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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

ウズベキスタン、ロシア、気がつけば12年

松嶋 希会(まつしま・きえ)

ウズベキスタン、ロシア、気がつけば12年

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
松嶋 希会

 1 はじめに

拡大夏の気温が50度にも達するウズベキスタン
 土漠(どばく)とオアシスの国、ウズベキスタンで法整備支援プロジェクトに携わり、ロシアの北の都、サンクトペテルブルグに留学した後、私は、仕事を求めてロシアの首都モスクワに移った。気がつくと、モスクワ生活は8年近くになっていた。

 リーマンショックの後、運よく、2010年6月にPwCロシアのモスクワ事務所に就職できた。総合ビジネス・コンサルティング会社であるPwCロシアでは、法務を含む、日本企業のロシア・ビジネス全般をサポートし、さらにカザフスタンやウクライナなどのCIS諸国での日本企業ビジネスにも関与した。また、ロシアにいながら日本政府の中央アジア法整備支援プログラムに参加し続けたので、ウズベキスタン法整備支援プロジェクトに参画した2005年4月から、東京に移った2017年4月までの12年間、ロシア・中央アジアに浸かっていたことになる。

 ロシアで働くことの魅力の一つは「休暇」(働き方)であった。大型連休や有給休暇のおかげで、長期に休むチャンスは年2、3回あった。休暇を含む労働環境は、その国の法制や社会のほか、社風や上司・同僚の意識にも左右される。私が勤めていた会社の2000人以上の上司・同僚はほぼロシア人であった。英米系ロシア会社だったため、純粋ロシア会社や、日系企業のロシア子会社とは若干事情が異なっていたかとは思う。ロシアの弁護士制度・法律サービスに対する規制についての詳細は割愛するが、会社形態の法律事務所で働く弁護士には労働法令が適用され、以下の話は弁護士にもあてはまる。

 2 有給休暇

拡大マイナス30度の寒さになることもあるモスクワ
 法定の最低有給休暇日数は、原則、年28暦日である。勤続年数は関係ない。危険な環境、北極圏近くの地域やシベリア地域など自然条件が厳しい地で勤務する者には、追加で16暦日か24暦日の有休が与えられる。ロシアには冬の気温が-40度以下になる地や日照が極端に少ない地も多く、この地を離れて健康を整える必要性は高いのだろう。また、勤務時間外に働いても残業が認定されない勤務形態の者には、3暦日以上の有休が追加される。法定の最低有給休暇日数は31暦日となる。私も含めプロフェッショナル職の同僚はこの形態で働いていた。休日勤務や献血で手当の代わりに有休が追加される場合があり、手当よりも休暇を選択するロシア人が少なくないと感じた。

 有休の取得時期については、年末に会社と翌年の年間休暇日程を合意すること、そして、一回は14暦日連続で取得することが、法律上要請されている。当然、予定は変わってくるので、その都度、会社と休暇日程の変更を合意することになる。ロシアの学校は6月1日から8月末までが休みになるので、子供を持つ同僚は、6月から長期休暇を取り始め、8月の職場は閑散とする。私は、8月の週末に1日や2日の有休をつけた短い夏休みを二回とって、ロシア国内や東欧、中央アジアなど近隣諸国に旅行に出たり、モスクワでのんびりし、同僚が戻ってくる秋に長期休暇を取得することが多かった。8月は多くの人が休暇で街を離れるので、通常はひどい交通渋滞に悩まされるモスクワでも、車移動にストレスを感じなくなる。近年、ルーブル安で海外旅行が難しくなり、長期休暇を市内で過ごす人が多くなったようで、夏や年末年始には市内で様々な催し物が開催され、モスクワ残留組もそれなりに楽しく休暇を過ごすことができた。

 有休は「休暇」のために全日消化した。病気になった時のことなど心配しない。病気休暇をとればよいのである。11月になっても有休が多く残っていると、上司から取得の指示が出される。未使用の有休は、労働契約が終了する時に会社が買い上げなければならないからである。しかも、長年勤務している者が勤務1年目に使用しなかった有休も、契約終了時の給与水準で買い取らなければならない。未使用休暇に対しては引当金が積み上げられてゆき、会社の財務を圧迫する。そのため、有休は、毎年使い切るように厳格に指導された。入社から3年くらいは、年末が近くなると定期的に上司から有休取得を催促されていたが、その後は、11月には有休を使い切り、12月末に無給休暇を取ることさえあった。同僚との信頼関係を築き、後述の「働かない」という働き方ができるようになったからかと思う(長期休暇の味を占めたからでもある)。

 ちなみに、法律上、病気休暇の取得日数に上限はないが、病気休暇は、病院の診断書を提出して認定される(もっとも、地下鉄や街の電柱には診断書販売の広告が出され、容易に診断書を入手できるので、月曜日や金曜日に病気休暇取得が多いと悩む企業は少なくなかった)。会社によっては、診断書がない自己申告で年間数日までは有給扱いとする会社もある。

