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深掘り

市場の規律を求めて

市場規律の進展;自主規制機関を巡る動き

国交省が不動産鑑定士らに注意喚起、現物出資される不動産の評価で

 ■市場規律の強化に向けた動き

佐々木課長拡大佐々木 清隆(ささき・きよたか)
金融庁検査局総務課長
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より現職。
 この連載では、金融・証券市場に関する市場規律の重要性、市場規律を支える様々な当事者の役割及び金融庁・証券取引等監視委員会等の当局との連携について、ご紹介してきているが、連載を開始して後、新たな取組みや動きが最近いくつか具体的に出てきているので、今回はそれについてご紹介したい。

 ■証券取引所の自主規制機能についての最近の司法判断

 本連載の2回目では、証券取引所等の自主規制機関の役割の重要性について触れたが、その中で、ジャスダック証券取引所に上場されていたP社に対する同取引所による上場廃止を巡る裁判で、平成19年9月19日に出された東京高裁の判決が、「上場会社が上場廃止基準に該当する以上、一般投資家保護の責務を負う証券取引所として、上場を廃止すべき義務を負う」との判断を示していることをご紹介した。

 最近、同様の事例として、東京証券取引所マザーズ市場に上場されていたA社(本年8月11日上場廃止)が、東京証券取引所を相手に、自社に対する東証の上場廃止決定を阻止すべく仮処分を申し立てていた。これについては、本年7月9日に東京地裁が却下する決定を出し、さらに同社が抗告していたのに対し、本年8月6日に東京高裁が抗告を棄却する決定を出している。この件については、既に去る10月13日に本Webマガジンでも山口利昭弁護士が詳細を書かれているが、本決定においては自主規制機関としての証券取引所の役割について、先のP社に関する東京高裁判決以上に、積極的な評価をしている点が注目される。

 特に、東京地裁決定において、「金商法は、自主規制機関業務の一環として、業務規定において基準を定めて、上場及び上場廃止に関する業務を行うこととしていることから、業務規定において、上場及び上場廃止に関する基準をどのように定めるかは、金融商品取引所の裁量を認めているというべきである。」、「金融商品取引に関する専門的かつ技術的な知識を有し、かつ、金融商品市場の実態に精通している金融商品取引所が規制を行うことが、金融商品市場に対する適正かつ迅速な規制を可能にすると考えられることから、このような裁量が認められているとみられる。」とした上で、「金融庁長官の認可を得て、金融商品取引所が定めた業務規定については、原則として有効と解すべきであって、その定めが金融商品取引所及び金融庁長官の判断にもかかわらず、公序良俗に反すると解さざるを得ないような特段の事情のない限り、有効と解すべきである」としている。証券取引所の持つ自主規制機能の役割、特に証券取引所の専門性を踏まえた適正かつ迅速な規制の重要性について正面から評価する判決として、証券取引所のほか日本証券業協会等の自主規制を通じた市場規律を強化する上で意義があると考えている。

 ■不動産鑑定士を巡る規律の強化

 さらに本連載5回目において、第三者割当増資の悪用等に伴う「不公正ファイナンス」の新しい手口として、第三者割当増資に対し不動産による現物出資が増加していること、そして現物出資される不動産の鑑定評価が杜撰であるという問題をご紹介した。また、その中では、日本不動産鑑定協会および不動産鑑定士を監督する立場にある国土交通省に対して、筆者の前職の証券監視委として問題提起していることにも触れた。

 その後、この問題については、本年8月25日付で国土交通省土地・水資源局地価調査課長名で「会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価の適正な実施について」と題する通知が日本不動産鑑定協会会長宛てに出されている。その中では、「現物出資を伴う第三者割当増資が適切に行われているかは、証券取引等監視委員会において重大な関心を持って注視している事項の一つとなっており」、「貴協会員に対して、鑑定評価の依頼目的や依頼者及び提出先等の確認、対象不動産の確認を徹底するほか、公平な鑑定評価を害する恐れのあるときには依頼を謝絶する等、適正な鑑定評価が実施されるよう周知を図られたい。」と要請している。

 同通知を受けて、本年8月26日付で、日本不動産鑑定協会会長名で、協会員に対し、「「会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価の適正な実施について(平成22年8月25日付国土交通省地価調査課長通知)」の徹底について」と題する通知が出され、国交省による要請の厳守・励行を強く求めているほか、同協会の証券化鑑定評価委員会において、協会の出した平成4年7月20月付「商法上の現物出資・財産引受・事後設立の目的となる不動産に係る弁護士の証明ならびに不動産鑑定評価上の留意点について」の改定を進めていることが紹介されている。

 本連載の第1回目では、市場規律の担い手の各当事者に働きかけ、横の連携を図ることも監視委をはじめ金融庁等の当局の役割であるとの考えをご紹介したが、本連載の開始後にまさにそのような取組みが具体化した最初の事例として、関係者のご努力に感謝申し上げたい。

 また不動産鑑定評価に関しては、筆者の現職である金融庁検査局での金融機関の検査の中でも、金融機関融資の担保としての不動産や不動産証券化商品における不動産価格の評価の問題もあり、別の機会にご紹介することとしたい。

   
 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて
 (1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割
 (2) 証券取引所など自主規制機関とともに
 (3) 証券市場に広がる弁護士の役割
 (4) 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化
 (5) 不動産鑑定評価が適正か注視 鑑定士の不正加担が増加
 (6) 証券不公正取引への税理士の関与が増加
 (7) 市場のプレーヤーとしての金融機関、その自己規律と金融検査
 (8) 金融検査で得られる情報や分析結果の複線的・レバレッジ活用
 (9) 株式公開買付け(TOB)関連のインサイダー取引が増加
 (10) 国際的な市場規律の強化:海外当局との連携 [1]
 (11) 国際的な市場規律の強化:海外当局との連携 [2]

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ
 ▽金融庁のホームページ
 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。

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