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深掘り

背景解説

原発事故で問われる東電と経団連の企業倫理

株主オンブズマン代表・森岡孝二

原発事故で問われる東電と経団連の企業倫理

株主オンブズマン代表
関西大学教授 森岡孝二

 

森岡孝二教授拡大森岡 孝二(もりおか・こうじ)
  関西大学経済学部教授。NPO法人「株主オンブズマン」代表。1944年生まれ。大分県出身。最近の著書に『働きすぎの時代』(岩波新書、2005年)、『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書、2009年)、『強欲資本主義の時代とその終焉』(桜井書店、2010年)など。

 いま、世界の耳目は、東京電力の福島第一原子力発電所に集まっている。人々は、原子炉の損傷による放射性物質の漏洩・放出と、東電と政府の事故対応を見守るとともに、同社の安全軽視・利益優先の企業体質に対して、あらためて疑惑の目を向け始めた。

 日本企業において消費者や住民の安全・安心と深く関わるコンプライアンス(企業倫理と法令遵守)が声高に言われ始めたのは2002年であった。「内部告発」が流行語大賞のトップテンに入ったこの年には、食品偽装事件をはじめとして企業不祥事が相次いで発覚した。東電の原発における点検データ改ざん・ひび割れ隠し事件もその一つである。

 2000年7月、福島第一原発の点検作業に当たっていたGEの元社員から、通商産業省(2001年に経済産業省に改組)に、東電のデータ改ざん・ひび割れ隠しについて内部告発があった。それから2年後の2002年8月29日、経産省で、原子力安全・保安院の記者会見が開かれ、その1時間後に東電本店でも記者会見があった。いずれの発表でも、13基の原子炉、計29件において、1980年代後半から90年代にかけて実施した原発の点検作業において、ひび割れなどを見つけながら、不正な記載が行われたと疑われるケースがあったことが明らかになった。

 この事件では、東電の相談役を含む歴代トップ5人が辞任に追い込まれ、同社の原発17基すべてが一時稼働を停止するに至った。これを契機に社内に「企業倫理委員会」が設けられ、さまざまな再発防止の取り組みが実施された。にもかかわらず、東電は、2006年11月にも、原子力安全・保安院から、発電設備のデータ改ざん等の問題がないか点検を行うよう求められ、2007年4月に、水力、火力、原子力を合わせて、25発電所、43件(うち原発は3発電所、20件)のデータ改ざんがあったと発表した。

 東電の社内調査委員会によれば、同社における発電設備のデータ改ざんは、1986年に、福島第一原発2号機の検査から始まった。このときの原子炉圧力容器内の「炉心シュラウド」と呼ばれる円形構造物のひび割れ隠しが、現在の原子炉損傷にともなう放射性物質の漏洩・放出に直結しているというわけではない。とはいえ、上述の事件の顛末は、同社の原発設備の欠陥だけでなく、社内監査の欠陥を示していて、見過ごすことができない。

 4月1日の朝日新聞の「インタビュー」欄に、三菱総研理事長・前東大総長の小宮山宏氏の談話が出ている。同氏は2009年6月より東電監査役に就任し、控え目に見ても、1000万円前後の報酬を得ているものと推定される。当然にもというか、残念ながらというか、朝日の紙面にみる限りでは、小宮山氏は、外部から大津波による電源喪失と炉心溶融の危険について警告を受けながら対策を怠ってきた東電の監査体制の不備については、何も語っていない。

 ほとんど姿を見せない時の人、東電の清水正孝社長は、企業トップとしてのガバナンスもコンプライアンスも責任を全うできていないのに、日本経団連の副会長の任にある。東電は、2002年の原発データ改ざん・ひび割れ隠しの発覚時に、当時の荒木浩会長が同社の会長を引責辞任したことにともない、経団連副会長からも身を引いた経緯がある。しかし、2004年5月からは、早くも現東電会長の勝俣恒久氏(当時社長)が経団連副会長として財界活動を再開し、2008年5月からはいまの清水社長にリレーされた。報道では、今回の原発事故の対応にあたるために、清水氏は5月末の経団連総会で退任するという。

 しかし、経団連として、それですませていいのかという疑問が残る。経団連副会長は十数人いるとはいえ、日本の企業事件史の中でも最大級の事件である今回の原発事故の責任を問わずに、すんなり退任を認めるだけでよいのだろうか。

 毎日新聞のインタビュー記事(4月8日付朝刊「福島第1原発事故 経団連会長、東電へ支援求める『損賠、国が主導を』」)によれば、経団連の米倉弘昌会長は4月7日、「東日本大震災が関東大震災の数十倍の規模に上ることも考慮すれば、東電だけに責任を負わせるべきではなく、国が(主導して)損害賠償に対応すべきだ」「原賠法の目的は被災者救済と原子力発電事業の発展だ。東電は(大型の地震と津波による)被災者の側面もあり、政府が東電を加害者扱いばかりするのはいかがか」と述べた。

 遡れば2002年に発覚した原発データ改ざん・ひび割れ隠し事件で、東電相談役から身を引いた平岩外四氏(当時88歳、2007年没)は、かつて経団連会長として「企業行動憲章」の作成にあたった人である(森岡孝二「東電の原発損傷隠し事件を「厳重注意」で幕引きしてはならない」2002年10月8日)。2010年9月には米倉現会長が、同憲章の5度目の改定を受けて「企業倫理徹底のお願い」を発表している。そのなかの「事業活動全般の総点検」には、「(1) 品質管理、(2) 取引・契約内容、(3) 消費者・顧客対応と情報管理、(4) 従業員の安全確保・衛生管理、(5) 環境保全、地域社会への配慮」の5項目がある。今回の原発事故については、厳格に点検すればどの項目も適切だったとはとうてい言えないはずである。そのことは、同じく課題として挙がっている「企業倫理の取り組み体制の強化」や、「不祥事が起きた場合の適切な対応」についても言いうる。

 経団連が、東電のデータ改ざんが発覚した2002年10月に策定した「企業不祥事防止への取り組み強化について」という文書(注1)には、企業行動憲章に反する事態が生じた場合の措置として、「これまでは厳重注意、役職の退任、会員企業としての活動自粛を実施してきた。今後は、これらに加えて、会員資格の停止、退会の勧告、除名も行なう」とある。しかし、2002年の事件では、東電からの副会長辞任の申し出を承認しただけで、何の処分も行わなかった。経産省は、東電に対して、特別保安検査や定期検査の厳格な実施を求める行政措置を発表したが、データ改ざんなどの不正に対する刑事告発や行政処分は見送り、「厳重注意」をするにとどまった。それで安堵したのか、経団連は東電に対して「退会」や「除名」はおろか、会員資格の停止すらしなかった。

 今回もまた「お構いなし」で終わるのだろうか。東電と経団連の企業倫理がいまほど問われているときはない。

 ▽注1: 日本経団連のホームページに掲載された当該文書のURLは次の通り。http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/torikumi.html

 ▽森岡教授の他の記事:役員報酬の個別開示から見えてきたもの

 ▽関連記事:東京電力本店からのリポート

 森岡 孝二(もりおか・こうじ)
 関西大学経済学部教授。NPO法人「株主オンブズマン」代表。1944年3月生まれ。大分県出身。1966年

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