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深掘り

株主の権利弁護団から

経営者による企業買収 情報格差を埋め、利益相反を正す

加藤 昌利(かとう・まさとし)

 

株主から見たMBOの問題点

弁護士 加藤昌利

 1、はじめに

加藤 昌利(かとう・まさとし) 神戸そよかぜ法律事務所弁護士拡大加藤 昌利(かとう・まさとし)
 神戸そよかぜ法律事務所 弁護士。2003年(平成15年)11月、司法試験合格。2004年3月、大阪大学法学部法学科卒業。2005(平成17年)10月、司法修習修了(第58期)。同月、大阪弁護士会に弁護士登録し、弁護士業務を開始。2010年(平成22年)4月、兵庫県弁護士会に登録替えし、現事務所設立。現在、兵庫県弁護士会消費者保護委員会委員。

 MBO(マネジメント・バイアウト)とは、一般に「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」と定義されている(経済産業省平成19年9月4日付「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」)。

 MBOについては、市場における短期的圧力を回避した長期的思考に基づく経営の実現や、株主構成が変更されることによる柔軟な経営戦略の実現、「選択と集中」の実現といった狙いがあるとされ、近年、MBOの件数は増加傾向にある。

 しかし、MBOは、株主の視点から見て、次のような問題点を孕んでおり、既に、これが現実化している。

 第一に、取締役が自社の株式を購入するという取引構造から生じる利益相反や、買収者側の取締役と売主側の株主との間に生じる情報格差の問題である。

 第二に、MBOにおいて実施される、少数株主の締め出し(スクイーズアウト)による、株主権の侵害の問題である。

 2、MBOにおける利益相反構造・情報格差の問題

 (1)問題点の指摘

  MBOにおいては、取締役が自社の株式を購入するという取引構造ゆえに、株式を高く買うよう買い手に働きかけるべき取締役としての責務と、株式を安く買いたいという買い手側の希望とが対立し、必然的に利益相反的な状況がもたらされる。

  また、取締役は会社に関する正確で豊富な情報を有しているため、取締役と売主側の株主との間に、大きな情報格差が生じてしまう。

  かかる取引構造を取締役が悪用すれば、取締役は、容易に、買付価格を自己の希望する価格に引き下げることもできる。たとえば、株式の取得価格を引き下げるために、不当な業績の下方修正を行うことも可能である。

  多くの株主は、そのような不当な業績の下方修正が行われても、そのことには気づかないまま、売却に応じてしまうであろうし、仮に、不当な業績操作を疑ったとしても、取締役側との情報格差を前に、不正を追及できる能力のある株主は、ほとんどいないのが現実である。

 (2)実際の事例

  そして、以上のような問題点は、既に現実化している。

  たとえば、レックス・ホールディングスのMBOに関する、東京高裁平成20年9月12日付決定は、MBO前に行われた業績予測の下方修正について、「相当程度の確実性をもって具体化していた本件MBOの実施を念頭において、特別損失の計上に当たって、決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことを否定できない」としている。

  また、シャルレのMBOにおいては、買収者側の利益相反行為が疑われ、最終的には、MBOが中止されるに至っている。

  シャルレが設置した第三者委員会の「調査報告書」(平成20年10月31日付)によれば、株価算定の基礎となる利益計画の取締役会における承認手続きについて、買付者である創業家側が、買主の交渉の自由として認められる合理的範囲を超えた介入を行ったとされている。

 (3)問題点克服のために

  このようなMBOの問題点を克服するには、徹底した情報開示が必須であると考える。構造的な情報偏在の中、利益相反行為が行われていないか株主がチェックするには、取引の交渉過程についての情報を明らかにする必要がある。

  また、不当な価格引き下げ行為が行われていないかをチェックするためにも、価格算定の基礎となる事業計画や株価算定評価書の開示が不可欠である。これらが恣意的に策定されれば、買取価格の操作は、簡単にできてしまうのであり、公正なMBOの実現のためには、株主によるチェックは不可欠である。

  しかし、現実には、事業計画や株価算定評価書の開示が十分に行われているとはいえない。

  これは、買取価格に不服がある株主が、裁判所の価格決定申立手続を利用した場合でも、同様である。

  上記レックス・ホールディングスのMBOに関する価格決定申立手続においても、株主側からの度重なる要求にもかかわらず、事業計画や株価算定評価書が開示されなかったという経緯がある。

 3、全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトの問題点

 (1)全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトの手法

  MBOにおいては、支配株主が、少数株主を強制的に締め出すという、スクイーズアウトが行われる。

  このスクイーズアウトについては、近時、全部取得条項付種類株式を用いるという方法で実施されることが多いので、以下、この手法を用いた場合を想定して検討する。

  全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトでは、

(1) 定款変更をして、種類株式発行会社となる、

(2) さらに定款を変更し、全ての普通株式に全部取得条項を付する、

(3) 全部取得条項付普通株式の取得においては、当該株式と引き替えに、別個の種類の株式を交付する、

 

