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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

日米の法律事務所の流儀の違い 個室主義と電話会議

廣田 駿(ひろた・しゅん)

日米の法律事務所の流儀の違い

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
廣田 駿

拡大廣田 駿(ひろた・しゅん)
 2007年、東京大学法学部卒。2009年、東京大学法科大学院 (法務博士 (専門職))修了。2010年、司法修習(63期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2011年、当事務所入所。2014年、米国Columbia University School of Lawに留学。2015年から米国および東京のPaul, Weiss, Rifkind, Wharton & Garrison法律事務所勤務。2016年、ニューヨーク州弁護士登録。
 「SUITS/スーツ」というアメリカのドラマをご存知だろうか。

 ニューヨークのマンハッタンの法律事務所を舞台として、一匹狼の敏腕若手パートナーと、天才的な頭脳を持ちながらも、誰にも言えない重大な秘密をかかえる新人アソシエイトがチームとなって、様々な難事件や、所内の権力闘争に立ち向かう・・・というドラマなのであるが、私も、2015年秋にニューヨークの法律事務所にて研修を開始するに先立ち、予習の意味を含めて、このドラマを数シーズン分視聴した。マンハッタンの摩天楼を見下ろすガラス張りの小洒落たオフィスで、高級スーツに身を包み、容姿端麗な秘書やパラリーガルの助けを得ながら、忙しくも充実したローファームライフを送る・・・という、このドラマを視た後の私の妄想が、現実の研修生活とどこまで一致していたかはご想像にお任せするが、ここでは、私がニューヨークの法律事務所で勤務して感じた、日米のローファームの違いについて述べたいと思う。

 1.クライアントとのコミュニケーションはCallで

 当然、個々のクライアントによって差はあるが、日本のクライアントは、Face-to-Faceの会議を好む傾向が強いように思う。時期や業務分野によってかなり違いはあるが、日本の法律事務所で働く弁護士は、週に数回程度はクライアントとのFace-to-Faceの会議に出席するのではないだろうか。一方、ニューヨークの法律事務所では、クライアントに直接会う機会は少なく、ほとんどの会議は電話会議方式で行われていた。

 このような差がある理由は色々とあると思うが、日本では弁護士及び企業の法務部関係者が東京に集中しており、会議を設定するのが容易であるのに対し、アメリカでは、依頼者が、ニューヨーク以外の全米各地に拠点を置いている場合が多く(IT系の依頼者は西海岸ベースの場合が多い等)、どこか一つの場所に集まるのは困難、というのが一因であるように思う。また、日本のクライアントは移動時間等のタイムロスを勘案しても、直接顔を合わせてコミュニケーションをとることによるメリット(細かいニュアンス等が伝えやすい等)を重視するのに対し、アメリカのクライアントは、タイムロスに対してより敏感、という面もあるかもしれない(これは完全に個人的な感覚であるが)。

 2.個室主義

 私が勤務していた法律事務所に限らず、ニューヨークの大手法律事務所では、パートナーのみならず、アソシエイト(新人を除く)にも個室があてがわれている場合が多いようである。これに対し、日本では、アソシエイト(またはいわゆる「イソ弁」)に個室が与えられている法律事務所は極めて稀なように思う。

 ニューヨークの大手法律事務所がこのような「個室主義」をとっている理由は定かではなく、様々な文化的な理由(個人主義の度合いの強さ等)もあるのかもしれないが、
一つの理由としては、以下のような実務的な理由があるように思う。すなわち、上記のとおり、ニューヨークの法律事務所の弁護士は電話会議に参加する機会が多いのであるが、自分のオフィスでスピーカーフォンにて電話会議に参加しながら、PCでメモを取り、可能であればドラフトへの反映作業も進める、という仕事の進め方をしているアソシエイトが多く、このような仕事の手法は、個室でなければ難しい面があるであろう。

 なお、私は、最初は新人アソシエイトとオフィスをシェアし、その後、個室をあてがわれたが、個人的には、個室でのびのび仕事ができることより、同じオフィスに色々と相談できる人がいることのメリットの方が大きい・・・と思った(日本流に染まってしまっているのかもしれない)。

