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アンダーソン・毛利・友常法律事務所 企業法務の窓辺

美しく強い花の国 ベトナム、弁護士として駐在して感じたこと

八巻 優(やまき・ゆう)

アオザイとバインミーと蓮の花
 ~元・駐在弁護士が振り返るベトナム~

アンダーソン・毛利・友常法律事務所

 1. はじめに

拡大八巻 優(やまき・ゆう)
 2006年3月、慶應義塾大学法学部卒業。2008年3月、東京大学法科大学院修了(法務博士 (専門職))。2009年12月、司法修習(62期)を経て弁護士登録。2010年1月、当事務所入所。経済産業省産業組織課への出向を経て、2015年5月、New York University School of Law(LL.M.)修了。2015年9月から2018年4月までホーチミンオフィスにて勤務。2016年7月、ニューヨーク州弁護士登録。
 ベトナムという国は今、表情豊かな都市(注1)や風光明媚な自然(注2)に彩られた観光地として、世界的な注目の的となっている。

 その一方、同国が惹きつけているのは、観光客の視線だけではない。目覚ましい経済成長を続けるベトナムは、企業の進出先としても、人気を集めて止まない(注3)

 筆者はこのたび、ベトナム・ホーチミンでの約2年8ヶ月間にわたる駐在を終え、2018年5月に、東京へ復帰した。以下、現地滞在を通じて接した同国の「顔」を、(筆者が見聞きした範囲の個人的感想ではあるが)いくつかご紹介したい。

 2. 「女性活躍」の先進国(?)

 たとえ当地を訪れた経験がない方でも、「ベトナム」という国名を聞いてまず頭に浮かぶのは、「アオザイを着た女性」の絵ではないだろうか。

 そんなベトナムを代表する民族衣装・アオザイは、女性をより綺麗に見せてくれる服として、人々の心を掴んで離さない。しかし、このアオザイの魅力は、見た目の美しさだけではないようだ。

 残念ながら筆者自身は着用した経験がないものの、知己の女性(ベトナム人と日本人)から聞いた話では、「暑い気候でも快適に過ごせる」、「和服と違って、着崩れや所作を気にする必要がなく、動きやすい」等と、総じて好評だった。最近のアオザイは、単なる伝統衣装の枠を脱し、通気性・吸湿速乾性・柔らかさ等を備えた活動的・機能的な衣服へと、進化しているらしい。

 ベトナムで感じたことの第一は、このアオザイの長所、「しなやかな能動性」とでも言うべき面について、ベトナム人女性(特に働く女性)にも共通する部分があるのではないか…という点である。

 例えば、ベトナム企業との会議や式典等に出席すると、相手方の幹部・責任者や現地法律事務所の担当弁護士として、女性が出てくる場面を、多く目にする。筆者の個人的な友人の中でも、複数のベトナム人女性が、外資系企業やローカル企業で責任ある役職を務めていた。また、妊娠中に勤務をこなす女性も多く、出産直前まで大きなお腹で仕事を続ける姿も、珍しくはない。そんな女性たちは、「仕事を通じて皆をハッピーにしたい」、「出産や育児等でキャリアを諦めるなんてあり得ない」等と笑顔で語り、皆楽しそうに、のびのびと働いていた。

 また、学業の分野でも、学習意欲の旺盛さが印象的だったのは、女性である。一例として、筆者は、現地駐在中、「ベトナム人の学生に、日本の法制度に関してレクチャーする」という機会を得た。この場(参加は任意)では、出席者の8割を女性が占め、かつ、質問や発言の積極性・活発性でも、女性が圧倒的に上回っていた。

 以上のような「女性の元気さ」は、あくまで個人的体験に基づく感覚論にすぎない。しかし、各種の国際調査でも、これを裏付けるような結果が報告されている。
 具体的には、世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート」(注4)、マスターカードの「女性起業家指数」(注5)や「女性の社会進出度指数」(注6)、デロイト・トウシュ・トーマツの女性役員に関する調査(注7)等において、ベトナムは、相対的に高い順位を付けている(注8)。これらの結果は、「ベトナム女性は、労働参加率が高く、経営者となる者も多い」ことを意味するものと解説されている(注9)

 さらに、起業を志す女性の裾野も広い。フェイスブックが行った調査によれば、回答者のベトナム女性のうち実に80%が、「自分でビジネスを立ち上げてみたい」と答えている(注10)

 実際、ベトナムを代表する大企業に限ってみても、例えばLCC(格安航空会社)最大手のベトジェット、乳製品最大手のビナミルク、同業大手のTHグループ等々、女性経営者に率いられた会社は少なくない。また、政治の世界でも、国政の最高指導者トップ4の1人である国会議長(立法機関の長)や、国家副主席の座に、現在、女性が就いている。

 ただし、ベトナムが、薔薇色一色の「女性が輝く社会」かというと、そう単純な話でもないようだ。「男性に比べて地位・収入が低い」、「正規雇用の機会が少ない」、「家事・育児の負担が女性に集中している」等の問題点も、指摘されている(注11)(注12)

