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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

Connecting the Dots~弁護士のキャリアパス

長瀨 威志(ながせ・たけし)

Connecting the Dots~弁護士のキャリアパス

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
長瀨 威志

拡大長瀨 威志(ながせ・たけし)
 2005年3月、東京大学法学部卒。2009年9月、司法修習(62期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2013年から2014年まで金融庁総務企画局企業開示課に出向。同年から2015年まで米国University of Pennsylvania Law School(LL.M.)。2015年9月から2017年9月まで国内大手証券会社法務部出向。2016年11月、ニューヨーク州弁護士登録。2017年10月、当事務所復帰。
 私は2013年に金融庁に出向した後、2014年に米国のロースクールに留学し、さらに2015年から2017年まで証券会社に出向しており、かれこれ4年間を法律事務所の外で過ごしてきた。そして、今年の10月、当事務所に復帰し、現在はビットコインに代表される仮想通貨案件を中心に取り組んでいる。

 「4年も事務所を離れて大丈夫ですか?」とストレートに聞かれることもあるし、30代半ばという社会人としてひとつの節目に近づきつつあることもあって、友人や後輩から弁護士としてのキャリアについて相談されることもある。

 弁護士のキャリアの流動化が進んできた現在、官公庁や民間企業に出向することは珍しくなくなってきたと思うが、私のように役所と金融機関双方に出向経験を有する弁護士はまだ少数であるように思う。あくまで一個人の経験談でしかないが、こういう弁護士のキャリアもあるんだな、と思っていただければ幸いである。

 1.金融庁への出向‐弁護士と当局の視点の違い

 2013年当時、国際カルテル等の各国競争法や危機管理・不祥事対応をメインに業務を行っていたところ、ある日突然パートナーのオフィスに呼ばれ、「君は将来何を専門にやっていきたいんだ?」と聞かれた。

 「独禁法や危機管理案件をメインにやっていこうと思います」

 「そうか。じゃあ金融庁に出向してみてはどうかな」

 と、予想の斜め上をいくお返事をいただいた。

 当時はファイナンス分野をバリバリ扱っていたわけではなく、畑違い過ぎて出向先で何も役に立てないのではないか、待遇も同年代の公務員と同等になるので相当きつくなるだろうし(失礼!)・・・と悩みもしたが、この機を逃したら二度と官僚生活を経験することができそうにないしきっと後悔が残るだろう、そう思い、金融庁総務企画局企業開示課への出向をお引き受けすることにした。

 前日まで弁護士だったのに、役所の辞令一本で国家公務員として働くことに違和感はあったが、開示課職員の方々がとてもフレンドリーだったこともありすぐに慣れた。

 霞が関での仕事は非常に新鮮で、実に刺激的だった。出向して驚いたことに、私のような出向者の多さと、プロパーの職員の方々との距離の近さがあった。当時の開示課だけでも主要な大手法律事務所や大手監査法人から多数の出向者を受け入れており、しかも内部の役職員と分け隔てなく仕事をしていた(別の部署ではあるが、一度、出向者が金融庁プロパーの職員に対して、「ここはそういう組織ではないんだ!誇りを持ってもっとちゃんと仕事しろ!」という趣旨の檄を飛ばしている場面に遭遇し、なんとも言えない気分になった)。私も単独で国際会議への参加を任され海外出張したこともあり、度量の広い組織だった。

 開示課では、金融商品取引法やガイドラインの改正をはじめ、スチュワードシップ・コードの策定等の立法・政策プロセスに携わるとともに、課や省庁の垣根を越えて多くの方々と様々な仕事をご一緒させていただいた。国際課の職員とともにIOSCO(証券監督者国際機構)等の国際会議に参加したり、ときに外務省からの相談で国際交渉の場にアドバイザーとして同席したり、国会議員への事前レクの対応をしたり、業界団体へのロビー活動に同行したりするなど、霞が関の外にいては決して得られない経験を積ませていただいた。

 また、出向中、法律事務所等からの照会対応を担当することもあり、法律事務所時代とは180度逆の立場から判断を求められることもあった。弁護士であれば、依頼者の利益を代弁して全力を尽くすことが求められるが、規制当局の立場になると、一業者の一案件の是非だけでなく、過去の見解との整合性や今後の同種案件への波及、海外規制当局との足並み、想定外の事象が発生した場合に個人投資家や国民に不利益が生じるおそれがないかなどにも配慮を尽くさなければならない。そのため、依頼者・弁護士以上に大局的な視点から案件を捉え直さなければならないことが少なくない。もちろんケースバイケースだが、当局の立場から見た「いい弁護士」とは、当局と対決してなにがなんでも依頼者の利益を勝ち取ろうとして一方的に主張をぶつける弁護士ではなく、当局と同じような大きな視点も持ちつつ、一緒に知恵を絞って依頼者及び背後にいる国民全般の利益に適う解決を図ろうとする姿勢をもった、「話のわかる・話のできる弁護士」なのではないかと思う。