との株主総会決議を行う。なお、別個の種類の株式を交付するにあたっては、少数株主に対しては、端株となるようにした上で、この端株は、会社法234条の規定に従って売却され、少数株主には売却金が交付される。これによって、支配株主は、少数株主を金銭と引き替えに強制的に締め出すことが可能となる。

 (2)正当事由の要否

  ところで、この手法には、次のような問題点がある。

  全部取得条項付種類株式に関する会社法の条文(108条1項7号、171条)を見れば、全部取得条項付種類株式の取得について、取得理由を制限するような文言はなく、何ら正当な理由もなく取得が可能であると読める余地が出てきてしまう。

  しかし、何ら正当な理由が無いにもかかわらず、支配株主が少数株主を強制的に締め出すことだけを目的に、全部取得条項付種類株式を濫用することを許せば、株主の権利は絵に描いた餅になってしまう。

  そもそも、全部取得条項付種類株式を導入するに当たって、法制審議会では、文言には記載されていないが、正当事由は必要であることが確認されていた(平成16年11月17日、第31回法制審議会会社法(現代化関係)部会)。株主の意思に反して、強制的に株式を「収用」するのは、私法原則からして異例の事態であることからすれば、当然のことであろう。

  かかる立法経緯からすれば、文言上明記されてはいないが、全部取得条項付種類株式の取得には、正当事由が必要であることは明らかである。

  法律上明確に規定されていなくとも、制度の濫用が許されないことはいうまでもないはずだが、解釈に争いが生じるような現在の規定を改め、法制審議会で審理されていた通り、「正当事由が必要」という制限を明確に規定すべきではなかろうか。

 (3)正当事由の中身

  では、全部取得条項付種類株式の取得が許される「正当事由」については、どう考えるべきであろうか。

  これについては、全部取得条項付種類株式制度の創設経緯が参考になろう。旧法下においても、会社が債務超過(破産法16条1項)の場合においては、既存株主の100%減資は、同時に株式発行がなされるのであれば行いうるとされていた。更生手続・再生手続においても100%減資は認められていたが、その手続以外でそれを行う場合には、株主全員の同意を要するとされていた。

  しかし、株主全員の同意なくしては、100%減資ができないとすることは、会社の任意の再生手続きにおいて迅速性に欠けるとして、会社法において、全部取得条項付種類株式制度が創設されたのである。

  このように、全部取得条項付種類株式制度が、会社が債務超過等により任意の再生手続を行う場合の、迅速化を目的として定められた経緯からすれば、全部取得条項付種類株式の取得に要求される「正当事由」とは、任意の再生手続が必要な状況で、これを迅速に行う必要がある場合に限って認められるというべきであろう。

  「正当事由」とは、支配株主の立場だけではなく、株式を「収用」されてしまう少数株主の立場から見ても、正当と認められるべきものであるが、上記のような場合は、少数株主にとっても、「収用」に応じざるを得ない正当な理由があるといえるだろう。

  なお、全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトで「正当事由」が要求されるか否かという論点については、現在、大阪地裁において、吉本興業のTOBを巡って訴訟が提起され、審理中である。

 (4)株主の救済手段について

  正当事由もなくスクイーズアウトされてしまった株主が、救済を求める手段については、どうであろうか。

  価格決定申立手続の利用も考えられるが、これは価格の不当性を争えるだけで、株主の地位にとどまりたい者にとっては、不十分である。

  上記のように、全部取得条項付種類株式の取得に「正当事由」が必要であることからすれば、「正当事由」を欠くスクイーズアウトは、法令違反であり、株主総会決議の無効事由となると思われる(会社法830条2項)。

  また、少数派の株式を端株にして会社経営から追い出す目的で株式併合を利用する場合や、やはり少数株主を排斥する目的で、ペーパーカンパニーを存続会社とする交付金合併を行うような場合には、著しく不当な決議として、総会決議取消事由になるとの見解もあるから、同様の利害状況となる全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトにおいても、総会決議取消による救済が認められると考える(会社法831条1項3号)。

  また、立法論であるが、反対株主による差し止め手続を創設すべきと考える。現実問題として

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加藤 昌利(かとう・まさとし)

 神戸そよかぜ法律事務所 弁護士。
 2003年(平成15年)11月、司法試験合格。2004年3月 大阪大学法学部法学科卒業。2005(平成17年)10月、司法修習修了(第58期)。同月、大阪弁護士会に弁護士登録し、弁護士業務を開始。2010年(平成22年)4月、兵庫県弁護士会に登録替えし、現事務所設立。現在、兵庫県弁護士会消費者保護委員会委員。

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