 しかし、そうした問題を抱えつつも、(これらの調査が示唆するとおり)「ベトナム女性が、仕事に対して前向き・意欲的である」とすれば、その積極性は、どこから生まれるものなのか。日本・ベトナム双方の事情に通じた筆者の知人女性に言わせれば、重要なのは、以下の2点であるらしい(注13)
 (1) 本人のマインドセット(遠慮しない、自分を過小評価しない、自信を持つ、等。)
 (2) 周囲の理解・サポート(家族・親類や上司・同僚による支援、家事サービス等の利用、女性同士の連携、等。)

 女性ならぬ身の筆者ではあるが、せめて同僚や家族の「活躍」を少しでも助けられるよう、家事・育児も含めて、修練していきたい。

 3. 国際色とローカル色が混じる国

 読者の皆様は、「バインミー」というベトナム料理を、耳に(または口に)されたことがあるだろうか。

 バインミーとは、通常、ベトナムのサンドイッチを指す。細かいレシピは、各地方や店・家庭によって区々だが、筆者なりにまとめれば、「米粉で作られたフランスパンに切り込みを入れてバターを塗り、ハム・パテ・香草・なます等を挟み、ヌクマム(魚醤)や唐辛子で味付けして焼いたサンドイッチ」となる。一口頬張ると、フレンチとアジアの香りが混然となったハーモニーが広がる、外国人にも人気のB級グルメである(注14)

 このバインミー、庶民派の手軽なファーストフードではあるが、至る所に店が立ち並び(注15)、ベトナム人は毎日食べると言っても過言ではない、正にソウルフードの感がある。

 この国民食・バインミーのように、ベトナムでは、異文化融合の趣を醸し出す情景が少なくない。

 歴史上、中国やフランス等による支配を経験したベトナムでは、諸外国の文化が取り入れられてきた。さらに、近年の経済発展に伴い、(特に都市部では)生活レベルやライフスタイルも先進国に近付きつつある。その反面、伝統的なベトナム文化も、根強く生き続けている。

 例えば、ホーチミンやハノイ等の大都市を歩くと、モダンな高層ビルやショッピングモール(注16)が聳え立つ足元に、フランス風の瀟洒な教会・劇場や、中華風の寺院が佇んでいたりする。他方、そこから数ブロック歩くと、パパママショップ(家族経営の小規模小売店舗)の前を、ノンラー(菅笠)をかぶった物売りの女性が行き来する等、ローカル情緒漂う風景が目に飛び込んでくることもある。これらが織り成す不思議な雰囲気が、ベトナム文化の魅力の一つだと思う。

 また、こうしたハイブリッドな状況は、法令についても当てはまる。ベトナムの法体系は、様々な国の法制度が入り混じった、独自の枠組みを形成している。

 具体例を挙げると、(1)基本的には大陸法(シビル・ロー)系に属する一方、(2)憲法や土地法制は旧ソ連等の社会主義法を継受し(注17)、(3)民法は日本による法整備支援の影響を受けつつ、(4)企業法(日本の会社法に相当)では英米法的な概念(注18)も取り込んでいる、といった具合である。

 それに対し、ベトナム特有の法規定も存在する。一例として、小売業に対する外資規制である「エコノミック・ニーズ・テスト」(注19)等が挙げられる。

 このように、多様な法制がパッチワーク状に導入されており、かつそれぞれが頻繁に改正されていることもあり、法令相互間に矛盾が見られるケースも多い。法令の不整合は、料理の味とは異なり「ハーモニーを楽しむ」ようなわけにはいかず、実務上、頭を悩まされる場面もしばしばある。

 しかし、法律論を離れて、食べ物や街並みのような文化に目を向けてみれば、その混沌とした「ごった煮」ぶりは、外国投資を活用しつつダイナミックに成長を続けるベトナムの「今」を映すものにも見えて、興味深い。

 4. 美しく強い花の国

 ベトナムを象徴する花といえば、蓮(ハス)である。

 「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という成句があるとおり、この水生植物は、湿地帯にあって、白や淡紅色の清浄な花をつける。「沼の中から凛と咲く蓮の姿は、不遇の中でも生き抜くベトナム人の国民性を表しているのだ」と語る、ベトナム人の友人の誇らしげな顔が、心に残っている。

 近年、好況に沸いていたベトナム経済だが、本稿執筆時点(2018年7月)では、米国・中国間の貿易摩擦等の不安要素も見られる。しかし、ベトナムという国は、1億人に達しようという人口(平均年齢30歳前後)、勤勉で優秀な人材、政治的安定性等々、一朝一夕に揺らぐことはなさそうな強みの数々を握っている。

 また、現在は(いち早くTPPへの加盟を決める等)国際的な融和・協調路線を走るベトナムだが、過去を遡れば、米国・フランス・中国等の超大国を相手に戦争や代理戦争を闘い、独立を勝ち取ってきた歴史を持つ国でもある。

 ベトナムの人々の人懐っこい笑顔の裏には、泥のような逆境でも挫けずに咲く不屈の魂が、受け継がれているのだろう。

 5. おわりに

 2018年7月、強豪国が次々沈む混戦のW杯ロシア大会を制したのは、多様なルーツの選手を擁するフランス代表であった(注20)。ベトナムが、「女性の活力」・「異文化の混在」等の強みを磨き、旧宗主国・フランスのように世界へ躍進する日も、そう遠くないかもしれない(注21)