 一方で、官僚独自の様々な「お作法」にはとまどうことも多々あったし、これだけITが発達した時代にもかかわらず不毛とも思えるロジ(雑用)が依然手つかずのまま残されており、閉口したこともあった。とくに、法改正の時期などは冬に暖房の止められた部屋で、内閣法制局にいつ呼ばれるかもわからないまま、ひたすら「自然体で待機」し続けなければならなかったのはなかなかに堪えた。

 なお、この出向中に当時世界最大のビットコイン交換所だったマウントゴックスの破産事件が起こり、金融庁でもビットコイン等の仮想通貨にどう取り組むべきかが本格的に議論され始めていた。まさか、その後自分が仮想通貨の世界に足を踏み入れるとは思いもしなかったが・・・。

 2.米国留学‐インハウスローヤーの時代

 金融庁出向の後、米国ロースクールに留学し、国や年代を越えて優秀なクラスメートと交流する過程で、どの国の弁護士もキャリアパス、とりわけ家庭を持った弁護士はワークライフバランスの確保に悩んでいることを知った。米国では、弁護士の主要なキャリアの一つとしてインハウスローヤーが位置づけられており、留学先で受講した実務家向けゼミでも、「弁護士・法律事務所間の競争が激化し、AIをはじめテクノロジーがさらに急速に進歩する時代において、昔ながらの法律事務所には将来がない。ビジネスの主役は弁護士ではなく、企業自身。これからは、その企業内部にあって適切なリーガルアドバイスを提供するインハウスローヤーの時代だ」と盛んに脅された(?)上、私も留学前後で家庭を持ったためワークライフバランスの問題とは真剣に向き合う必要があった。ワークライフバランスの問題もさることながら、たしかにこのまま法律事務所に戻っても、金融庁に出向して留学しただけであれば他にも同様の経験を積んだ弁護士は何人もいるし、正直なところ、自力でクライアントを獲得できるだけの力があるとも思えなかった。金融庁・留学を通じて学んだファイナンスの知見をもっと深めるには、金融機関内部で経験を積むのが一番。「このまま事務所に戻る前に、どうしてもインハウスローヤーを経験してみたい。」そう思っていた矢先、証券会社への出向の話をいただき、渡りに船とばかりに二度目の出向に赴いた。

 3.証券会社への出向−依頼者の立場から見た「依頼したい弁護士」

 近時、インハウスローヤーが急増していることは知っていたが、出向先の法務部でも大手法律事務所や外資系法律事務所出身の弁護士が多数所属しており、中規模法律事務所ほどの陣容を誇っていた。また、インハウスローヤーに限らず、プロパーの法務部員の方々も長年証券業界で勤務しており、証券実務・金商法に精通した方々が多かった。そのため、日常的な法律相談や一般的な契約書のレビューであれば法務部で事足りてしまい、外部の法律事務所にあえて相談する必要もなかった。外部の法律事務所に依頼する案件は複雑で判断の悩ましいものなど、難易度の高い案件に限られており、不要なリサーチ等が発生しないよう相談する論点の絞り込みはもちろん、請求明細のチェックも厳しく、総じて昔よりも弁護士報酬に対するコスト意識が高くなっているように感じられた。

 また、出向中はたびたび外部法律事務所との相談・連絡の窓口を担当したが、依頼者の立場から外部弁護士と接することは非常にいい経験だった。依頼者にとって「依頼したい弁護士」がどういう弁護士なのかを知るには、自分が依頼者になってみるのが最善の方法だと思う。(余談だが、あるインハウスローヤー向けの社外セミナーに参加したところ、そこで一番盛り上がったテーマが「いかにして『使えない弁護士』との顧問契約を解消するか」だった。)依頼者にとって「いい弁護士」とは、「使い勝手のいい弁護士」だと言われることがあるが、その言葉が具体的に意味するところは必ずしも明確ではない。即座にレスを返してくれる弁護士かもしれないし、グレーのものをシロといってくれる弁護士かもしれないし、逆に保守的に少しでもグレーの疑いがあればクロといってくれる弁護士かもしれない。ただ、どんな場合でも共通している必要条件は、「依頼者の相談を傾聴し問題意識を共有した上で、ただリスクありと指摘して切り捨てるのではなく、どうしたら案件を前に進めることができるかを一緒に考えること」だと思う。シンプルなようでいて、意外にこの姿勢を守れていない弁護士は多い。そして、この姿勢は、実は当局から見た「いい弁護士」の条件とも通じるものではないかと思う。

