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深掘り

織田一の記者有論ワイド

激化するドルと元を巡る攻防 ソウル、G20サミットで

織田 一(おだ・まこと)

拡大織田 一(おだ・まこと)
 朝日新聞編集委員
 長崎県佐世保市出身。1986年、朝日新聞入社。新潟支局、横浜支局を経て、91年4月に東京・経済部。98年10月から約2年間、バンコク総局員。
 横浜支局では警察担当記者としてオウム事件などを追った。経済部では主に金融行政・政策、金融業界、国際経済を担当。
 韓国・ソウルで先週開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)では、ドル安を招く金融緩和に突き進む米国への新興国の不満と、経済大国になりつつあるのに通貨人民元を安く抑えている中国への先進国側の不信がぶつかりあった。G20は国際通貨制度の改革論議に踏み込んでいく。ドルと人民元の攻防激化は必至だ。

  ▽この記事は2010年11月14日の朝日新聞朝刊経済面に掲載された原稿に加筆したものです。

 「オバマ大統領がいるときにそんな質問したらだめでしょう」。サミットに合わせて開かれた11日の米韓首脳会談後の記者会見。韓国の李明博大統領は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和の追加策について感想を聞かれると、右隣のオバマ米大統領を見やりながら苦笑い。記者団にも笑いが広がった。

 G20で通貨問題を一大テーマに押し上げたのは米国だ。人民元のドルに対する上昇率がスローテンポなのにしびれを切らし、多国間交渉の場であるG20に持ち込み、中国包囲網を築こうとした。

 ところがFRBが3日、低利のドルを金融市場に大量に供給する緩和策を発表し、情勢は一変した。米国発のマネーの大量流入による自国通貨の上昇やインフレ進行に頭を抱えていた新興国は「通貨安競争を招く」と怒った。米国と蜜月時代にある韓国もウォン高圧力に手を焼いている。李大統領は冗談で質問の矛先をかわすしかなかった。

 確かにG20という多国間協議の場で米国が集中砲火を浴びることはなかったが、各国のサミット前後の記者会見などでは「国際資本が無秩序に増えれば新興市場はより脆弱になり、グローバル経済の回復を抑える圧力となる」(中国人民銀行国際局長)といった対米不満が噴出した。

 12日のサミット後のオバマ大統領の記者会見。

 FRBの金融緩和の追加策について、「他の国からきつい小言を言われなかったか?」「米国経済への一番の不満や懸念は何だったのか?」との質問が飛ぶと、オバマ米大統領は「『賛辞』はないの?」と笑いを誘い、「サミットでは、FRBの決定はそんなに話題にならなかった」と否定したが、歯切れは悪かった。

    ◇

 G20の金融当局者がサミット宣言案などを練り上げるなかで、議論の「主役」だったのが中国だった。

 日米欧など先進国は、資金の大量流入に悲鳴を上げる、ブラジルのような新興国が限定的な流入規制に乗り出すことには理解を示す。しかし、事実上「世界第2位」の経済大国になったのに、政策として人民元の価値を低く抑え続ける中国には我慢できなくなっている。

 国際金融筋は「先進国側にとっては、中国と他の新興国をどう差別化するかが焦点だった」。これに「人民元が切り上がると輸出企業が倒産し、社会が不安定になる」と考える中国が、経常収支など世界経済の不均衡の是正のためのガイドラインの作成時期などで猛反発し、米国をはじめとする先進国側の「ガイドラインを早い時期に策定する」という主張を押し返した。

 元財務官で国際協力銀行の経営責任者の渡辺博史氏は「米中の経済状況が違うのに、国の経済の強さの指標である通貨が同じ方向に動く、ドルと人民元が一緒に安くなる、ということこそ問題だ」と話す。

 ドルが安くなって「ドル不信」が広がり、人民元も切り上がらずに「元不信」が絡み合い、問題を複雑にしている。

    ◇

 ドル不信は深刻化する恐れがある。

 米国は、強力な金融緩和で景気を立て直すことが世界経済の持続的な成長につながる、と繰り返す。そもそもFRBは米国の物価の安定や雇用の最大化を目指して金融政策を運営している。

 そのうえバーナンキ・FRB議長はデフレを防ぐためならドルをどんどん刷るのを辞さない構えだ。理事だった2002年には講演で「為替政策がデフレに対して有効な武器だったことがこれまであった」と発言。議長にとってドル安は「望むところ」だろう。

 ただ、米国の金融緩和が生んだマネーは、自国の経済活動に回らずに新興国や商品市場に流れている。世界の金融機関が加盟する国際金融協会によると、2008年秋のリーマン・ショックをきっかけにしぼんでいた新興国への民間資金の流れは10年は前年の1.5倍の8250億ドルに拡大する見込みだ。

    ◇

 FRBがさらなる緩和に踏み出してドルが一段と下落した場合、新興国が「基軸通貨の価値の決定を米国にまかせておけない」と、一団となって国際通貨体制の見直しを言い立てる可能性がある。いまや世界経済の中軸となった伸び盛りの勢力だけに、発言力は飛躍的に高まっている。

 G20の次期議長国のフランスは

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 朝日新聞編集委員。長崎県佐世保市出身。1986年、朝日新聞入社。新潟支局、横浜支局を経て、91年4月に東京・経済部。98年10月から約2年間、バンコク総局員。  横浜支局では警察担当記者としてオウム事件などを追った。経済部では主に金融行政・政策、金融業界、国際経済を担当。

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