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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

ベトナム5年、交渉スタイルの違いに「精進」必要性を痛感

三木 康史(みき・やすふみ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
三木 康史

拡大三木 康史(みき・やすふみ)
 2003年3月、東京大学法学部卒。2005年10月、司法修習(58期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国UCLA (University of California, Los Angeles) (LL.M.)修了。2012年9月からホーチミンのVILAF法律事務所勤務。2013年4月、ニューヨーク州弁護士登録。2015年1月、当事務所パートナー就任。2015年5月、ホーチミンオフィス代表。
 2012年にベトナムに赴任し、はや5年目。

 ベトナムでは、依然、日系企業の進出が堅調であり、最近では、特にサービス業の進出が増えている。

 我々弁護士の仕事は、新規で進出する日系企業のサポート(M&Aや子会社設立など)や、進出済みの企業の継続サポート(労務問題や契約管理など)が主である。

 私の場合、この中でもM&Aの占める割合が大きい。

 そこで、M&Aに関し、日本で行う場合とベトナムで行う場合の、同じ点、違う点について考えてみたいと思う。

 1 日本と同じ点

 M&Aに関していうと、まず、必要なステップ・流れは基本的に同じである。

 一般的に、①秘密保持契約を締結→②デュー・ディリジェンスの実施→③最終契約(株式売買契約など)を締結→④クロージング、という流れで進んでいくが、この点に関して日本とベトナムとで特段の違いはない。

 次に、作成する契約の種類も内容も基本的には同じである。もちろん両国の法律が異なるため、一部カスタマイズする必要はある。

 また、デュー・ディリジェンスで調査する事項も、多少の凸凹はあるものの、基本的には同じである。

 このように内容面でも手続面でも共通点が非常に多いため、日本でしっかりとM&Aの実務を積んでいれば、その経験はベトナムのM&Aでもおおいに生きるといえる。

 2 日本と違う点

 上記で述べたように、手続の流れや契約内容といったハード面では共通点が多い。

 他方、具体的な進め方や契約交渉といったソフト面では、日本とベトナムのM&Aはかなり異なる。

 以下に述べる相違点は、あくまで私個人の感想なので普遍化することはできないが、日本とベトナムで、それぞれ数十件のM&Aに関与した経験に基づくものなので、それなりの確からしさはあるだろう。

 (1)求められる役割の違い

 まず、弁護士に求められる役割が異なるように思う。ベトナムで求められる役割の方が日本でのそれよりも広い。

 日本でのM&Aの場合、日本のクライアントは、当然のことながら日本の慣習・文化に精通しており、日本語で相手方と交渉することができる。

 他方、ベトナムでのM&Aの場合、日本のクライアントは、ベトナムの慣習・文化に疎いことが多いし、ベトナム語で相手方と直接交渉することは難しい。

 そのため、弁護士も頼られる場面がより多く、自ずと求められる役割も広がってくる。

 具体的には、法律や契約に関するアドバイスにとどまらず、相手方への贈答品は何が良いか、買収後の人選など、幅広いアドバイスを求められる。

 レンタカーの手配や相手方の工場見学の付き添いなどをすることもある。

 また、相手方との信頼関係を築くため、相手方との宴会や相手方の家族の食事会、誕生会に参加することもある。

 そういった会に外国人が参加すると、一気飲みをさせられたり、歌や芸を強制されたり、蛇の生き血を飲まされたりするため、それを乗り切る気力と体力が無ければならない。

 ちなみに、日本でそういう目に遭った記憶はない。

 (2)相手方の違い

 日本企業が相手方の場合とベトナム企業が相手方の場合とでは、多くの点で異なる。

 その中でも、交渉スタイルの違いを取り上げてみたい。

 日本企業の場合、担当者は事前に契約書を読み込み、社内の関係部署と協議を行い、社内の見解を統一した上で契約交渉に臨むのが普通であろう。

 「何を当たり前のことを」と思われるかもしれないが、これはどうやら世界の常識ではないようである。

 契約交渉時、ベトナム企業は、事前に契約書を読んでこない(ことが非常に多い)。

 そのため、第1条から順番に見ていくはめになり、非常に時間がかかる。

 実例を一つ挙げてみたい。

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 我々は日本のクライアント(大手メーカー)を代理して、ベトナムの相手方(国営企業)との契約交渉を行った。

