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深掘り

前首相・鳩山由紀夫の「政治とカネ」

逆流(5) 政治資金収支報告の訂正で……「寄付した」のに、寄付していないことにされた人たち

松田 史朗(まつだ・しろう)

 鳩山由紀夫氏が総理大臣を辞する理由とした鳩山氏自身の「政治とカネ」の問題はどのようにして表に出て、どのようにして事件となり、どのようにして民主党初の首相をその座から引きずり下ろすことになったのか。この問題の端緒をつかみ、調査報道の手法で追いかけてきた松田史朗記者がその舞台裏をつづる。その5回目がこの原稿である。(ここまでの文責はAJ編集部)


 ■記者会見の次の日に

松田 史朗(まつだ・しろう)拡大松田 史朗(まつだ・しろう)
 朝日新聞記者。1964年生まれ。信州大学卒。重化学工業通信社、週刊ポスト、週刊文春などを経て、2003年秋、朝日新聞社に入社。政治部、社会部、特別報道チームを経て、現在、文化グループ。「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。著書に『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)など。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)。
 民主党の鳩山由紀夫氏が「故人献金」問題で記者会見を開いた2009年6月30日の翌日、私は、次の記事をどう展開していくか、ゆっくりと考え始めた。

 前夜は鳩山氏の会見やら、そのあとの原稿のまとめやらで、深夜まで作業に追われた。興奮しているそのときは何でもないのだが、翌日になってみると、肩はガチガチに固まって、ずっしりと重く、痛い。石のようになった肩を自分の手で揉んでいると、ふと、あることを思い出した。

 「ああそうだ。鳩山事務所が修正申告した報告書を見に行かなければ……」

 ■総務省の閲覧室で

 鳩山氏が依頼した五百蔵洋一弁護士は前夜の記者会見で「平成17年から20年の分は本日修正を行って総務省に届け出た」と話していた。

 つまり、鳩山氏自身が自ら偽装と認めた個人献金者は、その修正報告書を見れば、一目瞭然である。昨日の会見ではどこを修正し、どこを修正していないのか、細かいところまでは明らかにしなかったため、それをきちんと確認する必要があったのだ。

 さっそく、東京・霞が関の合同庁舎に入る総務省政治資金課を訪ねた。ここは都道府県をまたがって活動する政治団体の政治資金収支報告書を保管しており、一般の人にも閲覧が許されている。

 担当者に「鳩山由紀夫さんの資金管理団体の友愛政経懇話会を見たい」と申し込んだ。すでに、他の記者も閲覧しているらしく、担当者は「ああ、またですね」といった感じだった。閲覧の申請書に自分の名前、住所、会社名を書き込み、報告書が出てくるのを少し待った。

拡大鳩山氏にごくごく近い人を除き、政治資金収支報告書にある個人献金者の記載のほとんどは削除された
 5分後――。その書類を見て、唖然とした。個人献金者の欄のうち、8割以上の欄に二重線が引かれ、献金がなかったものとして削除されていたからだ。

「こんなに偽装していたのか」と改めて、怒りを感じていたとき、「あっ」と声を上げてしまった。

 ■読売新聞の記事

 あることを思い出したからだ。それは前日、2009年6月30日の読売新聞朝刊に掲載された記事の内容だ。この日、読売新聞は自ら故人献金問題について取材した調査結果を公表した。読売の記事は次のように書き出されていた。

 民主党の鳩山由紀夫代表の資金管理団体「友愛政経懇話会」が故人5人から寄付を受けたことが明らかになった問題で、実際に寄付をしていないのに「寄付者」として政治資金収支報告書に記載された疑いがあるケースが、新たに13人いることが読売新聞の調査でわかった。2003~07年分の収支報告書の記載内容を検証したもので、問題ある寄付の総額はすでに判明した分も含め、18人で計659万円に上った。

 調査対象は、03~07年の5年間に寄付者として記載された個人147人のうち、鳩山代表とその親族、秘書などを除く142人。88人から回答を得た。

 この結果、「記載通りに寄付した」というのは65人。本人や家族が「寄付した事実はない」と否定したのは、故人と判明していた5人も含め、東京、北海道、千葉、愛知、兵庫の計18人。うち故人だったケースは1人増え、6人になった。「はっきりと覚えていない」などとしたのは5人。(後略)

 記事を要約すると、「2003~2007年に寄付者として記載された147人のうち、実際には、寄付していないのに、鳩山氏の政治資金収支報告書に個人献金者として名前を使われた人が新たに13人見つかった」というものだった。

 私はこの記事を読んで、「ああ、147人にも一斉にあたったんだ。さすが読売だなあ」と思った。記事によれば、読売は、全国に散らばる個人寄付者147人のうち、88人から回答を得たという。

 そして、注目すべきなのは、このうち65人が「記載した通りに寄付した」と回答したことだった。私は「65人も実際に寄付していたのか」と意外に思った。私が事前に事情通から聞いていたところでは、「ほとんどが偽装」ということだったから、「そんなに多くが」という思いが強かったのだ。

 総務省の政治資金課からの帰り道、二重線がいっぱい引かれた鳩山氏の報告書と読売の記事が頭の中で重なり合うと同時に「矛盾」という二文字が浮かんだ。

 「この2つの事実は一致しない。寄付者が65人もいたら、あのような報告書の修正にはならない」

 もし、鳩山氏側の調査が正解なら、「実際には寄付していないが、マスコミの取材には『寄付した』と答えた人がいる」ということになるし、65人の寄付が事実なら、鳩山氏の調査、そして修正報告がずさんだったということになる。

 ■鳩山氏側「献金した」人も削除

 果たして、どちらの言い分が本当なのか――。取材班

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松田 史朗(まつだ・しろう)

 1964年生まれ。信州大学を卒業する前後から、さまざまなアルバイトを転々とする。
 「重化学工業通信社」を経て、「週刊ポスト」「週刊文春」の特派契約記者、フリーライターなどを経て、2003年秋、朝日新聞に入社。政治部、社会部、特別報道チーム、文化グループ、経済部などを経て特別報道部。
 「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。田中真紀子衆院議員の秘書給与疑惑(2002年)や日本スケート連盟汚職(2006年)、偽装請負問題(2006年)、鳩山首相故人献金問題(2009年)などを取材。
 著書に、名古屋の中学生5000万円恐喝事件の加害者の両親の手記をまとめた『息子が、なぜ』(2001年、文藝春秋、構成・まとめ)、『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)がある。

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