 3 ロシアの大型連休

 新年の休暇は、1月7日のクリスマスを挟んで、1月1日から8日までである。年末は12月31日までが営業日である。2018年は、土日と移動休日の関係で12月30日(土)から1月9日(火)の11日間が公的な休みとなる。新年休暇の前後に有休を取得する者が多く、会社では、12月中旬からお休みムードが漂い始め、1月も中旬まで人が少ない。役所の職員もこの時期に長期に休み、年末年始の1ヶ月ほど、役所は機能不全に陥る。人手の薄くなる12月後半や1月中旬に手続を申請すると、役所内で申請書類が紛失したり、法定期間内に処理できないと悟ってか、「書類不備」とだけの理由が付されて申請が却下されることがある。年末年始は、国外脱出のほかに、劇場イベントを堪能するという過ごし方もある(夏は、劇場はお休みである)。各劇場で連日バレエ「くるみ割人形」が上演され、どの劇場もドレスアップした子供たちで一杯になる。劇場芸術ど素人の私も、周囲に誘われ、いくつかの劇場に出かけた。

 もう一つの大型連休は5月にある。5月1日は「春と労働の日」、5月9日は「戦勝記念日」である。5月に祝日は2日しかなく大型連休にならないようにみえるが、他の祝日が土日にあたる場合、その休日が5月に動かされて連休にされることが多い。有休を合わせれば、2週間ほどの休みになる。5月9日の戦勝記念日は、国として一番力を入れて祝う日である。当日、軍事パレード、イベントや売店が楽しめるが、1週間くらい前からパレードのリハーサルが始まりお祭り気分になってゆく。野外イベントがメインなので天候が心配になりそうだが心配は無用である。5月頭は、5度以下という年もあれば30度に達する年もあり天候が不安定だが、戦勝記念日は必ず快晴となる。2日程前、空に薬を散布し雨雲を消すのである。少しの時間、どす黒い雪や雨が大量に降る。

 法律上、祝日の前日は営業時間が1時間早く終了する。私の席の前には数名の若手が座っていたためか、16時くらいから騒がしくなった。役所では、15時くらいから受付窓口が閉まり始めることがあった。

 4 よく働き、よく休む

 法制度上、休み易いと言えるが、実際に休暇を満喫できるのは、社会、会社、同僚の意識・仕組みのおかげである。ヨーロッパの国と同様、仕事をチームで回す体制が徹底しており、休暇前に別の者に仕事を引き継ぐ。後ろめたさはない。同僚が休暇の際には、自分が彼らの仕事を引き受けるからである。山さえ越えていればプロジェクトが動いていても休暇を取る。場合によっては、休暇中も仕事をフォローしなくてはならないこともある。ただし、意識としては、休暇は休暇である。携帯電話すら届かない所に旅に出る際には、上司・同僚からは「それが一番いい方法よ」と言われ、仕事を渡して旅に出た。

 ところで、このように日常的に仕事の引き継ぎがあることが、産休・育休を容易にしていると感じた。会社のプロフェッショナル職の半数は女性であり、産休・育休は通常オペレーションの一部であった。産休に入るとなれば、長期休暇前同様、仕事の引継ぎが行われた。

 これまでの話で、ロシア人は休んでばかりで働かないというイメージができたかもしれない。しかし、ロシア人には真面目に働く者が多い(決して、ロシア人が真面目でよく働くとは言わない)。ロシア人同僚はよく働いていた。英米系コンサルティング会社だったので、働かない者、結果を出さない者は、会社を去らなければならなかったという事情もある。しかし、西ヨーロッパ事務所の同僚が、モスクワ事務所で夜も多くの者が働いていることに驚いていたこともあった。

 よく働く同僚と一緒によく働き、そして、よく休む。モスクワに長居した理由の一つである。

松嶋 希会(まつしま・きえ)

 1998年3月、慶應義塾大学法学部卒業。2001年10月、司法修習(54期)を経て弁護士登録(東京弁護士会)、国内法律事務所勤務(東京)。2004年11月、シェフィールド国立大学LL.M.修了(英国、シェフィールド)。2005年4月~2008年3月、独立行政法人国際協力機構「ウズベキスタン倒産法注釈書プロジェクト」(2006年4月~2007年長期派遣専門家(ウズベキスタン、タシケント))。2009年2月~2009年5月、サンクトペテルブルグ国立大学客員研究(ロシア、サンクトペテルブルグ)。2010年6月~2017年4月、PwC Russia B.V.(現OOO PwC Advisory)勤務(ロシア、モスクワ)。2017年4月、当事務所入所。
 著書に『ロシア・ビジネスとロシア法』(商事法務、2017年9月)。論文に「ロシア会社制度の概要と改正動向」(『ロシアNIS 調査月報』2014年3月号)、「ノウハウ・ライセンスに関するロシア法上の留意点」(『LES JAPAN NEWS』 Vol.55 No.4、2014年12月号)、「倒産に関するロシアの法制度-債権の扱い・債権者の地位を中心に-」 (『ロシアNIS 調査月報』2015 年9 月・10 月号)、「新興国コンプライアンス最前線〔第13回〕ロシア-日本人派遣のストラクチャー」(『ジュリスト』2016年1月号)、「ロシアにおける取引債権回収の交渉-日系自動車卸売金融会社の事例」(共著、『金融法務事情』2016年3月10日号)がある。

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