 我々は20ページ程度の契約をドラフトし、交渉日の2週間前に相手方に送付しておいた。

 交渉当日、日本から来たクライアントとともに、相手方の本社に赴き、交渉を開始した。

 相手方A氏: 「ちょっと忙しかったので読む時間が無かった。最初から説明してもらえますか?」

 クライアント: 「(事前に読みたいというから急いで2週間前に送ったんだけど・・・)わかりました。それでは、1条の「契約目的」は飛ばして2条から・・・」

 相手方A氏: 「ちょっと待って。1条に書いてある目的は、当初話していたものと違う気がする。」

 クライアント: 「(え、ここで引っかかるの!?)・・・。」

 ~~~A氏が他のメンバーとベトナム語で協議、30分経過~~~

 

 相手方A氏: 「やはり、ここはこういう風に直すべきだと思う。」

 クライアント: 「問題ありません。OKです。それでは、2条の「ベトナム側の義務」に移らせてください。これについては、○○と考えています。」

 相手方A氏: 「それでよいのか、内部で協議させて欲しい。」

 クライアント: 「(事前に協議しとけよ)・・・。」

 ~~~A氏が他のメンバーとベトナム語で協議、60分経過~~~

 

 相手方A氏: 「やっぱり○○はおかしいので、△△にしてほしい。」

 クライアント: 「前回のミーティングでそちらが○○と言ったので、そのように規定しています。」

 相手方A氏: 「○○と言ったのはBなので、彼に聞かないとわからない。電話してみる。」

 クライアント: 「(Bを出席させろよ)・・・。」

 ~~~A氏が誰かとベトナム語で電話、30分経過~~~

 

 相手方A氏: 「Bはいなかったから、ここは保留にしたい。」

 クライアント: 「(え、30分、誰と話してたの!?)そうですか・・・。それでは、次の3条に移りましょう。」

 ~~~A氏の上司が遅れて登場し、A氏が経過を説明、30分経過~~~

 

 相手方上司: 「今、これまでの交渉経緯を聞いたのだが、1条の「契約目的」が、私が思っていたのと違う。」

 クライアント: 「(おい、またそこに戻るの!?)・・・。では、どのように直せば良いですか?」

 相手方上司: 「内部で協議させて欲しい。」

 クライアント: 「(今、それを協議していたのでは!?)・・・。」

 ~~~相手方がベトナム語で協議開始、30分経過~~~

 

 相手方上司: 「目的については、こういう風に記載したい。」

 クライアント: 「特にこだわらないので、それでOKです。では、3条へ・・・」

 相手方上司: 「今日は、もう次の予定が入っているので、終わりにしたい。続きはまた明日にしよう。」

 クライアント: 「(おい!4時間かけて、「契約目的」しか終わってない)仕方ありません・・・。明日も宜しくお願いします。」

 

 ~~~ホテルに戻った後、A氏から「社長に話をしたところ、1条の「契約目的」がダメだと言われた」とのメールを受領~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 このように、「時間だけかかり、何も進展しなかった」ということもある。

 これが自然体の行動なのか、それとも巧妙な交渉戦術なのか、いまだにどちらかわからない。

 こういった経験を踏まえ、思うことは、色々なことに臨機応変に対応できる柔軟性と長丁場に耐えうる気力・体力が必要ということである。

 私も30年以上日本で暮らしていたため、この辺りがまだまだ弱いと感じている。

 さらに精進したい。

三木 康史(みき・やすふみ)

 2003年3月、東京大学法学部卒。2005年10月、司法修習(58期)を経て弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2012年5月、米国UCLA (University of California, Los Angeles) (LL.M.)修了。2012年9月からホーチミンのVILAF法律事務所勤務。2013年4月、ニューヨーク州弁護士登録。2015年1月、当事務所パートナー就任。2015年5月、ホーチミンオフィス代表。
 著書・論文に「名義書換未了株主による株式買取請求権が否定された事例」(ビジネス法務 2010年3月)、「インドネシア・タイ・ベトナムのM&Aにおける実務上の留意点」(ビジネスロー・ジャーナル 2013年10月-12月号)(共著)、「アジア・新興国の会社法実務戦略Q&A」 (商事法務 2013年)(共著)がある。

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