 出向中は、証券会社らしく、国内外のファイナンス案件やレギュラトリー案件をはじめ、M&A案件やそれらに係る契約書のレビュー等、様々な案件を担当したが、フィンテックブームの流れとともに仮想通貨関連の相談も寄せられるようになってきていた。金融庁出向時代に横目で眺めていたケースに実務として携わるようになり、その投機的な価格変動もさることながら、「通貨」というよりも「金融商品」に近い利用実態、何よりも仮想通貨の根幹をなすブロックチェーン技術のもつ将来性・可能性にたちどころに魅了されてしまった。

 証券会社出向時代も、優秀でフレンドリーな同僚や上司の方々に恵まれた上、職場環境も和やかで、安定して仕事に取り組むことができた。インハウスローヤーは労働法で手厚く保護され有給休暇も確保されるため、法律事務所と比べてワークライフバランスを確保しやすい、とはよく言われるが、実感として事実だと思う。とくに、自らが志望する業界に就職できるのであれば、ワークライフバランスを確保しつつ、専門性も高めることができる就業形態といえ、近年弁護士の間でインハウスローヤーの人気が急増していることもよくわかった。ただ、仮想通貨のような最先端の問題については、インハウスローヤーではどうしても担当できる案件に限界がある。ちょうど出向期間ももうすぐ終わる。仮想通貨のような最先端の分野に関する相談は法律事務所にもっとも集中するだろうから、復帰後は仮想通貨案件に集中しよう。そう決意して事務所に復帰した。

 4.終わりに

 「4年も事務所を離れて大丈夫ですか?」との質問に対しては、胸を張って「大丈夫」と答えられる。

 傍から見ると遠回りしてきただけのように思われるかもしれないが、その時ごとに進むべき・やるべきと思ったことをやってきただけなので、とくに遠回りしてきたとは思っていない。金融庁での役人生活、米国留学中の学生生活、証券会社でのインハウスローヤーとしての経験、その一つ一つが今の私を支えるかけがえのない財産になっている。金融庁への出向・留学・証券会社への出向、そのどれか一つでも欠けていたり、その時期がずれていたら、「仮想通貨とブロックチェーン」というテーマに出会ったとしても、きっと今のように自らの専門分野として全力で取り組みたいとは思わなかっただろう。

 本記事のタイトルは故スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式の有名なスピーチの一節から借用したものだが、「点」と「点」はあとでつないではじめて一本の線だったことがわかる。こうして法律事務所に復帰し、いま集中して取り組んでいる仮想通貨案件も、いずれ「点」となって予想もしなかった新しい「点」と結びつき、新たな線を描いていくだろう。

 最後に、この場を借りて、出向中にお世話になった大勢の方々、二度も出向の機会を与えていただいた事務所に感謝の言葉を述べさせていただきたい。

長瀨 威志(ながせ・たけし)

 2005年3月、東京大学法学部卒。2009年9月、司法修習(62期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2013年7月から2014年6月まで金融庁総務企画局企業開示課に出向。2014年8月から2015年5月まで米国University of Pennsylvania Law School(LL.M., Wharton Business and Law Certificate)。2015年9月から2017年9月まで国内大手証券会社法務部出向。2016年11月、ニューヨーク州弁護士登録。2017年10月、当事務所復帰。
 論文に「留保所有権者が第三者に対して負う目的物撤去義務および不法行為責任」(民事研修No. 636 (2010年4月号))(共著)、「ETFの法的構造及び法規制の概要」(月刊資本市場 (2011年3月号))(共著)、「定額残業代制度の整備~最高裁が示した判断に基づいて~」(ビジネス法務 (2011年7月号))、「ソブリン・サムライ債に係る債券管理会社による任意的訴訟担当の可否―ソブリン・サムライ債に係る債券管理会社による任意的訴訟担当が否定された事例」(判例時報 2014年1月1日号(No.2202))(共著)、「上場企業の資金調達の円滑化に向けた施策に伴う開示ガイドライン等の改正-「勧誘」に該当しない行為の明確化および特に周知性の高い者による届出の待機期間の撤廃- 」(旬刊「商事法務」 2014年10月25日号(No.2046))(共著)がある。

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