 3.アフター5

 日本の法律事務所で勤務する弁護士の多くは、皆日々激務をこなしつつも、暇を見つけて、業務時間後に同僚と食事や飲みに行っては、息抜きをしているのではないかと思う。

 一方で、ニューヨークの弁護士は同僚とアフター5に飲みに行くことはしない、と渡米前に事前に聞いてはいたが、これは本当であった。私が米国人の同僚と食事に行く場合はランチが多く、夜に同僚と食事にいくのは、年末のパーティーや、歓送迎会など、特別な理由がある場合が多かった。

 このような文化の違いに寂しさを感じることはあったが、幸運にも、私が勤務していた法律事務所には、私と同様の研修生の立場で世界各国から来ている弁護士が10名近くおり、彼ら・彼女らと飲みに行く機会に恵まれた。欧州や南米から来た、バラエティに富んだ楽しいメンバーと頻繁に飲みに行き、非常に親しくなることができたのは、私のニューヨーク生活の大事な思い出の一つである。

 話が脱線したが、では、ニューヨークの弁護士は、アフター5に何をしているのか?と言えば、私のまわりにはジム通いに勤しんでいる弁護士が非常に多かった。若手の弁護士から、60歳近いパートナーまで、暇を見つけてジム通いをしており、ニューヨークの弁護士の身体作りと健康維持に対する意識の高さには驚かされた。実は、マンハッタンのあの摩天楼の中には、このような人々のニーズに応えるべく、 多くのジムが点在しているのである。

 4.食生活

 これは、「日本の法律事務所で働く弁護士との違い」、というわけではないが、食生活にも、ニューヨークの弁護士の身体作りと健康維持に対する意識の高さはあらわれていたように思う。アメリカ人の食事というと、どうしても大量の肉とポテト、みたいなものをイメージしてしまうが、そのような食生活をしている弁護士はほとんどおらず、ランチは近くのサラダ専門店のサラダボウルでヘルシーに、という人が多かった。飲み物も、コーラやスプライトではなく、炭酸水が人気であった。 私は、日本にいる頃には炭酸水などほとんど飲んだことがなかったが、ニューヨークで感化され、今では好きな飲み物の一つになっている。

 5.最後に

 以上、私のニューヨークでの勤務経験で感じた「違い」をご紹介させていただいたが、私の文章を読んだ全体的な印象として、「ニューヨークの法律事務所で働く弁護士は、なんだかドライだな」と思われた方もいるかもしれない。もちろん、日本と比較して、ドライともとれる一面があることは否定しないが、とはいえ、ニューヨークの法律事務所の人々が無味乾燥で冷たいということは全くない。ニューヨークでの勤務経験を通じ、私は、日本の法律事務所で働いていたときと同様、またはそれ以上に、人の優しさに触れることができた。リフレッシュコーナー(冷蔵庫やコーヒーメーカー等が置かれた、オフィス内の小さい休憩コーナー)で誰かと会えば、初対面の人でも「日本から来た研修生かい?何か力になれることがあったら言ってくれよ!」と声をかけてもらえたし、実際、仕事やプライベートで困っていることがあったときには、有形無形のサポートを受けることができた。この場を借りて、研修先の法律事務所の皆様に改めて感謝の意を表させていただきたい。

廣田 駿(ひろた・しゅん)

 2007年3月、東京大学法学部卒。2009年3月、東京大学法科大学院 (法務博士 (専門職))修了。2010年12月、司法修習(63期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2011年1月、当事務所入所。2014年8月から2015年5月まで米国Columbia University School of Lawに留学(LL.M., Harlan Fiske Stone Scholar)。2015年9月から2016年9月まで米国および東京のPaul, Weiss, Rifkind, Wharton & Garrison法律事務所勤務。2016年5月、ニューヨーク州弁護士登録。2016年10月、当事務所復帰。
 著書に「フロー&チェック労務コンプライアンスの手引」 (労務管理法令遵守研究会編 新日本法規出版 2014年4月)(共著)、論文に「テクモ株式買収価格決定申立事件最高裁決定の意義と実務への影響」(「会社法務A2Z」 2012年7月号)(共著)、「The Energy Regulation and Markets Review」(Law Business Research Ltd. 2012年)(共著)、「相談室Q&A(経費を使い込んだ社員を懲戒し、弁済させる場合、どのような手続き を踏めばよいか)」(労政時報 No. 3839 2013年2月8日号)、「速報!判例ナビ無効な解雇によって就労できなかった日は、年次有給休暇権の成否にかかる出勤率の算定にあたっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとされた事例(最判平25.6.6)」(ビジネス法務 2013年11月号)がある。

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