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深掘り

背景解説

村上と堀江に思う 「気をつけないと『やられちゃう』よ」

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

村上と堀江が意識から消える前の一言

外国法事務弁護士・米NY州弁護士
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)

拡大Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。京都大学法学部大学院留学後、ハーバード・ロースクール修了。
 日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。

 ライブドアの堀江貴文・元社長の上告が最高裁で否認され、2年半の懲役が確定されたことは堀江、村上ファンドの村上世彰・元代表や外資のスティールパートナーズが代表し、2003年から2007年にかけて世間の話題になった「もの言う株主」「濫用的買収者」現象を振り返って再検討する最後の機会かもしれない。堀江とその一派の動きは一時、毎日のように新聞の一面を飾るニュースとなったが、堀江と村上が逮捕されてから5年後、その事件の筋道と詳細は皆の記憶からずんずん消えていく。

 堀江と村上の逮捕と有罪判決についての私の仮説をはっきり申し上げる。この有罪判決は村上が日本に導入しようとしたアメリカ型コーポレート・レーダー活動(Corporate Raider:敵対的買収に関与する者で、いわゆる「企業の乗っ取り屋」)の駆除を目標とした「国策逮捕」である。検察は、2004~2005年に村上と堀江が起こしたニッポン放送株買収合戦は、日本型資本主義に有害な弊風であり、無視できないと判断し、刑事法を利用して潰そうとした。捜査開始の時点では特定の犯罪の被害者も証拠もなかった。検察は刑罰法令違反に該当する材料を積極的に探しに出た。

 弁護士として、私もその当時、外資ファンド顧客の日本企業に対する株主提案の案件を手掛けていた。村上ファンドに金を出したファンドの仕事を2003年に始め、2007~8年に流行っていた外国株主の増配提案、プロクシーファイト(株主総会で自分の議案を可決するため第三者株主の委任状を集めようと競い合う委任状争奪戦)等に関与していた。そういう顧客の仕事を引き受け、何回か「気を付けないと『やられちゃう』よ」と注意された。私は真面目に職業を営んでいるつもりだが、仮に検察に徹底的に捜査されたとしたら、刑法に引っかかることが見つかるかもしれない。事業、商売を構える人間は誰でもそうだと思う。だからこそ「国策逮捕」に対して、裁判所は逮捕の背景と経緯そして容疑者の言い分を厳格に考慮しなければ、正義が簡単に歪む危険性がある。

 村上に対して、東京地裁の一審は検察側の「インサイダー取引」説をそのまま受け入れ、懲役2年という重たい刑事罰を科した。しかしその後、東京高等裁判所は地裁の判決と過剰な量刑を覆し、執行猶予に判決を変えた。高等裁判所の判決が2009年に言い渡された時点で報道陣はすでにこの事件への関心を失っていて、大きく報道されることはなかった。その判決を慎重に読めば、起訴の根拠及び東京地裁のおっとりした対応の厳しい批判であることは明確だ。逮捕から4年も経って村上を元に戻すには遅れたが、高等裁判所は最終的に「国策逮捕」を睨んで、正義と司法制度そのものの保全のために線を引いた。

 高等裁判所がようやく理解したことは、村上が文字通りの金融商品取引法第167条に思わず抵触してしまった一方、その規制の目的と精神を大きく犯していなかったという事実だった。逆に、高等裁判所は、法律で禁止されていない行為を罰しようとする「国策逮捕」そのものを実質的に非難した:

 ……起訴されてもいない事実を犯罪として認定しこれを実質的に処罰したことになってしまう。さらにいうと、被告人(村上ファンド)の今回の行動が市場操作的であり、当事者に対しても背信的であって、社会的に非難を受けるものであることに異論はないとしても、相手方企業に改革を迫りその在り方を変えようとする村上ファンドの持つもう一方の側面(物言う株主としての側面)を今の経済社会においてどのように評価すべきかについては、未だ成熟した議論がなされているとは思われず、被告人(村上ファンド)の企業活動の一面のみをとらえてこれを量刑事情として取り込むことには困難が伴うというべきである。被告人らに対する刑事処罰としての非難の程度は、あくまで起訴にかかる法律違反(本件においては、ニッポン放送株に関するインサイダー取引)との関係を中心に検討されなければならない。

 

 堀江に関して検察側はニッポン放送関連の釣り堀から罪となり得る魚を釣れず、網をより広く打った。ライブドアの2002~2004年の異例な急成長の技法を遡って突き詰めて、結局「粉飾決算」を根拠に起訴した。堀江は不運にも村上に比べて犯罪内容が多少グレーで、2年半の懲役が過剰だと裁判所を説得できなかった。しかし、村上と同様に、最終的に有罪判決の根拠となった行為は検察の元々の狙い目と異なった。本当の狙い目は法律にどこにも禁止されていない投資ビジネスのあるやり方とスタイルだった。

 1931年に米国連邦検察はマフィアのアル・カポネについて禁酒令違反で有罪判決を取得するための十分な証拠を集めることを断念し、代わりに脱税で逮捕して、有罪判決をとることに成功した。重大な犯罪の疑いを完全に立証できない場合、二次的な犯罪で追い詰めることは理想的ではないが、内容によっては正当だとみなされている。反対に、ニクソン大統領が「敵」の徹底税務調査を命じたことは(ニクソンの「敵」であることは違法ではなかった故に)不当で、ニクソンの大統領辞任のきっかけとなった弾劾発動の訴因の一つとなった。

 村上と堀江はどちらかというと、カポネよりニクソンの「敵」に近いように感じる。

 ▽関連資料:2009年2月3日の村上ファンド事件控訴審判決(裁判所ウェブサイトへのリンク)
 ▽関連資料:2007年7月19日の村上ファンド事件一審判決要旨

 ▽関連資料:2008年7月25日のライブドア事件控訴審判決要旨
 ▽関連資料:2007年3月16日のライフドア事件一審判決要旨

 ▼ギブンズ氏の記事
 ▽本当にカンニングは懲役3年の犯罪なのか?
 ▽米国人弁護士が疑問に思う在日外国人の地震パニック
 ▽地震は日米同盟の基礎まで余震のように揺さぶるだろう

 Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギ

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Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。1976年から77年にかけて京都大学大学院に留学した後、1982年にハーバード大学ロースクール修了。現在、上智大学法学部教授。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。国際間M&Aから、コーポレート・ガバナンス問題、民間・公的融資、戦略的提携、合弁事業などに経験を持つ。

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