 そんな日に立ち会えることを楽しみにしつつ、引き続き、ベトナム案件へのサポートに携わっていきたい。

 ▽注1:例えば、ベトナムの首都・ハノイは、旅行情報サイト「トリップアドバイザー」が2018年に発表した世界観光地ランキングで、世界12位にランクインしている。
 ▽注2:2017年に封切られたハリウッド映画「キングコング・髑髏島の巨神(原題"Kong: Skull Island")」で、舞台となった森深い島の光景が、ベトナム北部の世界遺産等で撮影されたものであることを、ご存知の方もおいでかもしれない。
 ▽注3:JETROのアンケート調査(https://www.jetro.go.jp/world/reports/2018/01/1a4c649d0721464c.html)によれば、ベトナムでの事業拡大を目指す日本企業は3年連続で増加し、国別で中国に次ぐ第2位に付けている。
 ▽注4:"Global Gender Gap Report" https://www.weforum.org/reports/the-global-gender-gap-report-2017
 ▽注5:"Mastercard Index of Women Entrepreneurs" https://newsroom.mastercard.com/documents/mastercard-index-of-women-entrepreneurs-miwe-2018/
 ▽注6: "MasterCard Index of Women’s Advancement" https://newsroom.mastercard.com/asia-pacific/documents/report-mastercard-index-of-womens-advancement-2016/
 ▽注7:"Women in the boardroom" https://www2.deloitte.com/global/en/pages/risk/articles/women-in-the-boardroom5th-edition.html
 ▽注8:いずれも、日本の順位に比べて顕著に高い。
 ▽注9:ただしこれらは、ベトナム女性が仕事一筋の「バリキャリ」ばかりであることを示すものではない。むしろ、ベトナム人は、仕事よりも家庭・家族を大事にする傾向が、概して強い。
 ▽注10: http://www.vir.com.vn/shemeansbusiness-launched-to-support-vietnamese-women-entrepreneurs-52369.html
 ▽注11:前掲の各報告に加え、http://gwweb.jica.go.jp/km/FSubject1501.nsf/cfe2928f2c56e150492571c7002a982c/74875bed7d20467349257b010026a259/$FILE/ATTKBVKW.pdf/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88%202011.pdf
 ▽注12:「そもそも、収入が低く、家計を助けるために女性が働かざるを得ない」という声も聞かれる。
 ▽注13: なお、筆者の仕事柄、「法令」に目を向けると、ベトナム法上、「女性保護」を目的としたものとされる規定も、存在する(特徴的なものとしては、例えば、「「女性の定年退職年齢(55歳)が、男性(60歳)に比べて5歳若い」等。)。しかし、現地の女性に言わせれば、「法律に助けられているという意識はない」そうである。
 ▽注14:書いているうちに、味が恋しくなってきた。
 ▽注15:大きな幹線道路沿いには、毎朝、バイクの通勤客向けに、移動式屋台も林立する。
 ▽注16:2016年には、ホーチミンに、日系デパートの高島屋もオープンした。また、セブンイレブンやファミリーマート等のコンビニも、都市部では数多く店を構えている。
 ▽注17:その具体的あらわれとして、例えば、私人が土地を所有することは許されていない。
 ▽注18:独立取締役により監査・監督機能を強化した取締役会等。
 ▽注19:ただし、この規制は、TPPが発効した後、将来的には撤廃予定とされている。
 ▽注20:同大会のフランス代表は、準決勝ベルギー戦で決勝点を挙げたサミュエル・ウンティティ(カメルーン出身)をはじめ、移民出身者を多く揃える、肌の色も多彩な混成チームだった。また、フランスは、働く女性に関する前掲の各調査でも、トップクラスの地位を占めている。
 ▽注21:サッカー界では一足早く、U-23ベトナム代表が、アジア地区準優勝(2018年のAFC U-23選手権)という快挙を成し遂げている。

八巻 優(やまき・ゆう)

 2006年3月、慶應義塾大学法学部卒業。2008年3月、東京大学法科大学院修了(法務博士 (専門職))。2009年12月、司法修習(62期)を経て弁護士登録。2010年1月、当事務所入所。2012年4月から2014年3月まで、経済産業省産業組織課に出向。2014年8月から2015年5月までNew York University School of Law(LL.M.)。2015年9月から2018年4月までホーチミンオフィスにて勤務。2016年7月、ニューヨーク州弁護士登録。2018年5月、東京オフィス復帰。
 主な論考に「世界各国英文契約の旅~アメリカから世界一周~第12回ベトナム編 社会主義国家の大陸法(シビル・ロー)」(経営法友会リポート 2018年3月号(529号)、2018年3月)、「精選 金融判例解説-金融実務の観点から-」(日本加除出版株式会社、2013年2月)、「代理受領を承諾した第三債務者による相殺―相殺の可否、相殺による債務不履行・不法行為の成否」(民事研修 No.646(2011年2月号))がある。

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