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深掘り

前首相・鳩山由紀夫の「政治とカネ」

逆流(6) 献金偽装がさらなる偽装を呼んだ!?……所得税還付書類はどこへ?

松田 史朗(まつだ・しろう)

 鳩山由紀夫氏が総理大臣を辞する理由とした鳩山氏自身の「政治とカネ」の問題はどのようにして表に出て、どのようにして事件となり、どのようにして民主党初の首相をその座から引きずり下ろすことになったのか。この問題の端緒をつかみ、調査報道の手法で追いかけてきた松田史朗記者がその舞台裏をつづる。その6回目がこの原稿である。(ここまでの文責はAJ編集部)

拡大松田 史朗(まつだ・しろう)
 朝日新聞記者。1964年生まれ。信州大学卒。重化学工業通信社、週刊ポスト、週刊文春などを経て、2003年秋、朝日新聞社に入社。政治部、社会部、特別報道チーム、文化グループを経て、2010年10月から社会グループ記者。「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。著書に『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)など。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)。
 民主党代表だった鳩山由紀夫氏の「故人献金」問題を巡る自民、民主の攻防は2009年夏、政権交代をかけた総選挙を前に激しさを増していた。そんなさなか、不思議な事実がまたぞろ浮かび上がった。鳩山氏側が偽装した個人献金者が所得税の還付を受けるための書類が総務省に申請され、鳩山氏側が受け取っていたというのだ。

 個人献金を「偽装」した鳩山氏側は、偽装を「偽装」するため、所得税還付の書類まで利用しようとしていたのだろうか。

 ■3年で113人分の書類が総務省から

 わかりやすく説明すると次のようになる。一般の市民が個人で献金すれば、税務署に確定申告をする際に献金額に応じて所得税の控除を申請することができる。控除を受けるためには、その献金を証明するための書類が必要だ。鳩山事務所はその書類を求めて総務省に申請を出し、総務省の確認印付きの書類を取り寄せたというのだ。もし鳩山事務所が、鳩山氏に個人献金したとされる人にこれを送付し、献金者がこれを確定申告書に添えて税務署に提出すれば、税金の還付が受けられるというしくみだ。

 総務省が明らかにしたところによると、同省は鳩山事務所に05~07年で延べ113人分の確認印付きの書類を発行していたという。

 鳩山氏への献金はそのほとんどが偽装だった。つまり、架空の献金だったわけだから、そうした書類を発行することはウソに基づいてなされたわけだが、問題なのは、献金者が、その書類を使用して、不正に税の還付を受けていた場合だ。鳩山事務所の偽装だけではなく、献金した側も所得税法違反に問われかねない。

 実際、1993年に横浜市の元市議や自民党代議士の後援会幹部らが架空献金による所得税の不正還付で有罪判決を受けたことがある。今回の鳩山氏の側も、「架空献金」をでっちあげ、その書類を113人分も用意していたのだから、その事実を知りながら、不正還付を容認していれば同様の罪に問われかねない。

 そして、そうした人が多数に上れば、ことは鳩山氏だけで済まず、一般市民を巻き込むことで問題は格段に広がりを見せてくる。いや、そうした疑いがあるだけで国会は俄然、熱を帯びてきているのだ。

 私も「これは変な方向になってきたな」と、想像を巡らせた。いままで鳩山氏側に勝手に名前を利用された「被害者」の構図で描かれてきたはずの個人献金者が、実際には献金していないのに、その書類を使用して税金の還付を受けていたとすれば、その人は不正還付というだけでなく、自分の利益のために鳩山氏の虚偽記載に加担したことになりかねない。つまり、最初から鳩山氏側と口裏を合わせていた可能性が浮上する。こんな疑惑が出てくるとは当初は思いつかなかった。

 鳩山氏側が修正した報告書によると、修正後になお、報告書に名前を残している人、つまり、鳩山事務所が「実際に献金している」と認めた人の数は、05~07年で47人。それより66人多い113人分の還付書類が発行されているということは、少なくとも66人分の書類に事実と異なる記載があるということになる。そして、その書類の使われ方が焦点になってくる。税金還付を受けるために使われたのかどうか。

 実際に、個人献金者のもとにそうした書類が郵送されているとすれば、この問題の発覚前から、勝手に名前を利用された人たちは、「おかしい」と気づいたはずだが、それまでそんな話は取材から出てこなかった。

 では、書類はどこに消えたのか。

 取材班は、個人献金者に所得税の還付を受けたかどうかを改めて聞いて回った。しかし、話の聞けた人のほとんどは「献金していないのだから、還付の手続きをしていない」か、「そんな書類が来た記憶は全くない」かだった。「私は還付したと思う」と返事をした人もいたが、「確定申告の書類が残っていますか」と聞くと、「わからない」「今言ったことは正確ではないかもしれない」と言い直した。

 つまり、

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松田 史朗(まつだ・しろう)

 1964年生まれ。信州大学を卒業する前後から、さまざまなアルバイトを転々とする。
 「重化学工業通信社」を経て、「週刊ポスト」「週刊文春」の特派契約記者、フリーライターなどを経て、2003年秋、朝日新聞に入社。政治部、社会部、特別報道チーム、文化グループ、経済部などを経て特別報道部。
 「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。田中真紀子衆院議員の秘書給与疑惑(2002年)や日本スケート連盟汚職(2006年)、偽装請負問題(2006年)、鳩山首相故人献金問題(2009年)などを取材。
 著書に、名古屋の中学生5000万円恐喝事件の加害者の両親の手記をまとめた『息子が、なぜ』(2001年、文藝春秋、構成・まとめ)、『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)がある。

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