成し、十分な立証を行うという弁護士としての基礎体力がものをいう。ただ細かく複雑な条文を正確に分析すればよいというものではない。裁判官に理解できるように、分かりやすく、説得的な文章を書く能力などが重要である。

 4.タックス・ローヤーの趣味

 企業法務の中でもタックス・ローヤーの業務についてはあまり知られていないように思ったので、あえて堅い話をしてきたが、少し柔らかい話として、タックス・ローヤーの趣味の話も書いてみよう。そうはいっても、タックス・ローヤー全員に共通する趣味などないであろうから(もしかしたら、税金が趣味かもしれないが、その境地には私は達していない。)とりあえず、私個人の話をするが、主な趣味といえば、酒と音楽である。
 酒でいえば、特にワインが最近のお気に入りなのであるが、ブドウにも様々な種類があり、さらに、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、南アフリカ、日本など、様々な地域で様々なワインが生産されており、それぞれに個性があり、飲んでいると世界各地を旅しているような気さえする。また、何年ものというヴィンテージがあり、熟成による味の変化という深みがある。また良いワインといわれるものであっても、保存が適切になされていない場合はもとより、実際に飲む時点での温度などの管理を適切に行わないと、美味しく飲めないこともある。広範さ、複雑さ、取扱いの難しさ、どうやらタックス・ローヤーの業務に通ずるものがある(なお、ワインは、会食等の際にも知識があると有益である)。
 音楽については、もともとピアノ(クラシックのほう)を長く習っていたこともあり、複雑な楽譜に記載された作曲者の意図をいかに解釈して、いかに演奏において実際に反映して、聴衆に感銘を与えるのかという点に興味があるのだが、これも、法律の解釈・適用や説得的なプレゼンテーションという業務に通ずるものがある。いまや、自ら弾くことはなくなってしまったが、もしできることなら、ピアノを再開したいと願っている。

 5.タックス・ローヤーの未来

 弁護士として8年目の若輩者であるが、おそれずに、最後に、タックス・ローヤーの未来について一言書いてみよう。
 おそらく日本が存在する限り、幸か不幸か税金は無くならないだろう。また、これまた幸か不幸か税制改正もこれからも繰り返しなされるので、常に新たな問題が生じるのであろう。反グローバリズムなど様々な国際的な潮流はあるものの、当分のあいだ、国際取引がゼロとなることもおそらくなさそうなので、国際的な課税問題も常に生じ続けるのであろう。どうやら需要はありそうである。
 供給面をみてみよう、タックス・ローヤーの人数はまだ多くない。税理士は多いが、法律を強みとする弁護士と、会計の素養が弁護士より高い税理士とで、業務内容が完全に同じというわけでもない(少なくとも税務訴訟の代理人は弁護士の仕事である)。あとは、自ら日々精進するだけなのであろう(といいつつ断酒はできそうにないかも)。

田中 良(たなか・あきら)

 2005年3月、東京大学法学部卒。2007年3月、東京大学法科大学院 (法務博士 (専門職))修了。2008年12月、司法修習(61期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年1月、当事務所入所。2010年3月から2011年3月まで日本銀行金融研究所勤務。
  著書・論文に「帰属所得主義への移行の妥当性と必要性」(第28回「日税研究賞」受賞)、「吸収分割において免責的債務引受けを行うには債権者の個別の同意が必要であるとした事例(大阪地堺支判平22.9.13)」(ビジネス法務 2011年3月号)、「全世界所得課税確保のための海外金融資産・所得の把握手法―米国の適格仲介人(QI)レジーム・FATCAレジームの展開―」(IMES Discussion Paper No.2011-J-10)(日本銀行金融研究所 2011年5月)、「多国籍企業グループが行った株式譲渡が仮装行為に当たるとされた事例」(共同執筆担当、信山社 「租税法判例実務解説」、2011年8月)、「役員の「報酬返上」 税務上の取扱い」(ビジネス法務 2011年9月号)(共著)、「海外の信託を利用した租税軽減策~名古屋地裁平成23年3月24日判決~」(国際税務 2011年9月号)(共著)、「全世界所得課税確保のための海外金融資産・所得の把握手法―米国の適格仲介人(QI)レジーム・FATCAレジームの展開―」(金融研究第30巻第4号 2011年10月)、「会社分割の無効の訴え」(特集・M&Aをめぐる近時の紛争の潮流と判例法理の形成)(判例タイムズ1369号 2012年6月15日号)(共著)、「ソーシャルメディア時代の個人情報保護Q&A」(日本評論社 2012年9月25日発行)(共著)、「合同会社の定款─実例の検討」(資料版商事法務 2013年5月号)(共著)、「租税執行における情報交換―FATCAを契機とした新たな構想」(法律時報 2014年2月号(Vol.86 No.2/1069))、「包括的否認規定の行く先-「不当に」を「不当に」拡張してはならない」(「税務弘報」 2016年1月号)(共著)、「消費者との間の国際的専属管轄合意に関する訴訟」(「ジュリスト」2016年5月号)(共著)、「合同会社のモデル定款―利用目的別8類型―」(商事法務 2016年5月)(共著)などがある。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。